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2013年9月12日 VOL.026

映画『許されざる者』ー 撮影 笠松則通氏インタビュー

世界が注目する日本映画、誕生。

クリント・イーストウッド監督・主演の伝説的名作『許されざる者』。第65回(1992年度)アカデミー賞で9部門にノミネートされ、作品賞をはじめ4部門で最優秀賞を獲得した映画史に残る最高傑作が、2013年秋、日本映画となって再生します。

 

監督の李相日氏は、日本映画学校(現・日本映画大学)の卒業制作作品『青〜chong〜』(1999年)が、自主製作映画の登竜門とも言われる「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」でグランプリを含む史上初の4部門を独占するという印象的なデビューを飾りました。代表作『フラガール』(2006年)では、第80回キネマ旬報ベストテン・邦画第1位、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞、文化庁芸術選奨新人賞を受賞。その後も、『悪人』(2010年)、そして、間もなく公開される『許されざる者』と話題作が続いている注目の監督です。

 

今号では、『悪人』に引き続き、『許されざる者』で李監督作品の撮影監督を務められた笠松則通氏のインタビューをお届けします。

 

李監督との再タッグ

ー 李相日監督とは『悪人』以来2回目の作品になります。『悪人』の時、李監督とはどんないきさつでご一緒されたんでしょうか?

 

笠松C:李監督はPFFで優勝した頃に阪本順治監督と対談していて、その頃に出会いました。(注:笠松氏と阪本監督は来月公開の最新作『人類資金』までで計17本組まれています) 李監督からは、「一緒にやれる機会があったら是非お願いします」と言われていましたが、なかなかタイミングが合わなくてご一緒出来なかったんです。『悪人』は結構早めから言われていて、スケジュールの調整もできたので、満を持してご一緒させて頂きました。やっぱり想像した以上に厳しい監督で(笑)こっちはその厳しさがすごく楽しかったんですけどね。

 

李監督は、もっといいものを、もっといいものを、という要求が高くて、キャメラに対しても現場全体に対しても厳しいんです。いい意味で貪欲だし腹が据わっている人ですね。『悪人』の時は、それに応えていくのが楽しかったです。やりたい話でもあったし。今回『許されざる者』もお願いします、と言われて凄く嬉しかったですね。クリント・イーストウッド監督の『許されざる者』は、単純に割り切れるような善とか悪ではなく、西部劇を通して“人間”を描いています。この作品を再生するというのは、また大胆な挑戦だなと思いました。絶対比較されますし、あれ以上のものができるのか・・・。今回の作品では、時代設定はオリジナルと同じ1880年くらい、明治初期の開拓が始まった頃の北海道が舞台になります。オリジナルと違う部分もいくつかありますが、基本部分は一緒です。

 

撮影面で、李監督から「オリジナルに忠実に」などリクエストがありましたか?

 

笠松C:いや、ないですね。シネスコのサイズくらいですかね。でもそれはオリジナルがシネスコだったからという訳ではなく、「あの開拓時代の北海道を描くんだったらシネスコでしょう」というお互いの了解があってですかね。

 

より良いものを貪欲に求める監督に応える

撮影でご苦労された点は?

 

笠松C:知床を含め北海道全体が国立公園だらけで、撮影許可を取るのに非常に苦労しました。絶対許可が貰えないようなところを、制作部が相当ねばりましたね。許可が下りても制約がある中で撮影しなければならなくて・・・。さらに相手が自然ですから、天候に恵まれなかったりと、北海道は本当に手強いです。

 

昨年の2月に北海道上川郡上川町にある大雪山を望むオープンセットを建てる場所を見に行きました。元々は農地なんですが、そこに開拓の前線の街を作ることになったんです。撮影は昨年9月から11月の2ヶ月くらいで、緑が紅葉していって最後は雪を狙って撮るという感じでした。風景の変化が一番激しい時期の撮影なんですが、ストーリーは数日間の話ですので上手く繋げないといけないのが非常に難しかったですね。こういうところはフィルム仕上げでは限界があって、グレーディングの強みを利用させて貰っています。

 

俳優さんのコメントで相当厳しい撮影だったと拝見しました。

 

笠松C:それは環境面というより、おそらく監督が厳しいということではないでしょうか(笑) 先ほども出ましたが、李監督はより良いものを貪欲に求められる方なので、俳優さんにもなかなかOKを出されないんです。僕たちに対しても、「もっと良い撮り方があるでしょう」と言われて、それを追及していきます。だから、苦しいですけれど、やらせてもらってやり甲斐のある監督です。

 

どうもありがとうございました、公開を楽しみにしております。

 

(本インタビューは2013年6月下旬に行いました)

 

 PROFILE  

笠松 則通

かさまつ のりみち

 

1957年生まれ、愛知県出身。日本大学芸術学部映画学科在籍中に『狂い咲きサンダーロード』(80/石井聰亙監督)でキャメラマンデビュー。石井監督とは以後『爆裂都市 バースト・シティ』(82)、『J・MOVIE・WARS』(93)『エンジェル・ダスト』(94)『水の中の八月』(95)、『ユメノ銀河』(97)、『ELECTRiC DRAGON 80000V』(01)などでタッグを組む。

その他の主な作品に、『どついたるねん』(89/阪本順治監督)、『鉄拳』(90/阪本順治監督)、『バタアシ金魚』(90/松岡錠司監督)、『きらきらひかる』(92/松岡錠司監督)、『ビリケン』(96/阪本順次監督)、『ポルノスター』(98/豊田利晃監督)、『顔』(00/阪本順治監督)、『アカシカの道』(01/松岡錠司監督)、『KT』(02/阪本順治監督)、『青い春』(02/豊田利晃監督)、『赤目四十八瀧心中未遂』(03/荒戸源次郎監督)、『亡国のイージス』(05/阪本順治監督)、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(07/松岡錠司監督、『闇の子供たち』(08/阪本順治監督)、『座頭市 THE LAST』(10/阪本順治監督)、『悪人』(10/李相日監督)などがある。

 

Photography ©シバタスタジオ 柴田昌勝

 撮影情報  (敬称略)

撮 影 : 笠松 則通
Bキャメ: 槇 憲治
チーフ : 儀間 眞悟
セカンド: 鈴木 雅也
キャメラ: アリカムLT
レンズ : HAWK (アナモ)
フィルム: コダック VISION3 500T 5219、200T 5213
現 像: IMAGICA
映写フォーマット : シネマスコープ

 

監督・アダプテーション脚本: 李 相日(『悪人』『フラガール』)
出 演 : 渡辺 謙、柄本 明、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、近藤芳正、小澤征悦、三浦貴大、滝藤賢一/國村 隼、佐藤浩市 ほか
配 給 : ワーナー・ブラザース映画
9月13日(金) 全国ロードショー
公式サイト:http://www.yurusarezaru.com/
(C)2013 Warner Entertainment Japan Inc.

 

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