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2013年11月15日 VOL.030

撮影 石井 浩一氏に聞く― 映画『くじけないで』

全体の1/3に及ぶ回想シーンをスーパー16で撮影

90歳を超えてから詩作を始め、多くの人に生きる勇気を与える詩を生み出し、本年1月に天国に召された柴田トヨさんの半生を描く映画『くじけないで』。原作となった詩集「くじけないで」「百歳」(共に飛鳥新社刊)は、2010年の出版以来、実に累計200万部を越える、詩集としては極めて異例のベストセラーとなっており、また、イギリス、オランダ、スペイン、中国、韓国、台湾などでも翻訳出版が進められ、世界中の人々の共感を呼んでいます。

 

今回、この2冊の詩集に描かれたトヨさんの物語を、『60歳のラブレター』、『神様のカルテ』など数々の感動作を生み出してきた深川栄洋監督が初脚本に仕上げました。

 

撮影を担当されたのは石井浩一キャメラマン。深川監督とは『白夜行』(11)以来、映画作品では2度目のタッグとなりました。明治から平成まで100年の歴史を生き抜いた主人公の半生を描き出す本作の回想シーンは16mmフィルムで撮影されています。その狙いや経緯について石井キャメラマンに伺いました。

 

 

100年という時間軸の映像表現

ー 回想シーンで16mmフィルムを採用された理由を教えてください。

 

プロデューサーからは作品の製作が決定した当初から、今回はデジタルカメラでの撮影でお願いしますと言われていました。『くじけないで』は、90歳を過ぎてから詩作を始めた柴田トヨさんの詩集を出版するまでの現在と、詩に綴られる幼少期から今までを回想という形で描いています。全編の所々に入ってくる大正時代から平成元年までの回想をどう表現するか…。

 

昨今の技術を持ってすれば、デジタルカメラでの撮影でも多々その表現方法はあるとは思いました。しかしフィルムでの撮影がいいのではないかと、フィルム世代の私としては思ってしまいます。

 

回想シーンは全体の 1/3 弱。今回の作品の規模からして35mmではプロデューサーサイドも首を縦に振らないだろう。でもスーパー16でなら可能性はあるかなと思い、深川監督に電話を入れました。すると監督もフィルムの発色、そして16mmの粒状感を回想シーンに使えればと思っていたのです。メインスタッフの初顔合わせの際、監督と共にスーパー16での撮影を打診し、プロデューサー陣にも賛同して頂き、16mmでの撮影が実現しました。

 

“きれい”な画と“美しい”画

ー 一部を16mmで撮影することで混乱のようなものはありませんでしたか?

 

私がキャメラマンとしてデビューした頃は、スーパー16で撮影し、35mmダイレクトブローアップする作品が多かったので懐かしさのような感覚を持ちながら、何の違和感もなく撮影に臨むことができました。私だけでなく、他のスタッフ、そしてキャストの方々も少なくなってきたフィルムでの撮影における意気込みは違っていたと思います。現場では「フィルムチェンジします!」と助手がスタッフに言い、フィルムが詰まったマガジンをボディに架けるときなど、「やっぱり映画はこうじゃなきゃなー」と声が上がってましたよ。

 

ー フィルムタイプはすぐに決まりましたか?また、データ化はどのようにされましたか?

 

粒状性を生かす意味で当初は7219(500T) 1タイプで撮影するつもりでしたが、テストのグレーディング時にシーンによっては粒状感が強すぎる可能性があるかなと思い、7213(200T)も使用することにしました。キャメラテストのDCPでの試写、そしてフィルムレコーディングの試写を見てみると、7219の1タイプのみでもOKだったかなと思いましたが…。データ化は撮影ネガをノーマル現像してHDテレシネしました。全体のワークフローについては日本映画撮影監督協会が発行する『映画撮影』に掲載する予定ですのでそちらを参照してください。

 

ー 狙いとされたフィルムによる映像表現とは?

 

今回、デジタルで撮影した現在のシーンは発色も含め全体に淡いトーン、フィルムで撮影した回想のシーンは発色、コントラストともにしっかりと出しました。単純に比較はできませんが、初めて試写室での編集ラッシュを観たとき、16mmとはいえ、やはりフィルムの持つ懐の深さや存在感はなくしてはいけない、とつくづく思いました。

 

ー これからも16mmを使用されたいと思われますか?

 

デジタルの画を観た時感じるのは“きれい”な画だということ。一方フィルムの画を観た時感じるのは“美しい”画だなということです。これはデジタルに未熟な私の私観ですが…。今回の作品のような使い方を含め、35mmはもとより16mmでも、まだまだフィルムを使用しての撮影の可能性は持ち続けて行きたいと思います。

 

 

 PROFILE  

石井 浩一 (J.S.C.)

いしい ひろかず

1961年、神奈川県出身。82年、にっかつ芸術学院卒業。93年、『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』(石井輝男監督)でキャメラマンとしてデビュー。同年『クレープ』(市川準監督)で第37回三浦賞を受賞する。『少女~an adolescent』(01)、『るにん』『長い散歩』(06)、『風の外側』(07)など一連の奥田瑛二監督作品や、『でらしね』(04)、『素敵な夜、ボクにください』(07)、『櫻の園 ― さくらのその ―』(08)など中原俊監督作品を常連スタッフとして支える。近年の作品に『カケラ』(10/安藤モモ子監督)、『必死剣 鳥刺し』(10/平山秀幸監督)など。

 

 

 撮影情報  (敬称略)

撮 影: 石井浩一 (J.S.C.)

チーフ : 伊藤麻樹

セカンド: 渡辺一平

サード : 上野達也

フォース: 石井佑典

 

(フィルムパート)

キャメラ: ARRIFLEX 16SR3

レンズ : ツァイス 9.5mm 12mm 16mm 25mm 50mm、キヤノン 11-165mm

フィルム: コダック VISION3 200T 7213、500T 7219

現 像: IMAGICA

 

デジタルカメラ: ALEXA PLUS

映写フォーマット: 1.85 : 1 (アメリカンビスタ)

 

監督・脚本: 深川栄洋

出演: 八千草薫、武田鉄矢、伊藤蘭 / 檀 れい、芦田愛菜、上地雄輔、ピエール瀧、鈴木瑞穂

制作プロダクション: 松竹撮影所 AOI Pro.

配給: 松竹

© 2013「くじけないで」製作委員会

2013年11月16日(土)全国ロードショー

 

『くじけないで』予告編

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