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2016年2月28日 VOL.050

第59回撮影新人賞「三浦賞」受賞

撮影 灰原隆裕氏に聞く — 映画『0.5ミリ』について

Copyright: (C) 2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

新人育成に情熱を注いだ名撮影監督、三浦光雄氏(1902-1956)の優れた功績を記念して1956年(昭和31年)に制定された「三浦賞」。毎年、優れた撮影技術を示した劇場用映画の新人撮影監督を日本映画撮影監督協会が選考・顕彰しています。

今回は、2015年度(第59回)の受賞者となられた灰原隆裕氏の喜びの声やこれまでの経歴、選考対象となった映画『0.5ミリ』(2014年公開 安藤桃子監督作品)の撮影などについてお話を伺いました。

 

人の心に携わる仕事がしたい

ー 三浦賞、おめでとうございます。最初に受賞されたご感想をお聞かせください。 

 

灰原C:撮影自体が3年も前の作品で、三浦賞の候補に挙げていただけるというお話を伺った時は、寝耳に水という感じでした。それで賞をいただけるという話になったときは、正直、嬉しさの半面、怖かったです。というのは、昔から、歌舞伎や落語の世界じゃないですが、同業者をあまり褒めないって言うじゃないですか。三浦賞もキャメラマンによるキャメラマンの賞ですし、褒められるとそこから後は落ちていくしかないのかなっていう怖さがありましたね。ただ、日本映画撮影監督協会の兼松理事長から「これが始まりなんだから、新人賞なんだから、頑張れ」とおっしゃっていただいて、師匠の川上皓市さんからも「まだまだ、これからだぞ」と言っていただき、褒め殺しじゃなくて良かったなと思いました(笑)。歴史ある賞ですので下手なことはできないですし、これから撮る作品についても、より気を付けて撮っていかないといけないなと。そういったプレッシャーと賞をいただいたことに対して、縮こまらないようにしていきたいですね。 

 

撮影を目指されたきっかけは、なんですか?

 

灰原C:大学に入る前から人の心に携わる仕事がしたいという思いがありました。映画や本、演劇、舞踏などが好きで、特に映画は、生活費と学費を稼ぎながら寝る間を惜しんで映画館に通っていた時期がありました。その頃から画の光とか影とか、フレーミングとか、映像の組立て方を意識するようになっていって、当時、ヴィットリオ・ストラーロ撮影の『シェルタリング・スカイ』に感銘を受け、ひとりでモロッコのサハラ砂漠まで行ったんです。ジブラルタル海峡を渡って。

 

あの作品、後半は言葉がほとんどなく、物語が進んでいくんです。今思えばサハラでの記憶が自分の方向性を決めたような気がします。その頃、東北新社グループの映像テクノアカデミアに撮影・照明クラスというのがあったので、大学に通いながらそこに行くようになり、大学を卒業したと同時に東北新社さんに入りました。CMや映画など幅広く制作しているし、撮影部もありましたので。東北新社さんには三年半程いたのですが、やはり業界の色々な方々との人脈が作れたことは、フリーになってから大変役立ちました。 

 

観ている人の感情に訴えかけるフィルムの画

対象作品となった『0.5ミリ』は16mm撮影でした。16mm、そしてフィルム撮影はいかがでしたか?

 

灰原C:機材は基本的にアシストさんですが、芦澤明子キャメラマンの16mmカメラとレンズをお借りすることができて、色々皆さんに協力していただいて実現できました。フィルム撮影って、やはり現場がシンプルですよね。モニターも8インチを一台出すだけで、他にケーブルを繋がないスタイルでしたし、実景なんかは、そのモニターすら繋げないで撮れちゃいますから。

16mmにはコンパクトさと、撮れるトーンの丁度良いバランスがあると思います。10倍のズームレンズがあれだけコンパクトになって、手持ちでも撮影できるというのは、16mmが完成された撮影フォーマットだと感じますし、トーンについても大自然の山々の風景とかではなくて、例えば都会の雑多な、なんとも言えない雰囲気を出すなんて時に、16の独特なトーンがとても合う気がします。最近はDCP上映なのでネガからのデジタル変換になりましたけど、デジタルを噛ますことによって、実はもっと色々なトーンを作りだせる可能性があるんじゃないかなと思っています。まだまだ、色々と試す余地があるんじゃないかなと。

 

今回の劇中の前半部分で火事のシーンがあるのですが、その火の表現では、フィルムでしか出せないものがありますね。あと暗部のグラデーションとかは、フィルムの方がデジタルに比べてシンプルというか、自然なグラデーションが出ると思います。個人的には、あの画が自然と揺れる感じが好きなんですよね。フィルムの画って、観ている人の感情に訴えかけるものがあると思うんです。

 

現場の緊張感や空気感がスクリーンに出る

仕上がりは3時間を超える作品(196分)となりました。

 

灰原C:台本もかなりの厚みがありましたが、結局、ほとんど欠番を出さずに撮りきりました。編集でもほとんど切らなかったので、長尺作品になりましたね。プロデューサーサイドとも、映画館で一日3回しかかけられないですねというお話をしましたが、覚悟がいることです。実は、最後のエピソードをカットした2時間半のバージョンも作ったんです。劇場にはそれをかけて、ロングバージョンは特典のようにするという案もでましたが、やはり長いバージョンで、ちゃんと観せようということになりました。安藤監督の覚悟もプロデューサーも、作品をしっかりと生み出そうという覚悟が凄いなと思いました。 

 

今回、実に様々な、個性的な俳優さんたちが出演されていましたね。

 

灰原C:そうですね。大御所の方々に多数出演していただいています。キャメラマンとして気を付けたのは、自分の気持ちが浮ついてしまって、心が動かなくなってしまってはいけないので、精神論ですが、相手が大御所だからといって逃げないというか、慌てたり、騒いだりしないで、腹を据えて撮影していました。やはり、そういった良い意味での現場の緊張感や空気感ってスクリーンに出てくると思います。助手時代に、そういった映画の撮り方を学べたことが、今回の現場で緊張感をうまくため込んで撮影できたのだと思います。 

(2016年1月取材)

 

 

 PROFILE  

灰原 隆裕

はいばら たかひろ

 

1998年 早稲田大学第二文学部文芸専修卒業。同年 東北新社撮影部入社。2001年同社

退社。以後フリーとして、映画では川上皓市氏、石井浩一氏、TVCMでは、藤井保氏、町

田博氏、上田義彦氏、阿藤正一氏、高橋ヨーコ氏などに師事。

主な参加作品:『0.5ミリ』(2014年公開、安藤桃子監督)、『はなればなれに』(2014年公開、下手大輔監督)、『今日子と修一の場合』(2013年公開、奥田瑛二監督)『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on』(2013年公開、高橋栄樹監督)、『必死剣鳥刺し』(2010年公開、平山秀幸監督)、TVCM:旭化成、日野自動車、コスモ石油、サントリー、ソフトバンクなど。 

 

 

 撮影情報  (敬称略)

撮 影 :灰原隆裕

チーフ :星山裕紀

セカンド:杉友一樹

サード :吉田夏菜

照 明 :太田 博

 

キャメラ:ARRIFLEX 16SR3

レンズ :Carl Zeiss 11-110mm, Zeiss PRIME 9.5, 12, 16, 25mm

フィルム:コダック 500T カラーネガティブ フィルム 7230

 

映画『0.5ミリ』

安藤サクラ

織本順吉   木内みどり   土屋希望   井上竜夫   東出昌大   ベンガル

角替和枝 / 浅田美代子 / 坂田利夫

柄本明 / 草笛光子 / 津川雅彦

 

監督・脚本:安藤桃子

エグゼクティブ・プロデューサー:奥田瑛二 

プロデューサー:長澤佳也

アソシエイト・プロデューサー:畠中鈴子

原作:「0.5ミリ」安藤桃子(幻冬舎文庫)

音楽:TaQ フードスタイリスト:安藤和津

主題歌「残照」寺尾紗穂

作詞・作曲:寺尾紗穂(アルバム「残照」収録)

(発売元:MIDI INC./Published by YANO MUSIC PUBLISHING Co.,Ltd.)

助成:文化芸術振興費補助金 

製作:ゼロ・ピクチュアズ  リアルプロダクツ  ユマニテ

配給:彩プロ

宣伝:『0.5ミリ』三姉妹

広報企画:道田有妃

 

(C) 2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

2013 / 196分 / カラー / ビスタサイズ

公式サイト:www.05mm.ayapro.ne.jp

DVD、ブルーレイ絶賛発売中

発売元:「0.5ミリ」製作委員会 販売元:東映 東映ビデオ

 

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