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2017年 1月 21日 VOL.065

映画『ザ・コンサルタント』『ノクターナル・アニマルズ』『Kitty(原題)』の撮影監督シーマス・マッガーベイ(BSC、ASC)は35mmで芸術的かつ費用対効果を狙う

映画『ザ・コンサルタント』の主人公クリスチャン・ウルフ役のベン・アフレック Photo: Chuck Zlotnick
© 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC.

2015年は撮影監督シーマス・マッガーベイ(BSC、ASC)にとって忙しい一年でした。彼は、同じ35mmフィルムでも全く異なるタイプの映画を行き来しながら、大ヒットアクション映画『ザ・コンサルタント』、色彩的ノアールとも言えるインディーズ系のスリラー映画『ノクターナル・アニマルズ』、そして子猫の戯れる様子を描いた短編映画『Kitty』(日本公開未定)を撮影しました。

 

「私が絶対的にフィルムを崇拝しているのは、それが信じられないほど自由度が高いからなのです」と、二度もオスカーにノミネートされた撮影監督のマッガーベイは言います。「私はセルロイド(フィルム)でどうやって撮影するかを学びながら育ちました。そしてその土台や基本的なスタートポイントによって、どんなルックであろうとも創り出せるのだということを大切にしてきました。この3つの作品は全く異なる美学的な結果を必要としていましたが、それぞれ異なった冒険の中でも、フィルムが私を支えてくれるということがわかっていました」

映画『ザ・コンサルタント』の主人公クリスチャン・ウルフ役のベン・アフレック Photo: Chuck Zlotnick
© 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC.

ギャビン・オコナー監督によるワーナー・ブラザース映画『ザ・コンサルタント』の主演ベン・アフレックは、会計士でありながら、狙った相手を確実に仕留める闇の犯罪組織の裏帳簿を仕切るスナイパーでもあるという設定のお話です。この映画は1:2.39のワイドスクリーンで、パナビジョン社のパナフレックスXLカメラとパナビジョン・プリモプライムレンズとズームレンズを使い、VISION3 500T カラーネガティブフィルム 5219のみで撮影されました。

マッガーベイはこう振り返ります。「沢山のナイトシーンと低照度の世界は、全体的な美しさにおけるヒーローの自閉症的内面世界を、わずかな必要最低限の視覚的場面構成で反映させました。それゆえにセットの構成と、それによる不必要な注意散漫が起きないように保ちながら、色彩を落としてレンズを絞り込むことでイメージの被写界深度とシャープさを高めました。展開は徐々に切迫し張り詰めますが、そのルックはざらついた質感と感触へと発展させました。コダック5219 500T ネガフィルムの素晴らしさは、撮影現場でのラチチュードに幅をもたせ、後のカラーグレーディングでの異なるルックの取り扱いでは、粒子とコントラストを押し上げることで調和した結果をもたらしました」

マッガーベイはまた、『ザ・コンサルタント』が金銭的な面においてデジタル撮影よりも有利だったと指摘します。「フィルム撮影することによる慎重に管理されたフィルム量と自然な規律は、コスト効率の良いフィルム撮影がデジタル撮影と比較してどのように優れているかをプロデューサー達に実証しました。デジタルキャプチャーによるテラバイト級のデータ取り扱いと後処理は、終了までにコストと時間の消費がどれほどか見えないというリスクを抱えることでもあります。このことを念頭に置くならば、例えデジタルより安価でなくとも、全体的に見ればコスト効率が高い35mmでの映画製作にプロデューサー達はとても協力的でした。実際にはフィルム撮影とデジタル撮影とのコストを中心とした議論が展開されて、将来の映画製作にとって良い経験を積むことができました」

トム・フォード監督の映画『ノクターナル・アニマルズ』でスーザン役のエイミー・アダムス
© Focus Features. Image copyright Focus Features/Universal Pictures

マッガーベイの次の作品は、トム・フォード監督のスタイリッシュで評判の高い映画『ノクターナル・アニマルズ』でしたが、視覚的に全く異なる映像を見事に打ち出しました。映画の最初からLAのアートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)に焦点を当て、元夫のトム(ジェイク・ギレンホール)が執筆した暴力的な脚本に夢中になり、隠れた脅威だけではなく、象徴的な復讐劇の謎を解き明かそうとします。パワフルな現実の物語と架空の物語が平行し時に交錯するというこの二元的物語を、マッガーベイは幾つものダイナミックなルックで鮮やかに作り上げています。

 

「これはおそらく今まで私が撮影した中で最高傑作のひとつです。早く観客に見て欲しい」と感激しています。「映画の中核には青白く不毛なLAのセットがあり、それと共存する非常に鮮やかで劇中劇として描かれる砂漠を横断する悪夢の旅に、主人公の若い頃の幸せな日々のフラッシュバックが連動するのです」

トム・フォード監督の映画『ノクターナル・アニマルズ』でトム役のジェイク・ギレンホール
© Focus Features. Image copyright Focus Features/Universal Pictures

撮影は球面レンズによる1:2.35で、同じくパナフレックスXLカメラとパナビジョン・レンズを用い、VISION3 200T カラーネガティブフィルム 5213とVISION3 500T カラーネガティブフィルム 5219を様々な状況に合わせて使いました。

映画『ノクターナル・アニマルズ』のトム・フォード監督(左)と撮影監督シーマス・マッガーベイ(BSC、ASC) Photo: David Emmerichs. Focus Features/Universal Pictures

彼は次のように説明します。「日中の屋外での砂漠のワイドショットは200Tを使いました。ラチチュードが広いこのネガは強い日差しでも簡単に取り扱え、ハイライトにおけるディティールは美しくスムースで、つやっぽく華やぐのを知っていました。もちろんナイトシーンは映画全体のおそらく85%くらいはあることを知っていましたから、高感度フィルムが必要なことも分かっていました。しばしば光を差し引く必要のあるデジタルとは違って、フィルム撮影は黒いキャンバスであるネガフィルムに加算してペイントしていくとても芸術的なプロセスです。映画での“色のノワール”の瞬間においては、コダック 5219 500Tは、はっきりとしたライティングによるコントラスト、セットで潤沢にジェルフィルターを使って強調した飽和した赤と濃いグリーンを捉える完璧なフィルムでした。暗いハイウェイのシーンでは、BBライトを使って1マイル以上照らしましたが、500Tは私が意図した不気味なレベルの暗がりでも十分なF値を得ることができ、スーザンのLAでの非常に質素で霧のかかったような無気力な世界を創り出しました。また、大学時代のスーザンとトムの楽観的なフラッシュバックシーケンスにおいてイメージをソフトにしたいときは、ティッフェンのグリマーグラスフィルターを組み合わせました。

映画『ノクターナル・アニマルズ』の撮影現場でカメラを構える撮影監督シーマス・マッガーベイ(BSC、ASC) Photo by David Emmerichs. (Focus Features/Universal Pictures)

そして、この2作品では物足りなかったかのように、疲れ知らずのマッガーベイはクロエ・セビニーのかわいい短編映画『Kitty』に着手しました。ポール・ボウルズの同名4ページの物語を、3パーフォに設定されたパナビジョンカメラのムーブメント、映画『ノクターナル・アニマルズ』で使った200Tと500Tの端尺を使ってパナビジョン・プリモレンズで再び使うという財政的優位性で撮影されました。

『Kitty』は猫に変身してしまう女の子の物語です。毎日、彼女が鏡を見る度にひげが現れて伸びて長くなり、柔らかい毛皮が女の子の皮膚を覆い、その後耳がとがって手のひらと足の裏に柔らかな肉球が現れます。

この独特の雰囲気の短編映画は、LAのパサデナ郡にある個性的な大邸宅で撮影されましたが、そこはお化けや幽霊のオンパレードが見れてもおかしくなかったとマッガーベイが冗談を言うような場所でした。女の子から猫への変化はインカメラ(撮影時に)で行われ、徐々に肉体的変化と特殊メイクが加えられました。

短編映画『Kitty』のセットでアイピースを覗きこむクロエ・セビニー監督  Photo: Seamus McGarvey

「私たちは、少し懐かしくて暗いけど甘い、少女の夢の内面世界を作りたかったのです」と彼は説明します。「そこでレンズの前の平らな光学ガラスの四隅にグリースを塗ってダゲレオタイプのような視覚的効果を狙いました。日中の屋外での撮影には200Tは限られた量しか持っていませんでしたが、予想していたより早く使い果たしてしました」

「ところが、ここでフィルムの完全な美しさを知るのです。残りの屋外は500TにNDフィルターを使って撮影し、室内では500Tにノーフィルターで撮影しましたが、後のカラーグレーディングで全部、完全に合わせることができたのです」

「皆、多くの素晴らしい理由でフィルムを選びます。懐かしさであったり、本来の価値である粒子や質感を得たくてという風に。でも私は、とにかくフィルムがとても簡単に、多くの異なるスタイルや状況やジャンルに適応できることが大好きなのです。さらに、ビデオのモニターではなく、レンズを通して、アイピースを通して画を創ることは、自分の努力や企てにより専念し集中できるということなのです。その結果が、シネマトグラファーの仕事として残るのです」と結びました。

(2016年11月14日発信 Kodakウェブサイトより)

『ザ・コンサルタント』
配給:ワーナー・ブラザース映画
​公式サイト: http://consultant-movie.jp

『ノクターナル・アニマルズ』

2017年11月3日 TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
配給:ビターズ・エンド、パルコ

公式サイト: http://www.nocturnalanimals.jp/

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