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2017年 3月 7日 VOL.069

ジェフ・ニコルズ監督最新作、映画『ラビング 愛という名のふたり』- アメリカ国家制度を変革させた感動の実話を35mmフィルムが信憑性あふれる映像で表現

ミルドレッド役のルース・ネッガ(左)とリチャード役のジョエル・エドガートン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

リチャード・ラビングとミルドレッド・ジェターは恋に落ち、結婚したいと思っていました。しかしそれは法律に反するものでした。彼は白人男性で彼女は黒人女性。1958年のバージニア州では人種間の婚姻は禁止されていたのです。彼らは90マイル(約145キロ)離れたワシントンDCまで車で行き、そこで結婚しました。

 

アメリカ南部で最も人種的に平等なバージニア北部の小さな町、セントラル・ポイントで育ったこの二人は、そこに家を建て、家族生活を始めていたにもかかわらず、投獄されて州から追放されました。夫妻は子供たちとワシントンDCのスラム街に移りました。

撮影現場にて、ジョエル・エドガートン(左)、ルース・ネッガ(中央)、ジェフ・ニコルズ監督 Credit : Ben Rothstein / Focus Features

しかし、バージニア州で起きたこの人種間結婚での逮捕に対するラビング夫妻のその後の挑戦的な行動が、米国最高裁判所での重大な法廷論争につながりました。1967年、ラビング夫妻対バージニア州に対する判決は、人種間の結婚を禁ずる州法を無効とし、米国の社会史のなかでもきわめて重要な出来事となりました。

映画『ラビング 愛という名のふたり』は、ジェフ・ニコルズ監督がコダックの35mmフィルムで撮影した感動的な実話です。2016年のカンヌ国際映画祭で上映され、総立ちの拍手喝采を受けました。また、世界の批評家から「最上級の歴史的ドラマ」として賞賛され、オスカーの有力候補としても高い評価を受けました。

ジェフ・ニコルズ監督 Credit : Ben Rothstein / Focus Features

「このラビング夫妻の信じがたい物語は、アメリカ合衆国の歴史における重大なエピソードです」-ナンシー・バアースキーによるドキュメンタリー映画『The Loving Story』(2011年)を観て本作のインスピレーションを受けたというニコルズ監督はこう語ります。「リチャードとミルドレッドに感情的にも物語的にもすぐ虜になり、彼らに寄り添って彼らの視点のままの映画を作りたいと思いました。そして、正直で誠実にこの物語を伝えるのにふさわしい制作フォーマットを選択することに重要な意義があったのです。フィルムだけが化粧張りやごまかしを入れることなく、本当に真実味のある物語を伝えられる品質を持っています」

アダム・ストーン撮影監督 Credit : Ben Rothstein / Focus Features

脚本・監督ジェフ・ニコルズによる制作予算900万ドル(約10億円)のこの映画は、ジョエル・エドガートンとルース・ネッガがリチャードとミルドレッド・ラビング夫妻を演じます。主な撮影は2015年9月にバージニア州リッチモンド近郊で始まり、ニコルズの長年のコンビ相手でもあるアダム・ストーン(ASC)が撮影監督を担当しました。

 

「ジェフは、二人の壮大な物語を簡単でわかりやすく、信憑性があって可能な限り自然に描き出すことを求めていました」と、ノースカロライナ大学芸術学部でニコルズと同期にあたるストーンは言います。「私たちの全ての映画『Shotgun Stories』(2007年、日本未公開)、『テイク・シェルター』(2012年)、『MUD マッド』(2014年)、『ミッドナイト・スペシャル』(2016年、日本未公開)はセルロイド(フィルム)で撮影してきました。なぜならフィルムは感情に訴え、驚くほど美しいメディアですから」

真実性と現実感を求めてニコルズは、ラビング夫妻が住み、車を運転し、子供たちと遊んだセントラル・ポイント周辺を訪れ、映画制作中は同じ場所で撮影するように努力しました。

劇中の風景シーン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

作品のルックを決めるため、彼とストーンは16mmで撮影されたアーカイブのニュース映像を参照し、また1965年にラビング夫妻の裁判まっただ中の撮影をライフ誌から任命されたグレー・ビレットの写真を参考にしました。

 

「ビレットは、決して被写体にポーズや動きを付けたりはしませんでした」と、ストーンは続けます。「彼は、現実こそが真実を描写すると信じ、ただその瞬間が訪れるのを待っていました。彼のラビング夫妻のイメージがとても強力で、私たちの基本的ビジュアルスタイルの重要な基準となりました。そして、ビレットの写真の一部を映画の中で再現もしました」

ミルドレッド役のルース・ネッガ(左)とリチャード役のジョエル・エドガートン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

ストーンは、パナビジョン社のGシリーズ・アナモフィックレンズと、コダック VISION3 250D 5207および500T 5219で撮影を行いました。「この組み合わせがこの上なく素晴らしいのです。パナビジョンレンズの特性と美しいボケ味がコダックフィルムと相まって、バージニアの緑豊かな風景と役者たちのユニークな個性を美しく捉えることができました。パナビジョンとコダックは、お互いを打ち消すことなく相乗効果を生むのです」とストーンは言います。「アナモフィックレンズを使って撮影すると、人の目で見るのと同じような効果を作り出すことができます。人間の脳はフィルムで撮影された映像を、デジタルで取り込まれたイメージとは別の方法で補完します。セルロイド(フィルム)が視覚にもたらす信憑性、ごまかしのなさ、そしいて堂々たる美しさがあります。だからこそ、ジェフと私はこの組み合わせに惹かれるのです」

劇中の風景シーン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

250D 5207はこの作品のメインとなるフィルムでした。「私のお気に入りのフィルムなんです。『MUD マッド』でそのラチチュードと驚くべき色再現に惚れ込みました。とても豊かで長く記憶に残るきわめて美しい映像です。私たちは今回、本当に様々な条件で酷使しましたが、素晴らしい結果をもたらしました。例えば、子供が車にはねられたことを知ってリチャードが仕事から帰ってくるというシーンがあります。重苦しい感情を表現するのに、私たちは彼が到着するまでをとても暗い時間にしました。500Tの代わりに250Dでの撮影を選び、暗く鋼色の空を引き立て、最も締まった黒になるよう暗部を押し下げました。その仕上がりは見事なものでした。このような本物感のある夜景をデジタルで作り上げるのは私にはとても難しいことです」

ストーンは、夕暮れから夜になった屋外と低照度の室内では500T 5219に切り替えました。「簡単な夜の室内を照らす方法が500Tの特性を大いに引き出しました。主にレンズを開放で撮影し、柔らかなキーライトがF2.8で半絞りから1絞り落ちるように照明しました。このような方法で撮影すると、フィルムの性能を本当に試すことにもなり、時としてこれがどれほど上手くいっているかに驚きます。アナモフィックレンズを使って絞りは開放、夜間撮影するその感じがとても好きです。最終的な映像は柔らかで優雅です。私たちはレンズの素晴らしい減衰と最も優雅な方法で利用可能なフォトン(光子)を吸い上げるフィルムを手に入れたのです」

劇中の風景シーン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

ニコルズとストーンは、ワシントンDCのシーンでミルドレッドの不安とその場所に対しての拒絶感を映し出すためにほんの少しだけ彩度を落としましたが、特定のカラーパレットやその時代のルックを無理に作り上げることはしませんでした。

劇中の風景シーン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

「自分たちに必要なものを考慮して、農村部と都市部のロケーションや美術・衣装デザインの自然な質感を優先しました。私たちは単に目の前にあるものを追う写実主義を貫きました」とストーンは振り返ります。

劇中のワンシーン Credit : Ben Rothstein / Focus Features

このシンプルでわかりやすいアプローチはカメラの動きにも影響を与えました。ストーンはこう説明します。「ジェフと私は、落ち着いた威厳の漂う映像を望みました。つまりそれはステディカムでもなく見せかけの画作りでもありません。どのシーンでも「これは誰の視点ですか?」そして「このシーンでは何が語られていますか?」というような基本的な問いかけをし、その質問に答えられる最良のポジションにカメラを置いたのです」

リチャード役のジョエル・エドガートン(左)とミルドレッド役のルース・ネッガ Credit : Ben Rothstein / Focus Features

ストーンは、ジェフと一緒に映画作りを始めた初期の頃を思い起こします。「ジェフと私が最初のフィルム撮影をした時の『Shotgun Stories』(2007年、日本未公開)では、自分たちが何をしているのか本当によくわかりませんでしたが、立ち止まることはしなかったんです。私たちは若くて熱意があり、フィルムで劇映画を撮影する機会に飛びつきました。もちろん私たちはいくつもの失敗、例えば、撮影したフィルムを現像に出すのに1年もかかってしまったとか、それでも沢山の賢明な決断を下しました。最も思いがけない決断は、アナモフィックレンズでフィルム撮影したことです。この選択は映画のコンテストで私たちの小さなインディ作品を他の作品と区別することになり、これによって私たちは足がかりを得たのです。新進の映画制作者たちにちょっとだけアドバイスするとすれば、私は彼らに機会があるならフィルムで撮影することを強く勧めたいと思います。とても美しく、教えられることの多い経験になるからです。私はまた、コダックがフィルムメディアを生き生きとさせて、有望な映画制作者たちがセルロイド(フィルム)で撮影するのを支援し、新鮮かつ協調的な企業努力をしていることを心から幸せに思います」

 

ニコルズも同意し、こう結びます。「フィルムは時代を超越した品質を持っています。皆さんがいまだに映画館で『アラビアのロレンス』(1962年)のプリントを観賞できるということが、そのことを十分に証明しています。私はフィルムの秒24コマが生み出すマジック、そしてワイドスクリーンフォーマットが大好きで、それが生み出す映像は観客を魅了します。私が製作した映画が将来に渡って関心を示されることを願っています。誠意と行動の正直さを持って、ラビング夫妻はこの国の法律を善のために変えました。私たちは、彼らを恒久的に正当評価し得るフォーマットを選択したと信じています」

(2017年2月9日発信 Kodakウェブサイトより)

『ラビング 愛という名前のふたり』

TOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー中
配給: ギャガ

​公式サイト: http://gaga.ne.jp/loving/

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