2018年 4月 11日 VOL.103

映画『ワンダーストラック』

撮影監督 エドワード・ラックマン(ASC)がコダックのカラーと白黒の35mmフィルムを組み合わせ、観客を魅了する効果を生み出す

『ワンダーストラック』の撮影現場にて、ライトメーターを持つ撮影監督のエド・ラックマン(ASC、右)とAカメラのオペレーター、クレイグ・ハーゲンセン

「キャラクターで引っ張っていくストーリーだと、私はやはりフィルムで撮影する方が好きです。単板のデジタルセンサー上にピクセルが固定された映像とは違い、フィルムには1フレーム1フレームに生気と深みがあります。私の眼には、フィルムには何か人間に似たもの、フレーム間に生き、相互に作用しているものがあるように見えるのですが、それが人間的興味をそそるストーリーテリングを支えてくれました」

撮影監督エドワード・ラックマン(ASC)は、トッド・ヘインズ監督の感動ミステリー『ワンダーストラック』の撮影についてそう語ります。本作は、2017年カンヌ国際映画祭パルム・ドールのコンペティション部門に出品され、ラックマンが撮影監督として、批評家の評価が高いヘインズ監督とタッグを組んだ5作目の作品です。

『ワンダーストラック』は、アメリカの作家であり画家であるブライアン・セルズニックの2011年の同名の挿絵入り小説を基にしており、ブライアン・セルズニック自ら小説を脚本化し、コダック35mmの白黒およびカラーフィルムで撮影されました。本作は主要キャストにジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、エイミー・ハーグリーヴス、オークス・フェグリー、ミリエント・シモンズを迎え、ロードサイド・アトラクションズとアマゾン・スタジオにより2017年10月に共同配給される予定です。

『ワンダーストラック』には1927年と1977年の両方で起こる二重のストーリーラインがあり、ローズとベンを別々に追うのですが、2人とも自分の人生が違うものだったらとひそかに願っています。ローズは耳の聞こえない少女で、自分には縁遠い長編映画や舞台スターの母親の雑誌の切り抜きをスクラップしています。ベンは急に聴覚を失ってしまい、会ったことのない父親に会いたいと思います。ローズがスクラップブックの物語に夢中になる一方、ベンは母親の寝室で魅惑的な手がかりを見つけます。2人の子供たちはずっと望んでいたものを探すため、1人で別々の冒険へと旅立つのです。

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

50年の隔たりがある設定で2つの物語が並行し、観客を魅了する対象性で織り交ざりながら、不可思議なストーリーが進んでいきます。2つの物語は時間によって隔てられていますが、登場人物たちの旅には重なっている点があります。2人とも耳が聞こえないこと、家を出てニューヨークシティに向かうこと、映画の盛り上がりでニューヨークの自然史博物館にいることです。ローズとベンが個別に探している答えと並行して、お互いのつながりは何か?という謎があります。

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

「ブライアンの原作小説は出色の出来栄えでした。『ワンダーストラック』は孤独と自虐についての、豊かで入り組んだ美しいストーリーで、愛を探し求める幼い登場人物たちの強さと不屈の精神に満ちています」とラックマンは言います。ラックマンの評価は高く、これまで、ヘインズ監督の『エデンより彼方に』(2002年)、『アイム・ノット・ゼア』(2007年)、『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』(2011年)、『キャロル』(2015年)をすべてフィルムで撮影しました。『エデンより彼方に』と『キャロル』で、ラックマンはアカデミー賞にノミネートされました。

「映画化にあたり、トッドと私にとって大きな挑戦となったのは、ブライアンが最初に言った見事な発想でした。ローズの物語は1920年代、サイレント映画の時代に進行するので、彼女の物語を似たようなビジュアルの映像で描くことをブライアンは提案したのです。我々はこの論理を展開し、ベンの物語を1970年代のビジュアルに則った表現方法で描くにはどうすればいいかも考えることになりました」

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

したがって、ラックマンとヘインズは映画の歴史をさかのぼり、2つの異なる物語の映像様式を代わる代わる強調し、引き立たせられるような表現方法を探すことにしました。

ラックマンによると、サイレント映画の時代から、フリッツ・ラング監督の『ドクトル・マブゼ』(1922年)、F・W・ムルナウ監督の『サンライズ』(1927年)、ヴィクトル・シェストレム監督の『風』(1928年)、キング・ヴィダー監督の『群集』(1928年)などの一連の白黒古典作品をヘインズと見たそうです。

「機会があればデジタルで白黒の“ルック”(映像の見た目)を作ってみるといいですが、フィルムで撮った映像とはまったく異なります」とラックマンは言います。「デジタルは単純に同じような深みや質感を持っていません。フィルムは異なる露出ラチチュードを持ち、粒子は映像に不可欠なもので、それはポストプロダクションで上から重ねたレイヤーではありません。ヘインズと見たサイレント映画や、一部を白黒35mmフィルムで撮影した『アイム・ノット・ゼア』での経験から、『ワンダーストラック』のローズの物語でも再び同じフィルムを用いることにしました」

ベンの物語は1970年代に設定されており、ラックマンは、ニューヨークの荒廃した都市風景の粗野な現実をとらえた『フレンチ・コネクション』(1971年、ウィリアム・フリードキン監督)でのオーウェン・ロイズマン(ASC)のドキュメンタリースタイルの撮影を参考にしたと言います。

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

『ワンダーストラック』は全編2.40:1のフレームに収められ、主要な撮影は2016年5月および7月にピークスキル、ブルックリン、ニューヨークシティで行われました。長期に及ぶ交渉が功を奏し、アメリカ自然史博物館の有名なジオラマ内でも撮影が実施され、また、クイーンズ美術館にあるニューヨークシティの巨大な3Dパノラマも撮影されました。撮影されたこういったシーンは子供たちの旺盛な想像力を描くのに使われており、画家で彫刻家のジョゼフ・コーネルの作品の影響を受けていました。ジョゼフ・コーネルの特徴的な「アッサンブラージュ」の芸術形式には、思い出の箱に入ったコラージュや捨てられた品々などがありますが、それは、想像力をかき立てる思い出のミニシアターなのです。

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

ローズの物語を映像に収めるため、ラックマンは、自前のクック・スピード・パンクロのレンズを使い、コダックの白黒のダブル-X ネガティブ フィルム 5222で撮影しました。カメラをシンプルなドリーに固定して動かし続け、サイレント映画時代のスタイルでパンするのです。撮影に先立って、ラックマンは美術のマーク・フリードバーグと衣装デザイナーのサンディ・パウエルと密に連携を取り、プロダクション・デザインと衣装の色合いが、白黒フィルムの中で彼が望む通りの調子に上がるようにしました。

「ダブル-X ネガティブ フィルム 5222は、ユニークなストックです」とラックマンは言います。「光に対する反応とラボでの現像において独特の“ルック”があり、それはデジタルでは再現しがたいものです。白黒のシーンでは明暗法を実現しつつ、硬く、直接的な光をフレネル・ランプで当て、さらに黒、白、グレーの分離をよりはっきりとさせるため、黄色やオレンジのフィルター、LL-Dフィルターなどを様々に使いました。そういったすべてをダブル-X ネガティブ フィルム 5222は美しく描写しています。仕上がった映像は、我々に最初のインスピレーションを与えてくれたサイレント映画の“ルック”にまったく引けを取らないものでした」

ベンの物語では1970年代の視覚な言語に似せるため、ラックマンはクックS4ズームレンズに、コダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219およびコダック VISION3 250D カラーネガティブ フィルムを組み合わせ、照明に対して自然主義的なアプローチをすることにしました。

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

ラックマンの説明によると、「ベンの物語は当時のニューヨークの環境を描くことがすべてでした。実際の灯りを使うと共に、自然の光、もしくは自然に似た光源でシーンを照らし、両方のカラーフィルムで撮影しました。暖色と寒色の色分解や色再現、色の重なりなど、同じフレームの中にあるものすべてが、デジタルで代用したものとフィルムとでは違います。フィルムのRGB層への光の焼き込まれ方によるものです。さらに、デジタルで撮影した際の、単板に画素が固定された映像ノイズとは対照的に、フィルム内部の粒子構造が映像に特有の様相と深みを与えてくれます。私はラボ(ロスアンゼルスのフォトケム)で500T 5219を増感現像し、この素材に、1970年代のフィルム・ストックの粒子構造と彩度がもっと感じられるようにしました」

『ワンダーストラック』の1シーン Image courtesy of Amazon Studios.

しかし、70年代の現実描写の追求はそこでは終わりませんでした。近代的で洗練された装置でカメラの力を引き出すこともできますが、ヘインズは、道の亀裂や隆起に砂を重ねて平らにし、空気で膨らませたタイヤを備えた昔ながらのウエスタンドリーから、手持ちでズームを織り交ぜて撮影することを求めました。

「カメラを動かすのに最高のやり方とは言えませんでした」とラックマンは振り返ります。「ですが、この方法が現場で撮影される“ルック”と組み合わされた時、確かに我々は、正真正銘の1970年代のリアリティと臨場感を映像に実現できたのです」

『ワンダーストラック』の2017年カンヌのプレミアを巡る期待が高まっている今、ラックマンはこう言います。「光が映像を作るのです。フィルムは、エレクトリック・センサーとはまったく違う様式で光の影響を受けます。私から言わせてもらえば、ネガフィルムはデジタルからは得られない色の深み、再現、分離、重なりと固有の活力を与えてくれます。『ワンダーストラック』では異なる時代の映像を作るため、コダックの白黒およびカラーのフィルムを使いましたが、フィルムという媒体がまさに我々の物語の核心部分を包み込んでいたのです」

(2017年5月17日発信 Kodakウェブサイトより)

『ワンダーストラック』

 原題   : Wonderstruck
 製作国  : アメリカ

 配給   : KADOKAWA

 公式サイト: http://wonderstruck-movie.jp/

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