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2018年 11月 22日 VOL.124

60余年に渡り日本映画を支えてきた東京現像所が語る、フィルムに秘められた大きな可能性

緑豊かで閑静な街・東京都調布市に位置する東京現像所は、今を遡ること63年前の1955年に創立されました。以来、国内トップクラスの映画ラボとして小津安二郎・市川崑・岡本喜八・山田洋次・北野武など日本を代表する映画監督の作品をはじめ数多くのフィルムを世に送り出し、今もなお東日本地域で唯一の映画フィルム現像所として活動を続けています。

 

今回は、西野克治取締役映像本部長と現場スタッフの方に同社のこれまでの軌跡や現在の姿、更にはこれからのフィルムビジネスにかける展望などについてお話を伺いました。

まず、1955年創立の経緯について西野氏は語ります。

西野克治取締役映像本部長

「その当時の映画界は、モノクロからカラーへの過渡期でした。今世間で最新映像というとHDRやVRといった分野が話題になっていますが、1950年代は“カラー映像”が何よりも新しい映像技術として注目を浴び、大きな変革を映画業界に巻き起こしていました。日本国内では既に東洋現像所(現 株式会社IMAGICA Lab.)が、カラーフィルムの現像を行っていましたが、戦後復興の流れもあって国内のフィルム現像体制の更なる充実を望む声が東宝や大映など日本の映画会社から上がっていました。そして、それらの企業の出資により、高度な技術を要するカラーフィルム現像が行える新しい拠点として、1955年4月22日に株式会社東京現像所が誕生しました」

創立以来60年以上に渡り映画フィルムラボとして営業している

立地に関しては検討が重ねられた結果、多摩川に近く、現像に必要な質の良い水が豊富にあり、かつ、大映、日活の各スタジオが近くにあるという好条件も相まって、現在の調布市富士見町に決められたそうです。特筆すべきことは、創立当初から現在に至るまで、現像処理に良質な地下水を利用しているということです。

質・量ともにフィルム現像に適した調布市の豊富な地下水が同社を支えている

東京現像所は1950年代後半に35mmの現像設備を整え、1960年代前半に16mmフィルムの現像処理サービスを始めます。この頃、オックスベリー社のオプチカルプリンターも導入され、1960年代後半には他社よりもいち早く70mmの現像設備を完備し、劇映画のリリースプリントからサービスをスタート、後に博展映像に展開しています。1985年のつくば科学万博では、フィルムで制作された大型映像25作品の内、約半分の12作品を東京現像所が処理しました。1970年代に入ってからはテレシネ、編集室などのビデオ関係の設備も導入し、やがてデジタル フィルム スキャナー、レコーダーによるフィルム入出力からVFX、DIへと発展するデジタル関連のサービスも展開、映画フィルムの現像所から総合映像サービスを提供するラボへと変化を遂げてきています。


東京現像所は創立当初から35mmフィルム撮影の劇映画に数多く携わってきていますが、現在も中でも山田洋次監督や北野武監督、小泉堯史監督、木村大作キャメラマン・監督といった“フィルム派”と言える映画人の作品に関わっています。タイミングを担当されている小泉洋子氏は、昨今のフィルム撮影作品についてこのように述べています。


「巨匠の方々はフィルムに思い入れがあって、フィルムが好きでずっと使ってきていただいています。その思いに応えるために、フィルムプリントの色調がDCPによるデジタル上映でも最適に再現できるよう常にテストと管理をしています。最近はフィルム撮影作品が以前に比べると減ってしまっていますが、そのような状況でもラボとしての仕事のやり方は今までと変わりません」


フィルムで撮影しても上映用プリントを作る作品がほとんど無いという現状について小泉氏はこう付け加えます。
 

伝統的なフィルムタイミング技術が継承されている

「山田洋次監督の作品では、今日でもラッシュプリントを上げてからポジ編集をして、エッジコードでネガ編集をし、まずフィルムプリントで初号まで完成させます。その後、オリジナルネガをデジタル化し、DCPを作っています。このようなフローを取られるのは日本ではもう山田洋次監督の作品だけだと思いますが、作品の原版がフィルムで残るという点では大変有意義なフローであると思います」

 

他にオリジナルネガフィルム現像の多くを占める分野にTVコマーシャルがあります。今でも多くのカメラマンが、“フェイストーンの美しさ”を表現するためにはいまだフィルムに勝る選択肢はないと確信されていますし、フィルム特有の空気感を好まれる多くのクリエイターの方がいらっしゃいます。東京現像所は、現像プロセスの厳密なコントロールを駆使して上映プリント用フィルムをテレシネに最適なローコントラストのガンマカーブに仕上げる特殊現像の技術開発に成功、美しいフィルムプリントの階調をTVコマーシャルに提供しています。この独自の技術は劇映画作品のブルーレイ用や放送用のマスター作成においても活躍しています。

 

フィルム撮影作品のワークフローについて、西野氏はこのように述べています。「ネガ現像後、ファイルでデイリーを納品もできますし、もちろん今でもラッシュプリントも焼けます。アナログ、デジタルを問わず殆どの映像フォーマットに対応できるというのが弊社の強みだと思います」

 

同社では現在、16mm、35mmのカラーネガ現像機が各2台、16mm、35mmのカラープリント現像機が各1台、さらに、35mmの白黒ネガ/ポジ兼用現像機が1台あり、これらの現像機を5名の技術スタッフが作業状況に応じて臨機応変に稼働させる体制を組んでいます。
 

毎日入念にフィルム現像機のチェックが行われている

「撮影されたネガを現像できる設備を維持し、それを使いこなせるスタッフがいて、品質を管理し、昔から変わらない現像の質を維持し続けることが、今でも続けていることなのです。そのために今後も新しい人材を育てながら技術継承も行ってまいります」

デジタルインターメディエイト(DI)を早くから導入しデジタル/フィルム両方の映画制作スタイルに対応している

実写の新作以外で注目すべき点は、同社がリマスタリングの仕事を数多く手がけられているということでしょう。旧作実写においては黒澤明・成瀬巳喜男・溝口健二といった巨匠の名作をデジタルリマスターし、精緻な仕上がりが国内外で大きな評判となりました。一方旧作アニメーションにおいてはフィルムに新たな保存用マスターを起こすといった作業を継続的に行っています。

日頃、最適の状態に調整されているウェットゲートを搭載した16mmプリンター

「旧作の16mmアニメ作品でも、オリジナルネガが退色する前にインターメディエイトフィルムにマスターポジを起こす作業を依頼していただいています。のみならず、デジタル上映された新作劇場アニメーションをフィルムレコーディングし、フィルムの状態で作品を保存するいうことも依頼していただいています」

 

これについて西野氏は、「アニメーション制作会社との長年にわたる良好なビジネス関係を継続してこれたことと、フィルムでの長期保存の重要性をお客様に理解してもらっていること」が大きく関係していると説明しています。

劇場アニメーションのフィルム化に使用されているARRILASER

「現像やプリントのフィルム技術に加え、フィルムレコーダーのARRILASER、スキャナーのARRISCANやScanity、ScanStationなど、豊富な機材とデジタル技術を私どもが兼ね添えていることによって、お客様からのどのような要望にも応じられていることが、リマスタリングやフィルムマスターでのコンテンツ保存の依頼の多さにつながっているのだと思っています」

ARRISCANが置かれているスキャニングルーム。様々な型式のスキャナーが導入され、その稼働率はどれも高い

さらに同社は旧作のフィルム原版に対応した新たなフィルムクリーニングマシンを導入します。


「この新機種は、劣化が見られる旧作のフィルム原版に上手く対応できるように、オリジナルネガに“やさしい”設計をしています。将来に渡ってフィルム原版を保存していこうと考えているお客様に対して最良の結果をもたらすこの新しいクリーニングマシンはとても重要なものと位置付けています」

11 ニュークリーニングマシン引き画.jpg

クリーニングマシンなどフィルムメンテナンスの設備も充実している

最後に、今後、東京現像所はフィルムビジネスに関してはどのような方向を目指しているのかについて西野氏にお伺いしました。


「割合という意味においては、フィルムは確かに映像メディアの王様では無くなりました。ですが、それは決してフィルムの性能が劣っていることを意味するものではありません。むしろフィルムにはまだまだ知られざる可能性があると我々は考えています。ひとつ例をあげると、近年我々は、旧作のネガフィルムをスキャンし、デジタルリマスターするビジネスを展開していますが、往年の作品が4KやHDRといった最新のデジタル技術で甦るプロセスに立ち会う度に、オリジナルのネガフィルムが持つ階調の美しさや圧倒的なダイナミックレンジの豊かさに、我々自身も非常に驚かされます。これは、映画をプリントフィルムで見るしか選択肢が無かった時代には知り得なかったことで、その意味でネガフィルムが自らの性能を発揮できる領域は、デジタル時代になって大きく拡張しています。フィルムの感光機構と現像のケミカル作用がもたらす映像の奥深さにはまだまだ先があるはずです。アナログとデジタル両方の映像技術を知るポストプロダクションとして、今後も新旧問わず貴重なフィルム作品やコンテンツに関わっていきたいと思います」

東京現像所の試写室。35mmプリント、2K/4Kコンテンツの最終チェックが行われている

(インタビュー 2018年 7月)

<会社データ>

 株式会社東京現像所
(TOKYO LABORATORY LTD.)

​ 創 立 1955年4月22日
 従業員 105名
 所在地 東京都調布市富士見町2-13
 https://www.tokyolab.co.jp/

【東京現像所プロモーション映像】

日本映画史に残る名作を、木村大作撮影監督による映像監修のもと、4Kデジタルリマスター化。史上最高画質で甦る! 

映画『八甲田山<4Kデジタルリマスター版>』放映!

 

​不朽の名作『八甲田山』(1977年/森谷司郎監督)の4Kデジタルリマスター版が、12月に日本映画専門チャンネルにて放映されます。その4K化作業を担当した東京現像所の技術スタッフに密着し、フィルムが最新のデジタル技術により、まるで“新作”のように甦った過程を追った54分間のオリジナル番組『「八甲田山」<4Kデジタルリマスター版>放送記念 フィルム・ミーツ・デジタル』も必見。番組紹介サイトでは、フィルムチェック、スキャニング、レストア、グレーディングの各作業工程のダイジェスト版動画や比較画像がご覧になれます。

https://www.nihon-eiga.com/osusume/888takakura/
 

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