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2019年 1月 30日 VOL.129

第二次世界大戦を描くスリラー『ナチス第三の男』にコダック 35mmが提供した感情的かつ映画的なキャンバス

映画『ナチス第三の男』の撮影風景 Photo by: Bruno Calvo

以前にも、評価の高い歴史犯罪ドラマ『フレンチ・コネクション 史上最強の麻薬戦争』(2014年)をコダック 35mmで撮影し、チームを組んだことのあるセドリック・ヒメネス監督と撮影監督 ローラン・タンギー(AFC)は、第二次世界大戦を描くアクション・スリラー『ナチス第三の男』の映像のプラットフォームとして再びフィルムを選びました。

1942年、占領下のチェコスロバキアを舞台にした『ナチス第三の男』は、エンスラポイド作戦を描く物語です。エンスラポイド作戦は、「プラハの虐殺者」として知られるナチス党親衛隊(SS)大将ラインハルト・ハイドリヒを暗殺するための極秘作戦で、ヨーロッパ中に住む「ユダヤ人問題の最終解決」という彼の残忍な計画を転覆させ、反体制運動が存在したナチ政権に衝撃を走らせることを目的としていました。

『ナチス第三の男』は、この作戦について書いたローラン・ビネのゴンクール賞最優秀新人賞受賞小説『HHhH プラハ、1942年』を基にしており、ハイドリヒ役のジェイソン・クラーク、彼の妻リナ役のロザムンド・パイク、報復を行うチェコの暗殺者ヤン・クビシュとヨゼフ・ガブチークを演じるジャック・オコンネルとジャック・レイナーが出演しています。

映画『ナチス第三の男』のヤン・クビシュ役を務めるジャック・オコンネルを撮影するAカメラの撮影監督 ローラン・タンギーとBカメラのマルコ・グラジアプレナ Photo by: Bruno Calvo

「セドリックはこの驚くべき歴史物語を描くのに、感情に訴えて人を惹きつける、映画的なキャンバスを求めていました。フィルムはこれらの特性を標準的に備えています」と、タンギーは述べています。「フィルムの長所は、照明なしでカメラを通りに設置できることです。それで撮れたものがもう映画になっているのです。この大胆な暗殺作戦の物語は俳優の繊細な演技や彼らの視点を通して語られるため、キャラクターにフォーカスしてそのまま動かさないというのがセドリックの構想でした。私たちは必然的に顔にクローズアップすることになるので、肌のトーンが重要になってきます。これをデジタルで行って、納得できる仕上がりにするのは、フィルムよりもはるかに難しかったでしょう。すでに『フレンチ・コネクション 史上最強の麻薬戦争』で1970年代の雰囲気を35mmで撮影して成功していたので、今回も当時を再現し、感情を引き出すにはフィルムが最適な選択でした」

脚本とビネの小説に入り込み、実際の当時の写真を大量に見たタンギーは、フィルムのルック(映像の見た目)を考えれば、他の芸術面での参考資料を検討する必要はないと思ったそうです。

「私たちの計画は、様式化は避ける、ルックを自然かつシンプルに保つ、当時の趣を出すために衣装や制服、ロケーションをフィルム固有の質感で引き立てるということでした」と、彼は説明してくれました。「主に手持ち、場合によってジャイロスタビライザー付きのカメラを利用するという、動かしやすいスタイルで撮影することに決めました。俳優を観察し、その動きに合わせて動くことができるため、感情移入できるようになります」

したがって、撮影中Aカメラを操作していたタンギーは、軽量のパナビジョン XLカメラを選び、それにプリモのクラシックシリーズのスフェリカル・レンズを装着して、フレームは2.35:1のアスペクト比にしました。

彼はこう説明してくれました。「アナモフィックレンズという選択肢も検討したのですが、これらのカメラのセットは重たく、最短焦点距離も長いため、スフェリカルで撮影する方が現実的な選択でした。さらに、この組み合わせによって映画的なワイドスクリーンのフォーマットになりますし、セドリックと私は、背景にアクションがあってフレーム内に1人なしは複数のキャラクターがいるという構図をいろいろと試すことができました」

『ナチス第三の男』の主要な撮影は、ハンガリーのブダペスト周辺の都市部および田園地方のロケーションで行われ、2015年9月中旬に始まり、75日後に終了しました。ブダペストのマフィルム・スタジオのウォータータンクでも、サスペンスに満ちた再現シーンを撮影するのに1週間を費やしました。聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂の地下聖堂で行われた銃撃戦のシーンで、ナチスはそこで暗殺者たちを追い立てるために水攻めを行ったのです。

映画『ナチス第三の男』の撮影風景 Photo by: Bruno Calvo

『ナチス第三の男』は主に2台のカメラで撮影され、マルコ・グラジアプレナがBカメラを操作していたのですが、アクションシーンではカメラが5台にまで増えました。

タンギーは撮影にタングステンタイプのフィルムを選び、夜間と屋内のシーンには全てコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219を、日中の屋外のシーンには200T 5213を使いました。

「私はこの2つのタングステンフィルムの自然で満足のいく色のパレットと、肌のトーンの卓越した捉え方が好きなのです」とタンギーは語りました。「この2タイプのフィルムは、ハイライトとシャドウ両方を含むシーンのダイナミックレンジを楽に扱えるラチチュードも持っていますし、お互いの整合性も良いのです」

本編の約35%が暗闇もしくは夜間に撮影されたのですが、タンギーによると、こういった撮影でこそフィルムは真価を発揮するそうです。

「デジタルだとカメラが全てを捉えてしまうため、シーンから終始、光を取り除けないといけないという難点がありますが、フィルムは黒から始めて、見たいものだけに照明をあてることができます。これは、自分独自の雰囲気のある美しさを作り出す際に非常に重要なことです」とタンギーは語りました。

ブダペストにあるハンガリアン・フィルムラボのチームが、ネガの現像とラッシュを担当しました。タンギーは彼らについて、非常に有能で、価値のある仕事をしてくれたと言います。

タンギーは自然主義へのこだわりを持ちつつも、壁や天井から俳優に向かって反射する柔らかいタングステンの光が必要な時には、使える光を足しました。カメラが360度の自由な動きをしなければならないような長回しのアクションシーンには、上からのソフトな照明を用いました。

セドリック・ヒメネス監督(左後方)と35mmカメラをかまえる撮影監督のローラン・タンギー Photo by: Bruno Calvo

タンギーによると、フィルムで撮影することで生まれる統制が、俳優やスタッフ、エキストラたちに良い効果を与えたそうです。「フィルムは重要かつ貴重な財産です。カメラを回し続けることの多いデジタルとは違い、フィルムのカメラは統制が取れていることが必要です。全員の士気を高め、各自の仕事にベストを尽くすよう集中させてくれます。これは特にアクションシーンで大事なことでした。アクションシーンは、数台のカメラを使って長回しで撮影したのです。リセットしている間に全員でセドリックの指示を理解し、次のテイクに向けて準備をすることができました」

彼はこう締めくくります。「総合的に見て、デジタルでの撮影の一番の問題は、仕上がりのルックがどんどん似通ってくることです。フィルムはその性質上、デジタルよりも幅広い使い方ができます。粒子や質感という内在する価値が、自動的に映画的なプラットフォームを作ってくれ、あなた独自の映像を生み出して調整することができるのです。結局のところ、フィルムで撮影する方が物語を見やすくなり、真実味が増します。コダックで撮影することによってできた、『ナチス第三の男』の自然で映画らしい出来栄えに、私は非常に誇りを持っています。観客が没入できる、エキサイティングな最高のドラマです」

(2018年2月6日発信 Kodakウェブサイトより)

『ナチス第三の男』

 2019年1月25日(金)より全国順次公開中

 原 題: The Man with the Iron Heart
 製作国: フランス・イギリス・ベルギー合作
 配 給: アスミック・エース

 公式サイト: http://hhhh-movie.asmik-ace.co.jp/

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