2019年 8月 20日 VOL.142
友情とフィルムで結ばれた絆:ヒロ・ムライとラーキン・サイプル
ヒロ・ムライは、ミュージックビデオ『This Is America』におけるドナルド・グローバーへのライティングと、混沌とした背景が落ち着いていく映像表現をとても気に入っている。Image courtesy of Hiro Murai.
ロサンゼルスを拠点に活躍する日本人映像作家ヒロ・ムライが監督したミュージックビデオ『This Is America』が、アメリカ音楽界最高の栄誉とされるグラミー賞において、2019年(第61回)の「最優秀ミュージック・ビデオ賞」を獲得しました。同部門で日本人初の受賞者となった彼は1983年東京生まれ。9歳から一家で渡米し、名門南カリフォルニア大学映画学部を経て映像業界に足を踏み入れ、その類まれな映像センスで早くから注目を集めました。これまでに数々のミュージックビデオやTVCM、TVドラマ等を手掛け、2017年には、自身が監督を務めたアメリカの人気TVコメディドラマ『アトランタ』がゴールデングローブ賞を受賞するという快挙を達成。世界的に今もっとも目が離せないクリエイターの一人となっています。父親が『翼をください』の作曲家であり、松任谷由実さんやカシオペア、Y・M・O等を世に送り出したことで知られる音楽プロデューサーの村井邦彦氏であることもメディアで多く取り上げられています。
今号は、グラミー賞受賞作品と、目を引く映像表現で世界の有名スポーツ選手を捉えたワイヤレス高性能イヤフォン「Powerbeats Pro」のTVCM作品を取り上げ、コダック社がヒロ・ムライご本人と、彼とよくコンビを組んでいる撮影監督 ラーキン・サイプルにインタビューした記事の翻訳版をお届けします。
映像制作者のヒロ・ムライ(最近作はショートフィルム『Guava Island』を監督)と、撮影監督のラーキン・サイプル(映画『ビニー 信じる男』『スイス・アーミー・マン』、最近作は『Luce(原題)』)の2人による長年にわたるクリエィティブな協業には、チャイルディッシュ・ガンビーノ(俳優ドナルド・グローバーが音楽活動をする際のステージネーム)の『This Is America』のミュージックビデオや、『Unleashed(潜在力を覚醒せよ)』と題されたワイヤレス高性能イヤフォン「Powerbeats Pro」の広告があり、どちらもフィルムで撮影されました。
「私はあまり優秀なシネマトグラファーではありませんでした。細かいことを分かっていないのに、自分が成し遂げたいことについては大きな展望を持っていたからです」とムライは言います。「ラーキンのような人たちと仕事をすると、(自分が伝えたい)感覚に関して多彩なアイデアを持って制作に入れますし、参考になる点も多々あります。自分のアイデアを彼に説明できるくらいには映画撮影の知識は持っています。私は大体、1つの抽象的な視点から取り組んでいきます」
ラーキンはムライのことを良き友人だと思っています。「セットの外でも親しい人と仕事をするのはいつだって最高です」とラーキンは考えています。「お互いに励まし合い、一歩踏み出して、以前やったのとはなんらか違うことをやるので、より良い仕上がりにできるんです。ヒロは、稀有でユニークで的確な眼を持っています。彼は、明らかではない物事をフレームに収めたり、被写体を最小限にしたりする方法を見つけるのが好きなので、見ている人は被写体が何をしているのかに集中する必要があるんです」
左から、ファースト撮影助手のマット・サンダーソン、撮影監督 ラーキン・サイプル、ヒロ・ムライ、英国のキー・グリップ ピート・ナッシュ。Image courtesy of Hiro Murai.
ラーキンはこう続けます。「私を映像制作に引き込んだのは、フィルム技術の魅力と照明の魔力でした。撮影監督みんながフィルムで撮影をしていた時には、何を語るべきかという点に関して、より意見を求められ、シーンの照明に費やされる時間ももっと考慮されていました。今日のデジタルはその関係性をいくらか安っぽくしています。人々は映像を見て、自分にも撮れると考えるのです」。ある特定の技術革新は、フィルムをメディアとして選択するのを助けるのかも知れません。「フィルムの大きな転機の1つは、フィルムカメラ用に登場した新しいHDのビデオタップです。セットでの映像はより見栄えがして、クライアントたちにとっては何が撮影されているかよりよく理解できるため、やり方についてクライアントを説得することが容易になるのです」
「中学校時代、裏庭でショートフィルムを撮っていました」と語るムライは、ずっと映像制作者になりたいと思っていましたが、そのキャリアは決して順調ではありませんでした。「映画学校(南カリフォルニア大学の映画学部)は息苦しいと感じ、ミュージックビデオが堅苦しくない、楽しい場所に思えました。みんな、当時の自分と共感することをやっていたんです」
ムライが魅力を感じるフィルムには混沌とした要素があります。「はかない感じがするんです。デジタルで撮影している時でさえ、ISO感度を上げたり、デジタルで撮影したものをフィルムに書き出すフィルム出力の工程を行うなど、新品同様でクリアすぎる感じを減らすあらゆることをします。こういった4Kや8Kのカメラによって、明瞭さにクローズアップすることが流行していますが、私がずっと好きなのは不明瞭な映像のパートを入れることなんです。フィルムの楽しみは空白を埋めていくことです。美学としてのフィルムがなんだか好きなんですよ。私はフィルムと共に育ち、フィルムに憧れてきました」
フィルムをカメラに装填する時にも、一味違う雰囲気があります。「セットでフィルムを回す話をしている時は、みんなの姿勢が変わります。いい意味でさらに緊張感が出るのです」とムライは言います。
一方、ラーキンはこう語ります。「フィルムだと毎回、スキントーンがより幅広い色彩を持ち、もっと豊かな雰囲気になります。デジタルでは決して同じような感じにはなりません。特に暗めのスキントーンは、デジタルで露出不足にすると古めかしくなりがちですが、フィルムだと色域を保っているような感じがします」
ラーキンが選択したフィルムはコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219 / 7219です。「他のフィルムもすべて試しました。現像で減感や増感といった劇的な効果を行うのでなければ、大抵は500Tで使い続けます。レンジが素晴らしく、あまり照明が必要ありません。また、その質感も大好きなんです。粒子は素晴らしく見えます。フィルムで撮影して、粒子感が全然ないのは嫌ですね。ロジャー・ディーキンス(ASC、CBE)が日中と夜間の両方で機能する500Tで『ノーカントリー』(2007年)の全編を撮影したと話していたのを覚えています。今のデジタルカメラはISO感度が高いため、500だと大部分の人たちがやっていることや、大部分のプロデューサーたちが見込んでいることには感度が低い感じがするんですが、私にとって500は魔法のポイントなんです。500を1絞り増感して、1000まで上げられますし、それでも素晴らしいのです」
『This Is America」にはある美学が必要でした。「フィルムの選択は、現代的ではなく、時代外れな感じになるようにしたいと思ったからです」とムライは語ります。彼はサウス・ロサンゼルスにあるファイアストンの古い工場でこのミュージックビデオを撮影しました。「その空間が我々の選択を導いていました。自然に出入りするものを調整し、陽の光が正しいアングルで窓から差し込む、その日の然るべき時間を我々は選んだのです」
シャドー部には光を当てる必要がありました。「私たちは逆光や窓から反射光を得られる場所を選ぶことにしました」とラーキンは説明します。「唯一使った本物の照明は、まやかしの炎に使ったスプートニクの照明の並びでした。ドナルド・グローヴァーが走る最後の地下のショットで、彼の胸に光を少し反射させました」
『This Is America』は、広範囲な振り付けと撮影が2週間にわたって行われ、6つのロングショットから構成されている。Image courtesy of Hiro Murai.
事前の計画段階ではiPhoneも活用しました。「ラーキンと私は音楽をかけて自分たちのiPhoneでリハーサルをしました」とムライが明かしてくれました。「ですが、倉庫を駆け回る300もの人がいて、撮影予定のカメラで実際に撮影してみるまでは、どうなるのか分からないこともあるんです」
作品はすべて、ケスロー・カメラが提供してくれた1台のアリカム・スタジオで撮影され、このカメラにツァイスのスーパースピードのレンズ(35mmを多用)とアンジェニュー EZ-1の30~90mmのズームレンズを組み合わせました。「1秒60フレームで撮影しなければならなかったので、LTではなくスタジオを選びました。スタジオは非常にうまく作られたカメラです」とラーキンは語ります。
すべてのシーンの移行は事前に判っていました。ラーキンはこう述べています。「私たちは合計6つのショットに分けました。長いショットで、大勢のエキストラたちがいるものもあれば、シンプルでコーラスだけのショットもありました。ヒロはカメラを回し続けてカットをかけないショットが大好きなんです。つまり、見ている人をシーンにのめり込ませ、即座に顔面に映像が押し込まれるような感じを味わってもらうのが好きなのです」
大規模なファイアストン工場で撮影が行われたため、『This Is America』のクルーは太陽の位置を中心にショットを編成した。Image courtesy of Hiro Murai.
ムライとラーキンの2人は、ある特定のアスペクト比を好みます。ムライはこう明言しています。「ラーキンと私は多くの作品を4:3と16:9で撮影しました。そのアスペクト比以外でやったことはあまりありません。プロジェクト次第ですね。私はスクリーン全体を使うのが好きですが、実際のところ難点もありますし、気に入っている4:3と16:9については仰々しいものではありません」
ラーキンはこう説明します。「『This Is America』は、自然な照明を使ったインスタレーション作品のように、時代にとらわれない感じにするつもりでした。ただありのままを撮る…。我々はカメラが常に漂っている状態にしたいと思っていました。ドリーに固定するのではなく、もっと流れるようにして観客をくぎ付けにしたかったのです」
時には大がかりなリハーサルが必要でした。「暴動に参加する大勢の人々や、縁から飛び降りる男、炎上する車のそばを駆け抜ける白い馬、みんなが去った場所にいるドナルドの単一のショットで終わるといった熱狂の世界を描くために、ドナルドの周り360度を撮影しています。振付をし、撮影するのに6時間かかりましたが、これがたった30秒のシーンなんですよ!」
時間の問題がムライにとって最大の難関でした。「ちょうどテレビコメディードラマ『アトランタ』のシーズン2(日本ではFOXチャンネルで放送中)を仕上げている時に、ドナルドがミュージックビデオのアイデアを持って私のところにやって来たんですが、彼はその後すぐにツアーに出なければなりませんでした。制作から撮影までで使えるのはこの2週間だけでした。振付をして、この大きなセットを組むにはかなり短い準備期間でした。大慌てで駆け回りましたよ!」 ムライはこう付け加えます。「後の方の、ドナルドが銃を持っているかのように手を出し、子供たちを追い払うシーンでは、私はずっとその画を象徴的な描写にしたいと考えており、ドナルドと背景に当たる光の感じや混乱した状況から静寂への移り方をとても大事にしました。これはうまくいきましたね」
『Unleashed』の1カットより、英国のプロボクサー、アンソニー・ジョシュア Image courtesy of Hiro Murai.
『This Is America』の卓越したワイドショットとは異なり、『Unleashed(潜在力を覚醒せよ)』と題された高性能イヤフォン「Powerbeats Pro」の広告は、有名アスリートのアレックス・モーガン(女子サッカー)、アンソニー・ジョシュア(ボクシング)、ベン・シモンズ(バスケットボール)、エデン・アザール(サッカー)、レブロン・ジェームズ(バスケットボール)、レティシア・ブフォーニ(スケートボード)、野中生萌(スポーツクライミング)、オデル・ベッカム・ジュニア(アメリカンフットボール)、ラムラ・アリ(ボクシング)、セリーナ・ウィリアムズ(女子テニス)、ショーン・ホワイト(スケートボード)、ジャスミン・ペリー(バレエ)、シモーネ・バイルズ(女子体操)たちのクローズアップで占められています。
『Unleashed』のオープニングカットより、米国の女子体操選手、シモーネ・バイルズ Image courtesy of Hiro Murai.
「我々がアスリートたちと過ごす時間は概して30~45分間だったので、アンジェニュー EZ-1の30~90mmのズームで撮影しました」とラーキンは説明します。「背景がぐちゃぐちゃになるような窮屈な感じにしたくなかったのです。彼らがいる場所を感じ、カメラが追いかけている効果を理解できる程度にワイドにしたいと考えました」
映像には神秘的な雰囲気もあります。「全体を通してのアイデアは、アスリートたちがやっていることの全部は映さないということでした」とムライは語ります。「それは常に暗に語られているのです。イヤフォンがフレームの中にあるのですが、この映像の大部分で、見ている人は上下左右の位置関係が分かりません。人物の顔のポートレートを撮影するかのようにプロジェクトに取り組んだので、必ずしも彼らがやっている動きを見せる必要はなかったのです」
体操競技の練習場でステディカムを操作するアリ・ロビンス Image courtesy of Hiro Murai.
それぞれのアスリートたちの動きとシンクロした、固定されたカメラという手法は広告会社のザンベジの発案でした。「彼らはデモリールで、アスリートたちの映像すべてをスタビライズしたのです」とムライは言います。「我々はそのアイデアを彼らと共にふくらませ、5つの異なるスタイルを混ぜ合わせて1つのルックを作りました。世界レベルのアスリートたちに、カメラを身体に装着して動き回ることを了承してもらうのは大変な難題でした。デジタルで加工する際にも、粒子感を得るために必ずフッテージをフィルムで出力したので、過度にデジタルっぽい感じはありませんでした」
彼らは丸一日、ケスロー・カメラでテストを行いました。「トランポリン、スケートボーダーなど別のアスリートたちや人形を駆使し、アスリートたちの動きを模倣する一番いい方法を探りました」とラーキンは明かします。「ジャンプしている人の場合、カメラのオペレーターは彼らの隣でジャンプするか、ティルトアップします。それから、ドギーカムも試しました。複数のロッドがついたベストのようなもので、そのロッドはカメラを取り付けられるプレートに繋がっているのですが、使ったのは最小限でした。それらの映像はブラックマジックを使って撮影されました。我々が行った最大のテストは、フィルムで何ができるかの確認でした。カメラの動きが出演者たちと同期している限りはうまくいくであろうということが分かりました」
休憩中の英国プロボクサー、アンソニー・ジョシュア Image courtesy of Hiro Murai.
ムライはこう振り返ります。「大体1ヶ月半は断続的に撮影を行っていました。アスリートたちのスケジュールと都合の良いロケーションへの移動で、たぶん8日間か9日間撮影しました。特定の日にこのエリアでしか都合がつかないというアスリートもいましたね。私たちが利用できるものとそれを変更する方法に適応していたので、結局望んでいた通りのものになる可能性がありました。大変なプロセスでした」
プレライティングに使える時間が限られていることを考えると、アリ・スカイパネルが便利でした。「暗めのロケーションではさらに大きな18Kを2つ使いましたが、全体としては、自然な状態のままにしようと思っていました」とラーキンは語ります。「フィルムの好きなところは、カメラをどこにでも向けられること、そして概ね面白い映像になることです。照明を当てる点で難しかったのは、現場で実際に利用できるものを増やそうとする試みでした。たくさんの光量がある場所もありました。体操競技センターのようなところは使える光がたくさんありました。ですが、ボクシングジムの中にはそれより暗くて独特の雰囲気があるところもあったので、我々は出演者の周りの照明をわずかに強めなければなりませんでした。そうすると明るくなるので、より絞って撮影しました」
ほとんどは、コダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219 / 7219、そしてアリカム LT カメラで撮影されました。「我々の目標は、全部を3パーフォレーションの35mmで撮影することでした。ですが、上がったり下がったりする頭の動きを追いかけようとするのは至難の業だったので、4パーフォレーションの方がいいと気づいたんです」とサイプルは語ります。「ヒューストン、ロサンゼルス、マイアミ、ロンドンでフィルム撮影を行いました。動きが非常に激しく、より解像度が必要でしたので、場合によっては複雑なショットではアレクサかレッドを使うつもりでした」
アンソニー・ジョシュアのボディに装着されたブラックマジック・カメラを持つラーキン・サイプル Image courtesy of Hiro Murai.
デジタルで広告を撮影することが少ない理由に、フィルムの色の深さがあります。「これらの撮影場所はアスリートが実際にリハーサルをしたり練習したりしている場所だったので、数多くの状況において、あまり環境を制御できませんでした」とムライは言います。「後で調整できるように可能な限りの色のラチチュードを取り込もうと考えた結果がフィルムでした。また、審美的に様式化されすぎていたり、高尚すぎたりするものにはしたくありませんでした。私たちは感触のありのままの事実を求めていました。フィルムは過度に制御されたように感じさせない自然な表情を捉える素晴らしい表現を持っているのです」
たびたび協働しているエディターのルーク・リンチとのポスプロ作業で、『Unleashed(潜在力を覚醒せよ)』は進化しました。ムライはこう説明します。「たくさん撮影し、どんな風になるかについてのアイデアは持っていたのですが、撮影した映像の本質となる部分は視覚効果を通して確認するまで本当の姿が見えてきませんでした。映像の雰囲気をすっかり変えてしまったんです」
映像をベックの楽曲『Saw Lightning』と組み合わせることは、ポスプロの段階に入ってから後で決まりました。「ヘッドフォンのコマーシャルに使う音楽を選ぶのは複雑な問題です。コマーシャルのブランドはたくさんの異なるタイプの音楽と繋がりがありますし、何がいつリリースされるかについて最新のものである必要がありました。どの音楽にするかはかなり話し合われ、最後の最後まで結論が出ませんでした」
「主に使ったのはステディカムで、動き次第で手持ちを使う時もありました」とラーキンは言います。「スクワットとスナッチをやっている重量挙げのプロ選手のショットが2つだけあるので、彼女の反復運動に合わせて、カメラをスクワットで上げ下げしています。『ラ・ラ・ランド』に携わったアリ・ロビンスという素晴らしいオペレーターがいるのですが、異なるアスリートたちを動きのまま追いかけるため、全国各地に来てもらいました。アスリートたちの動きはスタビライズされるので、目標はフレーミングよりも、彼らをど真ん中かつフレーム内に映し続けることでした。見ている人が、自然に起きている出来事を追いかけているような感覚になる映像にしたかったんです」。鍵となる他のスタッフは、ファースト撮影助手のマット・サンダーソンと照明担当のマット・アーディンです。「それから、『This Is America』であの見事な長回しをすべて成功させたステディカムのオペレーターは、ブライアン・フリーシュでした。彼は最高の仕事をしました。MPCでリッキー・ゴーシスは長い時間をかけてヒロと私と一緒にグレーディングを行ってくれました。Beatsも彼がグレーディングしました」
「編集の流れには満足しています」とムライは明言します。「動きを切り取ることと、人物のクローズアップを並べて流れを創り出すことの調和が大切なので、シーケンスの方が個別のショットよりも大きな意味を持つスポット広告の1つです」
ラーキンにとって、お気に入りのシーンを選ぶのは難しいことです。「本作は細かく切り刻まれていますから難しいですね。独創的であり、かつドタバタな撮影でもあったので、すべてを誇りに思っています。体操のシモーネ・バイルズ選手を追いかけたショットがあるのですが、彼女が何回スピンとツイストをしてマットに着地しているのか私には分からないんです。これを撮影した時は面白そうに見えたのですが、そこまでワクワクしていませんでした。でも、実際に追いかけたものを見てみると大興奮でしたね。誰かが歯車になってスピンしているかのように完ぺきに彼女をセンターに据えていました」