top of page

2023年 2月 24日 VOL.204

鎌田義孝監督作品『TOCKA[タスカー]』― 撮影 西村博光氏インタビュー

Ⓒ2022 KAMADA FILM

死に方を決めるのは最後の自由か―

あなたは、ヒトから「殺してくれ」と頼まれたことはありますか?

 

国境の町、根室―。ロシア人相手の中古電器店を営むその男(章二)には、「死にたい」理由があった。自死ではなく「殺されたい」と願う男は、シンガーの夢を諦め、生きる意味を失った女(早紀)と、先の見えない生活に疲れていた廃品回収業の青年(幸人)と出会う。男の事情を知った二人は、希望を叶えようと計画するのだが――。

 

本作は、死を決意した男が、自分を殺してくれる人を探す彷徨の旅を描く人間ドラマ。三人はそれぞれの過去を見つめながら、男の死に向き合っていく。男は望みを叶えられるのか?日常と非日常の間で翻弄される人間の運命の残酷さ、滑稽さ、切なさ、そして生のためのささやかな希望を感じさせる骨太な映画が誕生した。

 

監督は、『YUMENO ユメノ』以来、17年ぶりに長編映画に挑んだ、鎌田義孝。

(ホームページより引用)


2023年2月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。

 


本作の撮影を担当されたのは西村博光キャメラマン。長編作品をフィルムで撮影するのは2009年以来、実に12年ぶりだったとのこと。今号では、全編16mmフィルムによるオール北海道ロケに挑まれた背景や現場の様子などをお伺いしました。

鎌田義孝監督とご一緒されるきっかけと16mmフィルム撮影を選択された経緯を教えて下さい。

 

西村C: 鎌田監督とは、私の助手から紹介されて8年ぐらい前に狛江で偶然お会いした時からの縁があり、今回の映画で初めてご一緒しました。この作品は、文化庁のAFF(ARTS for the future!コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)の助成金を得てスタートしている企画で、資金が潤沢にあるという映画ではないですが、鎌田監督から16mmフィルム撮影の提案もあり、私自身もフィルム撮影に飢えていたため決定しました。キャメラも芦澤明子氏のキャメラを提供していただき、無事に撮影することができました。映像面での16mmフィルムの選択は、主人公の内面に寄りそう画が撮影できる媒体として最適であるということも理由になります。

03 『TOCKA』sub1.jpg

2022 KAMADA FILM

北海道でのオールロケと伺っていますが?

 

西村C: 少数のスタッフでの一座のような感じの撮影で北海道各所を転々としました。全員で15名ぐらいのスタッフ構成でした。撮影期間は2021年10月中旬〜11月中旬で、ロケ場所としては、まず苫小牧までのフェリー内から撮影が始まり陸路で釧路、根室、また釧路に戻り最終地として室蘭といった行程でロードムービーなロケ隊でした。北海道は何度か撮影で訪れてはいますが、今回根室には初めて行きました。いわゆる雄大とはこのことか!の視界の開けた世界を味わうことが出来る場所です。自分が写っている海沿いの写真はJR根室本線の実景時のものですが写真からもその雄大さが伝わるのではと思います。根室では鹿も多くて明け方街の中で遭遇することもありました。

04 現場⑤.jpg

2022 KAMADA FILM

撮影部としては何名だったのですか?

 

西村C: 撮影部は、私と末吉真氏の2人体制で、私がカメラオペレートとフォーカス、末吉君が計測とローダーという分担を決めて挑む形としました。ちょうどオンシーズンの時期だったため、ロケ場所によっては2人部屋しか取れないこともあり、寝食を共にした感じです。他にも様々な難題もありましたが製作陣の頑張りが実った形となり16mmフィルム撮影も作品に格を与えてくれたのではと思っています。
 

2022 KAMADA FILM

使用されたフィルムタイプとその理由について教えて下さい。

 

西村C: VISION3 500T 7219をメインとして、200T 7213も数本使用しました。500Tをメインにした理由は、16mmフィルムで撮ることの狙いとしては粒子感に尽きるのではないかと思ったからです。ナイター撮影の予算面を考慮してというのもありますし、増感現像もしています。デイシーンでも使用しているのでNDフィルターが濃くなりファインダーが暗く見づらくなるのを避けるために普段はサングラスをかけて瞳孔を調整するということをして撮影していました。また通常ですとタングステンフィルムにはコンバージョンフィルター(85系)を使用するのですが今回は敢えて作品のトーンに合うと思いそれを使用せずに撮影しました。その効果は出ていたのではと思います。また、2人体制なのでロールチェンジの回数を減らすことにも尽力しました。

2022 KAMADA FILM

フィルム撮影に対するスタッフの方々の反応はいかがでしたか?

 

西村C: 特に俳優部としてはデジタル撮影の現況とは違うので戸惑いもあったかもしれませんが、思いに徹するという意味では良い環境だったと思います。スタッフの中には、デジタル撮影しか知らない世代もいましたし、フィルムに馴染みが薄い方もいました。現場ではビデオアシストも無かったので、映像としての「OK」は、撮影監督のわたし以外に出しようがないという昔の撮影スタイルでした。

2022 KAMADA FILM

現場で印象に残っているエピソードを教えて下さい。

 

西村C: 映画の中で一番の山場と言えるシーンがありまして、車のダイブシーンがあります。その撮影場所として室蘭を選びました。当初、監督から希望があったのは、外海に面したロケ地だったのですが、事後処理などを考慮すると現実的ではないので、制作部に防波堤で囲まれていてしかも深度のある場所を探っていただき、結果ベストな場所として室蘭の選択となりました。防波堤で囲まれているということは逆サイドからも撮れるので有利に撮影が運べます。監督はカメラ船も考えていたようですが、カメラ船だと良い場所に入るのに時間がかかり当然安定もしませんので避けました。普段別作品ではプロデューサーもされている方で今回は制作部として従事していただいた村岡伸一郎氏の現場の進行は見事でした。スタントチーム、クレーンチーム、潜水チームの連携も事故無くスムーズに進み、当然俳優部のケアも怠らずでしたので、素晴らしいと思いました。ワントライでの一発撮りの状況でしたので、いつにも増して緊張感がありました。バレは無いか?想定し得る事故は防げているのか?スイッチは間違えずに押せるのか?(笑)アクションカメラ(これはフィルム撮影ではないですが、)も仕込んだりしましたが、全て無事故で終えることができて安堵しました。また監督には、全編を通して、ビデオアシストも無い状況でしたので画に関しては私に一任していただけたのは有難い環境でした。

2022 KAMADA FILM

フィルム撮影ならではの苦心されたことはありましたか?

 

西村C: 最大のチャレンジは、やはりフィルム撮影を実施したことになりますが、地方、しかも北海道での撮影でしたので未現像のフィルムを送る時には気を揉みました。宅急便での輸送でしたが基本は北海道でも陸路でしたので、最初の便のラッシュの戻ってきたデータを観たときは「あー写っている」と久々の感覚ですが、非常に安心したことを覚えています。

 

照明の大和久健氏とはどのような打ち合わせをされましたか?

 

西村C: 彼が助手の頃から何度か現場をご一緒したことがあり、今回はプロデューサーから紹介していただきお願いしました。大和久君はユニークな性格なので、キャラが立ち現場を盛り上げてくれるので、過酷な現場ロケでは労せずしてとは行きませんが苦労が半減したのではないかと思います。常々思うことですが、作品の質をまず決めるのは美術だと思います。作品に添った世界がそこにあれば、どう切り取ろうがまずいものになり様がありません。次が明かりです。主に太陽ですが、太陽が魅せる表情をうまく捉えることができれば極上の画が誕生するでしょう。それをセットなどではライトでコントロールしていくわけです。基本、そこにあるであろう光を作ることに楽しさを感じますし、大和久君ともそういったお話をしました。
 

2022 KAMADA FILM

撮影機材、レンズ、アスペクト比について教えて下さい。

 

西村C: キャメラは芦澤明子氏にお借りしたARRI SR3です。レンズも芦澤氏からでZEISS 16mmの単玉セットにCanonのズームレンズの組み合わせです。アスペクト比は1:1.66のヨーロピアンビスタです。選択した理由は、理屈ではなく勘で、作品の醸すものがヨーロッパ映画のイメージだったためです。

 

仕上げのワークフローについて教えてください。

 

西村C: 東京現像所に現像とスキャンをお願いしました。ノーマル現像と増感現像でスキャンは2Kです。仕上がりについては、とても良い雰囲気にあがっていると思います。あるシーンの移動ショットでガラス反射のきつい画があったのですがフィルムの持つラチチュードの広さでグレーディング時に何とかカバーすることが出来ました。試写では多少画が暗いとの感想もありましたが、作品のトーンとしては合っていると感じます。東京現像所は、以前もVIPO作品でもお世話になっていましたし、訪れると薬品の匂いがしてフィルムラボに来たと実感するものでしたが、今年でクローズするのは淋しいばかりです。都内撮影であれば調布に足繁く通ったかもしれませんが、北海道でしたのでメールでのやり取り程度だったのが、せっかくのフィルム作品なのに少し残念でした。カラリストはインターセプターの田巻源太氏にお願いしました。田巻さんが普段上げているノーマルなLUTの状態のもので通して観て、細部の調整はありましたが、そのままで行こうということになりました。
 

2022 KAMADA FILM

最後に、久しぶりにフィルム撮影をされてみていかがでしたか?

 

西村C: 今回は、少人数でビデオアシストも出していないということもありますが、セットアップに時間がかからず即撮影が行えるのはフィルム撮影の利点だと改めて実感しました。デジタル撮影と共に、当たり前のこととしてルックの選択肢にフィルム撮影の選択はあるべきだと思いますし、フィルム撮影での現場の緊張感も久しぶりに経験してみて、やはり捨て難いものだと思いました。フィルムはとてもデリケートです。扱いを間違えるとひどいしっぺ返しを喰らいます。これを扱うのに撮影の基礎をたたき込まれます。これが後々とても役立って来るわけです。これを踏まえているかいないかで光に対する解釈が変わるのではと思います。その光を捕まえるためにキャメラに人の手でフィルムを装填したり、フィルムタイプやフィルターワーク、現像処理の選択などそのための様々な作業がとても重要になるのです。かたやデジタルの良さは光の無い世界を捕まえることでしょうか。もはや人間の目以上の世界を抽出する事が可能です。光というものへの意識が希薄になりがちです。立ち返らせるものとしてのフィルムの効果は甚大です。絵画、写真、映画…、すべて光あっての物種です。

(インタビュー:2023年2月)

 PROFILE  

西村博光

にしむら ひろみつ

1965年生まれ、山口県出身。『おっぱいバレー』(2009年、羽住英一郎監督)で撮影監督として本格デビュー。主な作品として『百円の恋』(2014年、武正晴監督)、『闇金ウシジマくん』シリーズ(2012年~2016年、山口雅俊監督)、『銃』(2018年、武正晴監督)、『嘘八百』(2018年、武正晴監督)、『アンダードッグ』(2020年、武正晴監督)で毎日映画コンクール撮影賞を受賞

 撮影情報  (敬称略)

『TOCKA[タスカー]』

2023年2月18日より全国順次ロードショー

 

企画・監督・脚本: 鎌田義孝 
企画・脚本協力 : 井土紀州  脚本:加瀬仁美
撮影      : 西村博光(JSC) 
撮影助手    : 末吉真 
照明      : 大和久健
録音      : 島津未来介
仕上げ・カラリスト: 田巻源太
キャメラ : ARRI SR3
レンズ  : ZEISS 9.5,12,16,25,50mm T1.3、Canon 11.5-138mm T2.5
フィルム : コダック VISION3 500T 7219、200T 7213
現像   : 東京現像所 
機材協力 : 芦澤明子氏 
制作   : スタンス・カンパニー
製作・配給: 鎌田フィルム
公式サイト:
https://tocka-movie.com/
©2022 KAMADA FILM

bottom of page