2014年1月7日 VOL.031
重森豊太郎キャメラマン インタビュー
アナモ+ポジテレ+倍増感によるCM撮影
今もっとも忙しいキャメラマンのお一人である重森豊太郎氏。担当されるCMの、実に9割以上を35mmフィルムで撮影されているという徹底したフィルム主義を貫いていらっしゃいます。そんな重森キャメラマンにとってのフィルムの魅力や多用されている映像制作プロセスについてお話を伺いしました。
ー フィルムによるCM撮影はどのように決定されるのですか?
元々フィルムで撮影することが決まっているCM制作も多いですが、そうでない場合は最初の打ち合わせで「何で撮りますか?」と聞かれます。その時に「フィルムで」って言うと、「あーフィルムですか…」と驚かれて、次に「なぜフィルムなんですか?」と尋ねられます。「だってフィルムが一番いいでしょう」と普通に、ごく当たり前のように答えます。そして逆に「なぜフィルムじゃ出来ないんですか?」って聞き返しますね。
こっちはフィルムで撮りたいし、フィルムの方がいいって思っているから説得するわけです。デジタルだとコストは安く仕上がるかもしれないけれど、最終的に仕上がった時にこんなマイナスの要素もあるんだということを十分説明します。
ー なぜフィルムが良いと思われているのでしょうか?
単純に“好き”っていうのが一番ですね。フィルムで撮られている画が無条件で好きなんですよ。だからフィルムで撮られた映像を見たいって思っているし、見せたいとも思っています。自分が関わる仕事は好きなものでやりたい。そうすれば自分も飽きないでしょ。
ー フィルムの画といいますと?
深みですよね・・・。デジタルで撮ると白の奥に何もない、黒の奥にも何もない。映像としては綺麗だし美しいときもあるけれど、その奥に何かあるかっていうと何も無い。その表面的な映像だと自分がつまんなくなっちゃうんですよ。ハイエンドのデジタルカメラだとスペック上の情報量としては十分あるのかも知れないけれど、スカッとし過ぎていて、フィーリングとしてどうしても深みを感じ取れない。これは言葉にするとハイがどうとかローがどうとかってなりますけど、それよりも単純に映像を見てグッと来るかどうかなんですよね。本当に感覚的なものです。フィルムの映像の方がグッと来ることが多い。
フィルムはランダムな粒子の組み合わせで映像が出来ている。それが無意識に見えていて、その整然と配列されていない粒子の並びが心地よいという要素になっていると思います。
フィルムとデジタルは、楽器でいえばピアノとシンセサイザーみたいなもの。同じような音色は出せても、シンセは歴史の長さから来るピアノの音の重みや深みには絶対勝てない。デジタルカメラは確かに良くなって来ているからみんな飛びついていますが、新しいものばかりに目を向けて、古くからある歴史の重みに目を向けなさ過ぎだとも思うんです。
もうひとつ例え話をしますと、筆記具には鉛筆、シャーペン、ボールペン、マジック、筆と色々ありますが、達人と呼ばれる人が同じ字を書いても筆記具の違いで質感が全く違ってきますよね。見る側はシャーペンと筆では同じ達人が書いたものだとは決して受け入れられない。筆の達人が書いたものならやっぱり筆で書いたものが素晴らしいとなります。その筆がボクの中ではフィルムだと思っています。間違いなくいいと思えるものがそこにあるから単にそれを使いたいだけなんです。
ルックを構成する3つの手法
次に重森キャメラマンの撮影スタイルについてお伺いしたところ、“アナモ”、“ポジテレ”、“倍増感”という3つのキーワードが飛び出しました。多くの作品でこの3つの手法を用いられているのだそうです。
ー 多用されている撮影スタイルについてお聞かせ下さい。
キャメラボディはアリフレックスが多いですが、レンズは最近、ほとんどアナモフィックで撮っています。圧縮されたものを引き延ばす効果でちょっと甘くなるというか、それがいいなと思っています。でも新しく出てきたツァイスのマスターアナモとかHAWKとかよりもパナの昔のシリーズの方が好きですね。いい甘さがあってなじむし、軟らかいんです。今のアナモって技術レベルが高すぎて隅々までピシッてピントが合っちゃう。昔の方が周辺のピンが甘くなって軟らかくなりますね。アナモレンズを使ってシネスコサイズで撮影し、CMで16:9の場合は両側をカットします。その方が普通にスーパー35で撮って上下をカットするよりも独特の雰囲気が出ると思います。
ー ポジテレシネを好まれている理由は?
質感ですかね。映像の質感も色もポジの方が好きです。あとなるべく映画的なものを撮りたいというのがあって、グラフィカルな作品ではなく人物を撮るのであればポジテレにします。ポジフィルムで上映されている映画館で観るような質感が得られますし、色もポジテレにした方が深い。ネガテレシネはどうしてもクリアになってしまう。CMはクリアな方がいいのではと思われますが、クリアすぎると浅い画に見えてしまうことがあるんです。深みのある映像を追求するとポジテレの方が合っているんです。さすがに化粧品のCMなんかには向きませんが、ほとんどの場合ポジテレして、その映像を補正して何とかしていくやり方です。もちろんポジテレってお金がかかるのでプロデューサーがOKって言わないと出来ません。ですから、打ち合わせの段階で説得します。
ー ポジテレすると時間的な制約は受けないんですか?
それはありますね。でも待ってもらえますよ、1日、2日のことですからね。そのわずかのことで質感や色を犠牲にしたくはない。最近多いのはオフライン編集してからテレシネするパターン。つまり、まずネガで棒テレをしておいてそれでオフラインをやり、ポジ現像が上がってきてから本番のポジテレという順番です。これだとオフラインが終わっているので時間的に余裕ができるから1カット1カットのグレーディングに時間をかけられるというメリットが出ます。オフラインが終わっている段階で音も仮のものが入っているから作業中にイメージが湧きやすい。こういうことでポジテレによる時間の制約は逆にいい効果を生んでいる部分があるんです。
ー 倍増感を好まれる理由やきっかけを教えていただけますか?
担当するCM作品のほとんどで倍増感を行っています。ポジテレに加えてさらに粒子感と色味を濃くしたいからなんですが、増感現像も割増料金ですので打ち合わせで全部納得してもらってからやります。
映画 『モンスターズクラブ』(2011年、豊田利晃監督)を撮った時にアナモでシネスコでやろうと思ってテストをやりました。倍増感、4倍増感、8倍増感、16倍増感まで。自分の目で見てどこまで堪えられるか映写してみたら、4倍増感までは全然OK、きれいだなって。それで映画は全部4倍増感で撮りました。そんなことがあったので増感が気に入ってしまって。それでCMでも4倍でやったら結構、粒子が粒子がって言われてしまい・・・。それでちょっと手加減してるんです、倍増感で(笑) 今ノーマル現像の画を見てもちょっと物足りない・・・、倍増感がちょうどいい。
ー フィルムで、しかも増感することで深みのあるルックになるわけですね。
今やフィルムで撮ってもきれいに仕上げたらデジタルと同じようになりますよね。そんな画を見ると、これなんでフィルムで撮ってるの?意味あるの?って思います。フィルム感があって情緒がある映像表現にベクトルが向かないと意味ありませんよね。ポジテレもそうでフィルム感を出すためにやっている。アナモもそうです。今、自分のベクトルは全部そっちに向かっているということですね。
(本インタビューは2013年9月中旬に行いました。)
PROFILE
重森 豊太郎
しげもり とよたろう
1970年 東京都渋谷生まれ
1996年 日本映画学校(現 日本映画大学)撮影照明科卒業
2001年 撮影技師として独立
現在、広告や映像の世界で活躍する専門分野の異なるクリエーターをサポートするマネージメントオフィス、GLASSLOFTに所属。
株式会社グラスロフト
WORKS (順不同、敬称略)
重森キャメラマンによる最近の作品群。すべて35mmフィルムで、“アナモ”、“ポジテレ”、“倍増感”、の3つの手法が用いられています。
オンワード樫山
組曲 x 石原さとみ 2013 Autumn & Winter
http://www.kumikyoku.jp/satomiishihara/2013aw_02.php
制作:東北新社
アサヒビール
クリアアサヒ プライムリッチ 「街灯りのふたり。」
制作:博報堂プロダクツ
大塚製薬
SOYJOY 「WORKING LIFE」篇
制作:ピクト
KDDI
au 「リアル4G LTEライフ/剛力さん」篇
au 「リアル4G LTEライフ/井川さん」篇
制作:AOI Pro.
トヨタ自動車
TOYOTOWN 「トヨタレンタリース となり町」篇
制作:ギーク ピクチュアズ
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