2014年3月3日 VOL.032
映画『東京難民』― 撮影 坂江正明氏に聞く
全編スーパー16で撮影された社会派衝撃作
『半落ち』(04)、『出口のない海』(06)、『夕凪の街 桜の国』(07)など、数々の社会派映画を手掛ける佐々部清監督が、大都会<東京>に渦巻く暗い現実に直面しながらも、懸命に生きる若者にスポットをあて、バイオレンスや際どいエロスにも果敢に挑戦しながら、現代の抱える病巣を真正面から描き新境地を開拓した衝撃作『東京難民』。そのハードで渇いたテーマを全編スーパー16で撮影された坂江正明キャメラマンにコメントを寄せて頂きました。
ー 今回、どのような経緯でスーパー16を選択されたのでしょうか?
本作の撮影は約1年前でしたが、自分が関わる昨今の映画製作では、キャメラはこれで・・・、ポスプロはあそこで・・・、撮影部は何人体制で・・・等々、製作的なことを考慮する上では、特にデジタル撮影での選択肢が多すぎるくらい多様になっています。今回は、プロデューサーと数度の打ち合わせの最中、チーフ兼Bキャメ担当 中島美緒君の強い提案もあり、IMAGICAの新しいテレシネ方式(Log階調テレシネ)でデジタル化、DCP完成までのテストを行い、その結果、撮影者として責任を持てると確信できるにいたったのでスーパー16での撮影を決めました。久々の16mm撮影は、やはりフィルムで育った身としては感慨深いものがありました。
スタッフ全員が感覚を最大限に使う撮影現場
ー 撮影現場では16mmの強みをお感じになられますか?
昔なら16mmの強みは35mmより機動性があり、色んな意味で現場的にタイトであれば尚更と答えるのですが、今のデジタルカメラの選択次第では、機動性だけでは優位ではないと思えます。『東京難民』では、現場は出来るだけシンプルにと、あえてビジコンでのモニター出しはしませんでした。(狭い空間用に9インチモニターを1台持っていましたが)
私的な想いですが、映像制作の原点であるモニターが無い中での撮影は、撮影部はじめ監督他全スタッフが頭の中でフレームを想像し、完成形を想像し、感覚を最大限に使って現場に臨めることが(モニター出しを前提にした)デジタル撮影には無い強みと感じられました。
年間を通してフィルムでの現場が多かった自分などとは違い、現在デジタル撮影が多い助手さん達は良く頑張ってくれたと思います。感覚を生かした現場での創作活動は、デジタルの世界でも忘れてはならないことであると再認識させてくれた久々のフィルム撮影現場でした。そして何より、フィルムが持つ味を、DCPとはいえそのまま生かせることが最も好ましいとの思いも強く抱きました。
フィルムの味を生かした仕上がり
ー 最終的にDCPを製作するにあたり、16mmからのワークフローについては、いかがでしたか?
実を言いますと、テストの結果を見るまでは16mmからテレシネでデジタル化という行程に、(解像度に関して以前の経験から)不安を抱いていました。それを踏まえた上で、IMAGICAの山下哲司氏と打ち合わせを重ね、ポイントを絞ってテスト撮影を実施し、エンハンス等の作業をせずにDCPまで上げました。IMAGICAの第一試写室でも耐え得る解像度があることを確認でき、グレーディング作業を行えば更に完成度が高まることも予測でき、安堵した次第です。
本番はテレシネから ProRes 422 (HQ) で収録したデータでグレーディングを行い、フィルムの味を生かしつつ予想通り満足のいく仕上がりになりました。今回の作品に関して欲を言えば、もう少し軟らかめのネガの方が現場も仕上げも選択肢が豊かになったかな、という気持ちです。
限られた時間の中、新しいテレシネ方式を含め、仕上げ作業で苦労して頂いた山下哲司氏、高橋守朗氏はじめIMAGICAのチームに感謝です。
PROFILE
坂江 正明
さかえ まさあき
1981年、日活テレビ映画芸術学院卒業後、撮影監督 姫田真左久氏主宰『グループ動』のメンバーとなり、にっかつ撮影所をベースに映画、テレビ映画、ビデオシネマ、コマーシャルフィルム、短編映画など、フリー撮影助手として従事する。1994年、キャメラマンとして一本立ち、活動を始める。
これまで『チルソクの夏』(03)、『四日間の奇蹟』(05)、『カーテンコール』(05)、『夕凪の街 桜の国』(07)、『三本木農業高校、馬術部~盲目の馬と少女の実話~』(08)、『日輪の遺産』(10)など、多くの佐々部清監督作品で撮影を担当。その他、撮影を手がけた作品に『大怪獣東京に現わる』(98/宮坂武志監督)、『ワイルド・フラワーズ』(04/小松隆志監督)、『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説 Episode1』(01/宮坂武志監督)などがある。
撮影情報 (敬称略)
撮影: 坂江正明
Bキャメラ兼チーフ: 中島美緒
助手: 玉田詠空、岩見周平
応援撮影助手: 平原昌樹
キャメラ: ARRIFLEX 416 Plus
レンズ : ツァイス ウルト16 T-1.3 9.5mm 12mm 14mm 18mm 25mm 35mm 50mm、キヤノン 8-64mm T-2.4 / 10.6-180mm T-2.7
フィルム: コダック VISION3 500T 7219、200T 7213
現像: IMAGICA
映写フォーマット: 1.85 : 1 (アメリカンビスタ)
監 督: 佐々部清
原 作: 福澤徹三 (『東京難民』 光文社刊)
出 演: 中村蒼、大塚千弘、青柳翔、山本美月、中尾明慶、金子ノブアキ、井上順
制作プロダクション: シネムーブ
配 給: ファントム・フィルム
© 2014『東京難民』製作委員会
http://tokyo-nanmin.com
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