2015年11月13日 VOL.040
世界のラボ紹介
アクメワークス&アルファ・ラボ
世界の映画用フィルム専門ラボ(現像所)を紹介するシリーズ記事「SPOTLIGHT ON LABS」。今回は、大手リリースプリントラボの閉鎖が相次ぐ状況に逆行するかのように、自らの手で新しいラボを立ち上げたカナダのアクメワークス・デジタル・フィルム社と、大型トレーラーに現像設備を搭載した移動式のモバイルラボを実現させた英国のアルファ・ラボ社をご紹介します。
● アクメワークス
1990年代後半、アニメーションスタジオが伝統的なインクとペイントからデジタルインクとペイントに移行し始めた時、スティーブ・ヘーゲル氏はアニメーション業界に機材と資材を供給するクロマカラー・ノースアメリカ社の営業・マーケティングのマネージャーでした。アニメーションの実際の制作は変わりつつありましたが、悲観的な先行きを心配する必要はありませんでした。実際、彼は新たなビジネスの機会を見出したのです。
「大手のアニメーションスタジオは、まだフィルムに保存するポリシーを持っていました。つまり、彼らはデジタルからフィルムに戻す必要があったのです。しかし、フィルムレコーディングは非常に高価であり、大規模で継続できるものではありませんでした」と彼は指摘します。「だからこそ、TVアニメーションの保存に特化した費用対効果の高いフィルムレコーディングを開発するチャンスがあったのです」
ヘーゲル氏はカルガリーに拠点を置くアクメワークス・デジタル・フィルム社を1998年に創業しました。カトゥーン・ネットワークシリーズの『Courage the Cowardly Dog』が、編集からフィルムレコーディングサービスを提供した最初の作品でした。アクメワークスはアニメーションスタジオから高解像度データと画合わせ用のデジタルベータカムのマスターを受け取り、保存のためにフィルム出力しました。ワーナーブラザース・アニメーション、ユニバーサル・カトゥーン・スタジオ、ストレッチ・フィルムズ、キュリアス・ピクチャーズ、ウォルト・ディズニー・TVアニメーションがすぐに顧客リストに加わりました。
以来15年間、アクメワークスはフィルム現像をエドモントン、続いてバンクーバーといった外部の現像所に依頼していました。「デラックス・バンクーバーが閉鎖された時、我々はデラックス・ロサンゼルスの顧客となりました」とヘーゲル氏は振り返ります。そして彼は、業界のトレンドに逆行するかのように見える次のチャンスを見つけ出しました。
「およそ3年前、我々自身で現像所を立ち上げてみようと決断したのです。大手の現像所が閉鎖していくトレンドの中で自分たちのビジネスに対する恐れを感じ、残された唯一の道は、顧客や関係者に様々な関連サービスを提供する現像所を自ら立ち上げることだと思ったのです」とヘーゲル氏は語ります。
ヘーゲル氏は、アクメワークスの顧客においてはアーカイブのメディアとしてフィルムの落ち込みがまったく見られなかったことを指摘し、動画コンテンツのキャプチャーや保存におけるフィルムの役割が確かに存在すると堅く信じています。アクメワークスは計画を推進し、約1年前に自らの現像所を開業しました。
「皆さんは小規模のブティックラボの再出現をご覧になることでしょう」とヘーゲル氏は述べています。「カナダ西部やアメリカ西部の多くの人々が現像所のサービスを求めています。学校では今でも16mm、35mmが教育プロセスで使われています」
すべてのスタジオがデジタル保存を試みていますが、それが非常に複雑で高価なプロセスであることをヘーゲル氏は指摘しています。「ハイブリッドのモデルが根付くであろうと思っています。スタジオではフィルムが究極のアーカイブとして使われますが、コンテンツのデジタル版は日々のニーズや配信に手軽に使われるのです」
アクメワークスは、フィルムとケミカルのみならず、最近では現像所の専門的な実務においてもコダックを頼りにしています。「コダックは我々の現像所を稼働させる手助けとなり、非常に支援してくれました。担当者が現像所の立ち上げと従業員のトレーニングのために訪問してくれました」
現像所は、Treise、ベル&ハウエル、リプナー・スミスからの機材、そしてARRI、FilmLight、Digital Visionからの技術を備えています。現像機は16mm、35mmのカラーネガとインターメディエイトフィルムの現像が可能で、「現在はECN-2の処理を行っていますが、条件が合えばコダック パンクロマチック セパレーション フィルム 2238の現像も可能です」とヘーゲル氏は付け加えます。アクメワークスは約25,000フィートのフィルム素材を毎日現像しています。
バンクーバーを拠点とするディリーのカラータイマーであるエド・ドブ氏(写真右)は、40年以上の経験を持つ業界のベテランであり、月に2週間、アクメワークスを指導しています。彼は自分の知識を専任の若きフィルムメーカーであるケイリン・リンステッド氏(写真左)に教育しています。リンステッド氏はドブ氏の徒弟として学び、それ以外の時間は現像所を切り盛りしています。
アクメワークスはアニメーションのみならず、伝説のコメディである『Perfect Stranger』などの実写のテレビ番組にもソリューションを提供しています。エンタテインメント業界以外にもチャンスを見出しており、ヘーゲル氏はデジタル、CD-ROM、ビデオ素材、そして動画でなくてもあらゆるものを映画用フィルムに変換するDIGINEG社をオープンしました。
「重要な文書の長期的な安全性を確保することは基本的なことです。医療、金融、法律の分野はすべて文書保存を必要としています。米国陸軍工兵隊は最近、主要なアーカイブプロジェクトをDIGINEG社と遂行しました。そこには長期保存のためのデジタル写真、地図、医療画像、PDFなどのフィルムへの変換が含まれていました。
ヘーゲル氏は、アクメワークスの柔軟さを誇りに思っています。「TVコンテンツのHD化、UHD化からその先へのリマスタリングや修復の必要性が高まるに伴い、アクメワークスは、オリジナルカメラネガに物理的な手を加えることなく映像に新しい命をもたらす新しいフィルムないしはデジタルによる資産を提供するために15年の経験に基づいて設立されました。
我々は、フィルムがエンタテインメント業界の内側のみならず外側でも保存メディアとして輝かしい未来があると確信しています」とヘーゲル氏は締めくくりました。
【アクメワークス・デジタル・フィルム】
http://www.acmeworksdf.com/
(2015年1月22日発信 IN CAMERA より)
● アルファ・ラボ
テクニカラー社が、米国フロリダ州ジャクソンビルで撮影されたサイレント映画「The Gulf Between」(1917年製作の最初のテクニカラー作品)のために列車に載せたラボ(現像所)を作ってからほぼ一世紀となる今日、アルファ・グリップ社が42フィート(12.8m)長のセミトレーラーに最初の移動式現像所 “モバイル フィルム ラボ” を搭載しました。
「ラボがすべて閉鎖という事態に陥った場合に対する100年前からあるソリューションです」と、英国のシェパートン・スタジオを拠点とするアルファ・グリップ社およびアルファ・モバイル・ラボラトリーズ社のマネージング ディレクターであるジョン・タドロス氏は語ります。「いまだに多くの監督やDP(撮影監督)がフィルムで撮影することを望んでいます。もし、カメラ、照明、グリップ機材などのトラックのすぐそばにラボが一緒に並んでいるという利便性があれば、ラボはポスプロとしての機能ではなくプロダクションの一部となるのです」
タドロス氏はラボの出身です。劇映画、テレビ、コマーシャル業界向けのグリップ機材に特化したアルファ・グリップ社を買収した時、英国に昔ながらのラボを二つ所有していました。そのラボの株を売却し、再ラボを車輪の上に載せるのにいいタイミングだと決したのです。
「ホイテ・ヴァン・ホイテマ(FSF、NSC)と話した時、彼とクリストファー・ノーランがモバイルラボの可能性について議論したと聞きました」とタドロス氏は説明します。「それは興味深いコンセプトで、ラボが駐車場に乗り入れ、作品のプロダクション機能の一部となり、監督やDPが制作進行に沿ってラッシュを見れるというものです」
タドロス氏は、現像機を製造しているフォトメック社が最新のモバイルフィルム現像のプランを持ちながら実現されることがなかったことを知りました。そのプランをアルファ1の出発点として利用し、最新テクノロジーを付加しました。そこにはコダック ECN-2 キット ケミカルの電動調合設備や、ブラック・マジック・デザイン社の16/35 mmシンテル・スキャナー、デジタル・ビジョン社の35/65 mm ゴールデンアイ・フィルムスキャナー、そして新たに建造中の次のアルファ モバイル ラボに搭載される改造されたALLENフィルム現像機などがあります。
「以前スキャナーは煩雑で、三相の電源や大量の空調設備が必要でした。これらの新しいスキャナーは単相の電源ですみ、Thunderboltの接続、リアルタイムの4Kトランスファーが可能です。容易にトラックに組み込め、もしくはケースで配送してエディターやディリーのカラリストのそばに設置することもできます。フィルムを現像し、クリーニングし、変換、そして、デジタルカメラで撮影した時と同じようなデジタルのポスト ワークフローが始まるのです」
アルファ1は8時間のシフト制の間に20,000フィートのフィルムを現像できます。「撮影開始から2時間後に現像を開始します。そして撮影終了2時間後に現像が完了します」とタドロス氏は語ります。モバイルラボは経験のあるラボの従業員によって稼働され、デジタルデイリーのサービスと連動して機能します。“停泊中”は発電機で電力を供給し、搭載されているすべてのケミカルの廃液が外部の施設で適切に廃棄されるよう環境に配慮した筐体となっています。
アルファ1は英国で建造され、最近、東海岸の視察のため米国に送られました。立ち寄り先には、カウフマン・アストリア・スタジオ、グリニッチビレッジのレロイ通りで行われたロケ撮影、ARRIレンタル、シネバース、アトランタのパナビジョンなどが含まれていました。その後アルファ1は、ニューヨーク州ロチェスターのコダック社によるテストと認証のために進路を北にとりました。
タドロス氏はモバイル フィルム ラボの利便性が、スティーブン・スピルバーグ、J・J・エイブラムス、ジャド・アパトー、マーティン・スコセッシ、そしてクリストファー・ノーランなどのフィルム支持者にフィルム撮影を続けることを可能にし、製作者たちに“セルロイド”(フィルムの意)を使う気にさせやすくすると期待しています。
タドロス氏は、学生もモバイルラボの潜在的な顧客であると見ています。「フィルムで撮影することは世代の好みではありません」と付け加えます。「英国の国立フィルム・テレビ・スクールの学生はフィルムで撮りたがっています。機会が与えられれば、若い人たちはモバイルラボを利用するでしょう」
彼は、「アルファのモバイル フィルム ラボは絵に描いた餅のようなソリューションではありません。このサービスのプランは既に存在していました。我々は、従来のフィルム現像を簡単に利用できるようプランを採用し、最新のスキャニング技術や品質管理を最優先に維持するためのコダック カスタム分析サービスなどの新しいイノベーションでアップデートしたのです」と強調します。
【アルファ・ラボ】
http://www.alphalab.london/
(2015年8月28日発信 IN CAMERA より)
P R E S E N T
『世界のシネマトグラファー ポスター』を10名様にプレゼント
コダックでは、シネマトグラファーのポートレートを用いたシリーズ広告を25年以上前から展開しています。その膨大な写真の中から100人を抜粋して1枚に収めたポスターを過去2回、1997年と2005年に作成しました。今回、このポスターを抽選で各5名様にプレゼントいたします。
共に、ポスターサイズは W 67.2cm x H 99cm と、日本のポスターサイズと異なりますのでご注意ください。
応募締め切り:2015年11月末日
当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただききます。
プレゼントご希望の方はこちらからお願いします。
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