2016年4月4日 VOL.052
撮影:國井重人氏に聞く
-TVCM「ソフトバンクでんき」について
企業シリーズ「パレード準備」篇(30秒)、牛丼ひらめき(15秒)、
牛丼代案(15秒)、牛丼特盛(15秒)
フィルム撮影の現場の緊張感
ー 今回、35mmフィルム撮影を選択された経緯について教えて下さい。
國井C:企画を頂いた段階でセット撮影になることがほぼ決まっていました。今回の企画にはフィルムのトーンがマッチすること、セットだと光のコントロールがしやすいこと、そういった理由でどうにかフィルムで撮れないかなと思っていました。打ち合わせで高田雅博監督もできればフィルムでと言っていただき、また、クリエーティブ、クライアントの方もフィルムルックを求めていたこともあってフィルムで撮影することになりました。
ー 仕上げまではどのようにされましたか?
國井C:瀧本幹也さんのチーフ時代から親しくさせていただいている東映ラボ・テックさんに現像をお願いしました。本当はポジもあげたかったのですが、スケジュールの都合であげることができませんでした。グレーディングはレスパスビジョンさんでネガスキャンをしてフィルムマスターでネガとポジの中間あたりのトーンになるような仕上がりを狙いました。
ー 撮影現場の状況はいかがでしたか?
國井C:監督の高田雅博さんとはチーフ時代にたくさんお仕事をご一緒させて頂いたので、現場の流れとか進め方は理解していました。高田監督の現場は撮影のスピードが早く、各カットのテイク数も非常に少ないです。それに加えて今回は堺雅人さんのスケジュールがタイトでした。ですので、準備段階である前日のプレライトとアングルチェックをしっかりやりました。前日にカメラワーク、ライティング、セットなどを事前に確認できたこともあって撮影当日は滞りなく、確か2、3時間巻いて終わったと思います。
牛丼屋のシーンはワンカットものでシンプルなトラックアップのバージョンと円形レールを使って手前の人物をなめながら回り込むバージョンがありました。15秒間にきっちり納めるためのカメラワークの調整や、セットの配置、人物の配置を変えてレールを引き直したりを何度か繰り返して理想のかたちに近づけていきました。
ライティングでは洋館で堺さんがお父さんと話すシーンで監督から「こうこうと家の中は明るく、家の外は暗く落ちている」というイメージで」ということを事前に聞いていました。前日にプレライトができたことで照明の鳥羽宏文くんとそのイメージのすり合わせができましたし、セットに関しても美術の鈴木一弘さんが非常に質の高いセットを作ってくださったので、当初考えていたポジをあげてセット感を馴染ませるといった作業をしなくともリアルなものに見えるだろうと前日の段階で確認できました。
何度も言いますが本当にオンエアまでのスケジュールがなかったので、撮影が終了してからオフラインで編集するのではなく、現場で仮編集を行ってそのデータを直接グレーディング室に持ち込んでグレーディングしました。撮影日から1週間後くらいにはもうオンエアされていたと思います(笑)。
フィルムの撮影は監督とキャメラマン、照明技師と撮影チーフが想像力と経験で画の上がりを共有して撮影していくというスタイルです。撮影部の観点からでもフォーカスはモニターでは完璧には判断できないのでフォーカスプラーも人物との距離をしっかり計測してフォーカスを送りますし、ローダーもフィルムローディングで絶対に失敗はできません。光量に関しても現場のモニターでは判断できませんのでキャメラマンとチーフと照明技師との数値のやりとりでバランスを取っていきます。そういった意味でフィルム撮影の現場には同じ撮影でもデジタルの現場より「失敗できないぞ」という緊張感がそれぞれのスタッフにあると感じています。その緊張感が僕は好きです。
劇映画とCMの現場の違い
ー ご自身が撮影を目指されたきっかけはなんですか?
また、助手時代のお話を聞かせてください。
國井C:父が映画好きでしたので、小さいときから父によく映画館に連れて行ってもらっていました。その影響もあってか昔から映画は良く観ていて、大学時代は勉強もせずに映画館に通い詰めていました。就職活動でも映画配給会社のみを何社か受けはしましたが、ちょうど就職氷河期と言われている時代でしたので落ちてしまって。大学卒業後1年間バイトをしながら自分の将来について考えましたが、結局自分の一番好きなことをやろうという事に落ち着きまして、最終的に映画監督を目指して日活撮影所の中にあった日活芸術学院に入学するため上京しました。学校で勉強していくうちに自分は監督よりも撮影の方に興味があることがわかり撮影コースを選択。入学して1年くらい経ったときに熊井啓監督の『海は見ていた』(2002年公開)という作品に撮影部のインターンとして参加できるになり、そこから撮影助手としての道が拓けて行った感じです。
トラン・アン・ユン監督の『ノルウェイの森』(2010年公開)でリー・ピンビン氏のフォーカスプラーを経験した後、撮影部のセカンドはもうやりきったような気分になっていました。撮影チーフになろうと考えていたときに、縁あって瀧本幹也さんのチーフをすることになりました。瀧本さんのもとで本当にたくさんのCMと映画2本の撮影チーフを5年間務めました。そのほとんどがフィルム撮影で、全ての現場が濃密でした。その経験がキャメラマンになるの後押しをしてくれたと思っていますので、本当に瀧本さんには感謝しています。
ー 劇映画とCMの現場とではいろいろと違いがあると思いますが、どうお感じですか?
國井C:違いはいろいろありますが、両方とも現場はそれぞれ大変です。CMの現場は短い期間の中で結果が求められますし、劇映画は長時間どっしりと撮影ができるようなイメージがありますが、予算によってはあり得ないスケジュールの現場になったりもします。コンテをもとにしてそのワンカットワンカットを丁寧に撮影していくCMに対して、劇映画では現場でまず段取りで芝居を見てその場でカット割りを決めて画を切り取っていくという様に撮影スタイルも大きく違います。もちろんいろいろな撮影スタイルがありますので一概には言えませんが。僕自身は恵まれたことに助手時代に劇映画でもCMでも十分な経験を積むことができたので劇映画とCMの違いに戸惑うことはないと思います。それが自分の強みにもなっているのではないかと思います。 今後は、自分のことではCM、映画の垣根なく、幅広く撮影ができるキャメラマンになりたいと思っています。また、フィルムを扱える助手を育てるということも機材会社やコダックさんと協力して積極的にやっていければなと思っています。
(2016年2月取材)
PROFILE (敬称略)
國井 重人
くにい しげと
1977年 兵庫県加東市生まれ。
2001年 撮影助手としての活動を開始。『リンダ リンダ リンダ』(2005年 監督:山下敦弘、撮影:池内義浩)、『叫』(2007年 監督:黒沢清、撮影:芦沢明子)、『サッド・ヴァケイション』(2007年 監督:青山真治、撮影:たむらまさき)、『ノルウェイの森』(2010年 監督:トラン・アン・ユン、撮影:マーク・リー・ピンビン)などの作品にフィルムローダー、フォーカスプラーとして参加。
2010年 瀧本幹也氏に師事。以後、数多くのTVコマーシャルや、『そして父になる』、『海街diary』(監督:是枝裕和)で瀧本氏の撮影チーフカメラアシスタントを務める。
2015年4月 キャメラマンとして独立。