top of page

2017年 1月 19日 VOL.064

ハンガリアン・フィルムラボは映画『サウルの息子』でフォトケミカルのパイプランとなり、フィルムのアーカイビング・サービスで光り輝く

「Magyar(ハンガリー人)Filmlabor(フィルム現像所)」――。この名前が示すように、ハンガリアン・フィルムラボは、60年以上に渡りすべての映画制作者に威信あるフィルム現像サービスを提供しており、その血脈を流れる“セルロイド”の豊富な経験があります。

 

映画『サウルの息子』(2016年)が、監督ネメシュ・ラースローと撮影監督エルデーイ・マーチャーシュ(HSC)により、コダックの35mmフィルムを用いて純粋に最初から終わりまで光学的仕上げをすることになったとき、現像チームはその挑戦にうまく対応したいと思っていました。このプロジェクトの成功は、『サウルの息子』が世界中の映画祭で47もの賞を獲るにおよび、地元と新進の映画制作者に対して現像所の新しいビジネスチャンスを呼び起こしました。

ハンガリアン・フィルムラボは1950年代に設立され、依然、ハンガリー政府が完全所有しています。ハンガリー国立映画基金の管理下で2013年に「Mafilmスタジオ」と合併したこの施設は、ブダペストのブダ地区にあります。その盛況な“セルロイド”の事業は、増感・減感現像を含む16mmと35mmのカラーおよびモノクロネガ現像、16mmと35mmのネガカッティング、カラータイミング、そしてリリースプリントとフィルムでのアーカイブを含み、世界中の映画制作者のためにあらゆる種類の作業を提供しています。

ハンガリアン・フィルムラボのシニア・カラリストでありマーケティング担当責任者であるザボルツ・バルータは「フィルムは常に当社事業の重要な部分を占めています」と述べています。「プロダクションの最終的な興行での成功を知るよしはありませんが、我々のサポートにおいてすべての映画が良いもので、できる限り専門的に実行されていると信じています。我々への確かな資金とハンガリーの映画制作業界の伝統の維持における位置づけから、ここの設備は最高で最新であることがどこを見てもご理解頂けるでしょう。そして我々のクライアントは膨大なアナログのフィルム経験を持つチームによってサポートされているのです」

同社は長い歴史の中で、ハンガリーの映画制作者たちを自然に引き寄せ、何百もの国内タイトルを終わることのないリストに連ねています。この中にはフランツ・ロシェフによる1980年の短編アニメーション『The Fly (A légy)』、イシュトヴァーン・サボー『メフィスト』(1982年)、そして『サウルの息子』などがあり、いずれもアカデミー賞受賞作となりました。他の地元のオスカーノミネート作品にはイシュトヴァーン・サボーの『連隊長レドル』(1985年)と『ハヌッセン』があります。この現像所の“信用”はハンガリー国境を遙かに超えており、イスラエルの映画監督ヨセフ・シダーがオスカーを受賞した作品『ボーフォート レバノンからの撤退』(2008年)と『フットノート』(2014年)も手がけています。

映画『サウルの息子』(監督:ネメシュ・ラースロー、撮影監督:エルディーイ・マーチャーシュ(HSC)

Courtesy of Sony Pictures Classics

「私たちは今、若い世代の映画制作者たちがユニークなものを探してフィルムに答えを求めようとしているのを目の当たりにしています」と、ザボルツ・バルータは述べています。「監督ネメシュ・ラースローと撮影監督エルデーイ・マーチャーシュ(HSC)が『サウルの息子』で全編フォトケミカル仕上げのワークフローを支持するという提案で私たちに近づいて来た時には、大いに興奮しました」

映画『サウルの息子』(監督:ネメシュ・ラースロー、撮影監督:エルディーイ・マーチャーシュ(HSC)

Courtesy of Sony Pictures Classics

映画『サウルの息子』は監督ネメシュのデビューを飾りました。1944年のアウシュビッツ・ビルケナウ収容所の死刑囚の恐怖を描いたこの作品は、ガス室での大量殺戮された遺体を処分する囚人で構成された特殊部隊ゾンダーコマンドのハンガリー・ユダヤ人、サウル・アウスランダー(ルーリグ・ゲーザ主演)の物語です。彼が自分の息子であると思われる若い少年の遺体を見つけた時、サウルは正式な葬儀を行うためにキャンプでユダヤ教の聖職者を探そうと奮闘します。

映画『サウルの息子』(監督:ネメシュ・ラースロー、撮影監督:エルディーイ・マーチャーシュ(HSC)

Courtesy of Sony Pictures Classics

制作費150万ドル、ハンガリーで28日間に渡って撮影されたこの作品は、4パーフォ、VISION3 500T 5219でツアイス マスタープライム レンズが使われました。ロングテイクによる(107分の映画で85ショットしかありません)カメラスタイルは生と死のつかの間の気配は別として、サウルのクローズアップがほとんどで、『サウルの息子』は感動的な最高の賞賛を集めました。これには2015年のカンヌ映画祭での審査員賞、2016年のオスカー・ベスト外国語映画賞とゴールデングローブ賞が含まれます。撮影監督のエルデーイ・マーチャーシュ(HSC)は、ブラザーズ・マナキ国際映画祭での世界の先端を行くシネマトグラフィー・イベントでゴールデン・カメラ300賞を、カメリマージュでブロンズ・フロッグ賞を、そしてASCのスポットライト賞を手にしています。

サウル役のルーリグ・ゲーザ

Courtesy of Sony Pictures Classics

ハンガリアン・フィルムラボは、全28,000m(92,000フィート)の5219 35mmネガフィルムを『サウルの息子』で現像しました。マーケティング担当責任者のザボルツ・バルータによると、大きな予算のある作品はしばしばこのボリュームの3倍撮影することを考えればやや控えめな数字です。5219を使って撮影監督のエルデーイは撮影からフォトケミカルな仕上げおよび最終プリントまで、一貫した粒子構造とコントラストを維持できると感じました。ほんの少しだけコントラストを高くして高感度にしたすべての屋外のナイトシーンは、ハンガリアン・フィルムラボとの密接な作業で一絞り増感処理を行いました。

撮影中は、ネメシュとエルデーイは毎日映写機でのラッシュプリントを、エルデーイのカラータイマーであるビオラ・レゲツィーとハンガリアン・フィルムラボのDIグレーダー、ラズロ・コバックス同席の元、試写しました。

「生で荒々しいイメージだったものが、すべてに中立に見えるコンセプトを実行することが出来ました」とエルデーイはコメントしています。「ハンガリー人監督の低予算なデビュー作でありながら、まだ現像所に行ってラッシュプリントが見られたのは本当に素晴らしいことでした。私たちは投影されたフィルム映像の力に吹き飛ばされました。

ラッシュプリントからテイクが選択された後、ハンガリアン・フィルムラボはビオラ・レゲツィーによるカラータイミングに続いてネガカッティングのプロセスを行い、その後、世界各地の映画祭で最終版の35mmプリントをリリースしました。実際に、ネメシュとエルデーイはカンヌ映画祭で編集されたカメラネガティブから焼き付けた35mmプリントを上映しました。ハンガリアン・フィルムラボでは35mmのパイプラインに加えて、デジタルプリントが必要な上映用にDCPもカラリストのラズロ・コバックスがプリントに一致するように作りました。

「このような最初から終わりまでのフィルムによるワークフローは、ここ何年も行っておらず、それが情熱的で、協調的で、働きがいのあるプロセスであることを再発見しました」とバルータは言います。「当然のことながら、『サウルの息子』のプロセスの成功と世界中での高評価を喜んでいます」

100年前のオリジナルネガから映像の修復が行われ長期保管のためにフィルムに戻された
1914年の作品『The Undesirable (原題)』

『サウルの息子』の成功が、ハンガリーで撮影する他の映画制作者に及ぼす影響はかなり大きかったとマーケティング担当のバルータは述べています。「カンヌの大画面での結果を見た後、フランスの制作会社HHhHが第二次世界大戦のチェコでのレジスタンス作戦に関する撮影をハンガリーで始めた時、彼らは35mmのフィルム現像を我が社に依頼しました。それ以来、私たちはフィルムを使いたい地元の映画制作者たちから以前にも増して多くの問い合わせを受けていて、フィルムで撮影することでどのくらい大きなものが返ってくるのか彼らに示すことにとても熱心になっています」

映画制作のサービスと並んで、ハンガリアン・フィルムラボはフィルムの修復とフィルム保存でも広く知られています。2013年には映画『カサブランカ』(1942年)のマイケル・カーティス監督による初期の作品の一つである1914年の作品『The Undesirable(原題)』の着色されたプリントを受け入れ、その映像の修復を指揮し、長期保管のためにフィルムに戻しました。

100年前のオリジナルネガから映像の修復が行われ長期保管のためにフィルムに戻された
1914年の作品『The Undesirable (原題)』

「私たちにとって、このプロジェクトはフィルムの長寿命やその美しさに疑いのないことを証明してくれました」とバルータは言います。「『The Undesirable』のプリントは100年も前のものですが、そのフィルムのハイライトにはとても美しいディテールがそのまま残っていて、黒のエリアにはフィルムだけがなし得るものがありました。復元された結果は卓越していて、最終的に保存のためにフィルムに戻されたことは素晴らしいことです。デジタルファイルをアーカイブする時の心配は、将来的に判読できなくなる可能性であり、貴重な資産を潜在的にブラックホールに委ねている可能性があります。私たちは皆、ブラックホール、つまり光にかざすだけでよいフィルムとは違って、そこから光が帰ってこない可能性を知っているのです」と結びました。

 

(2016年11月28日発信 Kodakウェブサイトより)

<この記事をシェアする>

bottom of page