2017年 3月 21日 VOL.071
デジタルとの共存を図りつつフィルムの灯を消さないことが現像所としての使命-IMAGICAウェスト
創業以来82年培ってきた様々なフィルムを扱う技術を継承し続け、日本のフィルムアーカイブ工房の先駆けとなり、今後もフィルムサービスを提供し続けていく株式会社IMAGICAウェスト。
今回は会社の成り立ちからフィルムビジネスの取り組みや今後について五郎丸 弘二取締役 映像事業部長に伺いました。
五郎丸 弘二取締役 映像事業部長
御社の現像所としての成り立ちについて伺えますか?
1935年に京都の太秦で、極東現像所として創業しました。その後、東洋現像所、IMAGICAと社名変更の後、2000年にIMAGICAより分離独立する形でIMAGICAウェスト(以下「ウェスト」という)が設立されました。
2000年当時は、シネコン建設によるスクリーン数の増加もあり、プリント作業が急増した時代で、IMAGICAは新作劇映画中心の大量生産型の工場体制へシフトしていきました。そのような中で、IMAGICAで受注した旧作の作業を徐々にウェストで行うようになっていきました。当初は東京国立近代美術館フィルムセンターからの作業が中心でしたが、少しずつ他の作業も増えてきて、徐々にフィルムの修復、復元、複製に特化した工房的な体制となっていきました。今にして思えば、ウェストは日本のフィルムアーカイブ工房の先駆けだったと思います。
新作作業中心のIMAGICA、旧作作業中心のウェストと棲み分けながらフィルム事業を展開していたのですが、劇場の急速なデジタル化により上映プリント作業が激減。フィルム事業の再編を余儀なくされ、2014年にフィルム作業全般をウェストへ集約することになり、現在に至っております。
35/16mmカラーネガ現像機
フィルム作業に関しては現在どのような国、地域から依頼が入っていますか?
日本全国のみならず、海外からも直接、またはIMAGICA経由で依頼が入ることがあります。例えば台湾、韓国、香港等 アジアのフィルムアーカイブ機関からは、フィルムの修復・複製依頼がありますし、オーストリアのフィルムアーカイブ機関からは、染色作業の依頼もありました。染色・調色作業を行っているのは、ウェストを含め世界でも数社しかありません。
修復を依頼される原版についてはかなり状態の悪いものもあります。例えば、バラバラになったフィルムをピンセットで組み合わせて1コマずつ撮影をして、デジタル処理して復元することもあります。また、70mm以外であれば、8mm、9.5mm等すべてのフォーマットのフィルムに対応できます。原版の状態が悪くても、どんなフォーマットでも、何とか修復するために、自前で機材を開発する等、様々な工夫を常に行っているので、技術力は日々向上していると思います。
技術スタッフによる点検
アーカイブ以外でのフィルム作業はいかがですか?
CM及び劇映画のネガ現像作業を行っています。少しでも距離的なロスをなくすために、東京-大阪間の定期便サービスやHARBOR*でのデータ転送を活用し、東京で現像するのと遜色ないような納期で対応できるようにしています。
例えば、撮影済みネガを五反田のIMAGICAへ入れていただいた場合、翌日中にウェストで現像、スキャンをして、オフライン用のデータを東京へHARBORで転送できます。私たちは、時間的な制約を感じさせないようなサービスを提供できるよう、今後も体制強化を図って参ります。
また、スキャンについては、自社開発したウェット収録*できる4K対応スキャナー「Cine Vivo」2台とブラックマジックデザイン社の「シンテルフィルムスキャナー」1台を保有しています。昨年度は、西川美和監督、山崎裕キャメラマンの『永い言い訳』でCine Vivoを使用していただきました。東京のIMAGICAスタッフとも連携し、品質・納期ともに満足いくものになったのではないかと思います。
Cine Vivo
御社のフィルムサービスの強みはどこにありますか?
技術面においては、創業以来82年に亘って培ってきたフィルムの検査・修復・複製技術です。諸先輩方には深く感謝しています。
それと、精神面において、スタッフ一人ひとりが本当にフィルムを愛していることだと思います。そこからチャレンジ精神が生まれ、新たなサービスの開発に繋がっています。何よりも「人」が財産です。今後のフィルム事業の継続のため、2016年度に現像担当として1名新卒を採用しました。2017年度もアーカイブスタッフとして新卒を1名採用予定です。実際にフィルムを扱うスタッフの年齢も30歳代が中心になってきて、若返りを図りながらもまだベテラン技術者もいて、技術の継承が図れていることも強みだと思います。
研修中の若手スタッフ
作業場の様子
今後、御社として目指されているフィルムビジネスの方向性についてお聞かせください。
やはり1作品でも多くのフィルムを救いたいという思いです。そのためには、お客様にとって使い勝手の良いサービスにしていきたいです。
ウェストはこれまでフィルムの修復と復元のサービスを行ってきたのですが、これに「予防」サービスを付加したいと思います。当社には、傷んだフィルム原版が数多く運ばれてきます。ここまで悪化する前に、日々のちょっとしたケアによって、予防できることがあるはずです。その手助けができるよう現在新たなサービスを開発しています。二流体水洗*による洗浄、「KARASY」*を使った酢酸飛ばし、酢酸を吸収する吸着剤、白黒銀画像の劣化を抑えるシルバープロテクト*、保管倉庫の環境測定、保存全般のコンサルティング等です。これら「予防」関連のサービスを利用しやすい価格で提供できるよう努力したいと思います。
最後に、フィルム撮影の選択肢を絶やさぬよう、フィルムによる映像表現の可能性をキャメラマンの皆様やコダックの皆様と一緒に改めて追求していきたいです。デジタルとの共存を図りつつフィルムの灯を消さないこと。これは、現像所としての使命だと思っています。
二流体水洗機
<用語説明>
HARBOR(ハーバー)*
株式会社フォトロンが開発。映像業界のための転送インフラ回線網および、その周辺サービスの総称。(デジタルデータのファイル転送、デジタルアーカイブ、物理メディアの輸送、物理倉庫)
ウェット収録 *
フィルムスキャニングの際にフィルムベースに近似した屈折率の液体を満たしたウェットゲートにフィルムを通過させ、フィルムベース表面のキズを消して収録する手法。
Cine Vivo(シネヴィーボ)*
2013年に株式会社IMAGICAウェストが自社開発したフィルムスキャナー。スーパー35相当の16bit CMOSイメージセンサー、ウェットゲートを搭載、オリジナルネガフィルムから4K RAWデータを24駒/秒でリアルタイム収録できる。
二流体水洗 *
圧搾空気の高速の流れを利用し液体を噴霧化、生じた高速なミストによって表面を洗浄する半導体洗浄などで利用されている技術。
KARASY(カラシー)*
映画フィルム専用の「枯らし」マシン。「枯らし」とは、保存のために定期的に空気に曝して、有害ガスや余分な水分を除去すること。フィルムを清浄空気に曝すことでガス抜きを行い、長期保存に適した状態にする。
シルバープロテクト *
色調を変えることなく、銀画像を有害ガスから保護する技術。その結果、画像の耐性向上が著しく高まり超長期保存が可能となる。(ただし、劣化の進んでいるフィルムは対応不可)
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