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2017年 3月 23日 VOL.072

撮影 蔦井孝洋氏に聞く - WOWOW 連続ドラマW
『北斗-ある殺人者の回心-』

© 2017 WOWOW INC.

直木賞作家・石田衣良が“デビュー15周年の結論”と自負する渾身作を、中山優馬主演、映画『脳男』、『グラスホッパー』の瀧本智行監督で連続ドラマ化。どうして孤独な殺人者が生まれてしまったのか―残酷で深く苦しいテーマを扱いながらも、愛を求める人間たちの運命を丁寧に描き、悲しくも力強い新たな衝撃作が遂に完成し、いよいよ3月25日(土)より放送されます(全5話、第1話無料放送)。

今回は、撮影を担当された蔦井孝洋氏に、全編で16mmフィルムでの撮影を選択された背景や撮影現場でのお話などを伺いました。

フィルム撮影を選択された理由について

今回、瀧本監督と初タッグということでその経緯と、全編で16mm撮影を選択して頂きましたが、その理由を教えてください。

 

蔦井C:私は瀧本監督の映画が凄く好きで、いつかお仕事でご一緒したいと思っていた監督の一人だったんです。デビュー作の『樹の海』(2005年)という映画が凄く良くて、それ以外にも『犯人に告ぐ』(2007年)、『スープ・オペラ』(2010年)など、切り口が面白い作品を撮られる方だなという印象がありました。普段、あまり自分からアプローチするという性格ではないのですが、たまたまこの作品の岡野プロデューサーがちょうど瀧本監督と別の企画を準備しているというので、話の流れから監督と会う機会がありました。その後、しばらく時間が経ってしまったのですが、せっかくお会いできたので、時々監督の作品の感想をメールでやり取りさせてもらっていたんです。『グラスホッパー』(2015年)が公開された時にも同じように感想をメールしたら、会いましょうということになって、その時にこの作品の企画があるので、撮影をお願いしますとオファーをいただきました。

 

瀧本監督は『私という運命について』(2014年 WOWOW 連続ドラマW)も16mmで撮影してますし、監督の方からまずフィルムでやりたいということでした。予算のこともありますし、色々費用が掛かることがあったのですが、プロダクションマネージャーの杉崎さんから「わかったよ、やるよ」と言っていただき、監督の粘りもあり、関係各社にも協力してもらうように動いてもらってフィルム撮影が実現できたと思います。監督は、何度もリハーサルを入念にしてから撮影するタイプの監督なので、想定していたよりもフィルムは回らなかったですよね。そういう面では、うまくハマったと思います。

フィルム撮影の感覚

撮影現場の状況はいかがでしたか?

 

蔦井C:私のテーマとして、現場では役者や各スタッフを待たせないというのがあるのですが、そういう意味では普段通りの現場だったと思います。ただ、フィルム撮影は久しぶりでデジタル撮影に慣れてしまっていたので、初めの2日間ぐらいは感覚を取り戻すのが少しだけ大変でした。特に一番最初がかなり暗いシーンの撮影からだったので、事前にテストなどはしていたのですが、黒が浮いてしまうのが気になって、かなり絞って撮っていたんですよ。テストでは暗部も出ていたし現場のモニターでもそんなに悪くない感じだったので、大丈夫だろうと思っていたら、思った以上にしっかり落ちてたんですよね。監督にはその感じがフィルムっぽくて良いと言っていただいたのですが、明るめにバランスだけ見て撮っておいて後で締めるっていう方法もあったなと。そういう感覚のズレは、初めだけですけどありましたね(笑)。

 

ただ、撮影部以外の周りの若いスタッフは、フィルム撮影を知らないスタッフが多かったので、新鮮だったと思います。やっぱりデジタル撮影とは違いますよね。粒子の感じとかはフィルム撮影ならではだと思うし、今回はプリントを起こしているわけではないので、厳密にいうと全体の粒子感は違いますけど、それでもフィルム撮影の経験のないスタッフにとっては、全てが凄く新鮮だったと思います。良い意味で現場に緊張感がありますよね。実際にフィルムが回っているという独特の緊張感って良いですね。本当に久しぶりにフィルムを回しましたけど、楽しかったです。監督は色々とこだわって粘る方なのですが、監督に感謝ですね。
 

現像はどうされましたか?


蔦井C:現像はIMAGICAウェストで、ネガからのデジタイズはCine VivoとHDログテレシネの画を見比べて、個人的には作品のテイストに合ってる感じがしていいなと思ったのでログテレにしました。現像は大阪ですが、撮影で気になったところはQTをあげてもらってパソコンで確認したりできたので、現像からデータ化までのタイムラグはあまり気にならなかったですね。最終的にあるスタッフから画を観て「映画みたい」っていう感想が聞けたのは良かったです。フィルムの画がそういう印象を与えるのだと思いました。

フィルム撮影とデジタル撮影との違いについては、どのように感じていらっしゃいますか?


蔦井C:デジタルでの4K撮影は、『チキンレース』(若松節朗監督/2013年WOWOWドラマW)で経験があるのですが、デジタルの方向性として、どんどん画がシャープになって、クリアな高精細で綺麗という感じだと思うのですが、人間の眼には少し綺麗過ぎて細か過ぎると感じます。文化遺産とかの記録映像とかには向いていると思うのですが、ドラマを撮影するってなるとまた別だと思うんですよね。ピントは間違いなくシビアになってきますし、メイクなども大変ですよね。こちらが意図していないものまで撮っていってしまうという。分かり過ぎるから嘘がばれるって思います(笑)。フィルムで撮ると、そういうところを上手くフォローしてくれますよね。フィルムの力ってそういうところだと思ってますし、今回は16mmでしたので、よりフィルムの良いところを出せたなと思ってます。やはりネガの持っている画の情報量って凄いですよね。同じ画を撮ってもフィルムの画の方が“持つ”と思ってます。つまり、フィルムの画の方が、観ている人の興味を引き続けるパワーがデジタルの画よりあると個人的に思ってます。本当は、ポジに焼いて、1話ぐらいはプリントで観たかったです(笑)

瀧本智行監督の現場

蔦井C:監督は凄くストイックで、自分自身を追い込んで撮影に臨まれる方です。今回の話の内容も色々な要素が含まれている作品なので、より凄かったと思います。脚本も全て書き上げて決定稿をあげてから撮影するのですが、インする前に全てのカットを3回は全シーン割ったとおっしゃってましたが、結局4回やられたと思います。ですので現場では監督が納得してくれる画を撮ることに集中しました。何回かは、こちらからカット割りの提案もしましたけど、基本的には監督のどうされたいかについて、こちらが全力で応えるっていう感じでした。作品の内容も、ここでは詳しくは言えませんが衝撃的ですし、監督が脚本から現場までこだわり抜いて仕上げた作品ですので、是非、色々な方に観ていただきたいですね。

 

(インタビュー:2017年1月)
 

 PROFILE  

蔦井 孝洋
つたい たかひろ
1964年生まれ。鳥取県出身。多摩芸術学園映画学科卒。

卒業後、川上晧一氏、小林達比古氏に師事。1999年『大阪物語』で撮影監督デビュー。以降『メゾン・ド・ヒミコ』(犬童一心監督/2005年公開)、『黄色い涙』(犬童一心監督/2007年公開)、『眉山-びざん-』(犬童一心監督/2007年公開)にて、2008年度第31回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。その後も『ゼロの焦点』(犬童一心監督/2009年公開)、『HERO』(鈴木雅之監督/2015年公開)など数々の作品で撮影監督を務める。
 

 撮影情報  (敬称略)

WOWOW 連続ドラマW
『北斗-ある殺人者の回心-』

監 督  :瀧本智行 
撮 影  :蔦井孝洋
チーフ  :向山英司
セカンド :茅野雅央
サード  :山本一美
照 明  :疋田ヨシタケ

カラリスト:北山夢人(IMAGICA)
キャメラ :ARRIFLEX 416
レンズ  :ZEISS 9.5/12/16/25/35/50mm
フィルム :コダック VISION3 200T 7213、VISION3 500T 7219
現 像  :IMAGICAウェスト

撮影機材 :ナックイメージテクノロジー
制作協力 :東映東京撮影所
製作著作 :WOWOW
http://www.wowow.co.jp/dramaw/hokuto/

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