2017年 3月 30日 VOL.073
映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』
― 撮影監督ステファーヌ・フォンテーヌ(AFC)がスーパー16で知られざるジャッキーの真実を捉える
ジャクリーン・ケネディ役の主演ナタリー・ポートマン Photo by Pablo Larraín. © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.
『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』は、1963年11月22日、ダラスで起きたジョンF・ケネディ大統領暗殺事件直後からの、大統領夫人ジャクリーン・ケネディのホワイトハウスでの日々やその後の人生を描いた伝記ドラマです。
本作は、コダックフィルムによるスーパー16フォーマットで撮影され、アメリカで人気の高いファーストレディーが戸惑う横顔や、彼女が遭遇する衝撃的な出来事との闘いを描いています。亡き夫の政治的遺産を受け継ぎ、彼女自身の使命を果たしながら子供たちを元気づけるストーリーは、5つ星のレビューと共に、注目度の高い賞やノミネートを獲得しました。
高評価を得ているチリ人映画監督のパブロ・ラライン(『NO』(2014)、『ザ・クラブ』(2015)、『Neruda(原題)』(2016、日本未公開)が初めて英語で制作した劇映画であり、題名の役柄を務めたナタリー・ポートマンの演技は心を打ちます。ノア・オッペンハイムの脚本による制作費9百万ドルの本作は、暗殺事件の1週間後、マサチューセッツ州ハイアニス・ポートのケネディ家の屋敷で行われた、ジャーナリストのセオドア・H・ホワイト(ビリー・クラダップ)によるライフ・マガジン誌のジャクリーン・ケネディへのインタビューとして描かれています。
撮影監督ステファーヌ・フォンテーヌ(AFC) © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
ポートマンの演技に加えて、ラライン監督とオッペンハイムの脚本は、すでに初期段階から国際的な賞賛を得ています。本作は視覚的な創意を通して悲劇の象徴に人間性を与えるその合理的なアプローチで注目されていました。特にクローズアップを追いかける感情的な親密さ、息を飲むような瞬間、時代のルックを達成するためにフィルムの示唆に富む使用など、フランスの撮影監督ステファーヌ・フォンテーヌ(AFC)の指揮の下、撮影されました。
主な撮影は、2015年12月にパリ北部に位置するLa Cité De Cinémaフィルムスタジオで始まり、プロダクション・デザイナーのジャン・ラバッセとセット・デザイナーのベロニーク・メレリーが、ホワイトハウスのプライベートルーム、長い渡り廊下、大統領執務室など、克明な複製を作り上げる担当責任者となりました。2016年2月にはアメリカに移動し、JFKの葬列の場面が撮影されたワシントンDCのダウンタウンや、暗殺シーンを再現したボルチモアの民間飛行場を含む10日間の撮影が行われました。
撮影中のピーター・サースガード、ナタリー・ポートマン、グレタ・ガーウィグ、リチャード・E・グラント Photo by Bruno Calvo. © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.
撮影監督のフォンテーヌはこう振り返ります。「パブロ監督は、しばしば伝記映画の型にはまった描写から離れ、ジャッキーの眼を通して見た、より個人的なイメージにしたいと思っていました。彼は、彼女の人生の恐ろしく混沌とした時期・・・アメリカ人にとってもまた悲惨な時期に彼女と生きて呼吸をしているカメラを通して内面を描写することで、ジャッキーを観客に間近で見せたかったのです。パブロはまた、画面構成についての確固たるアイデアを持っていて、常にジャッキーを画面の中央に置き、人々や場所の感覚、そして彼女の周りで起こる出来事を捉えたいと考えていました」
パブロ・ラライン監督 Photo by Stephanie Branchu. © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.
フォンテーヌは映画のルックについて、監督のプランは最初から1960年代の独特な感覚を作り出すことだったと言います。これを達成するため、ポートマンのライブアクションと当時の35mmや16mmで、しばしばリバーサルフィルムで撮影されたアーカイブ素材をシームレスに繋ぎたいと考えていました。これには、ジャクリーン・ケネディが1962年にホワイトハウス周辺で行ったツアーのCBSテレビによる収録映像や、JFK暗殺の再現図も含まれています。
セットにて、パブロ・ラライン監督 Photo by Stephanie Branchu. © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.
フォンテーヌはこう述べています。「私たちの撮影をアーカイブ映像の質感と合わせることが最適だと感じ、手探り状態でスーパー16と3台のデジタルカメラでテストしました。様々なフィルムとデジタルの質感を切り替えると、観客にとってはあまりにも気が散ってしまうため、すぐにスーパー16での撮影が最善だという結論に至りました」
本作は主にフォンテーヌによるアリ416カメラの手持ちで、古いツァイス・スーパースピード・マークIIレンズ(14mm、18mm、25mmレンズ)を取り付けた、アスペクト比1:1.66で撮影されました。フィルムは16mmのコダック VISION3 500T カラーネガティブフィルム 7219と200T 7213です。
フォンテーヌはこう続けます。「ワイドアングルのプライムレンズは、適切でエレガントな昔ながらの柔らかさをイメージに与えます。ジャッキーにとても近づくことを可能にし、それでも廻りの人々の様子や状況を感じ取ることができます。私は望遠レンズを一度だけ劇的なインパクトのために使いました。それは、ダラスで狙撃されてからわずか2時間後の、ジャッキーの周辺視野の中でリンドン・ジョンソン副大統領がエアフォース・ワンの大統領オフィスから宣誓した時です。そして彼女は慣れ親しんだ大統領生活から情け容赦なく放り出されることになります」
ジャクリーン・ケネディ役のナタリー・ポートマン Photo by Stephanie Branchu. © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved.
フォンテーヌは、ルックの全体的なプランについて、室内、屋外のシーンを個々のカラーパレット、雰囲気、質感を備えた独特なルックに作り上げることで、突如として夫を失い悲しみに打ちひしがれた未亡人の弱さを表現しようと意図したと述べています。
「ホワイトハウスの暖かくて柔らかな繭のようなシェルターの室内と、外界の挑戦的で危険で混沌とした過酷さを対比したいと私たちは考えました。美術スタッフと密接に連携して、照明と様々なコダックフィルムの使い方でこれを達成しました」とフォンテーヌは説明します。
「私はこれまでに何度も200T 7213と500T 7219を使用してきました。本作では、暗殺以前の室内と屋外で200Tを使用しましたが、とても色の彩度が素晴らしくてコントラストも良く、後処理段階で選ばれたアーカイブ映像とぴったりマッチすることも分かっていました。映画の残りの部分には500Tを使いましたが、デジタルカメラでは見たことがない色空間と色の深度を扱うことができました。私たちが採用した柔らかい照明と組み合わせて、肌のトーンにも美しい表現をもたらしました」
「私が長年組んでいるカラリストのイザベル・ジュリアンは、ライブアクションと本作で使用したアーカイブ映像をマッチさせ、デジタルノイズではなく、適切なフィルム粒子を加えて見事な仕事をしてくれました。大きなスクリーンで見ると、その成果には驚くばかりで、スーパー16か35mmかほとんど見分けることができないと思います」
通常、デジタル映像をフィルムのように見せるのは映画制作者にとっての挑戦になりますが、ジャクリーン・ケネディのCBSによるホワイトハウスのツアー映像を再現することはまったく逆の課題でした。フォンテーヌは、古いテレビ映像の独特なルックを再現するために、ラライン監督が映画『NO』で使用した監督自身が所有するビンテージものの3管式テレビカメラを利用し、ポートマンを古い白黒のCRTモニターに表示させ、それを16mmでフィルム撮影しました。色調をマッチさせるために、フォンテーヌは衣装デザイナーのマデリーン・フォンテーヌ(親族ではありません)と緊密に作業し、ジャクリーン・ケネディの本物の洋服と同様の質感とパターンを持つ生地を選び、ライトグレーのテレビ映像と、主なライブアクション映像のバブルガムピンク色のドレスの両方にマッチする色を探し出しました。最終的に原色の赤のドレスが望ましい結果をもたらすことがわかりました。
「私たちがこの方法によって、両方の世界で最高の結果に到達することができたのはとても興味深いことでした。フィルムの粒子を持つ、古いグレーのビデオ映像という奇妙なルックなのです」とフォンテーンは述べています。
本作の現像処理はパリのLe Lab社で行われ、パリのブローニュにあるテクニカラーのイメージング施設で、フリーのカラーグレーダー、イザベル・ジュリアンによって色の仕上げが行われました。
フォンテーヌは、この作品で4年間も離れていたフィルム撮影に戻って来たことを明かします。「再びフィルム撮影に戻って来れたのは楽しいショックでした。撮影中は適切な光学イメージをビューイングファインダー内で見ることができ、電子的に知見するのとは違う、とても洗練された素晴らしい現実そのものを、特に私がオペレートする時に感じられるのです。また、フィルムで撮影する時には主要なカメラの共同作業者がすぐそばにいますし、離れたテントの中のモニターで撮影を見るのとは違って、私たちはセットで一緒に自分たちの目を使って見るのです。フィルム撮影では、創造的で独自の意図をネガに記録するよう、照明をして露光するのです」
「低予算にもかかわらず、私はパブロとの共同作業で、彼のビジョンを大画面で実現できたことを嬉しく思っています。フィルムには明らかな個性があり、スーパー16は他のものとは比較できない完全に有効な芸術的選択肢でした。この作品をフィルムで撮影した結果にとても満足しています」と締めくくりました。
(2016年12月22日発信 Kodakウェブサイトより)
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