
2017年 5月 19日 VOL.075
撮影 佐光朗氏に聞く - 映画『たたら侍』
スキャニングから仕上げまでを4Kで行い、フィルムの持つパフォーマンスを最大限に生かした高い映像表現に成功

(C)2017「たたら侍」製作委員会
1300年の時を経て現代に伝わる、唯一無二の鉄“玉鋼”を生み出す製鉄技術“たたら吹き”。戦国の末期、その伝統を守ることを宿命づけられた男が、侍にあこがれ旅に出た──。のちに人は、その若者を「たたら侍」と呼んだ。
第40回モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門最優秀芸術賞をはじめ、数々の映画祭で受賞を果たしている錦織良成監督作品『たたら侍』が、いよいよ5月20日(土)より新宿バルト9・TOHOシネマズ新宿 ほかで全国公開になります。今作は「本物の日本を世界へ」 という想いのもと、EXILE HIRO氏が映画初プロデュースを手掛けた原作なしのオリジナルストーリーです。
今回は、撮影を担当された佐光朗氏、撮影助手の田村ゆう子氏、制作プロデューサーの鈴木大介氏に、全編で35mmフィルムでの撮影を選択された背景や撮影現場でのお話などを伺いました。
フィルム撮影を次世代に伝えていく
今回、全編で35mm撮影を選択して頂きましたが、その理由を教えてください。
佐光C: 錦織監督が強く35mmフィルム撮影を希望していたことが一番の理由です。アナモフィックレンズでパナビジョンのカメラを使って映画を撮るということを希望されていたので、私はそれに便乗するかたちでした(笑)。作品も時代劇ですし、まずフィルムの表現力の方がこの作品のテイストに合っていると思いました。最近の傾向として、初めから既にCGとの兼ね合いなどが理由でデジタル撮影が決定している作品が多いのですが、今回でも雪のシーンはCGでという動きがありましたが、結局自然が勝って本物の雪で撮影しました。結果として正解でした。
また、『たたら侍』のテーマが伝承ということで、人に技術を伝えていくことでしたので、作品のテーマとフィルム撮影の技術を次の世代に伝えていくということがリンクしていると感じました。
それから、ほとんどが島根県の雄大な自然の中でのロケ撮影だったので、まさに自然の宝庫でしたのでそれをしっかりと、発色も含めて撮りたいということと、たたら吹きの炎の表現を後処理なしで素直なかたちで撮りたいということでフィルム撮影を選択しました。今回は特に、低感度の50Dにこだわりました。できるだけ発色も含めて微粒子に挑戦しようと思って、助手たちには苦労をさせたかもしれないのですが、高感度の500Tを使用してNDフィルターで光量を制限していくというよりも、素直にそのままで撮っていくという方法で、フィルムの表現力の凄さを出しきって、デジタルとの差別化を意識しながら撮影しました。
鈴木氏: 海外の映画祭でもデジタル撮影の作品が多かったのですが、モントリオールでは技術的なことを意識しない一般の観客に、この作品のフィルムによる圧倒的な風景の描写の美しさや、炎の暖かさというか、シーンによって炎の色味の微妙な描写の違いがあるのですが、特に最後のシーンの雪景色の中でのたたら場の炎の暖かく美しい描写がうまく伝わって、そういったこの映画がつくり上げた世界観の美しい描写の数々が、最優秀芸術賞の受賞に繋がったと思います。

左から撮影監督の佐光朗氏、撮影助手の田村ゆう子氏、制作プロデューサーの鈴木大介氏
4タイプ全てのカラーネガフィルムをご使用いただきましたが、どのような意図だったのでしょうか?
佐光C: そうなんです。今回は助手たちに全てのタイプのネガフィルムでの撮影を経験させたかったという理由があり、4タイプを贅沢ですが使用しています。それから助手たちへ経験させたかったことで一つ驚いたのですが、今回の助手たちがフィルムでの空撮の経験がなかったという点はびっくりしました。フィルム空撮用のヘリも、種類が少なくなっていたということもショックでしたね。
田村氏: 今回初めて空撮を経験させて頂きました。Bキャメの平林さんも、『海猿』(2004年、羽住英一郎監督)の時はお見送りだけだったのでフィルムでの空撮経験がなかったんです。私も初めてなので、事前に佐光さんとヘリに乗り込んでシミュレーションをして貰いました。フィルム撮影での狭い機内でのロールチェンジのやり方や、今回は機動力を良くしたいということで400フィート巻きを多用したのですが、良い経験をさせて頂きました。

(C)2017「たたら侍」製作委員会
フィルムの現場は人が育つ
季節の実景も含めると1年間という長い期間での撮影でしたが、実際の撮影現場の状況はいかがでしたか?
佐光C: 今回、特に現場で嬉しかったのは、オープンセットをゼロから建てたことですね。既にあるオープンセットではなくて、この映画の世界観を表現するためだけに、たたら村のセットを全て島根に建てて撮影したんです。中世の村の設定ですので、江戸時代ではないんですよ。

(C)2017「たたら侍」製作委員会
鈴木氏: 当時は畳ではなくて、板間なんです。厳密にいうと中世のそういった村の資料は残っていないのですが、美術部が実際に島根のたたら吹きを継承している3つの銘家に取材をして、たたら吹きを行う作業場をたたら村に再現して貰いました。実際に劇中で、たたら吹きを行うシーンがあるので、柱には本物の島根の大きな木を使用して作業場を建ててます。普通の映画では、鉄骨で組んでそういったものをセットとして建てるのですが、今回は本物の炎を使用してたたら吹きを行うので、鉄で組んでいたら、そのシーンを撮ることは不可能でしたね。炎の熱で、柱の木が裂けることがあったのですが、その程度でそれ以外全く問題なかったです。錦織監督の、本物を使用して映画の世界観を表現するということでいえば、セットを建てるのに協力して頂いた地元の大工の方も、出雲大社の遷宮に関係された宮大工の方ですし、たたら吹きのチームも本物の方々ですし、船を漕ぐエキストラの方も、実は宍道湖でシジミ漁をされている本物の漁師の方です。
佐光C: 青森で撮影した北前船のシーンも、実際に船を海に浮かべて撮影しています。現代の船が並走して、船を本当に引っ張って海上のシーンを撮影しています。

(C)2017「たたら侍」製作委員会
鈴木氏: フィルム撮影についてもそうですが、映画のプロデューサーとして予算というものを考えた時に、あくまでも理想としてはすべて本物を使ってやりたいという想いと、現実の問題としての予算との兼ね合いというのがあると思います。今回については、エグゼクティブ・プロデューサーのHIROさんが、予算という縛りよりも、映画のクオリティを追求するという理想の方が上にある方ですので、予算を抑えることが映画のクオリティを下げる方向にいってしまうのであれば、例えばフィルムで撮影することで、映画のクオリティが上がるのであれば、逆に安いという考え方をしていただけたので、現場のプロデュースとしては大変有り難かったです。そういった考え方ができる方がトップにいるということは強みでした。もちろん無駄なことに対しては、しっかりとした予算管理をしていましたけど。

(C)2017「たたら侍」製作委員会
佐光C: 今回は、撮影期間も長かったですし、雄大な自然が相手だったので、私よりも助手たちの方が、色々と厳しかったかもしれないです。大自然の神々しい景色が相当撮れたと思うのですが、うまく芝居と絡めていければということを意識していました。徹夜で芝居を撮った後で、その流れでそのまま早朝の実景を撮影したりしていましたね。まあ良くあることですけど。あと3ヶ月弱の本編の撮影だったのですが、各部署の助手たちが成長していくのも良かったと思います。美術部の新人で、映画撮影が初めての助手がいたのですが、初めはもう全然だめだったのですが、撮影が進んでいくと徐々に成長していくんですよね。その子が、今回はフィルム撮影だったこともあるのですが、モニターではなく、ちゃんとカメラの側で芝居の現場を見ているんです。デジタル撮影の現場だと、スタッフが皆、後ろにいてモニターばっかり見ていて、芝居の現場を自分で見ない場合が多いですよね。そういった面からいうと、フィルムの現場は人が育っていくものだなと実感しました。

(C)2017「たたら侍」製作委員会
劇中でヒロインが舞を舞うシーンが非常に印象的ですね。
佐光C: あのシーンは、チーフもフィルムを回したんです。
田村氏: そこにあるカメラ全部使いました(笑)。限られた時間帯を狙ってのシーンでしたので、サードもフォーカスを送るし、私もマガジンにフィルムを詰めてチェンジしたりと、手が空いている人が動くという体制で、撮影部総出で撮影しました。
佐光C: 自分の役割りのワンランク上の仕事をさせると、現場も活気が出るし、助手たちも生き生きと動いてくれて、そういったことが自分たちの経験として蓄積されて成長していってくれると嬉しいですね。

(C)2017「たたら侍」製作委員会