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2017年 8月 3日 VOL.080

Netflixオリジナル作品『クレイジーヘッド』、35mmフィルムで最高の恐怖と大きな費用対効果をもたらす

撮影、演出、制作の各視点から捉えたテレビ番組をフィルムで撮影するメリット

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ダブル主演を務めるエイミー役のカーラ・テオボルド(右)とラクエル役のスーザン・ウォーコマ Photo by Steffan Hill. Copyright Urban Myth Films Ltd.

昨年話題となった『ウエストワールド』(米HBO、シーズン2製作中)をはじめ、『ウォーキング・デッド』(米AMC)、『ドクター・マーティン/Doc Martin』(英ITV)、『ハンド・オブ・ゴッド』(米Amazon)、『ザ・ミドル 〜中流家族のフツーの幸せ』(米ABC)、など、欧米で制作・放映されているテレビドラマの中には、フィルムで撮影されている人気シリーズがいくつかあります。

アメリカの動画配信サービス大手Netflix (ネットフリックス)がオリジナルで制作、2016年に配信した『クレイジーヘッド』(シーズン1、全6話)は、全編が35mmで撮影された連続ドラマ。ボウリング場で働くエイミーと社会性に欠けるラクエルが悪霊と闘いつつ、心の葛藤に向き合っていく20代女性の姿を描いたエクソシストコメディです。今回は、本作をフィルム撮影した背景やその効果について、シネマトグラファー、プロデューサー、監督それぞれの視点からの声をお届けします。

「デジタルでは成し得ない、特有のルックや魔法のような効果がフィルム撮影にはあります」と、エグゼクティブ・プロデューサーであり、ロンドンのアーバン・マイス・フィルムズのカンパニー・ディレクターでもあるジュリアン・マーフィーは言います。「現代的なもの、古い時代のもの、または幻想的な世界を創造したいと思ったら、フィルムのエマルジョン(乳剤)に光を与えることです。それと私は、フィルム撮影がデジタルよりも決して高価ではないということも学びました。これはもっと多くの人達が気付かなければならない思いこみです。総合的に見て、フィルム撮影だとはるかに安く制作することができるのですから」

アーバン・マイス・フィルムズは、国際的に有名なエミー賞の受賞プロデューサーであるジュリアン・マーフィーとジョニー・キャプスが、BAFTA賞を受賞している脚本家ハワード・オーヴァーマンとともに国際市場向けの優れたテレビドラマと映画を制作する意図で2013年に設立されました。彼らはこれまでに何百時間ものプライムタイム番組を創り上げました。BBC1/BBCアメリカのためのアクションシリーズ『アトランティス』や、数々の賞を受賞したBBC『魔術師マーリン』などの5つのシリーズが世界180ヶ国で放映されています。そして最近作ではネットフリックスによるチャンネル4の大胆なコメディーホラーシリーズ、『クレイジーヘッド』をすべてフィルムで撮影しました。

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シネマトグラファーのラスマス・アリルト(DFF) Photo by Steffan Hill. Copyright Urban Myth Films Ltd.

マーフィーはこう続けます。「私たちは人気のあるテレビシリーズを開発するために、独特の見た目や見やすさを創り上げるテスト期間を持ちました。例えば『魔術師マーリン』は16mmでスタートしましたが、第3シリーズでは35mmで撮影しました。『クレイジーヘッド』の企画が来たときには、35mmで撮影することは間違いありませんでした」

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デクラン・オドワイヤー監督とシネマトグラファーのアン・ヴァルデズ・ハンクス Photo by Steffan Hill. Copyright Urban Myth Films Ltd.

暗いユーモアとたくさんの下品な言葉が盛り込まれている全6話の『クレイジーヘッド』(各話45分)は、特殊な能力で人に憑依している悪霊やあの世を見ることができるエイミー(カーラ・テオボルト)とラクエル(スーザン・ウォーコマ)が、悪霊と闘いながら心の葛藤と向き合っていく物語です。奔放なアクションが魅力的で、愛や友情、自己愛にも満ちた作品です。

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夜間撮影中の主演の2人とアル・マッケイ監督 Photo by Steffan Hill. Copyright Urban Myth Films Ltd.

このシリーズは、2016年の夏の7週間、英国ブリストル市のボトルヤード・スタジオと市内の複数の場所でコダックフィルムと主に2台のカメラを用いて撮影されました。アル・マッケイ監督とシネマトグラファーのラスマス・アリルト(DFF)は、最初の3つのエピソードを撮影してシリーズ全体の基盤を構築し、デクラン・オドワイヤー監督とシネマトグラファーのアン・ヴァルデズ・ハンクスに撮影が引き継がれました。作品の演出を高めるために、数々のCGによる視覚効果がポストプロダクションで行われ、セットや街の拡張、顔のモーフィング、爆発、その他の不気味な雰囲気がライブアクション映像を補完しました。

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アル・マッケイ監督とソーヤー役のルーク・アレン-ゲイル Photo by Steffan Hill. Copyright Urban Myth Films Ltd.

「『クレイジーヘッド』はテレビ番組なので、フィルム撮影は不可能であろうと思っていました」と、マッケイ監督は述べています。「しかし、ジュリアンが私たちにフィルムで撮影するつもりだと言った時、それはまるで音楽を聴くようなものでした。デジタルだと何でも撮影できますが、その作品を際立たせる何か特別なものをもたらしてはくれません。様式化された世界で様式化された衣装に包まれ、くっきりとしたHDで撮影された若いキャストは超リアルで、偽物っぽく信じられないように見えます。一方でフィルムは、観客に異なる心理的影響を与え、他の多くのテレビ番組とは違う独自の何かを見せることになります。私たちは映画的な経験を欲していて、フィルムがそれを私たちに与えてくれました」

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エイミー役のカーラ・テオボルトとジェイク役のルイス・リーヴスを捉えるBカメラの映像 Photo by Robert Viglasky. Copyright Urban Myth Films Ltd.

デンマークのシネマトグラファーであるアリルトは、『クレイジーヘッド』を16:9のアスペクトレシオで、アリカム LT、アリカム ST、アリフレックス 435にクック S4レンズを装着し、コダック VISION3 200T カラーネガティブフィルム 5213と500T 5219を使用して3パーフォで撮影、ロンドンのシネラボで現像しました。

アリルトはこう振り返ります。「非常に多くの異なるロケがあり、夜間撮影もあったのでフィルムストックの選択をなるべくシンプルにするようにしました。私たちは2種類のネガを約半々で撮影しました。200Tは日中の屋外と室内で、もちろんその場の光と撮影ライトをミックスしたセットアップでも使用し、500Tはすべて夜間撮影で使いました。私は両方のネガで常に十分な露光域とラチチュードを持っていて、ネットフリックスを通した素晴らしいフィルムのルック、そしてコメディーというジャンルを立証する結果となったことに非常に満足しています」

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撮影中のシネマトグラファー、ラスマス・アリルト(DFF)Photo by Steffan Hill. Copyright Urban Myth Films Ltd.

フィルム撮影をすることについて監督の視点から、マッケイは次のように述べています。「誰もが独自の精神的かつ創造的なアプローチを持ってフィルムの制作現場に来ていると思います。セットでは撮影と中断をとても慎重に考える傾向がありますが、デジタルではただひたすら撮影できることを捉えるに過ぎない傾向があります。そしてこれが私たちのスタイルを特徴付けるのです。私たちは大変な時間をかけてドリー撮影をし、根拠のない手持ち撮影には頼りませんでした。積極的で建設的なリズムとエネルギーがフィルム撮影にはあります。私たちのキャストはフィルム撮影に興奮し、自分の演技に集中します。また、フィルムのマガジンチェンジによる自然な休息は、次の撮影に向けてみんなが一緒になってアイデアを集約する良い機会を与えてくれます」

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スザンヌ役のリアン・スティール Photo by Nick Briggs. Copyright Urban Myth Films Ltd.

マーフィーによるプロデューサーからの視点では、フィルムの経済性はデジタルに対して完全に上回っていると言い切ります。「フィルム代と現像代の先行投資的な費用はあるにせよ、フィルムを使うと得るものが大きいのです。経験豊かな撮影監督によるフィルム撮影は、デジタルよりもセットアップがわずかに速くなり、見せたいものを照明するだけです。デジタルでは、センサーが捉える細部のためにセットデザイン、小道具、衣装、人工装具などの各部門は膨れ上がるコストというプレッシャーにさらされるのです」

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カラン役のトニー・カランを捉えるカメラ Photo by Laurence Cendrowicz. Copyright Urban Myth Films Ltd.

「『クレイジーヘッド』のようなテレビ番組では、CGやVFXのポストプロダクションでさらに大きなメリットがあります。フィルムは視覚的にかなり許容範囲が広いため、CGやVFXのショットを完成させるには、デジタルに比べて半分の作業用カットですむことが分かりました。VFXによる見栄えもとても良くなります。全体的に見ればフィルムの柔軟性と寛容さは、撮影現場でもポストプロダクションでも、今までに払ったフィルム代や現像費用以上にお金を節約できるのです」

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『クレイジーヘッド』のプロモーションショット Photo by Steffan Hill. Design by Kaia Zak at D Touch Studio. Titles by Liquid UK. Copyright Urban Myth Films Ltd.

マーフィーは最後に次のように締めくくりました。「最近のテレビ番組制作の問題は、シャープネスという神への生贄が、黒のしまり、被写界深度、そして創造という独特な最終結果を生み出す神よりも重要になってしまっていることです。デジタルはスポーツには最適ですが、ファンタジードラマではやっかいです。私は劇映画でフィルム撮影が復活してきていることを知っています。もっとテレビ番組でもそうならないものかと思っています。HBOによる『ウエストワールド』などのテレビシリーズがフィルムで撮影され、とても良い結果を示してくれました。番組を演出し、将来に向けた映像制作を望むなら、フィルム撮影が自動的に出発点になるべきです」

(2016年12月22日発信 Kodakウェブサイトより)

『クレイジーヘッド』
公式サイト:https://www.netflix.com/jp/title/80104983

予告編

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