2017年 8月 24日 VOL.085
映画『ワンダーウーマン』
― 35mmフィルムがもたらした独特な映像美
映画『ワンダーウーマン』、主演のガル・ギャドット Photo by Clay Enos / TM & © DC Comics. © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. and RATPAC ENTERTAINMENT, LLC.
「フィルムとデジタルどちらが素晴らしいかという議論にはうんざりしています。より多くの人がクリエイティブの権利を行使してフィルムへと戻ってくるのを見るのは喜ばしいことです」
― 撮影監督 マシュー・ジェンセン
コダックの35mmフィルムで撮影され、ワーナー・ブラザースによって2017年6月に全米公開された映画『ワンダーウーマン』は、近年で最も高い期待を集めたスーパーヒーロー映画です。そして、その興行収入は期待を裏切ることなく、パティ・ジェンキンス監督による本作は、アメリカ国内公開時の最高成績をあげた女性監督作品として週末に1億300万ドルを記録し、その後、全世界興行収入は7億2500万ドルにまで達しました。
本作の撮影にあたり、ジェンキンス監督が白羽の矢を立てたのは撮影監督のマシュー・ジェンセンでした。ジェンキンスはジェンセンがコダック フィルムで撮影した、アーヴィン・ウェルシュの小説を原作とする映画『フィルス』(2013年、監督:ジョン・S・ベアード)の描写を気に入り、彼に会いたいと申し出たのです。
「『フィルス』はとても変わった作品です」とジェンセンは言います。「私がフィルムで作り出したいくつもの描写が、物語に大きな変化やツイストを加えています。その仕事での成果が最終的にパティの『ワンダーウーマン』の撮影へとつながったのでしょう」
撮影中のパティ・ジェンキンス監督(左)と主演のガル・ギャドット Photo by Clay Enos / TM & © DC Comics. © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. and RATPAC ENTERTAINMENT, LLC.
DCコミックスの同名キャラクターを原作に、映画『ワンダーウーマン』は主人公のアマゾン族のプリンセス ダイアナが、美しい母国の島セミスキラを去り、第一次世界大戦下のヨーロッパへと交戦を止めるために向かう姿を描きます。
「制作の際に重要だったのは、視覚的に魅力的な一貫性のあるスタイルを保ちながら、ダイアナの故郷である肥沃なパラダイスと、戦争に破壊された冷たいヨーロッパの対比を異なる描写で見せることでした」とジェンセンは言います。「『ワンダーウーマン』は服装やセットに時代設定がありますが、本作においてパティは、スクリーン上で歴史的ではなくモダンな雰囲気を出したかったのです。現代のフィルムの素晴らしいところは、現場で露出や照明によってどんな描写も思いのままに作り出せる点です。私はフィルムが扱える色の幅広さやその繊細さ、ダイナミックレンジなどにずっと魅了されてきました。なので、作業はパティが最も魅力的だと感じる描写を探し、選ぶことが中心でした」
ジェンセンの撮影アプローチに最もインスピレーションを与えた参考として挙げられるのは、アメリカ画家のジョン・シンガー・サージェントによるエドワード朝を思わせる人物画です。ジェンセンはこう説明します。「私はシンガー・サージェントの色の使い方、特に人物画の光の当て方に感動しました。光は明るい肌の色で描かれる対象を包み込む一方で、背景は急激に暗くなっています。フィルムによる撮影では、この照明のアプローチによって、生き生きとした肌の色と、衣装やセットの強烈な色と深い黒を生み出せると思いました」
撮影監督のマシュー・ジェンセンとクルー Photo Courtesy of Warner Bros. Pictures. © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. and RATPAC ENTERTAINMENT, LLC.
バックライトの使用を控え、代わりに拡散したバウンス光を用いながら、ジェンセンは撮影に入る前にイギリスのワーナー・ブラザースのリーブスデン・スタジオで大規模なテスト撮影を行い、監督が好むカラーパレットを探りました。
「基本的には、影をより冷たく、ハイライトがより温かくなるようにしました」と彼は言います。「美術監督のアリーヌ・ボネットと衣装デザイナーのリンディ・ヘミングが数日おきに違う素材や質感を用意してくれ、私は異なる照明やフィルム、露出、フィルターやグレーディングを用いて実験し、パティが最高の反応を示すものを探しました」
このコラボレーションのプロセスによってジェンセンは、パナビジョンのプリモレンズと3種類のコダック 35ミリフィルムを用い、4パーフォレーション、アスペクト比2.39:1のワイドスクリーンで撮影することにしました。主な撮影は2015年の11月より、リーブスデンとロンドン近郊で始まりました。さらに、プリンセスダイアナの故郷のシーンのため、撮影はイタリアへと移りました。
ワンダーウーマン / ダイアナを演じる主演のガル・ギャドット Photo by Clay Enos / TM & © DC Comics. © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. and RATPAC ENTERTAINMENT, LLC.
「セットや屋外で、夜間または暗い冬の気候の戦時中や無人地帯の塹壕シーンを撮影する際には、高感度のコダック VISION3 500T カラーネガティブ 5219を用いました。映像中の影や暗い部分にはシアン色を強く表現したかったので、81EFフィルターを使い、部分的にフィルムに補正を加えました。画の彩度を下げていますが、肌は良い色調に保たれ、シーンの中では赤い2階建てバスの様に強烈な色も見ることができます」
これに加えて、イタリアでのプリンセス ダイアナの故郷セミスキラの撮影では、ジェンセンは50D 5203の強みに頼りました。
「私はセミスキラのシーンを、褐色の肌色とあふれる自然の太陽光で、力強くカラフルにしたいと思いました。感度が低く、細かい粒子と豊かな色味で、50D 5203は素晴らしい結果をもたらしました」
スティーブ・トレバー役のクリス・パイン(左)とダイアナ役のガル・ギャドット Photo by Clay Enos / TM & © DC Comics. © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. and RATPAC ENTERTAINMENT, LLC.
「250D 5207は感度が高いので、早朝における120fpsのスローモーションシーンなど、困難な状況での撮影に役立ちました。また、曇った灰色のロンドンで、トルコのセットを撮影した際には、そのフィルムの万能さを証明してくれました。私はフィルムをオーバー露光したり、色の飽和度を乱用したり、画を温かみのあるものにするために、フレーム内でデーライトとタングステン両方の照明を用いたりしました。フィルムのパフォーマンスは素晴らしく、満足のいく結果が得られました」
現在はコダック・フィルム・ラボ・ロンドンであるアイ・デイリーズ社がネガ現像とラッシュを担当し、カンパニー・スリー社によってフィルムのスキャンと最終的なデジタルインターメディエイトが作成されました。
撮影監督 マシュー・ジェンセン(左)とパティ・ジェンキンス監督 Photo by Clay Enos.
フィルムでの撮影に戻って4年が経つジェンセンは言います。「とても楽しい作業です。私はフィルムに強いられる現場での鍛錬を愛しているのです。フィルムを用いた撮影では、モニターあるいはビデオ・ビレッジとの往復をせずに、より現場に居ることができるので、デジタルよりも効率よく仕事ができると感じています。フィルム撮影では工程が凝縮され、自分の目と経験と露出計に頼ることになります。そしてラッシュを見る時には、デジタルでは得られない嬉しい驚きが常にあり、スリルと精神的な高揚感が得られます。それは例えば、役者の目の中のハイライトだったり、セットの深い黒に想像を超える程のディテールが表現できていたり、シーン中の色が交じり合い移り変わっていく様子だったりします」
ジェンセンは、次のように締めくくります。「私はフィルムとデジタルどちらが素晴らしいかという議論にはうんざりしています。クリエイティブにはオプションが必要であり、自分で選択できることが重要なのです。コダックは素晴らしい成果を出していますし、より多くの人がクリエイティブの権利を行使してフィルムへと戻ってくるのを見るのは喜ばしいことです。『ワンダーウーマン』の成功は私の想像をはるかに超えるものであり、本作の制作に参加できたことをとても光栄に思っています」
(2017年7月21日発信 Kodakウェブサイトより)
『ワンダーウーマン』
8月25日(金)全国公開!
原題 : Wonder Woman
製作国 : アメリカ
配給 : ワーナー・ブラザース映画