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2018年 1月 10日 VOL.096

【インタビュー】
正田真弘キャメラマン カラリスト田中基氏

~キャメラマンとして説得力のある作品を撮影する~

写真家としても知られる正田真弘氏に、CMでのフィルム撮影、フィルムレコーディングなどのワークフローの選択や、ご自身のフィルムに対する想いなどのお話をお伺いしました。また、レスパスビジョン株式会社のカラリストで、正田真弘氏の作品の多くに関わられている、田中基氏にもお話をお伺いしました。

コダック: グラフィック、CM撮影と幅広い分野で大変ご活躍されていますが、CMの撮影をされるようになったきっかけを教えて下さい。

 

正田C: 私は、石田東氏のグラフィックのアシスタントからキャリアがスタートしていて、いわゆるムービーの撮影助手の経験がないのですが、ある現場でCM、映画監督の真田敦氏と知り合ったことがきっかけです。その現場では、私はグラフィックで関わっていたのですが、ムービーの経験がまだ浅い時に、真田監督の作品で声をかけて頂いて、当時はもう毎月毎月、それこそ飲料から車まで様々なジャンルのCM作品でご一緒させて頂きました。全部フィルムで撮影していましたね。真田監督がフィルム派でしたので、一気にフィルム撮影の経験が増えました。真田監督と知り合っていなかったら、今のような感じにはなっていなかったと思います。今でもフィルム撮影についての新しい発見がありますし、そういった意味ではまだまだキャメラマンとして伸びしろがあるなと、自分では思っています(笑)。

CMでフィルムレコーディング(Fレコ)を選択される作品も多いですが、その理由を教えて下さい。

正田C: 3年前ぐらいまで、CMでは7割から8割の作品をフィルムで撮影していたと思います。2年前ぐらいを境にして、この監督とはフィルムだよねという間柄の監督との仕事が、徐々にフィルムじゃなくても良いという雰囲気になってきて、私自身もフィルムで撮影することが減ってきたなと感じたのがその頃です。デジタルで撮影してフィルムレコーディング(Fレコ)をするというワークフローが身近になったということもあります。ただ、Fレコするにも予算が必要ですので、プロダクションにも交渉して予算を確保してもらいます。そのワークフローの方が、作品の仕上がりが良くなるということをちゃんと説明して、理解してもらいます。仕上がった画を観てもらうと納得してもらえるのですが、最近は制作の方もフィルムに馴染みがない世代の方が増えてきて、Fレコする意味とか、その画の違いを具体的にイメージできないという方も多くなってきたなと感じています。打ち合わせの段階で、監督がやった方が良いと判断してもらえると話は早いのですが、どちらでも良いということだと、制作スタッフを説得する必要があります。ネガ撮影と違ってFレコをやりたいという話を制作サイドから断られたことはあまりないのですが、『早稲田アカデミー』のCMは、その予算を獲得するために、制作の方に会う度に「Fレコしたいんだけど」という話をしていました。私は結構粘るタイプなんですよ(笑)。最初の打ち合わせから、「予算が少し厳しいので」というプロダクションからのジャブがありましたが、結果的には、Fレコを選択して良かったと制作サイドにも思って頂けた作品です。少し古いですが、NHKの大河ドラマ『真田丸』のオープニングもFレコで仕上げた作品です。

田中氏: 『早稲田アカデミー』のCMは、Fレコのネガを弊社でスキャンして仕上げて頂いた作品ですね。
 

早稲田アカデミー

ブランドムービー「屋上」篇

早稲田アカデミー

ブランドムービー「バス」篇

やりがいのある緊張感がある現場

どのような企画だと、フィルム撮影を選択されますか?

正田C: まず会話劇とか、役者さんの演技で心情に深みのある内容のものはフィルムで撮った方が良いと思いますね。それ以外だと草原とか、緑の面積が多い画を撮影する時と、人間の肌の表現が重要なときはフィルム撮影を選択します。植物の緑の発色と、肌のトーンの表現は、やはりフィルムだなと思います。あと白バックとか黒バックなど、背景が単一色の場合も、フィルムで撮影すると背景に表情が出ますよね。大前提として、ネガで撮りたいという内容のお仕事の依頼がくるということがありますけど(笑)。

撮影の現場はいかがですか?

正田C: フィルム撮影は、現場に緊張感があります。やりがいのある緊張感というか。デジタル撮影の場合だと、現場のモニターでピントなどスタッフ全員が確認できますし、仕上がりの責任が分散されていますが、フィルム撮影の場合はファインダーを覗いているのは自分だけですし、監督もモニターでは判断しきれない点もあるので、そういう意味ではチーフ、照明部、などにも緊張感があると思います。そういう現場って良いものですよね。役者さんも、それを粋に感じてくれている面もあります。あるグラフィックの現場で、ジョージ・クルーニーさんとの仕事があったのですが、フィルムで撮影したら非常に喜んでくれました。グラフィックの現場で、フィルム撮影ということが逆に懐かしかったようです。シャッターを切る音とか、フィルム待ちの時間とか、楽しんでくれてました。CMの現場でもフィルムだと役者さんの感じ方が違うと思いますし、現場への良い効果って沢山あると思います。それから、実は撮った作品をグレーディングする時も凄く緊張感があって楽しみなんです。

田中氏: フィルムで撮影されたものをグレーディングするのは、カラリストとしても、緊張感があります。緑の発色や、日本人の肌の質感なども正田さんのおっしゃる通りだと思います。予算の状況もあるとは思いますが、出来ればテレシネではなくて、せっかくネガで撮影されたのであればその情報量をフルに活かせるスキャンを選択して頂ければと個人的には思います。

私もそうですが、一番初めにその画を観た衝撃は、今でも覚えています。画のキレとか、こんなにもクリアで綺麗なのかと。オフライン後の使いどころだけをスキャンするという方法であれば、予算的にも可能な場合があるのかなと感じます。もちろん撮影で回すネガの量にも関係してきますが。弊社では、4K、6Kのスキャンも可能ですので、お気軽にご相談頂ければと思います。

「良いのはフィルムです」

『サントリー 緑茶 伊右衛門』は、フィルム撮影ですね?

正田C: そうですね。緑茶 伊右衛門は、はじめはデジタル撮影からのFレコを考えていたのですが、制作サイドからフィルム撮影を提案されました。ただ、舟の川下りのシーンの撮影で、機材も舟に乗せてという撮影だったので安全面を考えてデジタル撮影かなとも思ったのですが、結果的に、画の抜けに緑も多いですしフィルムで撮れて良かったです。

制作サイドからフィルム撮影を提案されるというのは珍しくありませんか?

正田C: そういうお話は稀で、制作サイドからはよく「フィルムルックで」という依頼があるのですが、でも「撮影はデジタル撮影でお願いします」ということの方が多いです(笑)。だったらなぜフィルムで撮影しようとならないのか不思議ですが、まあ、予算の都合ということだとは思います。ただ、制作サイドの都合だけに協力していると、キャメラマンとして監督に対してベストを尽くせていない場合もありますので、その辺りはバランスだと思います。プロダクションサイドの気持ちも理解できますが、仕上がりは明らかに違うものだと思っています。グラフィックの現場だと、仕上がりの違いはもっと顕著だと思いますね。「良いのはフィルムです」ってはっきり言います。

田中氏: ポスプロでお仕事させて頂いていますので、予算については避けては通れないのですが、フィルムで撮った画を、フィルムの良さを引き出して仕上げるためには絶対的にポスプロでの工程が重要ですので、それについて何かしら協力させて頂けることはあると思います。例えば、作品の狙いに合えば、16mmフィルムからのスキャンという選択もありだと思います。16mmフィルムの心地良い粒子感と、エッジのキレに驚かれると思います。

説得力のある作品を撮影する

ご自身の今後の展望については、どのようにお考えでしょうか?

 

正田C: 若い世代の人たちにもフィルムに触れる機会があって、フィルムが良いものだと認識して選択できる環境を、現役の私たちが残していかないといけないと感じます。そういう人材をしっかり育てていかないといけないと本当に思いますね。フィルムもデジタルも変わらないだろうと思っている人には、私たち世代が全然違うという説得力のある作品を撮影して、作品を通して表現していく責任があると思います。そうしないとフィルムかデジタルかを選択すること自体がなくなるという、私としては考えられない状況になっていくわけですから・・・。そのためには、自分がやりたいことをやれるように日々、自分も成長していかないといけないと思っていますし、説得力のあるキャメラマンにならないといけないと思っています。良い企画に恵まれて、それをフィルムで撮れて、スタッフ全員がフィルムで撮って良かったと満足してもらえるようなキャメラマンになりたいです。常にベストな選択ができるキャメラマンでいたいと思います。フィルムで撮影した方が、絶対に良い仕上がりになると分かっているのにその選択をしないということは、キャメラマンとしてどうかと思いますし、予算の兼ね合いでそれが実現出来ないと、冗談ですが子供みたいに悔しくて泣いちゃいますね(笑)。また、“フィルム=お金がかかる”というイメージをなんとかしたいです。実際にそうなのかもしれないのですが、人材を育てるという意味も含めて良い作品を残していきたいです。フィルムがなくなったら、この職業をやっていて本当につまらないと思いますし、そのためにもキャメラマンとして、理想のあるべき姿で若い撮影を志す方々に夢を与えられるようにやっていきたいです。フィルムという選択肢がなくなるということはグラフィック、ムービーどちらの現場も有り得ないと思っています。

(インタビュー:2017年7月)

 PROFILE  

正田 真弘
しょうだ まさひろ

1977年生まれ。東京造形大学デザイン科卒業後、石田東氏のアシスタントを経て、渡米。2008年、「IPA (International Photography Award)」のセルフポートレイト部門で金賞受賞。翌年帰国した以降は、グラフィック、テレビCM、雑誌連載等、幅広いジャンルの作品を数多く手がける。「TAPA (Tokyo Advertising Photographers Award) 2015」受賞。日本広告写真家協会「APAアワード2017」経済産業大臣賞受賞。2016年に作品集「DELICACY」を上梓。

田中 基
たなか もとい

1976年新潟県上越市生まれ。IMAGICA、ソニーPCLを経て、2011年レスパスビジョン入社。カラリストとして、テレビCM、MVなどの作品を手がける。

 WORKS  (文中作品含む、敬称略)

■ フィルムレコーディング作品

早稲田アカデミー バス篇、屋上篇
製作:ロボット 監督:柴田大輔 
コダック VISION3 カラー デジタル インターメディエイト フィルム 2254

NHK大河ドラマ『真田丸』

オープニングタイトル
製作:NHK 監督:新宮良平
コダック VISION3 カラー デジタル

インターメディエイト フィルム 2254

https://www.epoch-inc.jp/works/sanadamaru_op/

サントリー オランジーナ

「先生登場」篇、「ニブイヒト」篇
製作:電通クリエーティブX

監督:関口現
コダック VISION3 カラー デジタル

インターメディエイト フィルム 2254

■ ネガフィルム作品

サントリー 緑茶 伊右衛門 「川下りの夏」篇
製作:東北新社 監督:サノ☆ユタカ 
コダック VISION3 カラーネガティブ フィルム 250D 5207

■ 正田真弘氏 その他 作品

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