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2018年 1月 30日 VOL.097

ハンガリー・ドイツ合作映画『ジュピターズ・ムーン』

2017年度カンヌ国際映画祭を沸かせたフィルム映像

2017 (C) Proton Cinema - Match Factory Productions - KNM

コダックの35mmフィルムで撮影された、コーネル・ムンドルッツォ監督のインディペンデント映画『ジュピターズ・ムーン』が、2017年度カンヌ国際映画祭の栄えあるパルムドールのコンペティション部門で上映されました。

ストーリーでは、若い中東の移民アリアンが不法越境する際に撃たれ、難民キャンプに放り込まれます。負傷した若者は恐怖とショックに陥りながらも、不思議なことに、自分が自在に宙に浮かぶことができるようになったと気づきます。アリアンの隠れた特殊能力を利用しようとするシュテルン医師は、アリアンをキャンプから連れ出します。激怒したキャンプの監督官に追われ、2人の逃亡者は安全とお金を求めて逃亡します。アリアンの驚くべき能力に触発され、シュテルンは倫理に背く世界に身を投じることを決めるのですが、そこではわずかなお金で奇跡が取引されます。

ライティングやフレーミングについて監督と最初に話し合った時のことを思い出しながら、撮影監督のマルツェル・レーヴは「不安定な近未来のディストピア(暗黒郷)がこの映画の舞台設定です」と述べました。2014年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞したムンドルッツォの過去作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』もレーヴが撮影をしました。「退廃的なセットの効果を高めるためには、有機的で汚れた粗い感じを出すのが一番いい、とコーネルと私は話し合いました。フィルムの質感や粒子感を使い、形式を自由にできるカメラと組み合わせて撮影をすることが、ディストピアへの出発点として最も簡単なのです」

ハンガリーの撮影監督 マルツェル・レーヴ(HSC)

「我々は現実主義的なアプローチをしようとしていましたが、同時にディストピアという舞台設定でのアリアンの空中浮揚の奇跡と魔法を際立たせたいとも思っていました。なので、いくつかのサイエンスフィクションの要素を、全体的な美学に取り入れることにしました。不穏で、より汚い未来的な感じに見せるため、力強い黄色や冷たいシアンの色を使うのです。ここでもフィルムの方がいいことが分かります。デジタルよりもフィルムの方が、色を捉えることに優れているのです。あれこれいじったり、セットの造作物を調整したり、ポストプロダクションで色味を強くしたりということに時間を使う必要がありません。手にするものを、最終的にそのまま見られるのです。フィルムはあなたの創造のビジョンをきちんと捉えてくれます」

この作品は、ハンガリーのブダペスト市街およびその周辺で、2016年夏に6週間かけて撮影されました。徹底的なテストの後、レーヴはARRICAM LTカメラおよび1000フィートマガジン、そしてハンガリーのARRI社のオフィシャルパートナーであるVisionTeam社が扱うマスタープライムレンズに決めました。実際の撮影では主に21mmレンズを使うことになったと彼は言います。21mmレンズは、生き生きとした画質で俳優のクローズアップを捉えることができるので、芝居と観客の間に特別な繋がりをもたらしてくれます。

35mmカメラで撮影中のマルツェル・レーヴ(HSC) Photo by Bence Szemerey

レーヴは全体を、コダック VISION3 500T 5219の1タイプのみで撮影しました。「『ジュピターズ・ムーン』のアクションの80パーセントは夜に行われたので、露光の点で500Tが便利だと思いました。主にT2.0辺りで撮影しています。1タイプだけで撮影したのは、セットをシンプルにしておくためと、映画を通して粒子を均一にするためでもありました。照明用のフィルターを、1つのシーンに何色も使うことがよくあり、500Tならセットの見たままをきちんと記録できるということが分かっていました」

また、長回しが頻繁にあり、空中浮揚のいくつかのシーンではさまざまなクレーンや特殊なカメラリグにカメラを装着したり吊るしたりしました。それを除けば、レーヴは大半を手持ちカメラで撮影しました。

カメラリグに装着した35mmカメラで撮影するマルツェル・レーヴ(HSC)Photo by Bence Szemerey.

テイクの長さと、空中浮揚のために予め設計された15種類のセットについてレーヴは、「私のスタッフたちにとっては困難な仕事になりましたが、彼らの努力によりすばらしいものになりました」と述べています。フォーカスプラーはイヴァン・ブニュエル、カメラ技術者およびセカンドの撮影助手はペテル・ブスロミニでした。照明はガボール・ヘヴェジィで、彼はしばしば、360度カメラの動きに対応できる照明機材の設置を担当しました。特殊機材全体を監督したのはロベルト・ナギでした。

『ジュピターズ・ムーン』のフィルム現像処理は、ブダペストのFocus Cinelabs社で行われ、ストックホルムのChimney Pot社でマッツ・ホルムグレンが最終的なタイミングを担当しました。「セットで撮影した映像と色が、現像から最終的なグレーディング作業までそのままきちんと保たれていました」とレーヴは振り返ります。

カンヌのレッドカーペットに降り立つ準備をしながら、レーヴはこう締めくくりました。「いろんなフォーマットをよく知っていますし、どのようなフォーマットも受け入れますが、『ジュピターズ・ムーン』をフィルムで撮影できたことは大きな喜びでした。私はフィルムで撮影された映画を見て育ちました。フィルムには、他のものと簡単には置き換えられない特別な魔法があり、開始からプロジェクトに価値を添えてくれ、良質な美しさをもたらしてくれます。映像に対する正統性がそこにはあります。カメラの前の現実に近く、何よりも想像力により近いのがフィルムなのです」

(2017年5月16日発信 Kodakウェブサイトより)

『ジュピターズ・ムーン』

 2018年1月27日より全国公開中
 原題   : Jupiter holdja
 製作国  : ハンガリー・ドイツ合作

 配給   : クロックワークス

 公式サイト: http://jupitersmoon-movie.com/

 予告映像

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