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2018年 2月 23日 VOL.099

ソフィア・コッポラ最新作

『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』

撮影監督フィリップ・ル・スール(AFC)がコダックの35mmフィルムで生み出す魅惑的な美しさ

(C)2017 Focus Features LLC All Rights Reserved

2017年に海外で公開された映画の中で最も期待された作品の1つが『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』です。ソフィア・コッポラ監督の最新作であり、同年のカンヌ国際映画際のコンペティションでも上映されました。

撮影監督フィリップ・ル・スール(AFC)によってコダックの35mmフィルムで撮影された本作は、南北戦争の真っただ中のバージニアにある古びた寄宿学校、マーサ・ファーンズワース女子学園で世間から離れて暮らしていた女性グループに焦点を当てています。コッポラの映画は、トーマス・カリナンの1966年の同名小説『The Beguiled』を基にしており、過去にも、1971年にドン・シーゲルが監督し、クリント・イーストウッドの主演で映画化されました。

コッポラのリメイクでは、ニコール・キッドマンが園長役で主演を務め、キルスティン・ダンストがエドウィナ教師を、エル・ファニングが10代の生徒アリシアを演じます。学園は戦争の影響をほとんど受けずにいましたが、負傷した北軍兵士(コリン・ファレル)が学園の敷地の外にある森の奥深くで見つかったことで、隔離された女性たちの生活がかき乱されます。彼を迎え入れ、かくまう日々が続き、彼が女性たちの心の中に入り込み始めると、学園内で誘惑、嫉妬、血なまぐさい復讐といった話が絡み出します。

(C)2017 Focus Features LLC All Rights Reserved

本作は2016年11月から12月にかけて26日間で撮影され、すべて、歴史あるメイドウッド・プランテーション・ハウスでロケーション撮影されました。メイドウッド・プランテーション・ハウスはルイジアナ州ナポレオンビルにあり、浮世離れした外観にふさわしいような装飾が施されました。

ル・スールは「ソフィアは過去のドン・シーゲルの映画版のことを知っていましたが、男性主人公から焦点を変え、女性キャラクターの視点からストーリーを描きたいと考えていました」と語ります。「この作品は隔離された場所にいる女性たちの間に起きる変動、兵士に対する性的欲望、脱出への願望を探求しています。蒸し暑い“ディープサウス(アメリカ最南部)”という異国のような舞台設定で、我々は視覚的な美学を変化させていくことを検討しました。つまり、おとぎ話のような始まりから、物語が進むにつれ、徐々にゴシック調に、より不穏にしていくのです」

(C)2017 Focus Features LLC All Rights Reserved

ル・スールは映画の冒頭について、ロマン・ポランスキーの『テス』(1979年、撮影監督ギスラン・クロケ/ジェフリー・アンスワース BSC)および、ピーター・ウィアーの『ピクニックatハンギング・ロック』(1975年、撮影監督ラッセル・ボイド)から視覚的なインスピレーションをもらったと言います。「それらの映画の軽く、彩度の低いビジュアル、パステルカラーが呼び起こす、どこかしらセンチメンタルな幸せは、我々のストーリーにおける南部の上品さにぴったりだと感じました」

「ソフィアがかつて行ったことのないほど暗いところへ行く」ため、ル・スールはスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(1975年、撮影監督ジョン・オルコット BSC)も参考にしました。特にろうそくの明かりに浮かび上がる、雰囲気ある屋内のシーンです。また、物語中の場面の不吉さとサスペンスをより高めていく効果は、ヒッチコックの『汚名』(1946年、撮影監督テッド・テズラフ)に影響を受けています。

「どのフォーマットで撮影するかという相談は特にありませんでした」と撮影監督は認めています。「ソフィアは私にスクリプトを渡すとすぐに、『ビガイルド』はフィルムで撮影する予定だと言ったのです」

ル・スールは、高い評価を得ている撮影技師、故ハリス・サヴィデス(ASC)によって初めてコッポラに紹介されましたが、彼はフィルムでしか長編作品を撮影したことがありませんでした。ル・スールがクレジットに名を連ねる作品には、リドリー・スコットの『プロヴァンスの贈りもの』(2006年)、ガブリエレ・ムッチーノの『7つの贈り物』(2008年)、ウォン・カーウァイの『グランド・マスター』(2013年)があります。

「ソフィアも私も、フィルムの質感が大好きなんです」と彼は言います。「彼女がこの作品で求めていたパステルカラー、暗い影、肌のトーンに関して、まさしくフィルムこそがふさわしいと私は感じました」

ル・スールは屋内、屋外、夜間のシーンと、撮影を通してコダック VISION3 500T 5219を使いました。「500Tで得られる粒子や質感、低めのコントラストが好きなんです」

ロザンゼルスの現像所、フォトケムと連携して作業し、ル・スールは全尺を減感現像することに決めました。友人であるサヴィデスが好んだテクニックで、『ビガイルド』のネガを1絞り減感現像したのです。

ル・スールの説明によれば、「減感現像は全体の粒子感やコントラストをやわらげる効果があり、ハイライトやブラックの中のディテールを保ち、視覚的な色使いにおいてパステルカラーの範囲を広げることができます」とのことです。「結果として、暗いろうそくの明かりのシーンでも、影の中にさまざまなイメージのディテールを擁した、ソフトで優雅な画になります」

寄宿学校内の主人公たちの監禁された状態を強調し、演者たちのボディーランゲージを捉えるため、ル・スールは『ビガイルド』のフレームを1.66:1のアスペクト比にしました。

「画面幅の広いフォーマットでの撮影では、ボディーランゲージを見るため、より幅を広く構図を決めなければなりません」とル・スールは説明します。「幅が狭く、縦が長い1.66:1のアスペクト比だと、ぴったりとキャラクターだけの画を撮ることができ、囚われている感覚を伝えられるだけでなく、キャラクターたちの重要な身振り手振りもすべて収められるのです」

ル・スールは本作で、日中と屋外のシーンでクックS2レンズを、夜間の屋内および暗い森での屋外ではより口径の大きいツァイス ウルトラ スピードを使って撮影しました。両方のレンズの設定は、色、ボケ、レンズフレアといった視覚的特徴を調節し、パナビジョン・ロサンゼルスで調整されました。ル・スールが「非常にシンプルでありながら、非常に洗練された美しさ」と表現する、1860~70年代のティンタイプの写真のような繊細な画のケラレを生み出すため、特別なマグネット式のレンズ装具も作られました。

視覚によって物語を伝えるための重要な要素として、至近距離の動かないカメラが必要でした。彼の説明によると、「ソフィアはそれ自体を目的としてカメラを動かすことを嫌がります。彼女が好むのは、ものごとをシンプルに保つことです。つまり、演技やミザンセーヌ(演出)を、そのシーンの感情に対して矛盾がないようにすることです。我々は現場に撮影したものをチェックするビデオモニターを置きませんでした。それはつまり、彼女は我々全員に、特に私の構図とフレーミングに、そして特にフィルムに対して信頼を置いていたということです」

『ビガイルド』をコダックの35mmフィルムで撮影するという決断を振り返り、ル・スールは最後にこう述べました。「フィルムは今もなおとても美しく、すばらしい見栄えをもたらしてくれます。ソフィアと私にとって、35mmがこの作品の力強い美しさに対する最高のアプローチだったことは間違いありません」

(2017年5月16日発信 Kodakウェブサイトより)

『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』

 2018年2月23日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
 原題   : The Beguiled
 製作国  : アメリカ

 配給   : アスミック・エース、STAR CHANNEL MOVIES

 公式サイト: http://beguiled.jp/

 予告映像

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