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2018年 3月 9日 VOL.100

​創刊 100号 記念インタビュー

第13期撮影助手育成塾卒塾 第35回青い翼大賞受賞

撮影助手 三代郁也氏

~将来日本を代表するキャメラマンになるのが最大の目標!~

おかげさまで本誌は通算100号を迎えました。フィルムを支持してくださるクリエイターの方々や読者のみなさまに支えられてここまで継続することができました。スタッフ一同、厚く御礼申し上げます。次の200号に向け、気持ちも新たに取り組んでまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

​この記念すべき100号にあたり、私どもはひとりの若い撮影助手の方をピックアップさせていただきました。熱意をもって撮影技術の習得に励んでおられる未来のキャメラマンが今、何を思い、どんな将来をイメージしておられるのか、その率直な声を聞かせていただきましたので、ぜひご一読ください。

三代郁也(みしろふみや)氏は、卒業制作作品『春みたいだ』(監督・脚本・編集:シガヤダイスケ氏)における撮影・照明の技術が高く評価され、日本映画テレビ技術協会の「MPTE AWARDS 2017 青い翼大賞」を受賞されました。今回、16mmフィルムで撮影された受賞作品について、そして日本大学芸術学部在学中に日本映画撮影監督協会の撮影助手育成塾に入塾され、山田洋次監督最新作『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』(2018年5月25日公開)に撮影助手として参加し、経験されたことについて伺いました。

コダック: 撮影・照明技術で「青い翼大賞」受賞、誠におめでとうございます。まずは受賞されたことの率直な感想をお聞かせください

 

三代氏: すごくうれしくて、最初はびっくりしました。

 

私は大学1年生の時から自主映画を撮ってきたのですが、学生映画の場合、撮影と照明がはっきり分かれ、どちらかというと撮影だけっていう人が多いんです。でも私は照明も結構好きで、現場へ行って照明の先生にお話を伺っていました。


いい画ってライティングで決まると思うんです。今回の『春みたいだ』のカメラワークは監督と一緒に考えたんですが、照明では陽が沈む瞬間を個人的には狙ったり、光には結構こだわったんです。また、学校にはディフュージョン系のフィルターがあまりないので、自分で色々な種類を集めて使いましたし、光の柔らかさにも結構こだわりましたした。雨のシーンも多かったのでその照明も結構難しかったです。


照明で一番苦労したところは、印画紙に画が浮かび上がるカットです。実際にモノクロの印画紙に画が浮かび上がるのに影響のない照明で撮ろうとすると、最初500Tでは光量が足りませんでした。テストを繰り返して、その瞬間を撮るのに最適な照明を決めたんですが、それが大変でした。そういう意味で照明も一緒に評価して頂いて受賞できたということはとてもうれしかったです。
 

『春みたいだ』の劇中カットより

卒業制作ではフィルムとデジタル1作品ずつ制作されたと伺いました。『春みたいだ』の方をフィルムで撮影するという選択をされた理由は何でしょうか?

三代氏: この作品は、同性愛をテーマにした作品で生々しさが欲しくて、それを表現するにはフィルムだろうと監督とも話してフィルムで撮ることにしました。もう1作品の方も私自身はフィルムで撮影したかったんですが、結局ALEXAでやることになったんです。それならデジタルでどれだけフィルムに近づけられるかを在学中にやれればいいなと思って制作しました。グレインを足してみたり、スキントーンにもこだわってみたりしましたが、フィルムの感じをあまり出すことはできませんでしたね。今思うともっと色々なことをやっても良かったかも知れません。

今回、使用されたフィルムタイプは何でしょうか?


三代氏: 500T 7219と250D 7207の2タイプで、ナイトシーンが多かったので500Tの方が割合としては多かったですね。

フィルムで撮影して良かったこと、あるいは大変だったことはありましたか?

 

三代氏: 大変というか、私の普通のミスなんですが、夕日が沈む頃を狙って、主人公2人の絡みのシーンの撮影があったんです。そこで私はベッドでいろんな角度から撮影をしていたのですが、そのシーンの撮影に余りに入り込みすぎてしまってフィルムが途中でロールアウトしてしまったんです。それと同時に陽も落ちてしまって(笑)。でも十分撮れていたので大丈夫でしたけど。

一方で、カメラがARRIの416だったのでモニターも出せたんですけど、ほとんど出さずに、画は私に任せてもらって、芝居は監督というふうに分けられたのがすごく良かったと思います。

学校のCintel Scannerで2Kのネガスキャンをしたのですが、その画を監督と観て、テンションが上がりながらチェックしていました。最終的な仕上がりは思った以上のものでした。

それから今回、画の中にいろんな色を散りばめたんです。例えば、赤い毛布に黄色い枕などを入れたんですが、色一つ一つと空間が馴染んでデジタルではこうはならなかったんだろうなって思って、フィルムで撮影してとても満足してます。

「青い翼大賞」授賞式にて、左から『春みたいだ』のシガヤダイスケ監督、三代郁也氏、日本大学芸術学部映画学科准教授の増田治宏氏 写真提供:(一社)日本映画テレビ技術協会

育成塾に入って本当に良かった

在学中に育成塾に入塾された動機は何でしょうか?

 

三代氏: 自分の撮影助手としての能力をもっと上げたかったというのが入塾した理由の一つです。実は今の学生はフィルムに対する怖さがあるんです。失敗した時に、キズを付けたらどうしよう?、切ったりしたらどうしよう?、感光させたらどうしよう?、など考えると撮影でフィルムを選択するのが怖くて選ばない学生たちが本当に多いんです。学校でもまずはミスが起きないようにという話から始まるので、余計に気になって。実際に1,2年生の時に失敗してしまったことなどをネガティブに捉えて、機材を選ぶときにデジタルを選ぶようになっているのかも知れません。

育成塾での座学の様子

三代氏: そのような状況で私は35mmが未経験だったので、このまま現場に出て失敗するよりも育成塾で少しでもフィルムを触って経験することが必要だと思いました。「フィルム出来ます」とまで行かなくても「経験あります」と言えるようになりたいと思いました。私は本当にフィルムが好きなので、いつか絶対にフィルムの現場に出たいと思っていました。

育成塾では撮影助手に必要な基本を実践的に習得する

今回、山田組の現場につくことになった経緯は?

三代氏: きっかけは近森眞史キャメラマンが私の学科の先生で、今までのセカンド、サードの方々が一つずつ上がってサードの枠が空いていたので直接声をかけて頂いたのがきっかけです。
 

山田組の現場を経験して自信になった

山田組の現場をやってみてどうでしたか?

 

三代氏: フィルムの現場はこれが初めてなので他との比較はできませんが、山田組の現場自体は割と時間があって、例えば極限状態でのロールチェンジみたいなことはあまりなく、比較的余裕をもって現場をやっていました。フィルムの残数をチェックしたり、フィルムのことを撮影部の先輩たちと話したり、自分で色々考えながらやれましたので、フィルムを覚える現場として本当に恵まれていたと思います。ただ16mmは経験がありましたが、35mmでのフィルムローダーとしては山田組が初めてでしたので滅茶苦茶緊張しました。山田組の映画を私のミスで全部ダメにすると思うと、、、撮済のフィルムを抜く瞬間は本当に緊張しました。


でも育成塾で色々な先輩からフィルムの詰め方を教えてもらっていましたので、山田組では山田組のやり方はありますが、育成塾で教わった経験を活かしながらやれました。実際の現場では知っているということは本当に大事だと思いました。現場では育成塾でやったことよりもっとたくさんのことを求められましたが、フィルムに対する恐怖心がなかったとか、フィルムのことを少しでも分かっているという点など、育成塾に行っていたことが本当に自分のプラスになりました。
 

『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』の撮影現場にて、左から山田洋次監督、特機の柳川敏克氏、近森眞史キャメラマン、撮影助手の三代郁也氏

Ⓒ2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」製作委員会

若い助手の方々がフィルムの現場に出るのに必要なことはどのようなことだと思いますか?

三代氏: 例えば、育成塾ですと色々な先輩方が教えにいらっしゃるので、その方々と繋がって、それをきっかけとして現場に呼んでもらえるようになることがあります。そういう意味では先輩の方々とコミュニケーション取ることは大事だと思います。私は話をいっぱいする方です。
    
どのようなサポート(協力)があれば、若い方たちがもっとフィルムの方に行けると思いますか?

三代氏: もっとフィルムを詰める機会があればいいと思います。助手の人たちにカメラと“おばけフィルム”があって、自由にフィルムを詰める練習が出来る場があるとか。おばけフィルムを助手はそんなに持っていないですし、機材屋さんにも沢山はないですから。そこで練習できると助手たちの強みになると思います。そのようなフィルムを触る機会があれば自信にもつながりますから。是非機会を作ってもらえると良いと思います。


私は育成塾を出てからローダーをやっていなかったので、今回の山田組の準備期間中にメチャメチャ練習しました。そして助手として1作品を経験したことは自信になりましたので、これからもしどこかでフィルムを詰められる助手を探していたら自信を持って「私出来ます!」と言えると思います。それだけ山田組で1作品経験したことは大きかったです。
 

今の助手の仕事は大切

最後に今後のご自身の目標や展望についてお聞かせください。

三代氏: 日本を代表するキャメラマンになるというのが最大の目標です。色々なジャンルもやりたいですが、やはり劇映画のキャメラマンになりたいです。それもハリウッドのキャメラマンの撮影の方が凄いって言われるのではなく、日本人にしかできない撮影をするキャメラマンになれたらいいと思っています。


ただ、その目標に向かって行くには今の助手という仕事が大切だと思います。今すぐキャメラマンになれるわけではないので、助手で学んだことなどを生かして、難しいかも知れませんが、できれば1年に1作品は自主映画を撮りたいですね。理想はフィルムで撮りたいですけど(笑)。

(インタビュー2017年12月)
 

 PROFILE  

1995年生まれ。
2017年日本大学芸術学部映画学科撮影録音コース卒業。在学中、俳優の山田孝之監督作品、歌手のTEEのMV「恋の始まり」の撮影を担当。
現在はフリーランスの撮影部として活動。
 

三代 郁也
みしろ ふみや

受賞歴:『春みたいだ』が東京学生映画祭にて観客賞、審査員特別賞受賞。第36回PFFアワードにて、エンターテインメント賞(ホリプロ賞)受賞。

*青い翼大賞
「映像制作技術」を対象とした学生の賞となり、次世代を担う新たな才能の発掘・育成を目的とした顕彰活動。
 

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