2018年 3月 16日 VOL.101

映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』

「もうデジタルで撮影したいとは思わない」~ヨルゴス・ランティモス監督~

主演のニコール・キッドマンとコリン・ファレル (C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

コダックの35mmフィルムで撮影された『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』で、ヨルゴス・ランティモス監督は、不安を呼び起こすユーモアと恐怖に満ち、ギリシャ悲劇、リアルな戦慄、ヒッチコックのような心理劇、釘付けになるサスペンスといった要素が散りばめられた、見ごたえのあるスリラーを作り出しました。

本作で描かれる主人公は、地位のある心臓外科医スティーブン・マーフィー(コリン・ファレル)です。彼は、眼科医の妻アナ(ニコール・キッドマン)、12歳のボブ(サニー・スリッチ)と14歳のキム(ラフィー・キャシディ)の2人の賢い子どもという非の打ち所のない家庭を持っています。しかし、のどかな郊外での生活の周辺には、父親のいないティーンエイジャーのマーティン(バリー・コーガン)が潜んでいました。マーフィー医師は密かに彼の面倒を見ていたのです。マーティンは、常に人を不安にさせるような方法で、マーフィー家に巧みに入り込み始めます。医師自身が長らく忘れていた罪をマーティンが医師に突きつけた時、マーティンの目的の全貌が恐怖の中で明らかになります。その罪とは、3年前に手術台で起きたマーティンの父親の死でした。復讐にとりつかれたマーティンの行動は、マーフィー家の幸せをめちゃくちゃにします。誰かが死なねばならず、誰を選ぶかは、医師が決めなくてはなりません。

本作は、イギリスとアイルランドの合作で、2017年カンヌ国際映画際でパルムドールを争い、脚本のランティモスとエフティミス・フィリップが脚本賞を受賞しました。その力強いストーリーと想像をかきたてる描写で世界中の批評家たちから賞賛されました。

主な撮影は、撮影監督ティミオス・バカタキスのもと、2016年8月にオハイオ州シンシナティというロケーションで行われました。ロケーション撮影では、キリスト病院や街のハイドパーク、近郊のノースサイド、さらにロジャー・ベーコン高校での学校のシーンを撮影しました。

マーティン役のバリー・コーガン (C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

ランティモス監督の説明によれば、セルロイド(フィルム)での撮影は、プロジェクトの当初から決まっていたそうです。「フィルムがもたらす成果が好きなんです。常に私にとって満足以上の結果になります。私がデジタルを使った時は、好みよりもむしろ必要に駆られてだったのですが、デジタルで撮影をして楽しい気持ちになったことはありませんでした。私の最初の長編映画『Kinetta(原題)』(2005年)は16mm、2作目『籠の中の乙女』(2009年)は35mmで撮影しました。しかし、さまざまな複雑な事情により、『Alps(原題)』(2001年)と『ロブスター』(2015年)はデジタル撮影でした。この2作をデジタルで撮影したことで、できうる限り、2度とデジタルで撮影したくないと私は固く心に決めたのです。フィルムは実際に画を何か違うもの、より美しいものに変身させてくれるという点が気に入っています。ですが、作品が醜いものであれば、並外れて醜くなるのもフィルムなのです」

実際にランティモスがフィルムに戻ってきたことは、彼の最新作である、アン王女の宮廷における不義、情熱、嫉妬、裏切りを描いたみだらな物語『The Favourite(原題)』(撮影監督ロビー・ライアン、BSC、ISC)が35mmフィルムであることでも分かります。

自然な仕上がりにするために、ランティモスは照明を足すのは必要最低限だけにして、できるだけ自然光が利用できる時に撮影することを好みます。「この手法によっていくらか困難な状況に陥る時もありますが、フィルムの撮影は明るい時の方が安心できますね」と彼は言います。「ハイライトが飛んでしまうなど、どうにもならないことがセットでは起きるものですが、フィルムだとより上手く仕上がります。フィルムは、デジタルよりも視覚的にかなり寛容に捉えてくれるのです」

(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

監督はサイコドラマの要素を強めるため、視点の上や下からという極端なアングルから登場人物たちを追い、観察して、作品の中でカメラが異質で不安を煽る存在に感じられるようにして欲しいと撮影監督に指示しました。そこでバカタキスは、かなり広い画郭で撮影するために、10mm、12mm、17mmという焦点距離から超広角のパナビジョン ウルトラスピードとツァイス マスタープライムというレンズを選びました。これらに一般的な85mmから150mmの範囲から、浅い被写界深度でも登場人物の目などの顔の特徴を至近距離でクローズアップすることが可能な、焦点距離の長いレンズも加えました。カメラがドリーで移動しているほとんどの間は、オプティモのズームレンズが心象の不気味さを捉えるのに役立ちました。

デーライトフィルムとタングステンフィルムを試した後、バカタキスはコダック VISION3 200T カラーネガティブ フィルム 5213と500T 5219を選びました。選んだ主な理由として、それらのフィルムの質感が好みだったことを挙げています。

「作品の大部分は500Tを使って撮影しましたが、真っ昼間の屋外のシーンを撮る時には200Tに切り替えていました」とバカタキスは語ります。「粒子や肌の質感の表現や色の深みにおいて、2つのフィルムはお互いにとても相性が良いのです」

「日中のシーンだと200Tの美しさが全体的に好きですが、私が仕事で一番好んで使うコダックのフィルムは500Tかも知れません。とても感度が高く、ダイナミックレンジがすばらしいです。作中には、人工の光の中に移動する前に明るい日光で始まるシーンがいくつかありました。撮影中、慎重に露光量を調節すれば、500Tの露光ラチチュードのおかげで、画の一番明るい部分と非常に暗い部分のディテールを捉えつつ、それだけ幅広い撮影が簡単にできるのです。また、露光で失敗したとしても、撮影された映像はまだ良く見えます。デジタルだと、露光を間違えると決して良くは見えません」

さらにバカタキスはこう述べています。「デジタルと比較すると、フィルムの方がよりうまく光を捉えることができます。フィルムは撮影した映像をさらに豊かにし、映像に深みを与えてくれます。私にとってデジタルは綺麗過ぎ、冷た過ぎるのです。納得のいく映像にするために、画にたくさん加工を施さなくてはなりません。他とは違う“ルック”(映像の見た目)を生み出そうする時であっても、デジタルの作品だと同じ質感や雰囲気に偏ってしまいます。それだけでなく、フィルムで撮影すると、セットでも非常に魅力的に感じることがあります。セットにいる誰もが、いつもより各々の仕事に集中するのです」

ヨルゴス・ランティモス監督と主演のコリン・ファレル (C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

この点についてランティモス監督も同意しています。「私はフィルムの感触が好きで、暗室での装てんから現像にいたるまで、取り扱いに注意が必要なところが好きなんです。俳優やスタッフたちは、カメラ内で貴重な素材が回っているのだということにいつも以上に配慮しなければなりませんし、我々もカメラを回し続けることはしません。セットはフィルムに対する敬意にあふれ、自分がその一部であることにみんなワクワクします」

『聖なる鹿殺し~』はイギリスとアイルランドの合作ですが、撮影済みのネガはイギリスに送られました。そして、ロンドンのゴールドクレストで最終のグレーディングが行われ、アイ・デイリーズ社(現在は、パインウッド・スタジオの一区画に拠点を置くコダック フィルムラボ ロンドン)で現像されました。異なるルックをもたらすために、バカタキスは夜のシーンと屋内のシーンは2絞りまで増感し、粒子と色の彩度を上げました。そして日中のシーンでは、コントラストを弱め、彩度がやや落ちるという効果をもたらす1絞りの減感を行いました。

「増感および減感現像はフィルムにすばらしい効果をもたらし、ヨルゴスが求めていた美しさを強く支えてくれました」とバカタキスは振り返ります。効果的にルックを焼き付けられることが、フィルム撮影のさらなる強みとしてランティモスが高く評価している点なのです。

「フィルムで撮影する時には、人工的な加工が一切ない、当初から意図していたルックで編集とグレーディング作業に取りかかります」と監督は言います。「質感、色、肌のトーン、ハイライトとブラックといったディテールはすでにそこにありますからね」

フィルムで撮影しようと考えている人たちにどんなアドバイスをするかと尋ねると、ランティモスは「とにかくやってみること。フィルムがもたらす仕上がりが想像をはるかに超えているということが分かるでしょう。ラボとセルロイドがある限り、私はフィルムで撮影をしていくつもりです」と答えました。

(2018年1月24日発信 Kodakウェブサイトより)

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』

 2018年3月3日より全国順次公開中
 原題   : The Killing of a Sacred Deer
 製作国  : イギリス・アイルランド合作

 配給   : ファインフィルムズ

 公式サイト: http://www.finefilms.co.jp/deer/

 予告映像

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