
2018年 5月 16日 VOL.107
映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
ショーン・ベイカー監督、フィルムで撮影しフィルムに残すことを他の映像製作者たちに呼びかける

ウィレム・デフォーとブルックリン・キンバリー・プリンス Photo courtesy of A24.
「とても美しく、胸を打ち、控えめでありながらも“最初から最後まで”見事な完成度。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、間違いなく2017年の最高傑作の1つ」。ショーン・ベイカー監督の6作目の映画について、オーストラリアのヘラルドサン紙にはこのように評しました。
コダックの35mmフィルムで撮影された、製作費300万ドルの本作は、2017年カンヌ国際映画祭でお披露目され、批評家から賞賛を浴びました。2017年10月の拡大公開を待たず、すぐに配給会社A24に買われ、次々と賞を獲得すると同時に、世界中の熱狂的な評価を着実に得てきました。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』で批評家たちの心を強く揺さぶったのは、現代アメリカにおける社会福祉についてのまじめな問題を提起しつつ、アメリカの人口の中で取り上げられることのない部分を鮮やかで共感できる“ルック”(映像の見た目)を用いながら、観客にのめり込ませる視聴体験でいかに描いたか、ということです。

バレリア・コットとブルックリン・キンバリー・プリンス Photo by Marc Schmidt, courtesy of A24.
本作は、フロリダのディズニー・ワールドのすぐそばにあるマジック・キャッスル・モーテルで、手に負えない母親ヘイリー(ブリア・ヴィネイト)と暮らす6歳のムーニー(ブルックリン・プリンス)を描いた物語です。隣のフューチャーランド・モーテルに住むジャンシーなど、モーテルで暮らす他の子供たちと遊びながら、ムーニーは1日のほとんどを誰にも面倒を見られずに過ごしています。いたずら好きなムーニーは、無職の母親が生活をやりくりするためにささいな計画をいろいろと実行している間、他のモーテルでいたずらをしかけたり、地元のアイスクリームパーラーで観光客にお金をせびったり、挙句には、寂れたマンションを誤って全焼させたりします。そんな住人たちを慈愛の眼で見守るのが、マジック・キャッスル・モーテルの管理人ボビー(ウィレム・デフォー)です。しかし、ヘイリーが住人ではない客を自分の部屋に招いて個人的なサービスを提供する時には、ボビーと言えども児童保護局の介入を止めることができません。母親から引き離されることに気づいたムーニーは、近くのディズニーリゾート内にあるシンデレラ城の前の人ごみの中に隠れようと、ジャンシーと共に逃げ出します。

クリストファー・リベラ、ブルックリン・キンバリー・プリンス、バレリア・コット Photo by Marc Schmidt, courtesy of A24.
映画のタイトルは、計算された皮肉なひねりが込められており、ウォルト・ディズニーが陽光の州(フロリダ州)に“未来都市”の理想を最初に構想したときに名付けたリゾートの初期のプロジェクト名に由来しています。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の撮影は、国道192号線沿いのディズニー・ワールド近くのキシミーという街にある、鮮やかに塗られたマジック・キャッスル・モーテルで35日以上かけて行われました。ワイドスクリーンのアナモフィックでの35mmフィルム撮影を監督したのは、撮影監督のアレクシス・サベでした。
ベイカーは、共同脚本のクリス・バーゴッチがきっかけで本作のアイデアに興味を持ったと言います。「クリスは、こういったモーテルが定まった住居を見つけられない家族の最後の避難所になっていることに気づいたのです。彼は一連のニュース記事を通じて、その状況に私の注意を向けてくれました。この映画で焦点を当てたのと同じく、子供にとって地球上で最も幸せで魔法のような場所のすぐ外には、モーテルの中で育っている子供たちがいるという対比に基づく記事です」
「そこで我々は、積極的にその話をしてくれる人々に会いに現地に行きました。モーテルで暮らす人たちだけでなく、モーテルの従業員や管理人、小企業のオーナーや、必要な人に社会事業を提供する機関の人たちにもです。多くの情報を得て、昔ハル・ローチが制作した『ちびっこギャング』(1922~44)の新バージョンを作るチャンスがふんだんにあることをすぐに理解しました。その作品では、アメリカ大恐慌の貧困と対比させ、同等に交流する黒人と白人の子供たちのゆかいな冒険と、子供時代の喜びに焦点を当てていました。我々がそういった物語の現代版を作るためには2008年の不況と、それがキシミー周辺の家庭や子供たちにもたらした影響を取り上げればいいのだと思ったのです」

ブルックリン・キンバリー・プリンスとバレリア・コット Photo by Marc Schmidt, courtesy of A24.
では、ベイカーはなぜ、この胸を突く物語をフィルムで、鮮やかな色使いで撮影することにしたのでしょうか?「私はどのメディアも支持しますが、35mmやフィルムには総じて何かがあるのです。誰が何と言おうと、デジタルでは得られない何かが・・・、それは映像の有機的な質感なのです。その場面にかけたいフィルターが何であるかに関わらず、文字通りデジタルでは不可能なフォトケミカルな工程の中で何かが起きるのです。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』には、非常にカラフルな、映画らしい美しさが欲しいと思っていました。観客に、国道192号線沿いの本物の世界や本物の生活に入り込んでもらい、そこに生きて息をして欲しかったのです。それを一番実現できるのがフィルムでした」
「また、私は何年もの間、困難な環境に置かれた子供たちの写真をたくさん見てきました。フィルムで撮影された写真にはいつも独特の何かがあり、私は、写真集の雰囲気を映画に取り入れたいと思いました。この点においても、フィルムの“ルック”が必要だったのです。

Photo by Marc Schmidt, courtesy of A24.
実用的なところで言えば、フィルムはその性質上、制作中のリズムやペースを生んでくれます。フィルムで撮影する時の、現場での皆のまとまりや統制のとれた取り組み方が、私は非常に好きなのです」
これを踏まえて、ベイカーの撮影監督サベは、本作で3タイプのフィルムを選びました。屋外用にはコダック VISION3 50D カラーネガティブ フィルム 5203、日中の屋内および曇りの午後用には250D 5207、夜間の屋内用には500T 5219です。昔ながらのパナビジョンEシリーズのアナモフィックでアクションを撮影し、キャラクターのクローズアップの時だけは55mmのマクロレンズを使いました。
「50Dと250Dには美しい粒状構造がありますが、威圧的ではありません」とベイカーは述べています。「両方とも色彩がとても豊かで、得も言われぬ特別なものがあり、それが映像美を独特な感じで高めてくれます。それはデジタルでは得られません。そういったすべてが、この物語を他とは一線を画すものにしてくれました」
ベイカーは、本作の最後のシーンを、ディズニー・ワールドのマジック・キングダム内でiPhoneを使い、リゾートの認知も同意も得ず、ゲリラ方式で隠れて撮影しました。ポストプロダクションでこのシーンをフィルムに戻し、再スキャンするというのがベイカーの意図でした。「オリジナルの映像とフィルムに出力した映像をA/Bテストで比べてみると、フィルム出力した映像には明白な違いがありました。フィルムが1つ上を行く“ルック”にしてくれたのです」
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や、『Prince of Broadway(原題)』(2008)、『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』(2012)、『タンジェリン』(2015)を含む他のベイカー作品の衝撃は、彼の作品をフィルムで後世に残すようアメリカ議会図書館から招聘を受けるほどのことでした。

Photo by Marc Schmidt, courtesy of A24.
「自分の作品の6作中4作をデジタルで撮影しました。これらの作品をデジタルフォーマットできちんと確実に保存するのにどれだけ悩まされることか、言葉では言い表せません」と彼は言います。「LTOテープに頼る不確実性や、ハードドライブが回転するか確かめることは本当に頭痛の種です。保存目的のフィルムについて語るクリストファー・ノーランを私は全面的に信じており、支持しています。保存という点について言えば、35mmのプリントやネガは間違いなく、数百年間は作品を完ぺきな状態で保ってくれます」
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』への高まる賞賛や評価について、ベイカーはどう考えているのでしょうか? 「作品を上映するたびに、すばらしい反応をもらってきました」と彼は言います。「連邦政府が住宅都市開発省への予算を削減せず、必要としている人々に不可欠なサービスを届ける機関を支援することが非常に重要なのです」
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』をフィルムで撮影した思いは? 「35mmがどういうものかも思い出させてくれてありがとう、とみんなが言っています。大きなスクリーンにくっきりと作品が映し出されるので、鑑賞するのが楽しいですね」
本インタビューを通して、ベイカーは他の映像製作者たちに明快な呼びかけをしています。「我々は、フィルムが危機に瀕している同じ時代に生きています。フィルムを支えていくことは、フィルムというメディアを大切にする映像製作者の責任なのです。フィルムは、我々が映画と呼ぶすばらしい芸術様式を生み出しました。現実はそうではなくても、安くて早いと認識される別のものがやって来たからという理由のみで、フィルムを消えさせてはいけません。私にはフィルムというメディアを生かし続ける一助を担うすべがあり、自分がそれを行ったことを誇りに思います」
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
原 題: The Florida Project
製作国: アメリカ
配 給: クロックワークス
公式サイト:
http://floridaproject.net/