2018年 8月 8日 VOL.113
映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
撮影監督 ロブ・ハーディ、ロング インタビュー(前編)
(左から)ベンジー・ダン役のサイモン・ペッグ、イルサ・ファウスト役のレベッカ・ファーガソン、イーサン・ハント役のトム・クルーズ、ルーサー・スティッケル役のビング・レイムス Copyright: © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
「おはよう、ハーディ君、今回の君の使命は、来年と少しの間、2018年で最も期待されているアクション映画、遠隔地や魅力的な場所、怪しげな場所など、世界各地のロケーションで、神経がすり減るようなスタントを自分で行うトム・クルーズの主演作を撮影すること、そして、ハラハラドキドキの連続を35mmフィルムに捉えること、それが君のミッションである」・・・撮影監督ロブ・ハーディ(BSC)に寄せられたオファーはこのようなもので、もちろん彼はイエスと答えました!
クリストファー・マッカリーが監督、脚本、共同製作を担当した『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、パラマウント・ピクチャーズのシリーズ第6作で、本シリーズはこれまで27億ドル以上の収益を上げてきました。第5作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年、撮影監督ロバート・エルスウィット(ASC))を監督したマッカリーは、シリーズで初めて2作連続の監督を務めました。
最新作の予算はまだ明らかになっていませんが、前作で費やされたのと同じく、1億5000万ドルほどのようです。前作は、見事6億8200万ドルの興行成績を収めました。今回のエピソードでは、インポッシブル・ミッション・フォース(IMF)の仕事は失敗に終わり、世界は危険な状況に直面します。イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、自分への本来の指示内容を全うする責任を負うのですが、CIAが彼の忠誠心や真意を疑い始めます。世界の危機を防ごうと奮闘しながらも、ハントは突如、時間との戦いの中で自分が暗殺者だけでなく、かつての仲間からも追われていることに気づきます。
本作はクルーズに加え、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ショーン・ハリス、ミシェル・モナハン、アレック・ボールドウィンが出演しており、全員過去作からの役を再び演じています。さらに、ヘンリー・カヴィルとアンジェラ・バセットがシリーズに加わりました。
オーガスト・ウォーカー役のヘンリー・カビル Copyright: © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
ハーディがクレジットに名を連ねる作品には、ジョン・クローリー監督作『BOY A』(2007年)、『レッド・ライディング I :1974』(2009年、ジュリアン・ジャロルド監督)、『ブロークン』(2012年、ルーファス・ノリス監督)、『エレン・ターナン ~ディケンズに愛された女~』(2013年、レイフ・ファインズ監督)、さらにアレックス・ガーランド監督による『エクス・マキナ』(2014年)と『アナイアレイション -全滅領域-』(2018年)があります。
この規模の作品で、撮影監督が自らAカメラで撮影することを選ぶのはかなりまれです。しかし、アクションにクローズアップし、肉薄することを好むハーディが行ったことはまさしくそれでした。3ヶ月の準備期間を経て、2017年4月に35mmでの撮影がパリで開始され、その後、ノルウェー、ニュージーランド、インド、ロンドン、そして包括的なセットが作られたワーナー・ブラザース・スタジオ・リーブスデン(ロンドン北西部)に移りました。
ニュージーランドでの撮影の終わり頃、ハーディは息子アーサーを出産する妻のそばにいるため、イギリスに戻る特別許可を得ました。出産日には、クルーズとスタッフたちがハッピーバースデーを歌う動画を受け取りました。
Copyright: © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
2017年8月、ロンドンでのスタント中にクルーズは右足首に重傷を負い、回復するまで制作は2ヶ月間中断となりました。撮影は2018年3月末にアラブ首長国連邦(UAE)で完了し、勇敢なクルーズは、UAEでC-17軍用輸送機からの高高度降下低高度開傘(HALO)のジャンプシーンを遂行しました。
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、通常の上映に加え、2D IMAX、RealD 3D、IMAX 3Dで公開される予定です。ロン・プリンスは、映画における撮影監督の仕事について理解を深めるために、ロサンゼルスで幼い家族と過ごすハーディと意見を交換しました。
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の撮影に呼ばれて、非常に興奮されたと思いますが、どのように関わっていったのですか?
ハーディ: そう、まさに興奮しました。他に2作品、以前やったことと似たタイプの作品の企画を検討していたのですが、クリストファー・マッカリーと話して欲しいという依頼を受けたのです。ミッションは、まったく別物の挑戦でした。クリストファー、トム、共同製作の1人ジェイク・マイヤーズは撮影監督を探しており、アレックス・ガーランドが『アナイアレイション -全滅領域―』の編集を行っているソーホーの編集室にやって来たのです。トムと一同は、アレックスと一緒に座り、カットを見て、私の仕事についていろいろと質問をしました。その時トムが特にこだわっていたのは、私がどれくらい、得意とする陰鬱さに対応できるのかという点についてでした。彼らは見たものを気に入ってくれ、私は2日後に電話を受けました。
映画についてのあなたへの指示は最初どういったものでしたか?
ハーディ: クリストファーとトムの2人が強調していたのは、過去の作品とは完全に異なる、より暗くて不気味な画を作ることでした。クリストファーも、前作とはまったく違う人が監督したようなものにしたいと思っていました。なるべく全部を実際に撮影し、グリーンスクリーンで時間を使って、膨大な視覚効果を用いることはしたくないという強い希望があったのです。壮大なスケールであっても、アプローチは非常に実地的なものでしたね。基本に立ち戻った、生っぽくエネルギッシュな『フレンチ・コネクション』の制作スタイルでした。
ホワイト・ウィドウ役のバネッサ・カービー Photo Credit: David James. Copyright: © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
35mmフィルムで撮影することは必須条件でした。それに、クリストファーとトムと会えたのは新鮮でした。特にトムは、人を惹きつけ、伝播していくようなエネルギーを持った人で、それによって人の全力を引き出し、最善を尽くさせてくれるのです。
クリエイティブの面で特に参考にしたものは何ですか? また、『ミッション:インポッシブル』の過去作を見ましたか?
ハーディ: 『ミッション:インポッシブル』シリーズはよく知っていて、第1作、第4作、第5作を見直しました。これでよく分かったのは、新作のルックがどうかということよりも、キャラクターについてと、シリーズのストーリーの繋がりでした。初期段階では、耳を傾け、話し合うこと、これまでのシリーズで意識を向けていた場所はどこなのかという感覚をつかむことが私にとって肝心だったのです。
クリストファーは大変なシネフィル(映画ファン)で、私たちは幅広くいろいろな映画のことをたくさん話しました。暗さとサスペンスを強調する効果と、象徴的で品があり、緊迫したフレーミングについては、特に70年代の、スタイリッシュで自然主義的なルックのスリラー、『コールガール』(1971年)、『大統領の陰謀』(1976年)(両作とも監督はアラン・J・パクラ、撮影監督はゴードン・ウィリス(ASC))について話をしました。
他のことからもインスピレーションをもらいました。例えば、パリのグラン・パレでの盛大なパーティーのシーンが映画の導入部にあるのですが、私は、2003年にテート・モダンのタービン・ホールで開催された、オラファー・エリアソンの「ウェザー・プロジェクト」のまばゆい太陽の光の効果を思い出したのです。その効果は本作に独特の雰囲気を生み出してくれるだろうと思っていました。
(左から)バネッサ・カービー、ヘンリー・カビル、トム・クルーズ Photo Credit: Chiabella James. Copyright: © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を35mmフィルムで撮影することについてはどうなると予想していましたか?
ハーディ: 長編の企画を35mmで撮影するのは久しぶりで、『ブロークン』(2012年)と『エレン・ターナン ~ディケンズに愛された女~』(2013年)以来でした。フィルムでの撮影と実践での必要な作業に再び順応するのに少し時間が必要でしたが、すぐに、デジタルよりもセルロイドで撮影する方が簡単で確実であることを再発見することになりました。慣れ親しんだ状態に戻ること、ファインダー越しにものを見て、レンズと光の間に起きる反応を詳細に確認すること、フィルムでの撮影に伴う規律を持つことは最高でした。思い返せば、その経験はすばらしく、フィルムは決して我々の期待を裏切りません。
どんなカメラとレンズを選んだのですか?
ハーディ: 洗練され、軽量で静かな35mmのスタジオカメラ、パナビジョンのミレニアムXLを選びました。簡単に手持ちやステディカムモードに切り替えられるカメラです。万能な短いファインダーや延長のファインダーも選べ、我々が撮影するスタントをすべて考慮すると、ミレニアムXLが便利だろうと思いました。また、うまく伝わるか分かりませんが、1980年代のIBM社のコンピューターの色にどこか似ているのも気に入っています。
レンズについては、いつも仕上げたいルックに合わせて選んでいます。『エクス・マキナ』ではクックのXTAL EXPRESSレンズを、『アナイアレイション -全滅領域―』はパナビジョンのプリモとGシリーズを組み合わせて使いました。これらのレンズは、各作品で使っていたそれぞれのデジタルカメラに装着すると、映像にまったく別の個性をもたらしてくれました。
とは言え、特にCシリーズは高価な製品であり、スタントシーンでレンズを傷つけたり壊したりするリスクがあることは理解していました。それでバックアップとして、Eシリーズと球面レンズを使ったのです。幸運にも何も壊れませんでした。本当ですよ。
どの焦点距離のレンズを好んで使いましたか?
ハーディ: アクションに接近し、より没入でき、ドラマチックな映像にするために、あえて広い画角を使いました。ストーリー的に近いという感覚は、非常に重要なツールだと感じたのです。ロケーションとセットアップによっては、75mmと100mmも使いましたが、近接の感じの点で、35mm、40mm、50mmが主力のレンズでした。
クリストファーとトムは制作中、結構私をからかいました。広角レンズを使い続けることをネタに、誰かが些細なジョークを次々と繰り出すのを聞いたのは初めてでしたね。もう1つ、ヘリコプターを飛ばしているトムを、ヘリコプターの中から私が直接撮影するのがいいと主張するのも彼のお気に入りのジョークでしょう。高度2,700メートルで、手持ちのカメラで、パイロット席に座る彼のそばでですよ。トムはずっとそのアイデアを面白がっていました。
Copyright: © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
どんなフィルムを選びましたか?また、それはなぜですか?
ハーディ: 屋外の大部分は、コダック VISION3 50D カラーネガティブ フィルム 5203を使いました。色彩の表現が豊かで、光と影の強弱を非常にうまく処理することができるからです。陽の当たる明るい通りから、陰った裏通りへとアクションが移動し、太陽光の角度が常に変わっていくような長いシーンがあるだろうと思っていました。50Dは、こういったショットに必要なラチチュード(露光寛容度)を与えてくれ、デジタルでは見たことがないようなハイライトと影の中に一定のディテールをもたらしてくれます。
ひどい曇りで50Dを使うのが難しいと思った日には、感度125で昼光バランスにしたコダック VISION3 200T カラーネガティブ フィルム 5213を使いました。室内と夜のシーンはすべて感度320で昼光バランスにしたコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219を使って撮影しました。500Tは実に万能なフィルムです。彩度とコントラストが気に入っていて、豊かな黒の中のディテールがただただすばらしいのです。
概して、シーンを明るくすることが多い私のスタイルは、ソフトにしつつタングステンの方に向けるというというものでしたが、フィルムが捉えた映像はとにかく素晴らしいものでした。そればかりか、何もいじることなく、自分が見たままに捉えることができました。
本作は主に35mmフィルムの作品でしたが、デジタルで撮影した空撮の部分もありますね。これはなぜだったのですか?
ハーディ: 初期の映画の公開スケジュールはニュージーランドで撮影した空中でのヘリコプターのスタントシーンと、トムが高度6,000メートルのC-17からジャンプしたスカイダイビングのシーンのIMAX上映が含まれています。これらのシーンをフィルムで完ぺきに撮影することはできたのですが、航空機の手配と長時間の撮影からして、フィルムの掛け替えのために着陸し続けることは現実的ではなかったのです。
ですから、これらのシーンにはパナビジョンDXLカメラを選び、8Kで撮影しました。DXLは当時新しく、ほとんど誰も使っておらず、ちょっとした実験でした。我々は真冬の空中での撮影でその性能を試すつもりだったのです。元NASAの技術者が、軽量のすばらしいカメラのハウジングとともに航空機の内と外に丈夫なマウントを固定しました。心配は無用で、DXLは完ぺきな仕事をしてくれました。
※ 次号、後編に続く
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
原 題: Mission: Impossible - Fallout
製作国: アメリカ
配 給: 東和ピクチャーズ
公式サイト: http://missionimpossible.jp/