2018年 8月 16日 VOL.117

グリンダ・チャーダ監督が英国領インドの最後を描く『英国総督 最後の家』 ― ベン・スミサード(BSC)がコダック フィルムで撮影

Picture by Kerry Monteen. Copyright Pathé UK.

「フィルムでの撮影は、いつだって良い経験です。少し月並みな言い方ですが、『フィルムは魔法』というのは…まさしくその通りです! ドラマとインド全体の雰囲気を捉えるという、私が求めていたルック(映像の見た目)を作るには、デジタルよりもフィルムを使った方が簡単だろうということは初めから分かっていました。簡単に言えば、フィルムで作ることにより、最終的な仕上がりがより良くなるのです」

このように語るのは、2017年で70周年を迎えたインドの分割を描く、パテ/BBC制作の歴史ドラマ『英国総督 最後の家』の撮影を、グリンダ・チャーダ監督から任された撮影監督のベン・スミサード(BSC)です。

インドの大都市デリーの総督官邸は、国家を統治するイギリス人総督の邸宅でした。300年を経て、イギリスの支配は終わりを迎えようとしており、ヴィクトリア女王のひ孫にあたるマウントバッテン卿は、1947年の6ヶ月間でインドの地を現地の人々の元に返すという任務を負い、最後の総督に着任するのでした。

ジョードプルで撮影中のベン・スミサード(BSC) Photo by Kerry Monteen.

本作のストーリーが繰り広げられる大邸宅は、現在はインド大統領の公邸として使用されており、ラシュトラパティ・バワン(大統領官邸)と改名されています。ニューデリーのラジパースの西の端にある、340もの部屋がある広々とした邸宅は、1.3平方キロメートルの土地に建てられ、世界の国家元首の邸宅としては最大となります。

マウントバッテン卿は妻と娘と共に上階に住んでおり、下階にはヒンドゥー教徒、ムスリム、シク教徒の使用人たち500人が住んでいました。政界エリートのネール、ジンナー、ガンジーは総督邸に集まり、独立インドの誕生を巡って激論を交わすのですが、対立が勃発してしまいます。下された決定は、国を分け、新しくムスリム国家パキスタンを創建するというものでした。それに伴い、1400万人という人類史上最大級の移民が強制的に移動させられ、宗教対立による暴力、飢餓、病気による死者の数は100万人にのぼりました。現在にも影響を及ぼす、非常に重大な決定だったのです。

映画の1シーンから、ジンナー役のデンジル・スミス、, マウントバッテン卿役のヒュー・ボネヴィル、マウントバッテン夫人役のジリアン・アンダーソン Picture by Kerry Monteen. Copyright Pathé UK.

本作は、ディッキーとエドウィナ・マウントバッテンという夫婦、そして、ヒンドゥー教徒の若き使用人ジートとムスリムの女性アーリアとのロマンスという2つの結びつきを通して、これらの重大事件を考察します。若き恋人たちは、マウントバッテン家との衝突や、それぞれが属するコミュニティーとうまくいかない中で、自分たちが帝国の終わりという大事件の真っただ中にいることに気づきながらも、決して希望を捨てません。ヒュー・ボネヴィルとジリアン・アンダーソンがマウントバッテン卿とその夫人を演じ、マニーシュ・ダヤールとフマー・クレイシーがジートとアーリアを、タンヴィール・ガニーがネールを、デンジル・スミスがジンナーを、ニーラジ・カビがガンジーを演じました。

好評だった『マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』を2014年にジャイプルで撮影したスミサードは、「インドが大好きなので、あそこに戻りたいと切望していました」と述べています。「実話が好きで、実在した人物や出来事についての映画を作るのは楽しいです。『英国総督 最後の家』は人間を描いた魅力的なストーリーなので、非常に興味をそそられましたし、また、そのストーリーが主人公たちそのものよりも幅広く共感を呼ぶのです。ですから、撮影を担当して欲しいというグリンダ監督からの誘いを断る理由はありませんでした」

グリンダ・チャーダ監督(左)と撮影監督のベン・スミサード(BSC) Image courtesy of Pathé UK.

しかし、ラシュトラパティ・バワンは映画スタッフの立ち入りが禁止されており、実際の撮影はラジャスタンのジョードプルにある大きなホテルを本物の大邸宅に見立てて行いました。本作の主要な撮影は、2015年8月の終わりに猛暑の中で開始し、10週間後に終わりました。

本作のルックを決めるにあたり、スミサードは直接的に他の映画を参考にするのではなく、ネールやジンナー、ガンジー、マウントバッテン、エドウィナ、官邸などの当時のスチル写真と、オリジナルのカラーおよび白黒のアーカイブを調査しました。

「インド、そして人々の着こなしは、現在ほどカラフルでも鮮やかでもありませんでしたが、にも関わらず色彩に富んでいました」と彼は振り返ります。「当時の画像を調べていく中で、私は、コダクローム カラーリバーサル フィルムのすてきな色調、上品な色味、イメージのディテールを再発見したのですが、このルックは現在のセルロイド(フィルムの意)で簡単に作れると思いました」

夜のシーンで露出を確認する撮影監督のベン・スミサード(BSC) Photo by Kerry Monteen.

「そこで、実際の物流面について共同プロデューサー、ポール・リッチーの真摯なサポートを得て、私はグリンダに、この独特のビジュアルスタイルを持った『英国総督 最後の家』を35mmで撮影してはどうかと提案しました。私のクリエイティブ面の提案を快諾してくれたばかりか、本作をフィルム以外のメディアで撮影することは考えていないと彼女が言ってくれたのは嬉しい驚きでした」

多くのドラマ作品は屋内撮影の際、フレームに複数のキャラクターが存在することがよくあるため、スミサードはクックS4プライムとアンジェニューのズームレンズを使って、『英国総督 最後の家』を2.35:1の画角で撮影することにしました。「上部の空きよりも横幅の方が必要だったのですが、2.35:1は構図にまとめる上でいろいろな点で非常に実用的です」と彼は説明しています。

フィルムの選択については、スミサードは昔風のやり方で、日中の屋内と屋外はコダック VISION3 250D カラーネガティブ フィルム 5207を、そして夜の屋内と屋外のシーンはコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219で撮影することにしました。また、イーストマン ダブル-X 白黒ネガティブ フィルム 7222の16mmフィルムも部分的に使い、難民キャンプや荒廃した村を訪問するマウントバッテン家のアーカイブ風の映像を撮影しました。

「粒子は好ましいのですが、私は最終的な映像をクリーンでリアルに見せたいと思っていました。250Dと500Tはうまく調和しながら、まさしく求めていたものをもたらしてくれました」と彼は言います。「暗いところであっても、イメージの中のディテールをきちんと捉えてくれる250Dの力量には毎回衝撃を受けます。ラチチュードがすばらしく、全体のシーンと同様に表情の中のニュアンスも映し出してくれるうえ、その後のポストプロダクションでハイライトやブラックの中のディテールを調整する際にかなり融通が利きます」

(左から)撮影監督のベン・スミサード(BSC)、俳優のマイケル・ガンボン、グリンダ・チャーダ監督 Photo by Kerry Monteen.

スミサードは、250Dの性能をどれほど追い込んだかという例として、邸宅の巨大な客間で起こる、マウントバッテンとエドウィナ2人だけの緊迫した親密な夜のシーンを挙げます。「その場にはオイルランプやキャンドルがたくさんあり、暖かいオレンジの色調で、そのロケーションとドラマにぴったりでした。普通なら500Tを使い、この状況のオレンジの度合いを和らげようとするでしょう。しかし本作においては、その色がその時の夫婦にかかっている感情的なプレッシャーに実に合っていました。求めている露出にするためにいくらか照明を足すと、250Dは暗さ、質感、全体的な映像のインパクトと共に、非常に見事に彩度のあるイメージを生み出してくれました」

500Tについてスミサードはこう述べています。「グレーディングの時に必要とされるかも知れないディテールを捉えることができる500Tが私は特に好きなのですが、そのディテールは特に顔にすばらしい陰りのある上品なルックをもたらします。デジタルに比べると、照明を急かすプレッシャーもなく、暗い場所でも撮影でき、最終的な映像で見せたいものをコントロールするのも簡単です。500Tはどんな時でも、手間を減らしてくれるのです」

アーカイブされた当時のドキュメンタリーフィルムに匹敵するものを作るため、スミサードはダブル-X 白黒ネガティブ フィルム7222の16mmを使いました。「7222は美しい粒子組織をしており、私のお気に入りのフィルムの1つです。本作で、物語を伝えるには最高の道具であることを証明しました。俳優を撮影している時でも、本物のアーカイブであるかのような、美しく、印象に残る映像を作ることができ、見ている人を違和感なく当時に導いてくれました」

マウントバッテン卿のヒュー・ボネビルとその妻エドウィナ・マウントバッテン役のジリアン・アンダーソン Picture by Kerry Monteen. Copyright Pathé UK.

照明については、スミサードはキノフロやLEDを使うのは控え、HMIとタングステンの照明を使うようにしました。摂氏40度にもなる夏の気温の中ではありましたが、ハードライトとソフトライトの照明テクニックを駆使し、当時のルックに近づけました。

「1年の中でもあの季節のインドの暑さはひどく、本当に我慢できないほどなのですが、構わず続けなければいけません」と彼は言います。「ありがたいことに、フィルムの保管に私のオフィスを使っていたので、小休止があり、その時は冷房を強くしました」

現地で撮影したフィルムは、シネラボでの現像とシニア・カラリストのポール・ディーンの監督のもとで「Technical Best Light」の変換(技術的に最良の値での変換)を行うため、定期的にロンドンに送られました。グレーディングされた素材は確認用ラッシュ、編集用ファイル、未編集のマスターのファイルとして使われ、DI(デジタル インターミディエイト)では最小限のグレーディングだけで、スミサードが求める仕上がりにすることができました。

「インドに行く前に、『英国総督 最後の家』のルックにクリエイティブ面で何を求めるかをポールとシネラボで話し合い、私たちは製作の間ずっと連絡を取り合っていました」とスミサードは言います。「彼は熱心で、全工程で非常に助けになってくれました。4ヶ月間、彼と共同プロデューサーのポール・リッチーのおかげで、輸送とワークフローは完ぺきでした。やりたいことがあれば、それが可能だということをただ見せてくれるのです。「Technical Best Light」のおかげで、私が長年一緒にやっているカラリスト、ロンドンのモリナレのガレス・スペンスリーとDIをやろうとした時には、全体のルックがうまく仕上げられ、まったく問題はありませんでした。DIでは、必要に応じ、徹底的なディテールの掘り下げや、肌のトーンを巧みに調整することにほとんどの時間を使いました。フィルムはいろんな意味で、非常に寛容だからです」

(2017年2月22日発信 Kodakウェブサイトより)

『英国総督 最後の家』

 原 題: Viceroy's House
 製作国: イギリス
 配 給: キノフィルムズ

 公式サイト: http://eikokusotoku.jp/

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