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2018年 8月 22日 VOL.118

有名ブランドのTVCMや人気アーティストのPVを数多く手掛ける撮影監督、ザック・スパイガー氏 ― フィルムで撮影する夢をかなえ、多くの人に追随して欲しいと願う

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パリを拠点に活動する撮影監督、ザック・スパイガー氏

「シネマトグラフィー(映画撮影術)が僕を選んだのです」― パリを拠点に活動する撮影監督ザック・スパイガーはこのように語ります。「もともとは監督になりたかったのですが、人々は僕がカメラで撮影する映像が好きだったみたいで、これが天職なのだとわかりました。デジタルで撮影することも頻繁にあったけれど、僕は幸運にもフィルムで撮影するという夢をかなえています。だから、他の人も同じ道を歩めるよう手助けをしたいと心から思っています」

急激な勢いで数多くの作品クレジットに名を連ねる32歳のスパイガーは、バドワイザー、Google、ディオール、スミノフ、VONS、ヴァレンティノ、VOGUEの広告や、ヤング・ファーザーズの『Mr. Martyr』、The Dove and The Wolfの『The Words You Said』、アリエル・ピンクの『Another Weekend』、トラヴィス・スコットの『Butterfly Effect』といった大人気アーティストたちのスタイリッシュなミュージックビデオを、すべてフィルムで撮影しています。

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ザック・スパイガー氏が監督・撮影を担当したThe Dove and The Wolfのミュージックビデオ『The Words You Said』より

スパイガーには持って生まれたフィルムにかける情熱があり、35mm一眼レフカメラだけでなく、16mmや35mm映画カメラの個人コレクションも着実に増やしてきました。さらには、映画用ネガフィルムの保管場所を自宅の掃除道具を入れる戸棚の中に設けています。様々な探究を通してフィルムの美しさを称え続ける彼は、パリの映像制作業界では「フィルム・ガイ(フィルム・マニアの男)」と呼ばれています。

「自分が携わる新作はすべて、できるだけ16mmもしくは35mmのフィルムで撮影しようとしています」とスパイガーは言います。「スーパー16mmで撮影した『キャロル』、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』、『Mother!』や、スーパー35mmで撮影したHBOのテレビドラマシリーズ『ウエストワールド』や『キング・オブ・メディア』のような注目作におけるフィルムの力強い復興は喜ばしいことです。この流れが波及して、仕事で一緒になった多くの若い世代の監督が、フィルム撮影に初挑戦してみたいと意欲を見せています。すばらしいことだと思いますが、プロデューサーが必ずしも同じように考えているとは限りません。だから、障壁を取っ払うためにも、僕はフィルムがどれほど手軽に使えて、簡単でスピーディーな映像制作が可能か、そして最大の恩恵は、フィルムだけが提供できる唯一無二の独自の美しさであることを常に証明しようとしています」

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フランス・フォンテンブローの砂漠で、ガファーのバブテスト・ブッシュ氏とフォーカスプラーのニック・ケント氏とともに自主制作作品の撮影をするザック・スパイガー氏。

シアトル郊外の農場で生まれ育ったスパイガーが、初めて手にしたカメラはスーパー8でした。父親の納屋で簡易的な傾斜を作り、スケートボードで滑る友人たちをこのカメラで撮影しました。映画に魅了されていたため、パリ・アメリカ大学で映画学を取得する単位互換プログラムに身を置き、10代という若さにして、伝統的なハリウッドの大ヒット作に囲まれた世界に急速にさらされていきました。

彼はこう振り返ります。「このとき初めて、イングマール・ベルイマンやミケランジェロ・アントニオーニのようなヨーロッパの巨匠のことを知りました。知識不足を補うために、映画理論の本を貪り読んだり、できるかぎりたくさんの映画を見たりして、そうやって少しずつ、映画制作の文化をスポンジのように吸収していったのです」

スパイガーは、映像業界で働くことを切望し、すぐにファッション・フォトグラファーのアシスタント業をいくつか手がけました。その後は、短期間のインターンとして、パリの小さなドキュメンタリー制作会社で働きました。「僕は現場で基礎から学んだのです」と彼は述べます。

ヤング・ファーザーズのミュージックビデオ『Mr. Martyr』より

同時にスパイガーは、「僕にとってのアイドル」と呼ぶ、フランスの著名なフォトジャーナリストでドキュメンタリー映画作家であるレイモン・ドゥパルドンが、アトーンのカメラで世界中のあちこちをフィルム撮影した彼の映画的偉業に非常に影響を受けたと語っています。

「ドゥパルドンの作品に心底惚れこんで、単純に自分の人生でも同じようなことをやりたいと思ったのです」とスパイガーは認めています。「それに、いつだって優れた映像設計や技巧が散りばめられた作品が好きで、自分自身のフィルムカメラで撮影したいという抑えられない欲望がありました。それで、資金に余裕があったときに初めて購入したのが、16mmのムービーカメラ、アトーン XTR Prodでした」

以来、彼はボレックスやARRI 416などの16mmカメラ、35mmカメラのARRI 435(1台は2パーフォレーション、もう1台は4パーフォレーション仕様)、さらにはアトーン Penelope 35mmカメラを使うようにもなります。「フィルムで撮ることに反対される理由として、カメラのレンタル料金の話を持ち出されたら、僕は自分のカメラを提供するよ」と彼は軽妙に答えます。「それに、35mmの2パーフォレーションで撮影できるPenelopeだと、35mmで撮影してもコストは16mmの場合とほとんど同じです」

トラヴィス・スコットのミュージックビデオ『Butterfly Effect』より

実際にスパイガーは、ボレックスのカメラを使って、BRTHRが監督するトラヴィス・スコットの『Butterfly Effect』、ルーカス・イオネスコの『Sold My Life』を撮影し、スペインのイビサでは、PenelopeでThe Dove and The Wolfのミュージックビデオ、さらにはタリスコ の『Run』のミュージックビデオ3部作を手がけました。

トラヴィス・スコットのミュージックビデオ『Butterfly Effect』より

パリ在住のアメリカ人として、今では10年以上が経ち、彼は流暢なフランス語を話します。スパイガーのアイデアで、コダックはパリでカメラのレンタルサービスを行っているパナビジョンやVantageに冷蔵庫を設置し、その中をコダック VISION3 カラーネガティブフィルムで満たしました。

「フランスでのフィルムの復興については十分認識しています。名声のある人も、将来有望な映像制作者やシネマトグラファーたちも、コダックで劇映画やCMを撮っています」とスパイガーは語ります。「ですので、コダックにとっては人々がカウンター越しにフィルムを購入できるようにする段階に来ていたのです。それにフォトケミカルに関してはパリには2つのすばらしい現像所があります。HiventyとSilverwayです。実際にフィルムを購入し、撮影し、露光したフィルムを渡して現像されたものを受け取ることは、かつてないほど容易です。それに、とてもスピーディーで、現像所はデイリーをデジタルカメラからのデータ変換と同じくらい迅速にハードドライブやFTPサイトに転送してくれます」

A shot from Elgiganten, directed by Tim Erem for production company Diktator.

フィルムの美しさにかける果てなき情熱に関して、スパイガーはこのように語っています。「一緒に仕事をしている新たな世代のプロデューサーや監督と同じく、僕もデジタルの世界で育ちました。だけど、まるでフィルムのようにデジタルを生き生きと見せることを常に模索してきました。もちろん早い段階で、フィルムのようなルックを得るにはフィルムで撮るのがシンプルでベストなやり方だ、ということに気付きました」

「コダック VISION3 50D (7203) のスーパー16mmで撮影すると見事な仕上がりになります。すばらしい色合い、官能的な肌のトーン、きめ細やかな粒状性は、まるで35mmで撮影したかのような仕上がりです。コダックの35mm デーライトフィルムとタングステンフィルムはどれも好きです。僕はよく、200T (5213) や500T (5219) を増感現像、もしくは減感現像して、映像のハイライトやシャドウ、カラーパレットの中で、ダイナミックさを存分に引き出そうとしています。新しいものやこれまでに見たことのないようなビジュアルを創り出すため、フィルム、露出、そして現像を組み合わせること、リスクを冒すことが大好きです。ヘルミ監督とBagarreの『Béton Armé』を撮影したときには、新品のフィルムと10年前のコダックフィルムをミックスさせたけど、驚くほどすばらしい仕上がりになりました」

自身のヒーローであるレイモン・ドゥパルドンに追随し、スパイガーも世界を飛び回り、南極大陸を除くすべての大陸で撮影を行っています。最近では江藤尚志監督によるGoogleのコマーシャルのプロジェクトに参画、VISION3 500T (5219)、200T (5213)、250D (5207) の組み合わせで、日本で撮影をしています。次に始動するジョージ・ベルフィールド監督によるアムネスティ・インターナショナルのプロジェクトの撮影地は南アフリカで、様々なフォーマットとフィルムを使用する予定です。

ザック・スパイガー氏が監督・撮影を担当したルーカス・イオネスコのミュージックビデオ『Sold My Life』より

フランスは故郷のような場所でもあり、またフランスでのフィルムを使う勢いをさらに高めるために、スパイガーは2016年にコダック、Vantage、現像所のSilverway (旧 Film Factory)と共同で開催したフィルムのワークショップを再び開催したいと願っています。

「数年前のように、実践的な体験の場を作りたいと考えています。フィルムカメラでの撮影から、現像、スキャン、ライブでカラーグレーディングをしながら大きなスクリーンでの映写など、フィルムでの映画制作がどれほど簡単に実現できるものかを見せたいのです」

「フィルムは、ラッシュを見るたびに眼にわかり易い結果で驚きを与えてくれます。美しいボケ味や魅力的なフレアやオーバー露出の空のディテールなど、それらはデジタルでは再現できないものです。僕はいつも驚いているし、ワクワクしているし、それが毎朝ベッドから起きる理由なのです」

ザック・スパイガー氏が監督・撮影を担当したThe Dove and The Wolfのミュージックビデオ『The Words You Said』より

スパイガーはこのように締めくくりました。「フィルムに回帰したいと思っている人がいるし、多くの若い人々がフィルムでの撮影に初挑戦してみたいと思っています。僕と同じように、フィルムには信頼を置ける特別なマジックがあるということを、彼らはわかっているのです」

(2018年7月31日発信 Kodakウェブサイトより)

コダック、Vantage、Silverwayで共同開催したワークショップの様子

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