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2018年 11月 9日 VOL.123

映画『生きてるだけで、愛。』
― 撮影 重森豊太郎氏インタビュー

(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

芥川賞受賞作家、本谷有希子の小説『生きてるだけで、愛。』を、主演に趣里、共演に菅田将暉、仲里依紗ら俳優陣を迎え映画化。監督は、本作が初の長編監督作となる、CM、MVで活躍中の関根光才監督。2018年11月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショーとなります。撮影を担当されたのは、これが4本目の劇映画作品となる重森豊太郎キャメラマンです。『au三太郎シリーズ』、『ハーゲンダッツ』、『資生堂エリクシール』、『丸亀製麺』、『toto BIG』、『日野自動車 ヒノノニトン』など、手掛けるほとんどのCMを35mmフィルムで撮影されていますが、本作で選択されたのは16mmフィルムでした。その選択の背景や撮影現場のお話などを伺いました。

今回の作品で16mm撮影を選択された理由をお聞かせ下さい。

重森C: 関根監督とは同じ事務所ということもあり、何度もCMで一緒に仕事をしてきた仲なのですが、今回、関根監督が初めて長編映画を撮るということで、1年ぐらい前からお話はいただいていました。当初から監督は、絶対にフィルムで撮りたいという意思があったので、もう何があっても絶対にフィルムでやるという感じでした。ただ、今回の作品は、本谷有希子さんの原作で、作品の雰囲気としては閉じこもっているというか、決して派手な作品ではなくて、どちらかと言うと人の感情の機微をじっくりと掘り下げていくという作品なので、35mmでなくてもいいのかなと。

また、昨今の映画業界の予算に対するシビアな環境ということもあって、16mmの選択肢があっても良いのだろうと考えていました。そもそも35mmでなんて話をプロデューサーにしたらひっくり返ってしまうので、その点は最初から降りて、16mmの方が作品に合っているという提案をしました。甲斐真樹プロデューサーからは、作品の7割がナイター撮影なので、その点の問題はないのかということを聞かれましたが、ナイターについては、VISION3 500T 7219 の増感テストをしてOKとなりました。

(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

16mm撮影にすることで予算的な課題がクリアでき、作品に合ったフィルムタイプの選択という流れですね。

重森C: 16mmで本当に予算に収まるか、各社にも協力してもらって、丁度その時、コダックの16mmとカメラ機材をセットにしたパッケージ価格の話なども聞いていたので、諸々確認してGOサインになりました。CM撮影で35mmの時は、私はほとんど500Tしか使用しないのですが、今回は16mmということもあり、200T 7213も使用しています。昼のシーンは、基本的に200Tがメインです。

(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

実際の撮影現場の状況はいかがでしたでしょうか?また特に印象に残っているシーンなどはありますか?

 

重森C: 劇中で役者が走るシーンが多い作品なので、それらのシーンとやはりナイターの屋上のシーンです。ネタバレになるので、あまり話せないのですが、そのナイターのシーンを撮影していた時は、たまたま近年で最大の寒波が来ていた日で、もうマイナス3度とか、氷点下でのロケでした。スタッフもダウンなどかなり着込んでいても寒いという状況だったのですが、その中で主役の2人は本当にぺらぺらな薄着で、そのシーンは凍えながら演技してもらいました。あまりに寒いので、何回も出来ないし、スタッフも役者も、そんな過酷な状況でも文句も言わず黙々と撮影に集中していくという感じで、映画の現場ってやはり凄いなと感じました。監督から画のイメージについては、ちょっとアジア感がある画にして欲しいという要望があったので、その屋上は色々と抜けの部分をネオン管などで電飾して、美術の井上心平さんに作り込んでもらいました。なかなかイメージに合うロケ場所がなくて、何度もロケハンして、やっと制作主任の中村哲也さんが横浜方面で見つけてきてくれて決定した場所でした。あと関根監督からの提案で、カラーライティングで撮影しているシーンがあるのですが、やはりフィルムで撮影しているので、深みのある色が出ていて、良いトーンであがっていて気に入っています。

(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

16㎜フィルムからの仕上がり、初号の反応はいかがでしたか?

重森C: 自分なりには満足いくものにはなったと思っています。試写後の反応は、監督、プロデューサー、スタッフを含め良かったので安心しました。アソシエイトプロデューサーの佐藤公美さんは、泣いていましたね。関根監督と私が16mmフィルムにこだわった理由を、試写を観終わった後でより一層理解してくれたのは嬉しかったです。

先ほど、本作は「人の感情の機微をじっくりと掘り下げていくという作品」だとお話しいただきましたが、撮影で特に心がけられたことはありますか?

重森C: この映画は、雰囲気とか空気感とかが、凄く大切だと思っていたのですが、役者の感情の流れというか感じを捉えたいと思っていて、そういったものを役者の演技に8割は委ねてはいますが、それをどれだけ撮影力で、プラスの世界観を構築していけるかということを意識して撮影していました。それを表現するのに長回しと、16mmフィルムの質感はとても合っていたと思います。実は、監督からシネスコにしたいという要望があったので、16mmのアナモフィックレンズをナックイメージテクノロジーさんにお願いして、海外から輸入して貰おうと相談していたんです。日本では、まだ誰もやっていないので、興味は凄くあったのですが、レンズだけでも結構な予算が割かれてしまうので、今回は断念しました。結局、今回はULTRA 16 PRIME レンズで撮影して、上下を切ってシネスコサイズにしていますが、撮影環境を考えると結果的にそれで良かったと思います。

(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

ワークフローについて教えていただけますか。

重森C: 現像はIMAGICAウェストさん(現 IMAGICA Lab.)で、ネガからのスキャンはCine Vivo*を使用しています。私は、Cine Vivoのトーンが好きですね。素直なフィルムトーンで出てきて、若干、現代的なトーンではないので、それをグレーディングで押し上げていくという感じです。フィルム撮影の場合はスキャンの予算というものを確保しなくてはいけないのですが、とはいえ全スキャンですからね。よくプロデューサーから、「なるべくお金のかからいないやり方で」というお話をいただきますが、そもそも論として、CMも映画も映像を撮るということをメインに行っていくのに、「映像にお金をかけないでどうするんだろう?」と思います。コストパフォーマンス重視というか、予算が大事なことはもちろん理解していますけど、不思議な現象だなと思います。

* Cine Vivo(シネヴィーボ): 2013年にIMAGICAウェスト(現 IMAGICA Lab.)が自社開発したフィルムスキャナー。スーパー35相当の16bit CMOSイメージセンサー、ウェットゲートを搭載、オリジナルネガフィルムから4K RAWデータを24駒/秒でリアルタイム収録できる。
 

関根監督と現場ではどのようなお話をされていたのですか?

 

重森C: 関根監督は、初めての長編映画ということもあって、周りのスタッフと比べて自分の経験値が不足しているのではないかということを気にしていました。ですから、私の方からはカットをあまり割らない方が良いよという話はしました。つまり、どれだけカットを割らないで撮っていけるか、ということを考えた方が映画的だという話をしました。個人的に、カットを割らないのが映画という意識があって、映画はその時間の流れを撮っていくというのが良いと思っています。例えば、映画の現場で30秒のシーンを撮影するとなったら、CMとは違って、ワンカットでもいける緊張感が出てきますよね。私も撮影していて、息継ぎするなという感じになります。役者にとっても、カットで切っていかれちゃうと、分断されてしまうので、素材を撮っている感じになってしまう。人の感情ってある程度の時間の中で構築されて、あるところに到達すると思うので、長く撮っていくということが必要になってくると思いますし、それが映画の醍醐味だと思います。蓋を開けてみたら、有り得ないほどカット数が少なくなっていて、編集部から驚かれました(笑)。他の映画と比べると、明らかに桁が違うというくらい少なかったみたいです。まあ結局、編集で割っていましたけど。そういったことを関根監督と話していましたし、仕上がったものは、処女作として観ても映画的で素晴らしい作品になっていると思います。

関根光才監督(左)と重森豊太郎キャメラマン (C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

今後の制作について、フィルム撮影についてはどうお考えですか?

重森C: 海外で最近、またフィルム撮影が見直されてきているというお話はよく聞くのですが、日本はまた別の話ですし、私自身、以前はデジタル撮影は全く選択肢になかったのですが、最近は作品によってであったり、グレーディング次第では遜色ないぐらいまでにはクオリティをフィルムの画に近づけることも可能だとは思います。ただ現場の空気感とか、物質としてその場でフィルムが回っていて、そこに画として定着させているということでは、やはり気持ちがフィルム撮影の場合、全然違いますね。

私は、フィルム撮影の方が好きですし、誰に言われたわけではないですけど、今後の人たちのことを考えると、フィルムを選択し続けていこうと勝手に思っています。フィルムという選択肢がなくなったら、今後の人たちはどうしていけばよいのかと。

人のちょっとした感情の機微や空気感を撮影する時は、やはりフィルムの方が良い感じに上がると思いますし、自分が思った以上に、そういった求めているものがフィルム撮影の方が画に出るんですよね。撮影者として、その部分はフィルムに助けられているというか、そういう雰囲気というか、そういったものがフィルム撮影の場合、自然に出るし、それがフィルムの良さだと思っています。最近だとグレーディングで画をいくらでもいじくれますけど、それでどうにかなる部分もあるとは思いますが、絶対にどうにもならない、フィルムじゃないと出ない部分というものがあると思います。

(インタビュー2018年 7月)

 PROFILE  

重森 豊太郎
しげもり とよたろう

1970年生まれ、東京都渋谷区出身。日本映画学校(現 日本映画大学)撮影照明科卒業。

『蘇りの血』(2009年/豊田利晃監督)で長編映画デビュー。以降『モンスターズクラブ』(2011年)、『I'M FLASH !』(2012年)などの劇映画以外にTVCM、MVの撮影作品も多数。KDDI au三太郎シリーズの撮影にて2016 ACC CRAFT CAMERAMAN賞を受賞。

 撮影情報  (敬称略)

『生きてるだけで、愛。』

 

監 督 :関根 光才

撮 影 :重森 豊太郎
チーフ :丸山 秀人
セカンド:堀越 優美 
サード :上野 陸生
照 明 :中須 岳士

キャメラ:ARRI 416 Plus、ARRI16SR3 HS(ハイスピード箇所)
レンズ :ULTRA 16 PRIME 8mm 9.5mm 12mm 14mm 18mm 25mm 50mm、Canon 11-165mm

フィルム:コダック VISION3 500T 7219、200T 7213

現 像 :IMAGICAウェスト(現 IMAGICA Lab.)

機 材 :ナック イメージテクノロジー 
仕上げ :IMAGICA(現 IMAGICA Lab.)
制作幹事:ハピネット、スタイルジャム
企画・制作プロダクション:スタイルジャム
配 給 :クロックワークス
製 作 :(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

http://ikiai.jp/

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