2019年 2月 18日 VOL.130

ジェイソン・ライトマン監督作品『フロントランナー』― 撮影監督 エリック・スティールバーグ(ASC)が、35mmフィルムで大統領候補を失脚させた女性スキャンダルを描く

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コダック 35mmで撮影された『フロントランナー』は、不運に見舞われた1988年の大統領候補 ゲイリー・ハートと、彼を飲み込んだメディアの嵐について描いています。本作はジェイソン・ライトマン監督と撮影監督 エリック・スティールバーグ(ASC)の協業による7本目の劇映画で、主演にヒュー・ジャックマンを迎えています。ヒュー・ジャックマンは、ホワイトハウスを目指していた上院議員が、支持者のドナ・ライス との不倫により非難を浴びて転落する姿を演じ、2019年のアワードシーズンで多くの賞にノミネートされています。

この伝記的なドラマは、マット・バイによる2014年の著書『All the Truth Is Out: The Week Politics Went Tabloid(原題)』を基にしており、ライトマン監督とヒラリー・クリントンの元広報担当者 ジェイ・カーソンが共同脚本を担当しました。本作にはジャックマンに加え、ヴェラ・ファーミガ、J・K・シモンズ、サラ・パクストン、アルフレッド・モリーナが出演しています。

主要な撮影は2017年9月中旬にジョージア州アトランタおよびサヴァナでのロケーションで始まり、9週間後に終了しました。本作が世界初上映されたのはテルライド映画祭で、その後トロント映画祭とロンドン映画祭で特別上映され、2018年11月21日にアメリカで公開されました。

「この企画についてジェイソンがまず私に言ったのが、“フィルムで撮影したい”ということでした」と、スティールバーグは振り返ります。「彼が求めていたのはフィルムの不完全な雰囲気、セルロイド(フィルムの意)だけに現れる質感やパレットでした。また、彼は本作を没入型で動きのある、シネマ・ヴェリテ風の映画体験にしたいとも考えていたので、映像にコーヒーについての会話がさりげなく映っていても、観客にはほぼ同じタイミングで選挙運動に関する重要な知らせが聞こえてくることがあります。私は8年もの間、フィルムで長編を撮っておらず、最後にフィルムで撮影した作品は『マイレージ、マイライフ』(2009年)と『遠距離恋愛 彼女の決断』(2010年)だったので、フィルムで撮影できるという期待にとても心が躍りました」

Image by Frank Masi SMPSP. Copyright: Ⓒ2018 CTMG, Inc. All Rights Reserved.

当時を呼び起こすルック(映像の見た目)を探す中で、ストーリーを語る上での視覚的な枠組みを準備するため、ライトマン監督とスティールバーグが早速研究したのは、1992年大統領選挙でのビル・クリントンの圧倒的勝利に関する1993年のドキュメンタリー、クリス・ヘジダスとD・A・ペネベイカーの『クリントンを大統領にした男』でした。これは選挙運動の裏側にいる有能な参謀を描いた作品ですが、スティールバーグは、彼とライトマン監督は1980年代終わりの熱狂の時代に作られた映画からは、求めていた視覚的なインスピレーションをなかなか得られなかったと言います。そのため、2人はさらに前の時代へとさかのぼったそうです。

「ジェイソンと私は70年代後期の映画の大ファンで、特にアメリカの政治スリラーの緊張感に満ちたフレーミングやズームの使用、そしてカメラが動き回り、そこにダイアローグがオーバーラップするという映像に何より魅力を感じていました。『コンドル』(1975年、監督:シドニー・ポラック、撮影監督:オーウェン・ロイズマン(ASC))、『大統領の陰謀』(1976年、監督:アラン・J・パクラ、撮影監督:ゴードン・ウィリス(ASC))、『パララックス・ビュー』(1974年、監督:アラン・J・パクラ、撮影監督:ゴードン・ウィリス(ASC))、そしてコメディードラマ『候補者ビル・マッケイ』(1972年、監督:マイケル・リッチー、撮影監督:ヴィクター・J・ケンパー/ジョン・コーティ)といった作品です」

「こういった作品をコピーしようとしたわけではありません。ですが、これらの作品は、『フロントランナー』に終始観客を惹きつけておけるような楽しい方法を模索しようというアイデアを私たちにくれましたし、不謹慎さと人間ドラマのトーンを混ぜ合わせて映像的に試みるきっかけにもなりました」

『フロントランナー』が審美的に特に影響を受けたのは1970年代の映画でした。スティールバーグによれば、本作はフィルムで撮影される予定だったので、そういった1970年代の作品で使われていたであろうカメラ技術を用いるため、一丸となって努力したそうです。

「私たちは当初、本編全体で16mmを使うことを検討していました。テスト撮影した16mmのルックは全員が気に入り、そのおかげで本作のフォーマットにセルロイドを使うという決断が製作陣の中でさらに固まったのは確かです。しかし、本作にはかなりの数のワイドショットがあり、その中には複数の登場人物を映すものも多いため、私たちは画の中にもっとディテールが欲しいと考えました。それで35mmに切り替えることにしたのです。私はジェイソンに、露出と増感現像を組み合わせれば似たようなルックにたどりつけると請け合いました。ラボでネガを現像過多にすることで、粒子感が増し、コントラストが強まるのです」

35mmでのストーリーテリングのスタイルを支持するため、スティールバーグはアンジェニューのコンパクトなズームレンズ、15-40mm、28-76mm、45-120mmの3本を選び、加えて、パナビジョンのプリモの11:1ズームレンズをよりソフトなルックに改造して、2台のパナフレックス・ミレニアム XL2カメラに装着しました。「全体的にこの軽量の機材セットは、手持ちの撮影に非常に向いていると同時に、明らかなズームから被写体へのわずかな寄りまで幅広い撮影が可能なのです」

撮影監督 エリック・スティールバーグ(ASC) Image by Frank Masi SMPSP. Copyright: Ⓒ2018 CTMG, Inc. All Rights Reserved.

スティールバーグは、日中の撮影を含め、『フロントランナー』の大部分をコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219を使って撮影し、ラボでこのフィルムを1段増感現像しました。現像は、当時オープンしたばかりだったコダック・フィルム・ラボ・アトランタで行われました。

「500Tは日中、夜間、屋内、屋外のどの状況でも使える、驚くほど万能なフィルムです。粒子感が素晴らしく、美的な追求をしてラボで増感現像すれば、簡単にそれを強調することができるのです。ラチチュードについても寛容です。例えば日中のシーンを撮影していると、雲が太陽を覆ってしまい、露出不足になることがありますが、500Tなら簡単に調整し、救い出すことができるのです。また、肌の撮影について言うと、デジタルカメラはフィルムにはまだ到底及びません。肌のトーンの表現においてはフィルムが今もなおベストです」

スティールバーグは自身の500Tの使い方についてさらに掘り下げます。「500Tでの撮影は、その時の光と周囲の色温度によって補正する場合もしない場合もありました。色温度が高いくもりの日は、コダックの85フィルターを使います。陽の光があり、色温度が低い日ならカラーフィルターは付けずに撮影しますが、絞りを開けやすいようにNDフィルターを使い、ポストプロダクションで後から補正するでしょう。パナフレックス XL2の長所は、レンズの後ろにフィルターを置くことができる点で、カメラオペレーターはいろいろとやりやすくなります。このカメラには非常に優れたHDビデオアシストもあり、ジェイソンがとても気に入っていました」

撮影監督 エリック・スティールバーグ(ASC)とカメラクルー Image by Frank Masi SMPSP. Copyright: Ⓒ2018 CTMG, Inc. All Rights Reserved.

『フロントランナー』で500Tが大変便利なフィルムであることが分かった一方、スティールバーグは、コダック VISION3 200T カラーネガティブ フィルム 5213の解像力も利用して、まぶしい窓のそばでアクションが行われるような日中の屋内や、ポストプロダクションでVFX処理される日中の屋外のシーンを多数撮影しました。

本作のカメラクルーには、AカメラとBカメラをそれぞれ担当した、信頼が厚く、付き合いの長いマシュー・モリアーティとケイル・フィノット、照明担当のダン・リッフェル、キーグリップのデイブ・リチャードソン、ドリーグリップのショーン・ディバインがいました。

移動して動き回る撮影スタイルは、日々スティールバーグを追い立てましたが、彼はそれを楽しんでいました。本作の始まりにある、最も印象的で複雑なショットの1つでは、緻密に振り付けされた1テイクのシーンが流れ、観客はすぐさま、ゲイリー・ハートがサンフランシスコで1984年の民主党候補にウォルター・モンデールを認めた際の白熱したやり取りへと飛び込みます。慌ただしい街角を舞台に、下交渉人のマイク・ストラットンの切り取られた指からショットが展開していくのですが、ライトマン監督はこの奇妙な実話が、選挙運動に従事する人たちが活動の中で持っている、文字通りの血の気と信念を語っていると感じたのです。

スティールバーグはこう説明します。「冒頭のシーンは昔ながらの方法で脚本化されており、私たちは5つか6つにショットを分けて撮影することもできました。ですが、それを1テイクで行うことによって、この作品における視覚的な言語を最初に伝えるチャンスになると考えました」

しかし、そのシーンの撮影は朝飯前とはいきませんでした。スティールバーグはさらに説明します。「行き来の多い街の交差点を閉鎖してもらうために、私たちには何が必要かという意見をアトランタ当局に伝えなければなりませんでした。そこで準備中にそのシーンの3Dの建築画像を作り、カメラの動線を入れ込みました。通りを封鎖することが認められると、すぐにクレーンを搬入し、朝の時間を使ってアクションのリハーサルを行いました。それは壮大な仕事であり、かなりのリスクを伴いました。どうなるかは私たちにもあまり分かっていませんでした。日中にそのシーンを1バーション撮影しましたが、完全には満足できなかったので、その日の夜に引き返し、クレーンと当時のことを戻して再度通りを封鎖し、9テイク撮りました。どういうわけか最後のテイクはタイミングが完璧で、数秒後に激しい雷雨がやって来ました。そのショットが撮れたことで私たちは残りの撮影を前に舞い上がり、物語の語り口を型にはまらないトーンにすることに決めました」

その最初の創作上のひらめきは、他のセットでのいくつかのショットにも波及しました。ハートと妻のリーが内輪の話をするために一緒にダイナーを訪れるもうひとつの長回しのシーンは、ハートが車内からニューヨークの歩道に出て、建物の横入口に入っていくのを手持ちで撮影したため、おそらくさらに複雑でした。このシーンについてスティールバーグは、カスタマイズしたコンパクトな35mmカメラのセット、200フィートマガジン、小さなプライムレンズ、小型のマットボックスとミニバッテリーを付けたXL2を使いました。こうすることでスライダーから取り外し、カメラオペレーターからカメラオペレーターへと手渡しすることができたのです。

「私たちはデジタルによるストーリーテリングの決まったやり方に慣れてきているので、もっとカメラを信頼し、全員が最初のテイクから全力を注ぐということに回帰するのは素晴らしいと感じました。俳優とスタッフは視覚的なストーリーテリングという私たちの計画に賭けてくれましたし、『フロントランナー』での仕事はフィルム作品の可能性を楽しく思い出させてくれるものでした」

「再びフィルムで作業したことで、実際にそれはとても簡単なのだということが分かり、そのうえ仕上がりも見事です。現に、撮影の最初の数日を終えたばかりの頃にジェイソンは私に、“一体なぜ僕たちはフィルムで撮影するのをやめていたんだろう?”と尋ねたのです。かつての情熱と再会し、いずれはもっとフィルムでの撮影に戻りたいと考える以外、私にはすぐに返せる答えがありませんでした」

(2018年11月19日発信 Kodakウェブサイトより)

『フロントランナー』

 原 題: The Front Runner
 製作国: アメリカ
 配 給: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

 公式サイト: http://www.frontrunner-movie.jp/

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