top of page

2019年 3月 26日 VOL.137

コダックのフィルムがスパイク・リー監督の2018年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『ブラック・クランズマン』にもたらした豊かで魅力的なルック

スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』でフリップ・ジマーマン役のアダム・ドライバーとロン・ストールワース役のジョン・デヴィッド・ワシントン Credit: David Lee / Focus Features

35mmと16mm、カラーと白黒などコダックの様々なフィルムを使って制作されたスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』は、2018年カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で初上映され、その年で最も物議を醸す作品のひとつになると予想されました。カンヌ国際映画祭では名誉あるグランプリを獲得し、その後、2018年夏に一般公開されました。(日本公開は2019年3月22日)

ニューヨークに拠点を置くカナダ系アメリカ人の撮影監督 チェイス・アーヴィン(CSC)が撮影した『ブラック・クランズマン』は、コロラドスプリングス初のアフリカ系アメリカ人刑事ロン・ストールワースの実話を映画化しています。ストールワースは、1979年にKKK<クー・クラックス・クラン>の秘密捜査を行った人物です。彼は、同僚のフリップ・ジマーマンと共に命を懸けてKKKの上層部に潜入しました。2人は力を合わせてKKKのグランド・ウィザード(最高幹部)のデビッド・デュークをだまし、ジマーマンはコロラドの地方拠点のリーダーにまで上り詰めたのです。

製作費800万ドルの本作は、2017年にバージニア州シャーロッツビルの「ユナイト・ザ・ライト」ラリーで集会に抗議した32歳の弁護士補佐、ヘザー・ヘイヤーが亡くなった事件もあって、KKKが再び注目されているタイミングで封切られました。『ブラック・クランズマン』が世界的に劇場公開されたのは、シャーロッツビルの暴動から1年後となる2018年8月10日でした。

スパイク・リー監督作品にしばしば出演していたデンゼル・ワシントンの息子であるジョン・デヴィッド・ワシントンがストールワース役で出演し、アダム・ドライバーが潜入捜査をする相棒刑事を演じています。ジョーダン・ピールが製作として本作に参加しました。

映画『ブラック・クランズマン』の撮影中に打ち合わせをするスパイク・リー監督とアダム・ドライバー Photo by David Lee. (C) 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

撮影監督のアーヴィンはこう述べています。「『ブラック・クランズマン』の脚本を初めて読んだ時、私はひどく落ち着かない気分になりました。スパイクは、バランスよく軽妙さを取り入れながら緊張感を徐々に高め、最終的にリアルな鋭さを持つ社会的なメッセージを届けることにかけては天性の才能を持っています。こういった2つの感情の間を漂うストーリーに私はとても刺激を受け、この物語の映像を探ってみたいと思いました。スパイクと私が本作のルック(映像の見た目)をどうするべきかについて話し合うことはあまりありませんでした。私ならふさわしいルックにするはずだと彼は信頼してくれたのです。最初のアプローチは自分の知識を忘れて、できるだけ彼の物語を映像的に分析し、テストを行うことでした」

ニューヨークのパナビジョンとCompany 3のカラリスト、トム・プールの助力を得て、アーヴィンはこのプロセスでいろんなデジタルカメラとフィルムを様々なレンズと組み合わせて調べました。彼は同時に、ジョン・デヴィッド・ワシントンやリー監督と共にブルックリンにある監督の自宅で、ゴードン・ウィリスが撮影した『大統領の陰謀』(1976年、監督:アラン・J・パクラ)や、オーウェン・ロイズマンが撮影した『フレンチ・コネクション』(1971年、ウィリアム・フリードキン監督)などの政治や犯罪を描いた1970年代の緊迫感のある映画を幅広く考察する時間を過ごしたそうです。

「監督と撮影監督は、観客の3つの器官に作用します。まず観客の緊張感を保つ胃、次に感情移入させる心臓、そして心、つまり観客の想像力です。ゴードン・ウィリスはこの3つをしっかり押さえているので、彼の作品はいつも緊張感があり、観客を夢中にさせるのです」とアーヴィンは言います。「オーウェン・ロイズマンの作品ではチェイスシーンや、手持ちのカメラワーク、ミックスされた色温度の照明、そしてロケーションに語らせる手法が大好きでした」

アーヴィンは『ギャンブラー』(1971年、監督:ロバート・アルトマン)の映像にも感銘を受けたと言います。これは、撮影監督ヴィルモス・ジグモンド(ASC)がネガにフラッシングを施したことで有名な作品です。「この作品には1970年代のエッセンスがあり、テクノロジーとテクニックを合体させて新しいものを生み出すという発想がとても気に入りました。スパイクも同じ意見でした」

スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』でロン・ストールワース役を演じるジョン・デヴィッド・ワシントン Photo by David Lee. (C) 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

アーヴィンはこういった考えをテストの目的に取り入れたのですが、コダックの16mm、35mm、エクタクローム、白黒などの様々なフィルムを使いつつも、自身のARRICAM LTの35mmカメラとマスタープライムのレンズの組み合わせで生まれる映像に、自分がどんどん惹きつけられていることに気が付きました。また、パナビジョン製のパナフラッシャー3というLEDのフロントフィルターによるフラッシング装置もテストしました。

「フィルムを使えば、どこか1970年代のルックを思い起こさせる様々な美しさを多数実現できることに気づきました。フラッシングしたコダック VISION3カラーネガは、とりわけ影の部分に汚れた感じを出しつつも、ハイライトや中間のトーンのコントラストは維持してくれます。現場でデジタル処理やDI(デジタルインターメディエイト)の部屋で同じことを実現するのは非常に難しかったでしょう。しかし、日中の屋外では特にそうですが、複数のカメラのフラッシングの強さを設定するのはかなり手がかかるので、使うところを厳選しなければなりませんでした」

アーヴィンがリー監督とテストの結果について話し合った際、彼の調べた内容がリー監督の心の琴線に触れました。「スパイクと私の仕事の仕方は似ています。ジャズミュージシャンの家庭に生まれた私は、映画撮影を科学の実験や数学の問題のように考えません。むしろジャズセッションに近いのです。私はセットにたくさんのツールを持ち込み、現場で自由に改良しようとします。こうすれば自分ならではの反応を作り出せるのです。スパイクはそれをとても気に入ってくれました。制作中にインスピレーションを受けたり、あるシーンの撮影方法について途中で新しいアイデアが浮かんだりすることがよくあります。時には撮影前の慌ただしい時に起きることもありました。そういう時はとても楽しかったですね」

スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』でデビッド・デューク役を演じるトファー・グレイス Photo by David Lee. (C) 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『ブラック・クランズマン』でアーヴィンが最終的に選んだカメラとフィルムには、リハウジングしたPヴィンテージのレンズに加え、ウルトラスピード、スーパースピード、マスタープライム、MK2のレンズがあり、それを2台のミレニアムXL2と、車内撮影用のコンパクトなアトーン・ペネロープ、そして自身のARRICAM LTカメラに装着しました。使用したコダックのフィルムには、日中の屋内および屋外用のコダック VISION3 250D カラーネガティブフィルム 5207、夜の屋内および屋外用に500T 5219、それに加えてカラーリバーサルのコダック エクタクローム 100D(旧タイプの5285)、白黒ネガのイーストマン ダブル-X 5222があり、さらに回想シーンやインスピレーションが湧いた時には16mmのイーストマン ダブル-X 白黒ネガ 7222も少し使用しました。

「本作の冒頭は、1960年代のニュース映画や教育映画のルックに似せるため、白黒のダブル-X 5222とエクタクローム 100D、それと16mmフィルムを使いました。撮影したエクタクロームはコントラストが高く、特に豊かで雰囲気のあるルックになり、とにかく最高でした。最終のグレーディングではさらに際立てることができました。ダブル-X 5222の白黒ネガも光に対する反応の仕方とラボでの現像によって独特のルックになるのですが、これをデジタルで模倣しようとするとかなり難しいです」

「250Dにはいくぶん粒子感があり、ハイライトと影の両方で滑らかにディテールを捉えることができます。私はそのルックが好きで、500Tと違和感なく調和してくれることが判っていました」

同じフレーム内にいる主演俳優たちの白と黒の肌のトーンのコントラストを映すことは、『ブラック・クランズマン』でフィルムを使うまた別の利点のひとつでした。

アーヴィンはこう説明します。「ジョン・デヴィッドとアダムは全く異なる肌のトーンをしていますが、多くのシーンで一緒に登場します。どちらに合わせて露出を決めるかを判断するのが難しい時もありましたが、フィルムは素晴らしいダイナミックレンジとラチチュードを持っており、照明を使ってもおかしくないような迷いが生じる状況でも非常に寛容なのです。そんな特性に匹敵するフォーマットは他にありません。フィルムは撮影技師にとって紛れもない贈り物なのです」

『ブラック・クランズマン』の撮影は2017年9月中旬に始まり、31日間の撮影期間を経て10月の終わりに終了しました。マンハッタンから車で約1時間のニューヨーク州オシニング内とその周辺のロケーションで3週間、その後ブルックリンのグリーンポイント・スタジオスのセットに移って2週間、最後はブルックリンのロケーションで10日間撮影が行われました。

「スパイクは毎日朝6時に撮影を始めるのが好きなのですが、1日12時間、週5日という作業体制は良かったですね。自分のベッドで眠れる点が私はとても好きでした」とアーヴィンは振り返ります。

映画『ブラック・クランズマン』撮影中のスパイク・リー監督、トファー・グレイス、アダム・ドライバー Photo by David Lee. (C) 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

撮影はAカメラとBカメラで行われ、それぞれリカード・サルミエントとカーウィン・デボニシュが操作し、第一助手のクリストファー・グリートンがAカメラ、ジェラニ・ウィルソンがBカメラの補助を務めました。手持ちカメラのシーンのほとんどはエディー・ロドリゲスにフォーカスを補助してもらい、アーヴィンが操作しました。ガッファーはコリン・クィンラン、キーグリップはラモント・クロフォードでした。「このチームと仕事ができて本当に良かったです。彼らのほとんどはスパイクと長年仕事をしてきた人たちです。彼らのおかげで、撮影は素敵な旅になりました」とアーヴィンは言います。

『ブラック・クランズマン』は2017年10月に正式にオープンしたコダック・フィルム・ラボ・ニューヨークの35mmフィルム現像サービスを早い段階で利用した作品のひとつでした。アーヴィンはこう断言します。「最先端の装置を備えた素晴らしい施設で、非常に有能なチームでした。ニューヨークにおける35mm製作の新しい時代を先導し、新しい世代の映画制作者たちに刺激を与える源になることが私にはわかります。他のフィルムのフォーマットやスキャニングサービスに対するサポートで、将来コダックがどんな展開を見せてくれるのか楽しみですね」

フィルムで撮影した中で最高だと思うシーンについて尋ねると、アーヴィンは、500Tを使って撮った、物語に入り込む約20分のシーンだと言います。アメリカの公民権運動の発起人として有名なクワメ・トゥーレがナイトクラブで感動的なスピーチをする場面です。

「その日の撮影の始まりは面白く、100人のエキストラとスパイクが1970年代の華々しいファンクで盛り上がっていました」とアーヴィンは振り返ります。「その場全体に朝の9時まで音が鳴り響いていました。強烈なスポットライトではなく、U字型にパーライトを並べ、ライトギアのLEDで天井から柔らかな青い光を観客に当ててステージを照らしました。若干5219を露出不足にし、あらゆる種類のカメラワークとズームを使ってそのシーンを撮影したのです。非常に楽しかったですね。セットでのそういう時間のエネルギーは、観客が劇場で見る映像にも乗り移っているはずです」

アーヴィンはこう締めくくります。「フィルムで撮影することは大きな喜びです。ほとんど中毒と言ってもいいくらいです。フィルムは撮影するたびに多くのことを教えてくれるので、スパイクや他の映像制作者たちがフィルムを現場に取り戻してくれたことを嬉しく思っています。映画撮影は感覚的かつ夢中になれる体験であり、35mmはそれを観客に伝えられるようにしてくれます。フィルムのそういった長所のおかげで『ブラック・クランズマン』にはたくさんの共感と緊迫、想像があるのです」

(2018年5月11日発信 Kodakウェブサイトより)

『ブラック・クランズマン』

 2019年3月22日(金)より全国ロードショー

 原 題: BlacKkKlansman
 製作国: アメリカ
 配 給: パルコ

 公式サイト:

 https://bkm-movie.jp/

  読者プレゼント

『KODAKメールマガジン』の読者の皆様にプレゼントをご用意しました。

応募フォームからご回答いただいた方の中から抽選で、

「KODAKネックストラップ」30名の方にプレゼントいたします。

KODAKネックストラップ 1 VOL136.jpg

「応募フォーム」ボタンをクリックして回答画面からふるってご応募ください。
締め切りは2019年3月末日

※当選発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

bottom of page