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2019年 4月 26日 VOL.139

カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したスーパー16作品『幸福なラザロ』

Photo courtesy of Tempesta.

コダックの16mmフィルムで撮影された期待作、アリーチェ・ロルヴァケル監督の『幸福なラザロ』が、2018年カンヌ国際映画祭においてパルムドールをかけたコンペティション部門で上映されました。

舞台は外界から切り離された1980年代のイタリアの封建社会で、そこでの主要な作物はタバコです。物語は、純粋な心を持つばかりにみんなから愚か者だと思われている若者、ラザロを描きます。彼は素朴な小作人ではありますが、上流階級で甘やかされたタンクレディの友情に十分応えます。偽りや嘘がいたるところにある、この忘れられたのどかな世界で、彼らは共に喜びや思いやりを見つけます。そして現実が二人を引き離しますが、ラザロが突如、大都会に独り放り出された時、彼の忠誠心が時の試練に耐えるのです。

Photo courtesy of Tempesta.

本作はイタリア、フランス、スイス、ドイツの共同制作で、2017年夏にチヴィタ・ディ・バーニョレージョに近い中央イタリアの田園地方で撮影されました。チヴィタ・ディ・バーニョレージョは、テヴェレ川近郊の村を見渡せる古代の火山岩の頂上という印象的な場所にあることで有名な絶景の村です。撮影は2017年冬にイタリア北部の都市トリノやミラノでも行われました。監督が本作の脚本を執筆し、アドリアーノ・タルディオーロ、アルバ・ロルヴァケル、ルカ・チコヴァーニ、ニコレッタ・ブラスキが出演しています。

アリーチェ・ロルヴァケル監督作品『幸福なラザロ』の撮影監督 エレーヌ・ルヴァール(AFC)Photo by Simona Pampallona.

36歳のロルヴァケル監督は、イタリアで最も注目されている若手監督の1人です。『幸福なラザロ』の制作では、自作の撮影をいつも担当しているフランスの撮影監督 エレーヌ・ルヴァール(AFC)とチームを組みました。ルヴァールは、監督の初長編作品であり注目を集めたドラマ、『天空のからだ』(2011年)を16mmで撮影しました。同作は2011年カンヌ国際映画祭監督週間で初上映され、続けてサンダンスやニューヨークなど世界中の主要な映画祭で上映されました。ロルヴァケル監督の2作目、養蜂場で育つ少女を描いた『夏をゆく人々』(2014年)を再びルヴァールが16mmで撮影し、2014年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しました。2人は、ロルヴァケル監督の2015年の短編『De Djess(原題)』でも協働しましたが、この作品では35mmフィルムを使用しました。

Photo courtesy of Tempesta.

ロルヴァケル監督はこう述べています。「変わっていると言う人もいますが、私はいつもフィルムで撮影するのです。私が最も近代的な技術だと思ったのがフィルムです。たくさんの映像、そのほとんどを素早く生み出すデジタルの世界で私は育ちました。最初の長編作品『天空のからだ』をエレーヌと作った時、フィルムで仕事をするのは素晴らしいことだと思ったのです。フィルムは新しく近代的で、優しく、驚きと面白さを与えてくれました。それに比べるとデジタルは古く退屈で、残酷でもあり、過去のものに感じられました」

アリーチェ・ロルヴァケル監督作品『幸福なラザロ』の撮影 Photo by Simona Pampallona.

「もちろんフィルムは美しいと思いますが、私を惹きつけるのは実はフィルムの審美性ではありません。むしろ、それは映像制作の過程であり、フィルムの手法や実務が語り部として作品を支えてくれるそのあり方です。フィルムを使い、その媒体や手法に敬意を払うチームと共に、求める映像をセットで作り出すのです。フィルムという“資源”には限りがあるため、自分が何をすべきかを理解し、常に注意を払い続ける必要があります。デジタルには驚きがなく、映像の解釈もありません。また、自分が求める映像の仕上がりを作り出すために、ポストプロダクションで多くの作業をしなければならず、耐えがたくなることもあり得ます」

『幸福なラザロ』の物語を大スクリーンに映し出すため、ロルヴァケル監督は映画撮影に秀でた付き合いの長い仲間、ルヴァールに再び声をかけました。

アリーチェ・ロルヴァケル監督(左)とi撮影監督 エレーヌ・ルヴァール(AFC) Photo by Simona Pampallona.

「アリーチェの作品をいろいろと撮影して、徐々に私たちは繋がりを深め、簡潔な仕事の仕方を一緒に身に着けてきました」と撮影監督のルヴァールは振り返ります。「私たちは作品ごとに、自分たちの映像スタイルや雰囲気を作り上げて展開させます。『天空のからだ』はすべて手持ちでした。『夏をゆく人々』はそれより抑制した手持ち形式で、『幸福なラザロ』については、より客観的な視点で撮影し、ラザロの視点から物事を見ることが私たちの狙いでした。ですので、基本的には体に着けたリグから私が操作した手持ちですが、それだけでなく、三脚やレールに乗せたカメラも使い、キャラクターに対する幅広い観点を模索しました」

 

こういった独特の映像の視点を実現することに加え、閉ざされた封建世界の生活という現実に観客を浸らせることが大きな目標でした。

アリーチェ・ロルヴァケル監督作品『幸福なラザロ』の撮影 Photo by Simona Pampallona.

「理想的で穏やかな夏の田舎の田園風景を描きたかったのではありません」とルヴァールは言います。「私たちは、暑く容赦のない日差しの中、汗を流してタバコ農園で懸命に働く小作人たちがどういったものかを見せたいと思っていました。対照的に、ラザロが都会にたどり着く時には、より人を惹きつける画を描きたかったのです。そこでの撮影の時には、雪が降ったり、冬の日光が強かったり、またある時はくもり空のこともあり、そして気温はずっと低いままでした。ですが、それらが合わさると、都会はより魅力的に、実に好奇心をそそられるものに見えました。16mmフィルムには独特の素敵な色味や粒子、質感があり、私たちが作り上げたかったものにぴったりでした」

Photo courtesy of Tempesta.

ルヴァールの撮影機材は、ツァイス ウルトラ プライムレンズと1台のARRI 416 16mmカメラから成る、小さくて軽いカメラパッケージで、さまざまなロケーションで容易に運用でき、手持ちのシーンでも持ち運びの負担になりません。カメラとレンズはローマのパナライトが提供しました。

「ARRI 416には優れたアイピースが付いていて、非常に鮮やかでクリアですし、ウルトラ プライムはスーパー16との見事な調和を生み出してくれます。ワイドでは特にそうですね」と彼女は続けます。

Photo courtesy of Tempesta.

ルヴァールは日中の屋外での撮影にコダック VISION3 250D カラーネガティブ フィルム 7207を、屋内および夜間の撮影に500T 7219を選びました。「スーパー16だと、これらのフィルムは互いに相性が良いのです。実際の光であれ人工のものであれ、日差しの強いシーンは特に良いです。250Dを露出過度にして、強い夏の日光の感じを際立たせるというのをよくやったのですが、仕上がりにはとても満足できました」

アリーチェ・ロルヴァケル監督作品『幸福なラザロ』の撮影 Photo by Simona Pampallona.

「屋内や夜間のシーンのいくつかは映像が非常に暗く、露出不足で、500Tのスーパー16の映像だと粒子感が強めになるかもしれないと思いました。しかし、私たちが欲しかったのは力強く有機的で、粒子感のある、感情に訴えるような画だったので、それをそのまま受け入れて生かしたのです」

Photo courtesy of Tempesta.

ネガフィルムの現像はローマのオーガスタス・カラーで行われました。求めていたルックを際立たせるために半絞り増感および減感現像して、ルヴァールのセット上での露出に力を貸しました。

ルヴァールはこう説明しています。「スーパー16で撮影すると、出来上がったルックの色彩や濃度、粒子、露出に必ず小さな驚きの要素があります。これを受け入れるだけでなく、利用してしまうアリーチェのような芸術肌の監督と一緒に仕事をすれば、16mmは物語を語るうえで信じられないほど優れたツールになるのです」

アリーチェ・ロルヴァケル監督作品『幸福なラザロ』の撮影 Photo by Simona Pampallona.

「ラザロが女侯爵の屋敷に戻る瞬間、窓を通じての露出過度となる瞬間と屋内での色の混ざり具合は期待以上でした。この瞬間を見られた時は最高でしたね。16mmフィルムがどれだけ良い仕事をしてくれるのかを私は忘れていました」

Photo courtesy of Tempesta.

これにはロルヴァケル監督も同意見です。「フィルムでの映画撮影に伴う、美しく驚きに満ちた発見の旅が本当に好きなのです。カメラの中でブーンと鳴るフィルムの音を愛しています。とても幸せな気持ちになりますね」

「つまり、時間をかけ、みんなで集中し、物語を語る映像を作るために考え抜いて決定を下すので、セットでは誰もが生き生きとしているということです。フィルムは物語がより上手く伝わる手助けをしてくれると私は思っています。動画に対する尊重の究極の形なのです。フィルムが継続することは非常に重要です。私たちには欠かせない選択肢ですから」

(2018年5月11日発信 Kodakウェブサイトより)

『幸福なラザロ』

 2019年4月19日よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開

 原 題: Lazzaro felice (Happy as Lazzaro)
 製作国: イタリア
 配 給: キノフィルムズ

 公式サイト: http://lazzaro.jp/

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