2019年 11月 12日 VOL.145

映画『マチネの終わりに』
― 撮影 重森豊太郎氏、撮影助手チーフ 大和太氏 インタビュー

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

東京・パリ・ニューヨークの彩り豊かな街並みを舞台に、音楽家とジャーナリストの男女二人が、出会い、悩み、そして愛した六年―

原作は、芥川賞作家・平野啓一郎の代表作『マチネの終わりに』。
ラブストーリーでありながら、人生の苦悩、世界の分断や対立といったテーマを織り交ぜ、登場人物たちの心情の変化を緻密に描き出した話題作を、ドラマシリーズ『ガリレオ』や『容疑者Xの献身』などの西谷弘監督が映像化。

 

撮影を担当されたのは、本作が5本目の劇映画作品となる重森豊太郎キャメラマンです。『au三太郎シリーズ』、『資生堂エリクシール』、『toto BIG』、『午後の紅茶』、『niko and …』、『日野自動車 ヒノノニトン』など、手掛けるほとんどのCMを35mmフィルムで撮影されており、今回の劇映画も35mmフィルムを選択されています。その選択の背景や海外ロケのお話などを、本作で撮影助手チーフとして参加された大和太氏とご一緒にお伺いしました。
 

西谷弘監督とは初めてご一緒されたと伺いましたが、きっかけはなんだったのでしょうか?

重森C: 私が撮影したCMを西谷監督がご覧になっていて、撮り方、空気感、画のトーンなどを評価して頂いたことがきっかけでお話を頂きました。西谷監督と映画でご一緒するのは初めてでしたが、西谷監督、プロデューサーにもフィルムで撮影したいということは、このお話を受ける前提として初めにお伝えしていました。

西谷弘監督(右)と重森豊太郎キャメラマン (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

海外ロケもありました。フィルム選択に影響は無かったのですか?

重森C: そうですね、海外ロケはパリとニューヨークです。最終的に全編フィルムで撮影するという方向に決まるまでには本当に色々ありました。フィルムのリスクやコストを鑑みて当初、海外だけデジタルで撮影出来ないかというお話でした。メインは東京でのフィルム撮影だったのですが、撮影スケジュールを詰めていくと、東京でも海外のシーンを撮影する必要性が出てきて、そこだけデジタル撮影に切り替えないといけないという、非常に煩雑な現場の状況になることが見えてきました。海外クルーの労働条件も日本とは違って、拘束時間などが厳密に決まっているので、それを超えて仕事をしてもらうことが基本的にできないという状況もあり、日本のロケーションでニューヨークに見せて撮影したり、パリのアパートを東京のスタジオでセットにしたりする必要が出てきてしまったんです。ロケハンについても、東京、パリ、ニューヨークと同時に進んでいて、それぞれの国の場所も決めないといけないし、さらにその決まったロケーションでのシーン毎にフィルム、デジタルと機材を両方用意して撮影していくプランを考えなくてはいけない。途中からそういったプランを練ること自体に意味がないと感じてきて、そんなことに注力しても決して良い方向にならないと思ったので、すべてフィルムで撮影する方向で監督含めプロデューサー、関係者に提案しました。

重森豊太郎キャメラマン (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

大和チーフ: 全編フィルム撮影という方向が固まるまで、諸々の段取り、手配に本当に悩みました。機材を日本から持っていくのか、それとも海外の機材屋で手配するのか等々。そして全編フィルム撮影の決定が重森さんから下りてきた時点で、フィルムのテストピースを重森さんにロケハン時に海外のラボに入れて頂きました。海外と日本のラボの現像状態のマッチングチェックのためです。上がりの違いはありましたが、許容の範疇で問題はありませんでした。機材面では、海外での機材チェック、準備に要する時間がほとんどないことは明白でしたので、日本編での機材の体制を丸々海外編に持っていくほかないと思いました。重森さんにも最終的に判断して頂きその方向で動くことになりました。三和映材社さんの協力無しには、成し遂げられませんでした。三和映材社さんのご厚意、バックアップには本当に感謝しています。

重森C: 機材については大和にすべてを任せていたので、本当によくやってくれたなと思います。ギリギリまで方向性が決まらなかったので、よくフィルムで全編出来たなと今でも思います。何かの歯車が一つでも崩れたら、一気にすべての決定がデジタル撮影の方向に覆ってしまうのではないかという不安もありました。しかし、この作品はフィルムで行くぞという強い決意があったので、今回のような大作で、日本映画で、しかも海外ロケもあるというめったにない機会の作品を、全編フィルムで仕上げることが出来たことは本当に貴重だと思います。
 

重森豊太郎キャメラマン (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

海外のラボはいかがでしたか?

 

重森C: フランスはハイベンティ(Hiventy)というラボで、ニューヨークはコダック フィルム ラボで現像しています。両方のラボとも上がりは良かったのですが、撮影期間がパリは3週間と長かったので、特にハイベンティは印象が深いです。実際に現像所の中まで案内してもらいました。デジタル化するシステムも揃っていて、デイリーもすぐ自分のPCにダウンロードできたので、ほとんどストレスはなかったです。現像の状態や撮影素材のチェックもスピーディーにできたので、デジタルで撮影しているのと変わらない印象でした。

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

パリの撮影現場はいかがでしたか?

重森C: パリの現場のスタッフはすごく良くて、ウッディ・アレンの映画スタッフなどもいて、本当に超一流でした。特にバランタンというステディカムのオペレーターは現場でも人気がありました。本当に凄く楽しそうに仕事をしていて、自在にステディカムを操るんです。日本ではあまり見ないタイプのスタッフで、とにかく現場を盛り上げるのが上手かったです。話を聞いたら、お父さんがフランスのステディカムの第一人者だったそうです。子供の頃からステディカムを玩具代わりにしていて、小さい頃から映画撮影という文化の中で育つとこういう性格になるんだなと。日本との環境の違いを強く感じました。

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

そしてニューヨークでのロケですね?

重森C: ニューヨークは、逆に色々大変なことがありました。撮影初日、あともう少しでその日に予定していたカットを撮り終えるという時に、海外クルーのルールでミールブレイクを絶対に入れないといけない時間になってしまって、仕方なく休憩を取ることになりました。そうしているうちに、天候がどんどん悪くなっていって大雪になってしまい、セントラルパークで遭難しそうになりました(笑)。冗談抜きで、本当にトラックも動かせない状況で、とにかく機材だけでも避難させないと、すべて雪に埋もれてしまうという状況でした。さらに大変だったのは翌日です。撮れていないシーンの続きをどうするかですが、とにかく雪景色になってしまったので、雪かきで何とかするしかないのですが、大雪の翌日なので、雪かきでどうにかなるレベルではありませんでした。雪が写らないようなアングルを上手く見つけてとにかく撮っていくしかないという状況で、現地のスタッフとの連携がうまくいってなかったこともあって、雰囲気もピリピリしてしまい、フランスよりもニューヨークは大変だったという思い出しかないです。西谷監督もニューヨークは色々とやられたねとおっしゃっていたのが印象に残っています。

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

この作品で、特にこだわられたことは、どんなことでしょうか?

重森C: 私は普段からCMなどをフィルムで撮影していて、西谷監督も今回、そのトーンを求めて私に依頼して頂いたという経緯もあったので、どんな困難があったとしても、フィルムで撮影する方向は変えないという信念で臨んだ作品です。そういったある種の覚悟のようなものは、今回のスタッフそれぞれが抱えていたと思います。監督も今回の映画は純文学作品だという、ある種、哲学的な情報量のある原作なので、それを2時間に集約して表現していかなくてはいけないため、この映画を何か特別な存在感のあるものにしたいと初めからおっしゃっていました。監督がこの映画に対して特別なものにしたいという想いの現れとして、フレームはスタンダードという案があったくらいです。音楽家の話ですし、音についてのこだわりや、演出、編集についても監督は凄くこだわっていたと思います。私も今回は、全編ネガからポジ、つまりプリントフィルムを上げています。私が撮影するCMは、ポジからのスキャンでデジタル化しているものが多いのですが、最近の日本映画でポジまで上げるのは珍しいと思います。ハリウッドでは、ポール・トーマス・アンダーソンやクリストファー・ノーラン、クエンティン・タランティーノなどの監督は、ポジまで上げて作品を仕上げていますが、それって映画愛というか、映画の記憶に対するリスペクトの表れだと思っています。監督からイン前に、どういった映画にしたいかと問われた時に、私は古典がやりたいですと答えました。昔から映画はセルロイド、つまりフィルムで観られていて、だからフィルムで撮影したいし、キャメラをフィックスにしてワンカットワンカットをじっくりと撮っていきたいと監督に伝えました。その手法で現代劇を撮りたいと。クラシックギターの音色というのが今回の作品の重要なシーンにありますが、それは凄くアナログの音なので、画も人間の肌のアナログな質感をフィルムで残したいし、監督からその部分を任せられたと思って撮影しました。

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

今回、大和さんは撮影チーフとしては2本目で、フィルムの現場でのチーフは初めてですよね? いかがでしたか?

大和チーフ: この作品でフィルムの映画でのチーフを初めてやらせて頂きました。重森さんとは、CMでは助手として、何度かつかせて頂いていましたが、映画の現場で重森さんのチーフは初めてだったので、自分に務まるかどうかという思いも多少はありました。ですがフィルム作品でチーフをやらして頂くチャンスをお断りする要素はないと、喜んでやらせて頂きました。幸運にもチーフに上がるまでにフィルム撮影での映画を比較的多く経験させて頂きまして、個人的にもフィルム撮影を熱望していましたので、今回は特に重森さんの想いに乗っからせて頂いた部分は多分にありました。やっぱりフィルム撮影の与えてくれるルックや、精神性は特別なものがあり、毎度のことながら実感してしびれました。

重森C: 大和は昔から知っていたので、今回、海外含めてフィルム撮影ということもあったので、現場の経験も豊富だし、チーフとしてやってみないかという話をして、他の助手の人選なども全部任せました。私も西谷監督とは初めてご一緒するし、その他の色々初めてなことが多かったので、現場でもしトラブルがあった時はちょっと大変かなとも思いましたが、そういったこともなく、正直、私の予想の100倍ぐらい現場でよくやってくれましたね。現場でも色々、画作りとしての意見をちゃんと持っていて、その意見を伝えてくれる面が良かったですね。

重森豊太郎キャメラマン(左)と大和太撮影助手チーフ (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

他のスタッフの方はいかがでしたか?

重森C: 実はCMでは何度もご一緒していますが、照明の中村裕樹さんとも映画でご一緒するのは初めてでした。昔から1本は映画でご一緒したいと思っていた照明技師のおひとりです。中村さんの照明も、今回の少しファンタジックな恋愛という作風によく合っていると思いました。現場ではスタッフ間の空気を凄く読んで動いて頂いていたと思います。監督、役者、キャメラマン、それぞれの仕事がやり易い状況になるように照明を作っていって頂けて、非常にバランスのとれた方だなと思いました。

左から重森豊太郎キャメラマン、西谷弘監督、 中村裕樹 照明技師 (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

今後のご自身の撮影についてお聞かせください。

重森C: 私は、フィルム撮影の選択肢はこれからも持ち続けていきます。でもメディアの選択については実はもっと自由で良いのかなと思います。デジタル撮影が合っている作品は、勿論デジタル撮影で良いと思います。けど映画で、人の葛藤とか、特に人間の情緒や感情を撮っていく作品は、やはりフィルムで撮りたいですね。予算の話が一番に来てしまう状況はあるとは思いますが、それだけがメインの判断になってしまうと、逆に映像表現の選択の幅が限られてしまうと思います。映画ってもっと自由なものだと思いますし、予算が少ない中でも16㎜撮影などの選択肢はあると思います。今回はこの映画をご覧いただいた方に少しでもフィルム映像の質感に興味を持って頂きたいですね。そして、この映画の醸し出す情感や温もりが少しでも豊かだなと思って頂けて、良い評価を受けた時に、また次の作品に繋がっていくと信じています。

重森豊太郎キャメラマン (C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

(インタビュー:2019年 9月)

 PROFILE  

重森 豊太郎
しげもり とよたろう

1970年生まれ、東京都渋谷区出身。

日本映画学校(現 日本映画大学)撮影照明科卒業。豊田利晃監督の『蘇りの血』(2009年)で長編映画デビュー。

以降、豊田利晃監督で『モンスターズクラブ』(2011年)、『I'M FLASH !』(2012年)、また関根光才監督の『生きてるだけで、愛。』(2018年)などの劇映画を担当。TVCM、MVの撮影担当作品も多数あり、KDDI『au 三太郎シリーズ』の撮影にて2016 ACC CRAFT CAMERAMAN賞を受賞。

大和 太
やまと ふとし

1982年生まれ、京都府出身。

日本大学芸術学部映画学科撮影コース卒。三和映材社研修生卒。

柳島克己氏をはじめ、数々の著名な撮影監督の下、多くの現場にて撮影助手として活躍。撮影助手チーフとして、西谷組『マチネの終わりに』に参加。

 撮影情報  (敬称略)

『マチネの終わりに』

 

監 督 : 西谷 弘 
撮 影 : 重森 豊太郎
チーフ : 大和 太
セカンド: 石井 綾乃
サード : 伊藤 遼 
照 明 : 中村 裕樹
Bキャメ: 彦坂 みさき
ステディカム:木村 太郎


キャメラ: ARRICAM ST、LT
レンズ : PANAVISION PRIMO 17.5、21、27、35、40、50、75、100、150mm、PRIMO ZOOM 24-275mm

(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

フィルム: コダック VISION3 500T 5219 (3パーフォ)
機 材 : 三和映材社
現像&仕上げ: IMAGICA Lab. 

制作プロダクション: 角川大映スタジオ

製作: フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

配給: 東宝
(C)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

公式サイト: https://matinee-movie.jp/

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