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2019年 11月 22日 VOL.146

マーティン・スコセッシ監督と撮影監督ロドリゴ・プリエトが『アイリッシュマン』でコダックのルックを活用

マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』より Image courtesy of Netflix.

創作の出発点、およびそれに続く映像の基盤としてコダック35mmフィルムを用いた『アイリッシュマン』は、マーティン・スコセッシ監督が戦後アメリカの組織犯罪を描く壮大な年代記で、1人の殺し屋によって語られていきます。

見事な演技とスリリングな撮影で映し出される50年間にわたるドラマは、同監督作品の最高傑作の1つとして幅広く賞賛を得ており、背筋の凍るような暴力、裏切り、不正、感情の破綻が随所に盛り込まれています。

製作費1億5900万ドルのこのNetflix映画は、撮影監督 ロドリゴ・プリエト(AMC、ASC)によって撮影され、ロバート・デ・ニーロがフランク・“アイリッシュマン”・シーランを、アル・パチーノが労働組合委員長ジミー・ホッファを、ジョー・ペシが裏社会のボス、ラッセル・バッファリーノを演じています。

『アイリッシュマン』より、主演のロバート・デ・ニーロ(左)とジョー・ペシ Image courtesy of Netflix.

原作となる2004年のチャールズ・ブラントの書籍『アイリッシュマン』(原題:I Heard You Paint Houses)をスティーブン・ザイリアンが脚本化し、第二次世界大戦の元軍人であるシーランが、バッファリーノの犯罪組織で殺し屋として仕事をした年月や、1975年に起きた、友人であるホッファの謎の失踪と自らの関わりについて回顧する姿を伝記風に追った作品になっています。シーランは2003年に83歳で死去しました。

プリエトは、過去にスコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)や『沈黙 サイレンス』(2016)を撮影しており、アン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(2005)に加え、『沈黙 サイレンス』でもアカデミー賞撮影賞にノミネートされました。どれもコダックの35mmフィルムを使用した作品です。

それらの過去作品と同様、『アイリッシュマン』も全編セルロイド(フィルムの意)をベースにした映画として制作がスタートし、プリエトは時間が行き来するストーリーラインに合わせ、コダックの35mmフィルムを創作上のカラーパレットの基準として利用しました。これは批評家にとても賞賛されています。

マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』の撮影監督 ロドリゴ・プリエト(AMC、ASC) Photo by Niko Tavernise. Image courtesy of Netflix.

プリエトが最初に『アイリッシュマン』の話を聞いたのは、『沈黙 サイレンス』のポストプロダクション中だったと言います。「実は脚本を読む前に原作を読んでいたのですが、とても面白く、非常に愉快な物語だと思いました。組織犯罪やジミー・ホッファの話と並行して、いくつかの異なる年代のアメリカの歴史的な側面もたくさん散りばめられていました。描かれている時代がかなり広かったため、それぞれの年代を映像で描くのは至難の業だと気づきましたね。これほど広がりのある物語のビジュアル・デザインを創作するのは非常に心躍ることでした」

彼はこう付け加えます。「映画のルックを決めるにあたり、マーティは早い段階で、ホームムービーのようにするという考えを口にしました。カメラを揺らしたり、粒子を粗くしたりということではなく、過去の映像的な記憶から感覚や感情を呼び起こすということです」

「『アイリッシュマン』における私たちのゴールは、真実味があり、感触で伝わるようなルックの違いによって、見ている人をフランク・シーランが過ごした第二次世界大戦、1950年代、60年代、70年代、そして2000年代初期といった各時代に引き戻すことでした。フィルムのネガには、こういう感情を表現する映像的な環境を作りだすと同時に、時代ごとのルックの違いを実現し、俳優の表情に浮かぶ感情の機微を再現する魔法が元々備わっています」

マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』より Image courtesy of Netflix.

このためプリエトは、当時普及していた古いスチル写真の乳剤を研究し、1950年代のシーンではコダクローム、1960年代のセットではエクタクロームのルックと色再現をエミュレートすることになりました。1970年代のシーンでは異なるアプローチをし、ENR処理を再現するテクニックを用いてカラーの画をしっかりと荒らすことで、フランク・シーランの晩年の転換点となる出来事を映し出すことにしたのです。

(ENRはテクニカラー・ローマのエルネスト・ノベッリ・リモ(Ernesto Novelli Rimo)という技術者がヴィットリオ・ストラーロ(AIC、ASC)のために考案した、カラープリントに銀を残すプロセスで、深い黒味と抑えられた色彩を持つハイコントラストの画になります。)

もちろん、『アイリッシュマン』は主要キャストを若く見せるために使用されたデジタルによる「若返り化」といった制作およびポスプロ技術でも非常に話題になっています。こういった技術により、俳優たちがストーリー上、数十年にわたって同じキャラクターを演じることが可能になっています。

『アイリッシュマン』の法廷シーンにて、左からアル・パチーノ、マーティン・スコセッシ監督、撮影監督 ロドリゴ・プリエト(AMC、ASC)  Photo by Niko Tavernise. Image courtesy of Netflix.

「私たちは『アイリッシュマン』を全編フィルムで撮影したいと考えていたのですが、俳優たちの若返りが必要なショットがかなりたくさんあったため、やむを得ず別の方法で取り組まなければなりませんでした」とプリエトは語ります。

この作品で、プリエトは俳優の顔の体積情報を取得するための3台のデジタルカメラを使用した特殊なカメラ・リグの開発でインダストリアル・ライト&マジックのVFXアドバイザー、パブロ・ヘルマンと、ARRI CSニューヨークと協働しています。

フィルムで本作の主要な撮影を行う際には、ショットの中で俳優たちの若返りは行われておらず、第2ユニットでの撮影はすべて35mmのコダックフィルムで撮影されました。フィルム撮影の部分は最終の仕上がりではほぼ半分になっています。

マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』より Image courtesy of Netflix.

プリエトが『アイリッシュマン』のフィルム撮影で選んだのは、コダックの2タイプのフィルムでした。日中の屋外および屋内用のコダック VISION3 250D カラーネガティブ フィルム 5207と、すべての夜間撮影を含むそれ以外のショットには500T 5219が使用されています。

「第二次世界大戦および1950年代、60年代のシーンを撮影した35mmフィルムは、すべてラボで標準現像されました」とプリエトは説明します。「ですが、1970年代とそれ以降のシーンからは、両方とも35mmフィルムを1段増感して現像するようにしました。映画の後半部分のストーリー展開を引き立てるために、質感と粒子感を強調したいと思ったからです。ニューヨークのコダック・フィルム・ラボでデイリーをあげたのですが、非常に便利で、非常に手ごろな価格でした」

スキャンされたフィルムのデイリーと、デジタルで撮影されたフッテージは、どちらもフィルムをエミュレートする様々なカスタム開発のLUTで加工し、ストーリーの各年代にコダクローム、エクタクローム、ENR処理という異なるルックを求めるプリエトの要求に応えました。

マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』より Image courtesy of Netflix.

こういった試みの結果、『アイリッシュマン』のルックは50年代および60年代の高彩度から変化していき、70年代から2000年までは時間の経過に従って徐々に色が褪せていきます。

「マーティは『アイリッシュマン』で、視覚的にリアリスティックな方法を用いながら、力強くパワフルなストーリーを語りたいと考えていました」とプリエトは締めくくります。「繰り返しますが、私たちはフィルムを信頼しており、歴史上のフィルムのルックがドラマチックなストーリー展開を支えてくれると信じていました。フィルムは、私自身もマーティも誇りに思えるような結果を返してくれたのです」

(2019年11月5日発信 Kodakウェブサイトより)

『アイリッシュマン』

 2019年11月15日から一部劇場にて公開、11月27日から全世界同時配信開始

 原 題: The Irishman
 製作国: アメリカ
 配 給: Netflix

 公式サイト: https://www.netflix.com/title/80175798

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