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2020年 3月 31日 VOL.152

HBO製作『キング・オブ・メディア』― コダック 35mm 3パーフォで撮影された、ダークな超人気TVシリーズ

HBO製作『キング・オブ・メディア』より Photo credit: Peter Kramer/HBO.

アメリカの有料ケーブルテレビ放送局HBOは、エンターテインメントのレベルを引き上げ続けるようなコンテンツを第一線で提供し、その評判を高めてきました。こうした良質なコンテンツを追求する同社は、大型の新しいTVシリーズのプラットフォームとしてフィルムを採用することにまったく躊躇していません。

デジタルの流れに逆らい、HBOは、高い評価を得た『ウエストワールド』を全編35mmフィルムで製作し、最近セカンドシーズンが再開されて絶賛を浴びているダークコメディー『キング・オブ・メディア』においても、成功を収めてきたセルロイド(フィルムの意)という手法に回帰しています。

『キング・オブ・メディア』は、世界有数の巨大メディアグループであるウェイスター=ロイコ社を牛耳る、家長ローガン・ロイと4人の子どもたちという、ローガン一族の姿を描きます。シリーズは一族の人生を追うのですが、老いたローガンはいずれ自分が日々の会社経営から退かなければならないと考えています。ローガンは相続プランを練るものの、汚い言葉で感情がぶつかりあったり、ローガンの意図をめぐってそれぞれの家族愛が衝突し、おかしなことになったりします。

HBO製作『キング・オブ・メディア』で主演を務めるブライアン・コックス Photo credit: Peter Kramer/HBO.

このシリーズは、製作総指揮を務めるジェシー・アームストロング、ウィル・フェレル、アダム・マッケイが制作しました。マッケイ(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』、2015年)は、パイロット版(第1話)の監督も務めました。他の監督陣には、マーク・マイロッド、アダム・アーキン、ミゲル・アルテタ、S・J・クラークソンらが名を連ね、ブライアン・コックス、ジェレミー・ストロング、キーラン・カルキン、サラ・スヌーク、ニコラス・ブラウン、マシュー・マクファディンが主要な役どころで出演しています。

シリーズ初めの撮影を支えたのはアンドリー・パレークで、彼はパイロット版、第2話、第3話を撮影し、第6話では監督を務めました。撮影監督パトリック・カポネは第4話、第5話、第8話、第9話、第10話で、クリス・ノアーは第6話と第7話で撮影監督を務めました。レイチェル・レヴィン、グレゴル・タベナー、トシロー・ヤマグチらがオペレーターを含め、カメラオペレーターとスタッフはシリーズを通して変わりませんでした。

『キング・オブ・メディア』のカメラクルーたち:(左から)クロエ・ハーウッド、セニー・サイード、マイヤ・ローズ、レイチェル・レヴィン、コリー・スタンブラー、撮影監督パトリック・カポネ、トシロー・ヤマグチ、ジーニー・マカルピン、グレゴル・タベナー

パレークは2016年秋にパイロット版を撮影し、ファーストシーズン全10話の主要な撮影は2017年10月に開始されました。ニューヨーク市クイーンズのシルバーカップ・スタジオのセットに加え、レキシントン街、東75丁目、マンハッタンのファイナンシャル・ディストリクトなどニューヨーク市の各所でロケーション撮影が行われました。ニューメキシコのサンタフェでも撮影され、最終話はイギリスのヘレフォードシャーにある、ビクトリア朝風に建てられたイーストナー城で撮影されました。

HBO製作『キング・オブ・メディア』より、ニコラス・ブラウンとマシュー・マクファディン Photo credit: Peter Kramer/HBO.

「オリジナルの脚本は、さりげなく散りばめられた痛烈なユーモアがシェイクスピア的な物語の悲劇を引き立てており、力強いものでした」とパレークは言います。「アダムは監督する際に非常におもしろい皮肉のセンスを取り入れるのですが、初めから『キング・オブ・メディア』はフィルムで撮影するべきだと強く主張し、プロデューサーたちを説得しました。35mmを使うという決断が、結果として作品に特別な、明らかに一味違う映像のプラットフォームをもたらしてくれたと思います。観客が慣れている、デジタルで作った多くの現代的な番組よりも荒れた質感と雰囲気がある映像なのです」

HBO製作『キング・オブ・メディア』より、ジェレミー・ストロングとキーラン・カルキン Photo credit: Peter Kramer/HBO.

パレークによると、『キング・オブ・メディア』のルックを作るにあたって重要な起点となったのは、コダックの35mmデーライトおよびタングステンフィルムを採用した、マッケイの監督作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(撮影監督:バリー・アクロイド、BSC)だったそうです。

パレークはこう回顧します。「アダムも私も、フィルムによる同じ類のエネルギーと質感を本作の映像に求めていました。ストーリーへのアクセントとしてズームやクラッシュズームを使いながらも、一方でアクションに対しては、上品で抑制の効いた報道写真のような客観性を作り出すべく、全体のルックをより焦点距離の長いレンズで撮影したいとも思っていました。フィルムとデジタルを並べてテストしてみたのですが、ポストプロダクションでデジタルの映像をフィルム風の質感にしなければならないのなら、なぜ最初から本物を使わないのでしょう?」

シリーズの撮影計画を立てる中で、パレークとマッケイは、数人のキャラクターを映す会話のシーンは複数台のカメラを使って撮影することに決めました。このアプローチには最小限の照明セットを使って、自然なその場の光を活かす手法で引き立たせるのですが、これにより、1つのシーンを交差して撮影したり、三角形に配置して様々なアングルから撮影したりできるようになりました。

「事実上、このアプローチは、カメラの場所が俳優たちにはまったく分からないという状況を生み出しました」とパレークは説明します。「ですから俳優たちは、伝統的な演劇で演じているように各自の役柄に集中せざるを得ませんでした。おかげで演技の質と臨場感が高まったのです。まるで演劇の撮影のようでした」

パレークは、アリフレックスの35mmカメラにアンジェニューの24-290mmおよび45-120mmズームレンズと、夜の屋外のシーンにはより明るいライカ ズルミックスのCプライムレンズのセットを装着して、3パーフォレーションで撮影しました。パレークが『キング・オブ・メディア』の撮影で選んだフィルムはコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219の1種類だけで、これはカポネとノアーにも引き継がれました。パイロット版のフィルムはロサンゼルスのフォトケムで現像されたのですが、シリーズの製作が本格的に動き出した時には、新しく立ち上がったコダック・フィルム・ラボ・ニューヨークを全面的に活用できました。

「多くの撮影技師たちが認める通り、500Tは実に汎用性が高いフィルムです。タングステンの照明を使った夜のシーンも、デーライトの屋外や屋内のシーンも、補正せずに使えます」とパレークは言います。「色の彩度が素晴らしいうえ、ハイライトと暗部のコントラストやディテールのレベルが確実に印象的になるのです。500Tは俳優の肌のトーンに独特でソフトな真の質感をもたらしてくれるのですが、これをデジタルで実現するのは容易ではありません」

HBO製作『キング・オブ・メディア』でシヴォーン・ロイ役を演じるサラ・スヌーク Photo credit: Peter Kramer/HBO.

「500Tはポストプロダクションでの色補正が非常に見事なので、我々は補正なしで『キング・オブ・メディア』を撮影しました。現場ではすべて自分で感度800で測り、2/3絞りアンダーにして、黒みに若干の濁りをもたらしました。映像全体の粒子と質感にはとても満足できました」

パレークはこうも付け加えています。「ところで、私は今でも、デジタルよりフィルムの方が速く撮影できると思っています。デジタルで撮影すると、特に夜のシーンは不要な光を取り除くのに奮闘しなければならず、時間と労力がかかります。フィルムだと、欲しい光を足すことから作業が始まります。グリップが光を取り除くのにほとんど時間を費やすことがありません。このことが作品にとっての節約に繋がりました。このように、フィルムはかかる時間と費用を大幅に減らしてくれるのです」

HBO製作『キング・オブ・メディア』より、ブライアン・コックスとアラン・ラック  Photo credit: Peter Kramer/HBO.

映画撮影の手法をパレークから引き継いだ撮影監督パトリック・カポネは、映像的な自由を手にしつつも、当初の撮影スタイルから逸脱しすぎないようにしようと決めていたそうです。

「セットアップする際の長所は、素早く作業ができることと、大抵1日が過ぎるのが速かったことですね」とカポネは言います。「DIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)のテントの中で過ごすのではなく、再び露出計を持って現場を歩き、スタッフたちと一緒にいられるのがとてもうれしかったです」

パレークも同意します。「フィルムでの撮影時に発生する、“準備、用意…、撮影”という統制が取れた環境が本当に好きなのです。概して、テイクとテイクの間カメラを闇雲に回し続けるようなデジタルの撮影現場とは対照的に、テイクを撮り、カメラにカットをかけ、気を取り直してもう一度、というように進めます。フィルムには、より正確な、より綿密な作業の仕方が求められ、必然的に生じる小休止により、地に足の着いた有意義なプロセスになるのです」

カポネにとって特に大事だった場面は、『キング・オブ・メディア』の2つの最終話のエピソードをイギリスで撮影した時でした。水中撮影を得意とするマイク・バレンタイン(BSC)が撮った、パインウッド・スタジオのUステージの水タンクのシーンと、近郊のビクトリア湖で撮った水中の車の衝突シーンです。イーストナー城のゴシック調の大邸宅では4週間撮影しました。イギリスで撮影したネガはイギリスのラボ、シネラボで現像されました。

HBO製作『キング・オブ・メディア』より、キーラン・カルキンとサラ・スヌーク Photo credit: Peter Kramer/HBO.

「現場のクリエイターたち以外は全員、デジタルの方が迅速に進むと考え、水中シーンをデジタルで撮影したいと考えていました」とカポネは振り返ります。「実際には、俳優たちとスタッフは水面に浮かんで休憩しながらアクションについて監督と話し合い、私たちはただ撮影を続けました。2台目のカメラを準備していましたが、使うことはなく、反対した人たちが間違っていたことが証明されたのです」

HBO製作『キング・オブ・メディア』の1シーン Photo credit: Peter Kramer/HBO.

イーストナー城での撮影では、カポネは特に500Tの性能を楽しんでいました。「城は大きく、暗く、露光量について言えば感度が高かったのです。ですが、LEDを並べると、充分な量の、北に見えるような青い光を城内の大きな部屋の中に簡単に取り込め、映像を真っ黒に潰すことなく、500Tでの仕上がりを暗く濃く見せられるのです。さらに、フィルムで撮影した映像の質感がシリーズ全体のルック、特に俳優の顔を補完してくれます。フィルムだと非常に自然に見えるのです」

HBO製作『キング・オブ・メディア』より、サラ・スヌークとキーラン・カルキン Photo credit: Peter Kramer/HBO.

パレークも同意し、さらに付け加えます。「フィルムには独特の有機的な魂が込められています。本作においては、このことが壮大な人間同士の物語における喜劇と悲劇の間の綱渡りを映像的に支えてくれた分配金のようなものだったのです。フィルムを信じれば、必ず結果がついてくるのです」

(2018年7月18日発信 Kodakウェブサイトより)

『キング・オブ・メディア シーズン1&2』

 Amazon Prime Video チャンネル
 「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」他にて配信中

 原 題: Succession
 製作国: アメリカ

 公式サイト: https://www.star-ch.jp/drama/king-of-media/sid=1/p=t/

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