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2020年 4月 8日 VOL.153

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』― コダックの35mmフィルムが映像に堂々たる品格をもたらす

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』より、(左から)チューバッカ役のヨーナス・スオタモ、ポー・ダメロン役のオスカー・アイザック、レイ役のデイジー・リドリー、フィン役のジョン・ボイエガ Photo by  Lucasfilm. © 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

過去40年以上にわたり、『スター・ウォーズ』シリーズは映画だけで90億ドル、商品展開の分野では驚くべき680億ドル以上の収益という経済的な成功は言うまでもなく、他の多くの作品にとっては夢見ることしかできないような伝説的地位を築き上げてきました。

そのため、監督と彼の相棒である撮影監督 ダン・ミンデル(BSC、ASC)は、ジョージ・ルーカスによって1977年に初めて生み出された壮大なSF年代記の第9作にして完結編となる『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の撮影に関して、見応えのあるものを観客に届けなければならないことを十分理解していました。

『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』のセットにて、撮影監督 ダン・ミンデル(BSC ASC) Photo by Jonathan Olley. © 2018 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

ミンデルはこう言います。「『スター・ウォーズ』はすべてのSFファンタジー映画の原点であり、我々は技術的観点から並外れて複雑な撮影に直面していただけでなく、本作ならではの独自の映画を作りつつも、過去に成し遂げられた遺産に敬意を表して守る必要がありました」

「物語が大きなスクリーンに投影される限り、メディアの中で最も質感があって力強いのは、今でもセルロイド(フィルムの意)なのです。スクリーンに映る他メディア作品の無味さとは対照的に、フィルムは作品を際立たせることができるのです」

「私は世界中の観客のため、照明、レンズ、フィルムを使って『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を別次元にまで引き上げよう、そしてできれば、予算は関係なく、フィルムがもたらすことができる見事な仕上がりで他の映画製作者たちをワクワクさせようと決意しました」

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』より、(左から)チューバッカ(ヨーナス・スオタモ)、BB-8、D-O、レイ(デイジー・リドリー)、ポー・ダメロン(オスカー・アイザック)、フィン(ジョン・ボイエガ) Photo by Lucasfilm Ltd. © 2019 ILM and Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

躍動的な銀河系間のアクションを随所に盛り込み、物語の大詰めでは、残ったレジスタンスが過去、そして自身の内側にある混乱にも向き合いながら、ファースト・オーダーに立ち向かいます。一方で、昔から続くジェダイとシスの対立はクライマックスを迎え、スカイウォーカーの物語を完結に導いていきます。

本作には、レジスタンスの一員にして最後のジェダイの騎士、レイを演じるデイジー・リドリー、最後のジェダイ・マスター、ルーク・スカイウォーカーを演じるマーク・ハミル、レジスタンスの戦士フィンを演じるジョン・ボイエガ、レジスタンスのリーダー、ポー・ダメロンを演じるオスカー・アイザックらが主要キャストで出演しており、彼らの敵であるファースト・オーダーの最高指揮者カイロ・レンをアダム・ドライバーが演じています。

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『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のロケ地ヨルダンより、撮影監督 ダン・ミンデル(BSC ASC、左)とJ.J.エイブラムス監督  Photo by Jonathan Olley. © 2018 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、『M:i:III』(2006年)、『スター・トレック』(2009年)、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2017年)に続き、エイブラムス監督とミンデルが携わる5作目の超大作映画で。どの作品もフィルムで撮影されています。

「J.J.はみなさんが出会う中で最もクリエイティブな人間の1人であり、フィルムが再び魔法を起こすことを心から喜んでいました」とミンデルは振り返ります。ミンデルは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の大学付き撮影監督の仕事の一環として、全米撮影監督協会マスタークラスの意欲的な撮影監督たちに向けて、一流の映画プログラムでも指導しています。

コダック35mmフィルムでのワイドスクリーン2.40:1の主要な撮影は、2018年8月から2019年2月に130日以上の撮影日数をかけて、主にイギリスのパインウッド・スタジオとカーディントン・スタジオで行われました。スタジオには巨大なセットがいくつも建てられ、これらのセットには宇宙船のブロッケード・ランナーやスター・デストロイヤーの内外部に加え、レジスタンスの洞穴のような地下基地も含まれていました。

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』より、カイロ・レン役のアダム・ドライバーとレイ役のデイジー・リドリー © 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

パインウッドの北のバックロットと屋外のウォータータンクでは、山だらけの厳寒の惑星キジーミのセットと、嵐の海を漂流する宇宙ステーション、デス・スターのデッキ上でのライトセーバーの闘いが撮影されました。近くのブラック・パークは、劇中の屋外のジャングルに使われました。撮影は一定期間、ヨルダンのワディラムの日差しの中でも行われ、そこで撮影された劇中の砂漠のシーンには1,000人ほどのキャストとスタッフが参加しました。

ミンデルによると、撮影が始まるずっと前、ロサンゼルスでパインウッドMBSの重役たちとプライベートで夕食を取っている最中に、この作品の照明計画について概要を説明したそうです。パインウッドMBSは、本作のために多くの照明と照明技師のペリー・エヴァンスを提供してくれました。

ミンデルは続けてこう述べています。「照明を当てるのがレイのような憔悴したヒーローであれ、カイロ・レンのような邪悪な敵であれ、スクリーンでは豪華でインパクトの強い仕上がりに見えなければなりません。それが映画というものであり、昨今使われている、区別が難しい同種のフォーマットと本作を差別化するのにも力を貸してくれます。撮影がアナログのフィルムで行われるので、私は照明チームに、俳優たちにはアナログの照明機材を使いたいと打ち明けました」

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』より、主演のレイ役を務めるデイジー・リドリー Photo by Jonathan Olley. © 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

撮影中、基本的に巨大セットの背景の大きくて細長い一帯にはLED照明が当てられましたが、一方でミンデルは20Kや白熱灯、集光したフレネルなど昔ながらの光源を並べて俳優たちにアナログの光を浴びせ、場面に合わせて美しく見せたり、ありのままを見せたりしました。

「その場の光だけを使うというのもいいアイデアかも知れません」とミンデルは言います。「ですが、撮影監督として自分ならではの功績を挙げ、自身の映像的な個性を作品に残したいなら、昔ながらの撮影の知識と映画制作技術を駆使する方がずっと面白いですし、俳優たちの支えにもなれるのです」

カリフォルニア州ウッドランドヒルズと、ロンドンのグリーンフォードにいるパナビジョンのチームと協働し、ミンデルはカメラとレンズに関して『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で使用したのと同じ組み合わせに決めました。つまり、パナビジョンXLカメラとパナビジョンのレトロCアナモフィックレンズです。とは言え、彼はこの完結編のために、パナビジョン・レンズの第一人者であるダン・ササキにレトロCを再設計してもらい、背景と前景の分離を心地よく保ちつつ、コントラストを和らげ、映像全体にかすかな温かみを出すようにしました。

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』より、C-3PO役を務めるアンソニー・ダニエルズ Photo by Lucasfilm. © 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

「ドロイドの作業場の暖かい光で照らされた屋内にいるC-3POのクローズアップに注目してみてください」と彼は一例を挙げてくれました。「75mmのレトロCを使い、絞りをT2.8に開けてフィルムに撮影すると、ボケがほぼ液体のように見え、最終的な仕上がりに信じられないほどの親密さが生まれるのです」

ミンデルは、本作の屋内外のシーンの大部分をコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219の1タイプだけで補正せずに撮影しました。日光が差すヨルダンの砂漠のシーンと、イギリスのブラック・パークでの明るい日の撮影では50D 5203を用いました。

「仕事を始めて40年経った今でも、フィルムの技術には衝撃を受けます」とミンデルは声高に言います。「本作にはさまざまな人種のキャストが出演していますが、どちらのフィルムも、同じフレームの中にあるすべての肌のタイプに素敵な演出と質感を与えてくれます」

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』より、フィン(ジョン・ボイエガ)とポー・ダメロン(オスカー・アイザック) Photo by Lucasfilm Ltd. © 2019 ILM and Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

「おそらく私が今までで一番気に入っているフィルムが500T 5219ですね。素晴らしい粒子感があるだけでなく、高感度です。絞りを得るために大量の照明を使う必要がなく、ごく簡単にレンズの絞りをコントロールすることができます。さらに、このフィルムのラチチュードのおかげで、暗くて恐ろしい低照度の場面をたくさん撮影することができましたし、どんなハイライトも完ぺきに残るはずだという確信が持てました」

「その部分については、50D 5203は素晴らしいコントラストがあり、映像の中の明るいところでも暗いところでもディテールを表現できるという点で、500T 5219と同じくらいとても柔軟なのです。ハイライトを3か4絞りまで放っても大丈夫です。冬の日差しの中で50Dに本作の砂漠のシーンを撮影することができたのは、本当にありがたいことでした。あのシーンは最終的な映像の中でも非常に素晴らしい出来になっていると思います」

フィルムの現像は、パインウッド・スタジオ内に拠点を置くコダック・フィルム・ラボで仕上げられました。「毎朝仕事前に真剣にラッシュを確認しました」とミンデルは語ります。「ラボに近いため、一夜でネガを現像してスキャンし、翌朝に007シアターでラッシュの試写とカラーグレーディングを行うことが可能でした。作業の仕方としては最高です。これによって、翌日の撮影用のセットの照明を調整することができ、他のいろんな部門もそれに応じて作業の判断をしたり、調整したりすることができました」

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の1シーン Photo by Lucasfilm. © 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

言うまでもなく、『スター・ウォーズ』のような宇宙を飛び回るSFアドベンチャーには、没入感を生むために途切れのない視覚効果が不可欠であり、ミンデルは映画業界でVFXの大手ベンダーであるインダストリアル・ライト&マジックについて、「見事に決めてくれました―コンピューターで作られたVFXが最高なんです」と熱く語ります。

「人工的なCGでアニメーション化した部分やVFXの部分は、コンピューターから出すとくっきりときれいなので、デジタルの実写部分と組み合わせても偽物っぽく見えることがよくあります。ですが、向上したフィルムスキャニング技術と粒子パターンとフィルムエミュレーションを用いた後処理を組み合わせることにより、フィルムに撮影された実写部分がCGやVFXの部分と信じられないほどうまく溶け合うのです。仕上がった映像はリアルで生き生きとしており、繋ぎ目がまったく分かりません。『あそこは実写で撮影したのだっけ、それとも後処理で生成したのか?』と自問することがたびたびあります」

ミンデルはこう締めくくります。「『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』をフィルムで撮影でき大満足です。なるべくして映像的に一線を画す仕上がりになりました。また、フィルムは、シネマトグラファーとして、自分が何をしているのかをよく考えることを求めます。世界中で起きているフィルム復興の一端を担っているのは若い人たちですから、今は彼らが足跡を残していく上で素晴らしい時代なのです。私は今、より多くの監督たちが、デジタルを用いた技術に走る傾向を減らし、シンプルなフィルムカメラと、フィルムだけが届けられる美しさで物語を語る映画制作の昔ながらの基本に戻ることをぜひとも見たいと思っています」

(2020年1月6日発信 Kodakウェブサイトより)

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

 4月8日より先行デジタル配信開始/4月29日 MovieNEX発売

 原 題: Star Wars: The Rise of Skywalker
 製作国: アメリカ​

 公式サイト: https://starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html

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