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2020年 5月 7日 VOL.154

意外な見どころを持つハードボイルド・クライム・アクション、スティーブ・マックィーン監督作『ロスト・マネー 偽りの報酬』

スティーブ・マックイーン監督作『ロスト・マネー 偽りの報酬』より、リーアム・ニーソンとビオラ・デイビス Photo Credit: Courtesy Twentieth Century Fox. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

コダックの35mmフィルムで撮影された『ロスト・マネー 偽りの報酬』(2018年製作、日本未公開作品、デジタル&ディスク リリース中)は、普通のハリウッド強盗映画ではありません。スティーブ・マックィーンが監督し、彼と長年コンビを組むショーン・ボビット(BSC)が撮影監督を務めた本作は、シカゴを舞台に、激しいカーチェイスや恐ろしいバイオレンス描写を交えながらも、貧困、警察の暴力、汚職、異人種間の結婚、性差別、人種差別といった、多様な現代のテーマとも繋がっています。

マックィーン監督が物語を展開させ、自身とギリアン・フリンとで共同脚本を手がけた『ロスト・マネー 偽りの報酬』は、リンダ・ラ・プラントによる1983年のITVの同名シリーズを基にしています。若い頃、そのシリーズのファンだったマックィーンは、女性キャラクターたちの大胆さに感銘を受けました。マックィーン版『ロスト・マネー 偽りの報酬』は、物語をロンドンから現代のシカゴに移しており、犯罪者である夫たちが下手な仕事をして殺されてしまった後に強盗を実行しようとする女性グループを描いています。彼女たちは、亡くなった夫たちが身を置いていたのと同じ悪事と悪徳の世界に、自分たちが容赦なく晒されていることに気づくのです。

『ロスト・マネー 偽りの報酬』は、『HUNGER/ハンガー』(08)、『SHAME -シェイム-』(11)、オスカー受賞作『それでも夜は明ける』(13)に続いて、ボビッドがマックィーン作品で撮影を手がけた4作目の映画です。この4作はすべて35mmフィルムで撮影されました。ビオラ・デイビス、ミシェル・ロドリゲス、エリザベス・デビッキ、シンシア・エリヴォ、コリン・ファレル、ロバート・デュヴァル、リーアム・ニーソンなどが主要キャストとして出演しています。

『ロスト・マネー 偽りの報酬』より、左からシンシア・エリボ、エリザベス・デビッキ、ミシェル・ロドリゲス Photo Credit: Courtesy Twentieth Century Fox. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

「初めてシカゴを訪れたのですが、たちまち物理的な建築物に心を打たれました」と、ボビットはこのプロジェクトで始めに熱中したことについて回想します。「しかし、桁外れの富と絶望的な貧窮といった両極端な環境がごく隣り合わせに存在するという点でも、かなり注目に値します」

「当初の我々の考えでは、シカゴの物理的な構造と風景を『ロスト・マネー 偽りの報酬』に取り込むつもりでした。ですが、進めていく中で、物語の複雑さと強烈さが、そういう形でシカゴを取り入れるというコンセプトに取って代わったのです。建築物よりも、人物やその人たちの動機を描くという方に傾いていきました」

彼はこう付け加えます。「私とスティーブが過去協働したすべての作品において、彼が一貫してこだわったのがフィルムでした。どれもフィルムが一番得意とする、ストーリーテリングを基盤としています。フィルムは今もなお、デジタルよりも優れた撮影メディアであり、ネガがより多くの情報を収めてくれます。さらに、フィルムがデジタルのポストプロダクションと合わさると、最終的な映像クオリティーと物語を伝える力強さという面で、両方の良いとこ取りができるのです」

『ロスト・マネー 偽りの報酬』より、ダニエル・カルーヤとブライアン・タイリー・ヘンリー Photo by Merrick Morton. Credit: Courtesy Twentieth Century Fox. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

本作の撮影は、シカゴ周辺のロケーションで11週間かけて行われ、2017年4月に開始し、6月に終了しました。主に1台のカメラで撮影され、ボビットは自身が好むクックS4レンズを装着したARRI LTおよびSTの35mmカメラを様々な配置で使い、コダックの35mmフィルムに2.40:1のアスペクト比で撮影しました。

撮影中はファーストのクリストファー・フルーリーとセカンドのサマー・マーシュ、フィルムローダーのマット・ヘッジズの力を借り、ボビットがカメラを回しました。デヴィッド・チャマイデスがステディカムを操作し、シカゴの美しい実景ショットの撮影も担当しました。

『ロスト・マネー 偽りの報酬』の撮影監督 ショーン・ボビット(BSC) Photo Credit: Merrick Morton. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

『ロスト・マネー 偽りの報酬』の映像的なアプローチについて、ボビットはこう言います。「長年スティーブの近くで仕事をしている中で、彼とは芸術や写真、TVに加え、フィルムについても、たくさん時間をかけて話し合ってきました。新しいプロジェクトについて検討するようになると、私たちはすぐに物語の内容と、それを描くにはどうするのがベストなのかに目を向けるんです」

「今回の場合は、ストーリーテリングの分かりやすさを模索しながら、大がかりで複雑な物語が過去どうやって描かれていたのかを知るために、『チャイナタウン』(1974年、監督:ロマン・ポランスキー、撮影監督:ジョン・A・アロンゾ)といったアメリカの大作を参考にしました。私たちは基本的に、力強い映像の構図を作り、その中で俳優たちが自分たちの演技を見出せるようにしたいと思っていました。同時に、無関係なところまで映すことをせずにひとつの場面の物語を伝えたいとも考えました。その結果、俳優の立ち位置や動きとカメラの動きをできるだけシンプルに保ちつつ、照明については自然なルックを目指すことにしました」

『ロスト・マネー 偽りの報酬』の1シーン Photo by Merrick Morton. Credit: Courtesy Twentieth Century Fox. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

ボビットによると、彼とマックィーンはよくある一般的なシーンを撮影し、普通の映画的な描写以上の視覚的におもしろい、意外なフレーミングの仕掛けをいくつか考え出したそうです。

例えば、ある場面で観客は、シカゴにおける犯罪暴力に関する会話が長々と車中で行われているのを聞くことになりますが、その間、カメラが車の前方と上部から行程を映し、シカゴ地区とその近郊の経済格差を鋭く描き出しています。

ボビットは本作のアクションを撮影するために、コダック VISION3 50D カラーネガティブ フィルム 5203、250D 5207、500T 5219という3タイプの35mmフィルムを選びました。これらのフィルムは、自然な照明を保って豊かな色味を追求しても映像が濃くなりすぎることはありません。現像はロサンゼルスのフォトケムで行われました。

「春や初夏にシカゴで撮影をすると日差しがかなり強くなり、まぶしくなることがあります」とボビットは言います。「ですから最初に50Dを選びました。これは素晴らしい特性を備えた本当に最高のフィルムです。粒子感が少なく、豊かで自然な色味になります。このフィルムでうまくいく時は、日中の屋外および日中の屋内のすべてのシーンで使いました。一方で、日中の屋内では絞りを足せる250Dを使いました。50Dとうまくなじむだろうということは分かっていました」

『ロスト・マネー 偽りの報酬』より、左からミシェル・ロドリゲス、ビオラ・デイビス、エリザベス・デビッキ Photo Credit: Courtesy Twentieth Century Fox. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

「伝統的に、強盗はたいてい夜に行われますが、本作のドラマの核となる部分も例外ではありませんでした。私たちは夜間の屋内および屋外のシーンを500Tで撮影しました。非常に低照度でもシーンを捉えることができるこのフィルムのラチチュードと能力は、毎回私を驚かせてくれます。セットで1、2絞り開けたり、彩度や粒子に悪影響が出る心配をすることなく、ラボで増感現像して感度を上げたりすることができました」

ボビットはこう付け加えます。「ですが、今のコダックフィルムの品質には別の点でも非常に驚かされます。そしてその点が本作で大いに役立ちました。さかのぼれば、明るい肌と暗い肌の俳優たちを同じシーンに映す場合は大抵、暗い肌に光を当てて明るくする必要があったのですが、この作業は複雑で時間がかかることがありました。最近はそうではありません。ビオラ(デイビス)とエリザベス(デビッキ)は露光範囲の両極端にありますが、照明のバランスを取ることや、セットで露光されるよう保つことに何の問題もありませんでした。Company 3での最終グレーディングの段階になって、フィルムを使用するのと同じフレームに映る個々の肌のトーンの表現が格別であることが目に見えて分かりました」

『ロスト・マネー 偽りの報酬』の撮影監督 ショーン・ボビット(BSC) Photo Credit: Merrick Morton. Copyright: TM & © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Not for sale or duplication.

多くの撮影監督たちが断言するのと同じく、ボビットもフィルムが撮影にもたらす持ち前の統制力を享受しています。「ファーストが“始め”と言うと、全員が集中し、真剣になります。俳優やスタッフたちの一人ひとりが、自分たちに果たすべき役割があることを分かっているのです。そして“カット”がかかれば、全員が自然と小休止状態になります。今日のデジタル撮影ではしばしば、監督はカメラを回し続け、ただリセットを求めるだけになります。こうなると、人々の集中力が切れてしまうかも知れません。総合的に見て、これは逆効果ですし、誰かがどこかですべてのデジタルデータを管理して処理しなければならず、非常に無駄が多いんです」

『ロスト・マネー 偽りの報酬』の自身の仕事の出来栄えを振り返ってボビットはこう言います。「本作は、また新しい、幸せで実りあるスティーブとのコラボレーションでした。当然のように、皆さんはスティーブのことをアートハウス系映画制作の名手だと思っています。この機会に、伝統的なスタジオスリラーに熟練の経験を持ち込む手伝いができたことは、ひとつの喜びでした。エンタテインメントとあるべき内容とのバランスを取り、堂々とした演技と予期しない映像によって際立った映画を届けることができたのです。全編をフィルムで撮影でき本当にうれしく思っています」

(2018年10月10日発信 Kodakウェブサイトより)

『ロスト・マネー 偽りの報酬』

 日本未公開、デジタル&ディスク リリース中

 原 題: Widows
 製作国: アメリカ​

 公式サイト: http://www.foxjapan.com/widows-jp

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