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2020年 5月 20日 VOL.158

16mmで撮影されたエピソードから始まるNetflixの哀感漂うジャズドラマ『ジ・エディ』

Netflixドラマ『ジ・エディ』の1シーン Photo by Lou Faulon. Image courtesy of Netflix.

高名なフランスの撮影監督エリック・ゴーティエ(AFC)は、デイミアン・チャゼル監督によるジャズを基にしたNetflixのドラマシリーズ『ジ・エディ』の最初の2エピソードを全編コダックの16mmフィルムで撮影しました。それにより、ドラマのテイストに相応しい、センスが良くて哀感漂うルックから、全8話のエピソードが始まります。この最初の2エピソードが2020年のベルリン国際映画祭で上映された際、一瞬で魅了される作品であり、観客に対してフランスのジャズシーンへの素晴らしい導きになると批評家たちから絶賛されました。

『ジ・エディ』は、現代のパリの活気ある多文化的な地域を舞台にしています。物語は、かつてニューヨークの著名ジャズピアニストだったものの、今はジ・エディという経営難のクラブの共同オーナーである、エリオット・ウドー(アンドレ・ホランド)の姿を描きます。彼はジ・エディで、公私にわたるパートナー、マヤ(ヨアンナ・クーリグ)が女性看板歌手を務めるハウスバンドのマネジメントを行っています。

ビジネスパートナーであるファリド(タハール・ラヒム)が、クラブで何らかの悪習に手を染めているかも知れないとエリオットが気づいたことから、ファリドの妻アミラ(レイラ・ベクティ)にも隠されていた秘密が明らかになり始めます。エリオットの娘で問題を抱えるティーンエイジャー、ジュリー(アマンドラ・ステンバーグ)が一緒に暮らすために突然パリにやって来ると、過去に向き合ってクラブを救い、自分にとって一番身近な彼女たちを守るために闘う反面、エリオットの私生活と仕事はたちまち崩れ出すのです。

デイミアン・チャゼルがエピソード監督を務める『ジ・エディ』の撮影現場にて、16mmカメラを操作する撮影監督 エリック・ゴーティエ(AFC) Photo by Lou Faulon. Image courtesy of Netflix.

「『ジ・エディ』は私が初めてデイミアンと協働した作品でしたが、私たちは以前から、彼の過去の映画のことでずっと連絡を取っていました。私の都合で撮影することができなかった作品があったからです」とゴーティエは回顧します。

「私たちは2人とも骨の髄までジャズへの愛でいっぱいなので、『ジ・エディ』の潮流や精神について素晴らしい打ち合わせをしました。デイミアンはドラムも演奏し、私はキーボードを、とりわけハモンドオルガンを弾きます。それだけでなく、デイミアンはフランスの系譜を引いており、特に『ジ・エディ』はパリで撮影されることになっていたので、私の耳にはそのどれもが心地よく聞こえました」

ゴーティエによると、このシリーズのルック(映像の見た目)に関するチャゼル監督のインスピレーションは、1970年代の重要な映画、特にジョン・カサヴェテス監督の『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(1976年、撮影監督:ミッチェル・ブライト、アル・ルーバン、キャレブ・デシャネル)や、マーティン・スコセッシ監督の『ミーン・ストリート』(1973年、撮影監督:ケント・L・ウェイクフォード)といった、ネオ・ノワールの美しさと融合したフランスのヌーヴェル・ヴァーグ(ニュー・ウェーブ)自由形式のカメラテクニックやフレーミングの慣習から得られたものだそうです。

『ジ・エディ』の撮影現場にて、女優のレイラ・ベクティとデイミアン・チャゼル監督 Photo by Lou Faulon. Image courtesy of Netflix.

ゴーティエはこう断言します。「デイミアンは、これら歴史的な映画製作の時代との映像的な繋がりを求めており、私は彼の要望を真剣に受け止めました。彼が本作をフィルムで撮影するつもりであること、そして、映像に活気とエネルギーを与えるために大部分は手持ち撮影で行い、時々非常に長いテイクも撮ることになると早い段階で教えてくれました。映像的には『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』が私にとって非常に重要な映画となりました。私はその映画を暗記しているほどです。『ジ・エディ』では、いくつかのかなり暗い、露出不足のシーン、特に夜のシーンで私の『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』に対する敬意を表した映像がご覧になれます」

『ジ・エディ』は、パリ12区のドメニル広場周辺の複数のロケーション、また、19区のベルヴィルで撮影されました。この辺りは、地元と北アフリカやアジアからの移民たちとの多文化の混合によって、より一層活気に溢れている地域です。この作品には、元々映画館だった場所がプロダクション・デザイナーのアン・シーベルによる特別な装飾を施されて、ジ・エディ・ジャズ・クラブとして登場しており、本作の多数の音楽シーンではその場の灯りとスポットライトで照明が当てられています。

「『ジ・エディ』を16mmフィルムで撮影したいというのはデイミアンのたっての希望でしたが、私は素晴らしい選択だと思いました。撮影監督のエド・ラックマン(ASC)がトッド・ヘインズ監督作『キャロル』で16mmフィルムを使って視覚的に作り上げた、親密な雰囲気をよく覚えているんです。この作品は、それよりずっと荒っぽく、不安感のある鋭さを持った映像になっていますけどね」

『ジ・エディ』の撮影現場にて、16mmカメラを操作する撮影監督 エリック・ゴーティエ(AFC) Photo by Lou Faulon. Image courtesy of Netflix.

ゴーティエは、アトーン XTR Prodの16mmフィルムカメラを合計3台選び、それぞれにツァイスのスタンダード・スピード T2.1プライムレンズ、さらに、アンジェニューの17-80mmおよび24-290mmのズームレンズを装着しました。彼は、デジタル撮影ではありますが、本シリーズの後のエピソードで撮影監督を務めることとなるBカメラとCカメラを担当したジュリアン・プパールとマリー・スペンサーと共にカメラオペレーションを行いました。

「静かな操作性と安定した重心を持つアトーン XTR Prodは、同時録音と手持ち撮影のために作られたカメラの中で最高のスーパー16フィルムカメラの1つです。このカメラは、“生の”ミュージカルシーンを撮影し、デイミアンが求めていた、荒っぽくエッジの効いたリアルなルックを得るには理想的なカメラでした。また、私がアンドレ・ホランドと一緒にドアを抜け、階段を上り下りし、クラブの中と外を行き来して走らなければならなかった時も、長時間の操作に容易に対応できるくらい、このカメラは小さくて軽量です」

「古いツァイスのレンズはコントラストのレベルをうまく合わせてくれ、一方で、映像を1970年代風のちょうどいい柔らかさに保ってくれます。これらのレンズはフレアに敏感で、当時に忠実であるよう私が選びました」

「カサヴェテスの映像の基本に従い、ディフュージョンフィルターも、マットボックスも一切使いませんでした。映像に生き生きとした感じを出すために、生っぽいむき出しの状態を作り、極端なクローズアップとロングズームを組み合わせて撮影して、セットの見事なディテールを映し、カメラで複数の顔をさまよったり、表情を際立たせたりしました。要するに、ジャズを演奏するかのように、視覚的に即興をやったのです」

クラブ「ジ・エディ」の共同オーナーである、エリオット(アンドレ・ホランド、左)と女友達のマヤ(ヨアンナ・クーリグ) Photo by Lou Faulon. Image courtesy of Netflix.

ゴーティエは、明るい日中のわずかなシーンでコダック VISION3 250D カラーネガティブ フィルム 7207に切り替えましたが、それ以外の大部分の昼夜、屋内外には500T 7219を用いました。

「フィルムは常にクローズアップの親密さや、異なる肌の色の表現、自然な繊細さの描写に非常に適しています」とゴーティエは言います。「500Tと250Dは両方とも、全体のコントラストと色味が魅力的で、お互いにうまく調和するのです。しかし私は、ラボでこのフィルムを2つとも2絞り増感現像し、コントラストのレベルを高め、デイミアンの視覚的な希望に適う映像の質感を出しました。私が増感現像したのは、Netflixの視聴者がTVやタブレット、ノートパソコン、スマートフォンなどのどんな画面で見るとしても、必ずその雰囲気が伝わるようにするためでもありました」

16mmの撮影済みネガはパリのハイヴェンティ社で現像され、その後、OKテイクは4Kスキャンが行われました。最終のカラーグレーディングはパリのイケ・ノ・コイ社で行われ、そこでゴーティエは、長年付き合いのあるカラーグレーダー、イザベル・ジュリアンと再び協働しました。

Netflixドラマ『ジ・エディ』の1シーン Photo by Lou Faulon. Image courtesy of Netflix.

「撮影中、私は照明をあまり多用せず、問題ないことを分かったうえで、あえて暗いままにしていたのです」とゴーティエは述べています。「500Tの優れた特徴の1つは、夜の屋外やジャズクラブの屋内など、暗くて明かりが少ない状況でも見事に活躍してくれるという点です。これらのシーンのいくつかは、照明が既存の街灯や、2、3のスポットライトだけで、フィルムで撮れないくらい暗すぎると思われるかも知れません。ですが500Tは本当に、俳優やミュージシャンたちの素晴らしいパフォーマンスという魔法を捉え、とてつもない雰囲気を作り出してくれました」

ゴーティエはこう締めくくります。「フィルム、とりわけ16mmフィルムは、この作品には最高の選択だったと思います。粒子がもたらす質感が画に命を吹き込み、それにより、どんな画面で見ても没頭させてくれるのです。また、フィルムによる撮影は、全員の、特に俳優たちの最善を尽くそうという意識を高めてくれます。フィルムで撮影しているという事実に、ミュージシャンたちがノッているのがよく分かると思いますよ」

(2020年5月6日発信 Kodakウェブサイトより)

『ジ・エディ』

 Netflixで独占配信中

 原 題: The Eddy

 製作国: イギリス/ドイツ/アメリカ

​ 公式サイト: https://www.netflix.com/jp/title/80197844

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