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2020年 5月 22日 VOL.159

撮影監督シャルロッテ・ブルース・クリステンセンが『ザ・バンカー』に光を照らす

『ザ・バンカー』より、ジョー・モリス役のサミュエル・L・ジャクソン(左)とバーナード・ギャレット役のアンソニー・マッキー Courtesy of Apple TV+.

デンマークの撮影監督シャルロッテ・ブルース・クリステンセンは、『偽りなき者』で様々な賞を獲得し、自らのキャリアを大きく発展させました。そして国際的に認められ、『ガール・オン・ザ・トレイン』、『モリーズ・ゲーム』、『クワイエット・プレイス』など、一連の英語作品の撮影監督を務めてきました。彼女は、コロナウイルスの蔓延により家族でロンドンに隔離されていましたが、3人の娘への自宅教育と、ミニシリーズ『Black Narcissus(原題)』の監督を一旦お休みし、スカイプで『ザ・バンカー』について話してくれました。

『ザ・バンカー』は現在Apple TV+で配信されています。『アジャストメント』のジョージ・ノルフィ監督による本作は、アフリカ系アメリカ人のビジネス・パートナー、バーナード・ギャレット(アンソニー・マッキー)とジョー・モリス(サミュエル・L・ジャクソン)がテキサスの銀行を2つ買収し、1960年代のアメリカ金融業界をひっくり返したという実話に基づいた物語です。
 

クリステンセンはこう述べています。「しっかりした脚本とストーリーでした。ジョージ・ノルフィ監督は明快かつ正確な人間です。彼は、当時テキサスに戻ったアフリカ系アメリカ人の地位について私に説明してくれて、建物、特に部屋が人物にどう作用するかについて熱心に考えていました。たとえばジョージは、裁判のシーンで人の顔にたくさん照明を当てようと言いました。その場にいる人々に、スポットライトが自分に当たっているように感じて欲しいと考えていたからです。私たちは、彼らが向き合うことになる時には、正面から照明を当てる方法をとりました。また、映画の中ほどで、オフィススペースのような大きな部屋がいくつか出てくるのですが、本作ではこういったスペースで社会的地位の全体像が分かるように撮影したいと思っていました。地位に深く関わることなんです。人、お金、肌の色。バーナード・ギャレットとジョー・モリスは、黒人で裕福であるということについての通例を壊したのであり、それが物語を形成しています」

『ザ・バンカー』の撮影監督シャルロッテ・ブルース・クリステンセン Courtesy of Apple TV+.

視覚的なアプローチについては、エドワード・ホッパーの絵画の古典的な照明が参考になりました。「私たちが絵画よりも着目していたのが実際の建物の空間や写真でした。プリプロダクションは8週間で、その後7週間撮影を行いました」。主要な撮影は、アトランタをカリフォルニアとテキサスに見立てて行われました。「物語を撮影していくのは有機的なプロセスでした。ジョージが空間から何を求めているのか、ワイドであることがいかに重要かを私に説明しました。アトランタには、彼が望んでいたものとはまったく違うロケーションも存在したので、私たちはそこにあまり目を向けないようにするつもりでした。本作のロケーションは多数ありました。ジョージと私は、どんなショットが必要かについて前もって話し合うことにしました。彼がリハーサルをして、シーンのブロッキング(俳優の演技に合わせてカメラの配置や動きを決める作業)を行い、そこから私たちでショットを考えていくのです」。具体的なアイデアがあったシーンもいくつかありました。「主人公がこの銀行の建物を買うことを思いつくところがあるのですが、ジョージの希望は、バーナードに看板を見てもらい、その周囲の空間をぐるっと見まわして、再びカメラの方を向いて欲しいというものでした。バーナードが見まわしている間、私たちは彼を待ち構えていたんです」

事前リハーサルを全てのロケーションで行う機会はなかったため、ショットリストに全面的に頼るのではなく、当日何が起こっているかに対して柔軟な気持ちを持ち続ける必要がありました。「サミュエル・L・ジャクソンは、常に自分が演じるキャラクターの視点から物事を見るのですが、それは本当にすごいことです。シーンの雰囲気に関して、しっかりした良いアイデアを持っている方がいいということがよく分かるでしょう。シーンが決まったら、すぐに私がそれをクローズアップのショットに分けていくのです」。小さなロケーションでは、360度照明が当てられました。「広めの空間だと、高いところを照らせる照明セットがありませんでした。バーナードとジョーが銀行に入ってきて、この広いホールが映るシーンでは、18Kをいくつか使う必要がありました。彼らが購入する大きなオフィスについても同じです。私たちは実際には一方向しか見ることができなかったものの、互いにすべてを混ぜ合わせることで他の方向もどうにか見ることができました。バーナードとジョーがテーブルのそばに座るシーンがたくさんあるのですが、部屋にはスタンドが立てられず、照明はテーブルの上部から当てるだけでした。スケジュールが厳しく、すばやく動き回らなければなりませんでした。ロケーションの中には、照明装置を壁に設置することが許可されなかった場所もありました。法廷では何にも触ることができませんでしたし、壁の近くにスタンドを置くことさえできなかったのです。窓は重々しい街並みの方を向いていて、バルーンのライトも使えませんでした。時代物のがらくたを探して、(プロダクション・デザイナーのジョン・コリンズの協力を得て)ショット内に灯具を置くことにしました」

『ザ・バンカー』の1シーン Courtesy of Apple TV+.

ブルース・クリステンセンは、『ザ・バンカー』をフィルムで撮影することを薦めました。「何といっても、私はフィルムが大好きなんです。遺伝子に組み込まれているんですね! 低予算映画であるため、懸念点はたくさんありました。ですが私にとって、フィルムでの撮影は理に適っていたのです。『ザ・バンカー』は時代物の作品であり、ジョージは本作をフィルムのように見せたいと考えていました」。照明に関して言えば、実際はフィルムの方がデジタルよりも安価です。「コントラストを出すためにASA感度800にすると、影を作るにはもっと多くの照明が必要です。コダックとパナビジョンと共に試行錯誤しました。どちらの会社も非常に協力的でしたね。私たちが使ったフィルムは3種類です。屋内と屋外のどちらも、夜間の撮影はすべてコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219にしました。それと、250D 5207と50D 5203です。50Dはとても美しいフィルムなので、NDフィルターをたくさん使わずに撮影するのが好きなんです。アトランタには、焼けつくような暑い日差しがあります。くもりの日の室内の日光の中では250Dを使うのが好きですね。予算を確保するために3パーフォレーションで撮影する必要があり、屋外のシーンのいくつかは何とかアナモフィックにしたのですが、後ほどいろいろな理由により変更しなければなりませんでした」

「本作には狭い場所がたくさん出てくるのですが、そのほとんどは1台のカメラで撮影しました。しかし、大きなセットや屋外の時は、時間の都合で2台のカメラで撮影しました。パナフレックス・ミレニアムXL2でうまくいきましたね。屋外のゴルフコースや広い空間などの数シーンは、アナモフィックで撮影しました。それには、私のお気に入りの75mm、パナビジョン Cシリーズを使用しています。40mmから180mmまで用意していました。それとツァイスのスーパースピードシリーズのスフェリカル・レンズでも撮影しました」。LEDライトは最小限しか使用しませんでした。「いくつかスカイパネルも使いましたが、それ以外は、昔ながらのタングステンとHMI照明でした。テクノクレーンも何日か活用しました。登場人物たちがロサンゼルスにやって来る場面でドライブ中のショットがあり、それにはロシアンアームを使いました。ロサンゼルスで3日間の撮影がありましたが、主人公たちが運転している時の最後のショットでもロシアンアームを使用しており、カメラが太陽の方に向くんです。主に使ったのは、ステディカムやドリーでした」

『ザ・バンカー』の撮影風景 Courtesy of Apple TV+.

「不動産や物件は本作の主要な登場キャラクターなのですが、背が高くて四角いので、それらを撮る場合はシネマスコープ2.35:1のフォーマットで撮影するのは困難です。ティルトダウンとティルトアップを多用するのです。ジョージにとっては、カメラが固定されていて、かなり後ろにあることが重要でした。そうするとショットに部屋の構造が映ります。外に出てモンタージュを行うと、彼はじっとしていられませんでした。不動産と物件が重要なので、本作は始終合成された映像が出てきます。観客に周囲の様子をあまり見せたくない時、例えば、実際はアトランタなのに、ロサンゼルスの設定で車が道路を走ってくる時には、具体的なものが目に入らないように、絶えずカメラを動かすようにしていました」

クリステンセンはこう振り返ります。「ロサンゼルスはもともと黄金色をしているため、ジョージはいつも、この映画は特別暖かい映画だと考えていました。アトランタはロサンゼルスより光がきついので、より金色のパレットに変える必要がありました。くもった日には、アンティーク・スウェード・フィルターを使ったこともあります。私がフィルム撮影で非常に好きなのが、カメラでできることがたくさんあると感じられるところです。また、アフリカ系アメリカ人の肌に黄金色の感じが出て、とても美しくなります。私は毎日、何枚かスチル写真を撮り、帰って夕方にグレーディングして、それをデイリーのカラリストに送ることにしました。そのカラリスト、テクニカラーのマイケル・ハッツァーと私は、今まで4~5本の映画に一緒に携わってきました。見事な目と、コントラスト全体に対する鋭敏な感覚を持っているマイケルと仕事をするのは最高です。私は物事をかみ砕くのはあまり好きではありません。何かを黒くしたいなら、カメラで黒くなるようにします。DI(デジタル・インターメディエイト)は、調整の作業になります。あるタイミングでレンズを交換しなければならず、全体のバランスを調整するためにDIでもかなりの作業になりましたが、この案は大成功でした」

『ザ・バンカー』の撮影監督シャルロッテ・ブルース・クリステンセン(左)とジョージ・ノルフィ監督 Courtesy of Apple TV+.

主要なスタッフには、照明を担当したマイク・タイソンとジョン・ルイス、キーグリップのクリス・バードソング、ファーストアシスタントカメラのマイケル・ザイロウスキ、そしてBカメラおよびステディカムのオペレーター、ジャレット・モーガンがいました。「全員、今まで仕事をしたことがない人たちでした。地元のスタッフと一緒に仕事をすることでとても良いのは、彼らには自分のチームがあることです。キャストも素晴らしかったです。私はサンダンス映画祭でアンソニー・マッキーを知りました。初めて一緒に仕事をしたサミュエル・L・ジャクソンは、たくさんのエネルギーをくれました。彼ならではの方法で、常にみんなの気を引き締めてくれます。ニコラス・ホルトの演技には圧倒されました。ニア・ロングも見事でした」。一番難しかったのはロケーションでした。「50~60のロケーションがあり、低予算で時代物の作品を作る場合は、3日間も場所を使ったり、前日の朝に何かをしたりすることはできません。朝にやって来て、全員で作業をしなければならないのです。壮大な作品にしたい時には、それが大きな難関となります」

「街を歩いている時のテキサスのモンタージュが大好きなのですが、それらはすべてアトランタ南部のニューナンで撮影されました。実際にテキサスにいなくても、本作のテキサスのシーンはすべて、独自の形で力強いものになりました。また、今はいないこの人物を感じながら、アトランタを他の場所に見立てて、違う視点から彼の幼少時代に過ごした場所と父親を振り返っているのです」。ブルース・クリステンセンは、コダックとパナビジョンの協力に感謝しています。「何もかもフィルム向きだった本作をデジタルで撮影していれば、悲惨なことになるところでしたので大きな意味がありました。両者ともすばらしいメディアです。私たちにとって一番大切なことは、選択肢があるということなのです」

(2020年4月21日発信 Kodakウェブサイトより)

『ザ・バンカー』

 Apple TV+で配信中

 製作国: アメリカ

 原 題: The Banker

​ 公式サイト: https://tv.apple.com/jp/movie/unknown/umc.cmc.2f8qhsa039voq5x0iwn1eixj1?l=ja

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