2020年 6月 15日 VOL.162

映画『ポップスター』- 撮影監督ロル・クロウリーがコダックの35mmフィルムを感動的に奏でる

映画『ポップスター』の主人公セレステを演じるナタリー・ポートマン Image copyright: Bold Films Productions, LLC.

コダックの35mmフィルムで撮影されたキラー・フィルムズの長編映画『ポップスター』は、ブラディ・コーベットが監督を務め、イギリスの撮影監督ロル・クロウリー(BSC)が撮影を担当した作品で、2018年のヴェネチア国際映画祭コンペティションで上映された際、批評家から絶賛を浴びました。また、本作は2018年のトロント国際映画祭でも上映されました。

コーベットは、製作費1100万ドルの本作で再びクロウリーとタッグを組みました。2人は過去に、高い評価を得た『シークレット・オブ・モンスター』(2015年)で協働しており、同作もコダックの35mmフィルムで撮影しています。コーベットは、『シークレット・オブ・モンスター』でヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門の監督賞、さらにルイジ・デ・ラウレンティス・ライオン・オブ・ザ・フューチャー賞を受賞し、クロウリーは、その絵画的な映像と自然光の使い方で広く批評家から称賛されると同時に、名誉ある米国撮影監督協会賞のスポットライト賞にノミネートされました。『ポップスター』について批評家たちは、コーベットの印象的なストーリーと演出、そしてクロウリーの力強く効果的な撮影を好意的に受け止めました。

本作にはナタリー・ポートマン、ジュード・ロウ、ラフィー・キャシディ、ステイシー・マーティン、ジェニファー・イーリーらが出演しています。高校で起きた大規模な銃乱射事件の悲劇的な心の傷から立ち上がった少女セレステが、ポップスターのスターダムという修羅場へ駆け上る姿を描きます。物語は1999年から2017年までの18年にわたる2つの時代を切り取っています。セレステの個人的な視点を通して語られる物語には、21世紀初頭を特徴づけてきたとコーベットが考える重要な出来事や文化的パターンが取り入れられています。本作の楽曲は、1960年代ポップの伝説となった先駆け的なミュージシャン、スコット・ウォーカーが作曲したものに加え、オーストラリアの歌手シーアが手がけたオリジナル曲もあります。

制作初期のコーベットとのやり取りについて尋ねると、クロウリーはこう振り返ります。「私たちは『シークレット・オブ・モンスター』を35mmフィルムで撮影しました。『ポップスター』についても、監督のブラディは他の方法で撮影するつもりはありませんでした。どちらかと言えば、本作は35mmフィルムの持つストーリーテリングの力の延長線上にある作品になる予定でした。35mmフィルムでのストーリーテリングは、一緒に仕事をした過去の作品で見事に成功していました。2人とも、本作で今の時代を記録するにはフィルムは申し分のないプラットフォームだと感じていたのです」

撮影監督ロル・クロウリー(BSC、左)と監督のブラディ・コーベット Photo by Atsushi Nishijima.

クロウリーは、制作が本格化するかなり以前から『ポップスター』について知っていたことを打ち明けてくれました。撮影は2018年2月、ニューヨークのクイーンズ、ブルックリン、マンハッタン近郊のロケーション、そしてロングアイランドのゴールドコースト・スタジオで行われました。撮影そのものは急速に進められ、わずか22日の撮影を経て3月に終了しました。

クロウリーはこう述べています。「ストーリーおよび本編中のカメラはセレステを追っていきます。彼女は成功しているにも関わらず、人生に問題を抱えており、個人や家族、人間関係の問題に悩まされ続けている存在です。私たちはみんな、外の世界に何を見せているかという自覚を持っていますが、多くの場合、その見せているものは内面で起きていることとは真逆かも知れません。

ブラディと私は、セレステが表面上見せていることと、その下で感じていることを描くには何が一番いいのかについて話し合いました。また、利用できる場所では自然光を使うことを望んでいましたが、不安定でこの世のものとは思えないような霊的な照明のアプローチをいろいろと導入することで、本作の美しさをさらに高めたいと強く思っていました」

これらを実現するため、2人は長回しのワイドアングルのステディカムを使うことにしましたが、スタンリー・キューブリック監督作『アイズ ワイド シャット』(1995年、撮影監督:ラリー・スミス(BSC))の映画撮影の要素を参考にしました。また、アメリカの写真家ビル・ヘンソンやソール・ライター、フィリップ=ロルカ・ディコルシアの、あまり作りこんでいない照明の使い方や、グレゴリー・クレウドソンの作品から着想を得ています。グレゴリー・クレウドソンの作品は、不穏でシュールな出来事をしばしば含む、アメリカの小さな町のドラマチックで映画的な写真です。

「カメラで撮影した映像自体は処理せずに、本作に登場する2つの異なる時代描写には、昔と、時間が経った後の両方の時代設定で手持ちカメラとステディカムを組み合わせて使い、撮影場所や衣装、セットデザインを自然に変えるのが一番いいと私たちは判断しました」

テストを経て、クロウリーは主要な撮影にクックS4のレンズと、コダックの35mmフィルム3タイプを選びました。日中の屋外ではコダック VISION3 250D カラーネガティブ フィルム 5207、夜の屋内外および低照度下のパフォーマンスには500T 5219、そして、その他のステージ上のパフォーマンスには200T 5213を少し使いました。

ライティングを検討する撮影監督ロル・クロウリー(BSC、中央) Photo by Atsushi Nishijima.

「ブラディは、常に映像中の粒子感を好むのですが、250D、200T、500Tはどれも満足のいく粒子構造を備えています」とクロウリーは言います。「しかし、特定のシーンのルックの質感に、より一層活気を出すために500Tを一部ラボで2段増感して現像したり、2パーフォレーションで1、2シーン撮影したりしました」

「こういった異なる処理の総合的な効果が、より強いコントラストと深い彩度、濃密な黒味、くっきりした粒子感を出してくれて、さらに、私たちが作りたかった優美な美しさを強く支えてくれたのです。たとえば、HMIとLED、そして方向を合わせたビームを組み合わせて教会のシーンの照明を作ったのですが、映像に映る範囲は極端に露出不足の状態にしました。光の中でカメラを動かすと、映像にフレアが生まれ、同時に映像の仕上がりがかなり暗く、鮮やかで生っぽくなるのです」

撮影したネガフィルムはコダック・フィルム・ラボ・ニューヨークで現像されました。「コダック・フィルム・ラボ・ニューヨークは、ブラディと私が実現したいと考えていたことに対して非常に力になってくれました。今は東海岸にラボがあって最高ですね」とクロウリーは言います。

「フィルム撮影で素晴らしいことのひとつが、露出不足を増感現像することで乱暴に扱うことができ、それでもなお魅力的な仕上がりになってくれる点です」とクロウリーは言います。「たとえば、制作の早い段階で、恐ろしい高校銃乱射事件を招いた少年を映す夜間のシーンを撮影する際、私はかなり大胆にやりました。500Tで、街灯と車数台のヘッドライトというその場の明かりだけを使って撮影しました。映像の背景がたちまち黒くなり、粒子に不吉なエネルギーが生まれます。もちろん、そのシーンをデジタルで撮影することもできたかも知れませんが、デジタルの映像の露出不足の範囲には、きっと望まない映像ノイズが出たでしょうし、全体の仕上がりが同じ雰囲気や感覚になることはまずなかったでしょう」

クロウリーは本作に地元のニューヨークのスタッフを選びました。スタッフには、Aカメラオペレーターのサム・エリソン、Aカメラ・第1カメラアシスタントのカリ・ライリー、ステディカムのヨウション・タン、照明担当のジェラード・モルケンシン、そしてグリップのジェシー・サヴィオラがいました。

『ポップスター』の撮影クルー。後列左から3人目が撮影監督ロル・クロウリー(BSC)

「ブラディと私は、広範囲のシングルショットに手持ちとステディカムの両方を使い、様々な状況と変化する精神状態を通じてセレステを映したいと思っていました。切れ目のないショットによって、観客は、隠された仕掛けから途切れなく移り変わっていくパブリックイメージとは真逆のセレステの存在を感じることができるのです」

冒頭のクレジットのシーンなどその他の場面では、クロウリーはアリのツァイスウルトラプライム8R/T2.8を使い、極端なワイドアングルのレンズで撮影しました。

「球面収差が補正された設計により、このレンズは視界を極端なワイドアングルで見せてくれるのですが、典型的に付随する画像の歪みが出ないのです」と彼は説明します。「奥行きと空間の感覚が誇張され、動きの見た目上の速度も増幅されますし、アクションの真っ只中に観客がいる状態になります。35mmフィルムで撮影したルックは、恐怖感を生み、ウィレム・デフォーが声を務めるナレーションの、すべてを見渡しているかのような全能の眼差しを引き立てるのに特に効果があったと思います」

クロウリーは、もっと大勢の映画制作者たちがフィルムで撮影することを奨励していると語り、フィルム制作の予算プランも説得力をもって作成できると考えています。

「撮影の仕方次第で、フィルムは費用対効果が高くなる可能性があります。たとえばブラディは、自分がセットで何を撮りたいのかを分かっており、多くの素材を撮影しません。撮影するものが少なく、さらに各テイクの後にカメラをきっちり止めると厳密に決めることでフィルム量は少なくなり、それに伴ってフィルムと現像費に良い波及効果が出るのです」

クロウリーはこう締めくくります。「自分が投じたものに大きな見返りを求めるなら、フィルムで撮影することです。昼夜関係なくすべてのシチュエーションに使える普遍的なメディアであり、必ず素晴らしい仕上がりが手に入ります」

(2018年9月17日発信 Kodakウェブサイトより)

『ポップスター』

 2020年6月5日よりヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開中

 原 題: Vox Lux

 製作国: アメリカ

 配 給: ギャガ

​ 公式サイト: https://gaga.ne.jp/popstar/

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