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2020年 7月 3日 VOL.165

コダックの35mmフィルムが愛と温もりをもたらす映画『今宵、212号室で』

ロマンティック・コメディー映画『今宵、212号室で』より © Jean-Louis Fernandez.

コダックの35mmで撮影された、クリストフ・オノレ監督によるロマンティック・コメディー『今宵、212号室で』は、「夫婦は、相互に、尊敬、貞操、救護および扶助の義務を負う」とするフランス民法第212条からそのタイトルと着想を得ています。

物語では、結婚して20年になるマリア(キアラ・マストロヤンニ)が、突然夫に不貞を疑われ、彼の元を去ることを決意します。彼女は向かいのホテルの212号室に移り、自分のアパルトマンや夫、彼と過ごした人生を俯瞰で眺めるのです。

自分は正しい選択をしたのだろうかと迷う一方で、人生の過去と現在の両方で出会った多くの人々がこの問題について意見を述べます。彼らは、彼女が望むと望まざるとに関わらず、人生を変える夜がどんなものかについて、自分たちの気持ちを彼女に知らせようとします。

『今宵、212号室で』はオノレ監督とフランスの撮影監督レミー・シェヴラン(AFC)がタッグを組んだ6作目の作品です。初期の16mmのTVドラマ、35mmの長編作品『Seventeen Times Cecile Cassard(原題)』(2002年)、『愛のうた、パリ』(2007年)、『愛のあしあと』(2011年)、さらに2018年カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映された『ソーリー・エンジェル』(2018年)など、彼らが過去に手がけた作品もすべてフィルムで撮影されています。『今宵、212号室で』が2019年カンヌ国際映画祭ある視点部門で初上映された際、マストロヤンニは最優秀演技賞を受賞しました。

撮影監督レミー・シェヴラン(AFC) © Jean-Louis Fernandez.

「クリストフと私は、ごく簡単に言えば、35mmフィルムと、このような素晴らしい結果をもたらしてくれるその化学的なプロセスという神聖な瞬間にほれ込んでいるのです」とシェヴランは言います。「私がフィルムを使わなくなったり、断念したりすることは決してありません。フィルムは常に、ストーリーを語るうえで、監督と撮影監督を支え、力を貸してくれるからです」

『今宵、212号室で』は、ルクセンブルクの制作会社Bidibul ProductionsとフランスのFrance 2 Cinema、ベルギーのScope Picturesの共同制作作品です。主要な撮影は、2019年2月から3月に、32日間の撮影日をかけて行われました。ルクセンブルクのフィルムランド・スタジオで25日間撮影を行った後、ベルギーのオーステンデ近くの海辺、その後、パリの街で1週間撮影しています。

アクションの大多数が屋内で行われるため、本作の撮影で重要だったのは、フィルムランド・スタジオでの主要なセットの設営でした。このセットには、212号室と、近隣の複数の部屋が含まれており、通りの真向かいにある夫婦のアパルトマンを直接見下ろせるようになっていました。

巧妙なセットデザインにより、ホテルの部屋が3階、夫婦のアパルトマンが2階にあるような感じがしますが、実際は、それらはステージの床からそれぞれ4メートルと2メートル上にあるだけでした。各部屋の天井は、電動クレーンから吊るされ、カメラや照明の動きに合わせて上げたり下げたりすることが可能でした。

フィルムランド・スタジオに組まれた巧妙なセット

アクションが実際に通りに移動する時でさえ、通りを挟んだ向かい側に建物があるというアイデアを実現するために、VFXやCGのセットで拡張する必要はありませんでした。シェヴランは正確なフレーミングと調和した光を使って、本編すべてをカメラ内の撮影で、必要な効果を生み出しました。

シェヴランはこう述べています。「基本的にこの作品は、マリアの心と彼女の想像力がもたらすファンタジーな旅なのです。私たちはそれを温かく、魅力的なものにしたいと考えていました。212号室に隣接する他の部屋で、マリアはそれぞれ1950年代、60年代、70年代、90年代といった異なる時代の母親や祖母、さらには若い時代の夫にも出会います。夫婦が共にした生活や、彼らが幸せだった時期、辛かった時間、ふたりが成し遂げたこと、そして今の結果を避けるために自分たちに何ができたのかをゆっくりと描いています」

「各部屋の色や質感、照明を作る作業には、美術のステファーヌ・タイヤソンや衣裳のオリヴィエ・ベリオ、そしてヘア・メークアップチームとの密な共同作業が多々必要であり、楽しいこともたくさんありました」

シェヴランによると、アメリカの映画監督レオ・マッケリーのスクリューボール・コメディーや、サッシャ・ギトリ監督のロマンティックな突飛さ、そして、意識、記憶、想像力の関係性を探求する後期のアラン・レネ監督作品といったすべてが、『今宵、212号室』の映像的なストーリーテリングにおいて重要な参考になったそうです。『キャロル』(2015年)の屋内スタジオでのショットで用いられたエド・ラックマン(ASC)の温かく魅力的な照明からも着想を得ました。シェヴランとオノレ監督は、デヴィッド・リンチ監督やアラン・レネ監督の世界観といった多くの実験的な映画も考察し、別々にある部屋がセット内の箱であることが明らかになる、上からのショットの使い方を研究しました。

フィルムランド・スタジオに組まれた巧妙なセット

フォーカスのオリヴィエ・セルヴェ、カチンコとローダーのマーティン・ロッシーニ、キーグリップのジャン・フランソワ・ロケプロ、そして照明担当のケビン・ドレッセの力を借り、撮影中は、シェヴランがカメラを操作しました。彼は、ドリーもしくは小さなクレーンアームに取り付けたアリカム・スタジオのカメラを使い、主にライカ ズミルックス・プライムレンズを通して、本作のアクションを1.85:1のアスペクト比に収めました。XDモーションが提供するX-Fly 1Dケーブルシステムをブノワ・デナンが操作し、ズミルックス・プライムを装着したデジタルカメラをセットの上に動かして、上からのショットを撮りました。パリのTSFが本作のメインのカメラ、レンズ、グリップ、照明機材を提供しました。

本作の95%は夜間のシーンなので、シェヴランは、大部分にコダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219を、わずかな日中の屋外のシーンには250D 5207を使用しました。フィルムネガの標準現像と2Kスキャニングは、ブリュッセルのStudio L’Equipeで行われました。

「500Tは、ズミルックスのレンズと組み合わせると、低照度の場所で使用できて最高です。特に、表情や肌のトーンの表現が素晴らしい。また、粒子の有機的な動きを通して、優れた質感を生み出してくれます。500Tは、映像のハイライトと暗い部分にたくさんの情報を含んでいるので、最終のグレーディングで映像をうまく処理すると見事です」。仕上げのグレーディングは、パリのミクロス・テクニカラーのカラリスト、マルジョレーヌ・ミスペラーレによって行われました。

フィルムランド・スタジオに組まれた巧妙なセット

シェヴランは、1/8 クラシックソフト・フィルターのディフュージョンを少し使って500Tに撮影し、2K、5Kおよび10Kのフレネル、アリのスカイパネル、アラジンやルビーの照明といった調節可能なさまざまなLED照明システムと、時には422 1/2 C.T.Strawジェルフィルターを照明に使用して、街灯のオレンジ色のナトリウムランプなど、映像の中の温かさと色を作り出しました。

ホテルの部屋から外を眺めた時の街のかすかな霧の感じを出すために、彼は窓にジェルフィルター、基本的には1/8もしくは1/16のハンプシャー・フロストを貼りました。通りと部屋の外ではフォグマシンを設置し、ハーフのローフォグフィルターをカメラに装着しました。

最後に彼はこう述べています。「フィルムによる撮影が映画制作にもたらす芸術的価値は計り知れません。『今宵、212号室で』は愛についての映画であり、私たちにできた最良の配慮が、フィルム撮影という愛情のこもった手法だったのです」

(2019年5月21日発信 Kodakウェブサイトより)

『今宵、212号室で』

 2020年6月19日より全国順次公開中

 製作年: 2019年

 製作国: フランス・ルクセンブルク・ベルギー合作

 原 題: Chambre 212

 配 給: ビターズ・エンド

​ 公式サイト: http://www.bitters.co.jp/koyoi212/

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