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2020年 7月 13日 VOL.166

フィルム撮影が低予算にフィットした映画『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』

コリン・トレボロウ監督作『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』で主人公のヘンリー・カーペンター役を演じるジェイデン・マーテル Credit: Jojo Whilden / Focus Features

どんな映画制作であれ、創造性、技術、物流、財政といった面で様々な課題が伴います。ユニバーサル・ピクチャーズの製作費2億ドルという大がかりなプロダクション、『ジュラシック・ワールド』をコダック35mmフィルム撮影で見事に完成させたコリン・トレヴォロウ監督と撮影監督のジョン・シュワルツマン(ASC)のコンビが次に直面した任務は、フォーカス・フィーチャーズのより親密な作品『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』(日本未公開)をどう描くかということでした。本作は主に子供の主人公たちを中心に据えた、わずか900万ドルという超低予算の作品です。

郊外の小さな町を舞台にした『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』は、早熟な11歳のヘンリー・カーペンター(ジェイデン・マーテル)、弟のピーター(ジェイコブ・トレンブレイ)、そして2人のシングルマザーで、ウェイトレスとして家計をやりくりするスーザン(ナオミ・ワッツ)を中心に描きます。

(左から)ピーター役のジェイコブ・トレンブレイ、ヘンリー役のジェイデン・マーテル、スーザン役のナオミ・ワッツ Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

聡明で内面的にも大人びた少年ヘンリーは、弟の面倒を見ながら母親を精力的に支えて家計を切り盛りしています。気になる女の子、クリスティーナ(マディ・ジーグラー)が酔っぱらった継父グレン(ディーン・ノリス)に絶えず脅えて暮らしていることに気づいたヘンリーは、知性を駆使し、正義が成し遂げられるのを見届けるための方法を模索します。しかし彼の母親は、状況を解決しようと武器を取ることを決断するのです。

シュワルツマンは、脚本を最初に受け取った時のことを思い出しながらこう語っています。「『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』は非常に面白い大人向けの作品で、素晴らしいストーリーです。ですが、最近はこのような映画はほとんど作られませんし、通常はかなりの低予算です。本作は、『ジュラシック・ワールド』からすると規模、スケール、予算面で大幅に小さくなっています。私たちは、自分たちが犠牲者かのようになっていると気づきましたが、それはいい意味でです。まるで学生の映画作りのルーツに立ち戻り、持っている資源を最大限に利用しているような感じでした。運よく、途中で幸せなアクシデントや幸運な偶然がいろいろと重なり合い、私たちに手を差し伸べてくれました」

撮影監督のジョン・シュワルツマン Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

南カリフォルニア大学映画芸術学部の卒業生であるシュワルツマンは、自身が携わった映画の大部分をフィルムで撮影してきました。その中には、『パール・ハーバー』(2001年)、『シービスケット』(2003年)、『最高の人生の見つけ方』(2007年)、『ウォルト・ディズニーの約束』(2013年)、『ジュラシック・ワールド』(2015年)などがあります。『シービスケット』は、アカデミー賞🄬撮影賞にノミネートされました。

コリン・トレヴォロウ監督(中央)と撮影監督ジョン・シュワルツマン(左) Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

「私はフィルムを使うのが心地よく、自分の作品は5本を除いてすべてフィルムで撮影しました。『ジュラシック・ワールド』でコリンにセルロイド(フィルムの意)を薦めました。彼は、デジタルのセンサーでは得られない、フィルムの映像的な温かさや質感だけでなく、仕事のやり方にもほれ込んだのです。彼は俳優たちのすぐ近くで仕事をするという経験と、現場での規律ある体制を心から楽しみました。だから私たちの心の中では、本作を35mmフィルムで撮影することは、制作を開始する前から決まっていました」

とは言えシュワルツマンは、コストの削減について何とかしなければならないということを理解していました。2つの解決策が彼の助けになっています。1つは経験によるもの、もう1つは偶然によるものです。

フィルムと現像のコストを抑えるため、シュワルツマンは、ヴィットリオ・ストラーロ(AIC、ASC)と彼の息子のファブリツィオによって生み出された2:1のユニヴィジウムのフォーマットを、最終的に映画を公開する際の1.85:1のフォーマットの入れ物として使い、3パーフォレーションで35mmに撮影することに決めました。このフォーマットはフレームの高さが狭いので、4パーフォレーションでの撮影に比べて25%フィルムを節約できます。

映画『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』の撮影現場 Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

「フィルムのワークフローはおよそ100年前から存在し、誰もがセットで最も重要な2つの言葉、“アクション”と“カット”を理解しています」と彼は述べています。「私はフィルムで仕事をしながらこういう風に育ってきて、フィルムは映画をより良くする助けになってくれると信じています。これは、カメラを回す前に、自分が何をやっているのかをじっくり考えなければならないからなのです。デジタルだと、使っているのは貴重なフィルムではなく、1と0という数字なので、カットをかける必要性は必ずしも同じ感覚ではありません。デジタルだとこういうやり方になりがちであり、後々のデータ処理がかなり経済的なプレッシャーとなる可能性があります」

良い巡り合わせで、アルファ・グリップ社によって開発された移動式のフィルム現像センター、アルファ1が、コダックの支援を得て、当時ニューヨークで立ち上げられました。この設備は、45フィートの大型トレーラー1台で、暗室、フィルム現像、ラッシュ、そして映写をすべてサービスしてくれます。クイーンズのカウフマン・アストリア・スタジオの本作のロケーションから車ですぐのところに停車させていたのですが、シュワルツマンはこの施設の大きな利便性によって、現像のために露光したネガをはるか遠くまで送る費用が一挙に削減できることにすぐさま気づきました。

クリスティーナ役のマディ・ジーグラー Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

「あっという間にワークフローはささいな問題となり、表計算ソフトにプラスの影響が出ました。撮影中、アルファ1ラボのチームは基本的に、午前中のラッシュを現像し、午後の早い時間にはプレビューができるようにラッシュを用意していました。このやり方は、デジタルで撮影していた場合よりもはるかに速かったです。デジタルだと、ドライブのコピーを作り、チェックをし、変換しなければなりません。アルファ・グリップ社のサービスは、撮影全体を通してずっと提供されました。それは天の恵みであり、カメラとラボを直結させてくれ、私たちがフィルムで撮影することができた理由でした。こういうことがもっと築かれていくのを見たいですね」

ヘンリー役のジェイデン・マーテル(左)とピーター役のジェイコブ・トレンブレイ Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』の主要な撮影は、2015年9月にマンハッタンから約30キロメートル離れたハドソン川西岸のロックランド郡ナイアック周辺の小さな町で開始されました。その他のロケーションには、マウント・バーノン校とヨンカーズがありました。撮影は34日を経て11月中旬に終了しました。カメラオペレーターのブルース・マッカラムが本作の撮影を担当しています。シュワルツマンが所有するパナビジョン・プラチナム452カメラにパナビジョン・スフェリカル・プリモのレンズ一式を装着して使用しましたが、これは『ジュラシック・ワールド』で使ったのと同じで、映像のコントラストを柔らかくするようシネマトグラファーによって特別に調整されたものでした。

ジェイコブ・トレンブレイを撮影中のジョン・シュワルツマン(左) Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

シュワルツマンによると、本作の美しさは実際のロケーションや物語の繊細さに影響を受けているそうです。「この作品は現代ドラマなので、コリンは最終的な映像がリアルかつ都会的で生々しく見えることを望んでいましたが、その一方で、劇的な光線や照明でつやを出したり強調したりすることはせずに、俳優たちがシーンの流れの中でいい見え方をするようにしたいと考えていました。プリプロダクションの段階でロケーションを歩き回り、照明や、そこにあるものを最大限活用する方法について話しました。私たちに偶然起きた幸運の1つが、秋に撮影を行ったことでした。秋は森の中に見事な緑や黄色、赤を作り、自然光が素晴らしいことが分かったのです。まったくお金のかからない自然の美しさが、フィルムで美しく表現されています」

シュワルツマンは、撮影にコダック VISION3 200T カラーネガティブ フィルム 5213と500T 5219を選びました。「『シービスケット』以降、これらのタングステンフィルムを好んで使っています。フィルムがどういう仕事をしてくれるかを理解していますし、何を得られるかも知っています。200Tは、ハイライトやシャドウに対して美しいダイナミックレンジを備えており、ほとんど粒子がありません。500Tも同じ製造方法で作られているので、2つのフィルムはインターカットがうまくいくのです。この2つのフィルムのダイナミックレンジのおかげで、特定のシーンの、デジタルだとシャドウとハイライトのコントラストの処理が難しかったであろう状況でも、撮影が可能になりました。フィルムは寛容で、うまく“パンチ”をかわすことができるのです。たとえば、ハイライトがクリップしないだろうということが私には分かっていました。200Tと500Tで、セットで作った自然な照明を忠実に記録したのですが、わずか3日後に最終のグレーディングが完了するほどでした」

ジェイデン・マーテル(右)を撮影するクルーの様子 Credit: Alison Cohen Rosa / Focus Features

シュワルツマンは、小規模の撮影スタッフで仕事をすることは、さまざまな点で本作に利益をもたらしたと言います。「予算が少なく、ほぼすべてのシーンに子供が2人いる状態で、実際のロケでの撮影を行うにも関わらず、1日で最長6時間しか作業ができないことを考えると、私たちは迅速かつ流動的な仕事の仕方をする必要がありました。デジタルとは違い、フィルムは解放的なのです。カメラの周りに過剰なインフラ設備、つまりモニター、DIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)のカートやビデオ・ビレッジなどの追加要素が必要ないのです。フィルムで撮影するということは、自分たちが非常に機敏だったということです。三脚に素早くカメラを設置し、子供たちにセットに入ってもらい撮影を始めることができるのですが、その慌ただしさは、デジタル撮影よりもはるかに軽微なのです。私たちが行う準備も、どれも非常に手ごろで慎ましいものでした。外面だけを見ると、長編映画ではなくミュージックビデオを撮っていると思ったでしょうね」

この低予算の映画制作の実践に成功したという経験を得て、シュワルツマンとトレヴォロウ監督は、65mmフィルムで撮影されるルーカスフィルム/ウォルト・ディズニー・ピクチャーズの『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のプリプロダクションを開始するため、2017年の終わりにイギリスで再度チームを組み、まったく異なる課題に直面します。

「65mm以上に美しいものはありません」とシュワルツマンは最後に述べました。

(2017年6月9日発信 Kodakウェブサイトより)

『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』

 日本未公開/Netflixにて配信中

   製作年: 2017年

 製作国: アメリカ​

 原 題: The Book of Henry

​ 公式サイト: https://www.netflix.com/jp/title/80095206

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