2020年 10月 9日 VOL.168

終末の果ての世界を白黒の映像美で描いた『異端の鳥』

『異端の鳥』より、ミートカ役のバリー・ペッパー Ⓒ Jan Dobrovský

ヴァーツラフ・マルホウル監督の衝撃的に美しい映画、『異端の鳥』におけるウラジミール・スムットニーの見事な白黒撮影は出色の出来栄えであり、このベテランのチェコの撮影監督がこれまで手がけた中でもっとも個人的な作品となっています。

有名なポーランドの作家イェジー・コシンスキによる、議論を醸した小説を基にした『異端の鳥』で描かれるのは、第二次世界大戦の大虐殺の中で、名もなき少年がとある東ヨーロッパの村から村へとさまよう物語です。行く先々でどんどん傷ついていく主人公は、妄信に満ちた殺傷行為から小児性愛や獣姦まで、さまざまな人間の邪悪さを目の当たりします。本作は2019年のヴェネツィア国際映画祭で世界初上映され、金獅子賞にノミネートされましたが、同映画祭では上映中に退席する人もいました。

言うまでもないことですが、この映画は気の弱い人には向いていません。開始2分で、無力な動物が地面で悲鳴を上げながら燃えているシーンが出てきます。その後の2時間半で起きることは、魂と感覚への痛ましい試練であり、人間の本質にある暗い一面に入り込んでいく地獄のような道のりです。しかし、終末の果ての世界を見つめる哀愁的なトーンと組み合わさった、この映画の持つ不気味な視覚的優雅さにより、観客は席に着いて嫌悪と畏怖の入り混じった感情で、提示される恐怖を見るのです。

『異端の鳥』の撮影監督 ウラジミール・スムットニー Ⓒ Luděk Hudec

『異端の鳥』という作品が向き合うのは、人間の中にある非人間性を耐えがたいほど持つ人々です。ですから、本作がスクリーンに映されるまでに10年以上の年月を要するほど尽力しなければならなかったことを理解することが重要なのです。

撮影監督のスムットニーはこう述べています。「ヴァーツラフは、コシンスキの原作小説を翻案するというアイデアを2007年に教えてくれました。撮影は2017年に始まり、2018年の夏に終了しました。全部で100日間です」 スタッフたちは、スロバキア、ポーランド、チェコ共和国、ウクライナを訪れ、その中には戦争以来時間が止まったままのセウァロヴェイチの村もありました。

『異端の鳥』より、ハンス役のステラン・スカルスガルド Ⓒ Jan Dobrovský 

「第二次世界大戦の白黒写真だけでなく、タルコフスキー監督の『僕の村は戦場だった』と『アンドレイ・ルブリョフ』、エレム・クリモフ監督の『炎628』、ヴラーチル監督の『Markéta Lazarová(原題)』、ネメッツ監督の『夜のダイヤモンド』も参考にしました」

本作の撮影監督とマルホウル監督の関係は相互協力的なもので、2人の映画制作者たちは共に自らのスタイルをこの映画に吹き込みました。「適切なストーリーテリングだけが各シーンの感情と意図を伝えられるはずだということを念頭に置き、毎朝、お互いのアイデアの間で納得できる着地点を見つけようとしていました」と、本作の撮影でカメリマージ映画祭ブロンズ・フロッグ賞を受賞したスムットニーは言います。「画の端に寄せて俳優を立たせることで白黒のシネマスコープのフォーマットは不安や苦痛、恐怖を表現しており、長いドリーに乗せるなどのカメラの動きにより、観客にはスクリーンの内外で何が起きているのかを考える機会が与えられます」

ほとんどのショットは格調高く、入念に構成されているのですが、時折、ストーリーテリングに主観性を吹き込み、観客を20世紀の原始的な本能の世界へとより深く没入させる、手持ちのシーンが登場します。

『異端の鳥』の撮影現場 Ⓒ Luděk Hudec

この物語を幅広い色味を使うことなく撮影するために、様々な課題が生じました。「良い撮影には良い光が必要であり、それは日によって違います。しかし、私たちのように、一貫してフィルムで撮影できるという幸運に恵まれているなら、画、動き、構図、光のスタイルの進化を追い、常に学び続けるべきです」とスムットニーは説明します。「白黒作品で重要なのは、光と影の美的構成、光と闇のリズムなのです。現代のカラー撮影における一般的な手法では、ぼんやりとした霧で光を描きますが、それだと白黒フィルムのコントラストが台無しになってしまいます」

「私は、黒が濃く、コントラストの強い白黒撮影が好きなのですが、森のシーンの撮影をした時はすべてが緑色で、兵士たちも緑色のユニフォームを着ているためコントラストがありませんでした。ですから、黄色のフィルターを使って緑を明るくしたのですが、それによって、ショットの中の暗い部分のコントラストを増すことができました。また、焼け落ちる家のシーンでは赤いフィルターを使い、その場のドラマチックな自然を、つまり、暗い空と白い雲を強調しました」とスムットニーは続けます。彼は、できる限り自然光を使用しました。

『異端の鳥』より、司祭役のハーベイ・カイテル Ⓒ Jan Dobrovský

「そういう光の中だと、少年の肌のトーンは特に美しくなりました。茅葺き屋根の窓や穴から差し込む日光を取り入れたのです。キーライトを決して屋内に置くことはなく、設置しませんでした。主に使ったのはHMIライトの12~18kwで、ARRI Mのライトを使うこともあり、反射光も利用しました。分散させた光は日中の屋内のショットにのみ使ったのですが、特定の部分に留め、映像の一部は暗いままにしておきました」

だからこそ撮影監督のスムットニーは、自身とマルホウル監督の際立ったビジョンを映画の命にもたらすために、クラシックなものから現代のものまで様々なフィルム機材を選択しました。

『異端の鳥』より、ガルボス役のジュリアン・サンズ Ⓒ Jan Dobrovský

「フィルムネガは、歴史が古く、信頼の置けるコダックのイーストマン ダブル-X ネガティブ フィルム 5222で、アリカムLTカメラに加え、手持ちのシーンではアリフレックス235を使いました。さらに、グリーンスクリーンを背にした特殊効果のショットにはRED MONSTROを使用しました」とスムットニーは説明します。彼は本作のために、ツァイスとVANTAGE HAWKのレンズをテストしました。「ツァイスのレンズはほとんど歪みがなく、シャープさが美しかったのですが、私は独自のスタイルを持つHAWK V-Lite Opticsを選びました。多少歪みがあり、画の上端は焦点が合っていないのですが、私たちはこれらのちょっとした技術的な弱点を強みに変えたのです」

スムットニーはこう締めくくります。「直接的な戦争体験と、荒廃した戦後の世界によって、少年は魂を失います。おかしくなった世界を描く映像の持つすごさが、白黒フィルムの持つ美しさと表現力を引き出しました。これは私の最高傑作であり、おそらくは私のキャリアで最も重要な作品です」

(2020年3月10日発信 Kodakウェブサイトより)

異端の鳥

 10月9日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

   製作年: 2019年

 製作国: ​チェコ・スロバキア・ウクライナ合作

 原 題: The Painted Bird

​ 配 給: トランスフォーマー

​ 公式サイト: http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/

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