2021年 1月 12日 VOL.170

映画『無頼』

― 撮影 千足陽一氏(J.S.C.) インタビュー

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

正義を語るな、無頼を生きろ。

『パッチギ!』『黄金を抱いて翔べ』など、数々の話題作を世に送り出してきた井筒和幸監督が8年ぶりにメガホンを握った。新作『無頼』が2020年12月12日(土)より全国で順次公開中。寄る辺なき者たちの群像劇を通して浮かび上がるのは、誰もが“欲望の資本主義”を追いかけた戦後日本そのものだった。

今号では、井筒和幸監督と初めてタッグを組まれた撮影監督の千足陽一氏に、16mm撮影を選択された経緯と現場のお話などを中心にお伺いしました。
 

混沌とした時代をスーパー16で表現する

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

今回の作品で16mm撮影を選択された理由と経緯をお聞かせ下さい。

千足C: まず、井筒和幸監督のフィルム撮影へのこだわりですね。前作の『黄金を抱いて翔べ』(2012)は35mmのアナモフィックレンズでの撮影で、カメラの大きさや機動力をあまり発揮できなかったので、今回は狭いロケセットが多いこともあり、カメラをもっとコンパクトにして、16mmでアグレッシブな撮影を望まれていました。また、物語の時代背景が終戦からの昭和、平成にかけての一人のヤクザの物語で、ある種ひとつの昭和史をテーマにしたものなので、その時代を表現した画のトーンにしたかったというのがあります。デジタルの画に慣れている観客の方々には、かなり荒削りな映像になっているとは思いますが、日本の敗戦から始まり、その混沌とした昭和の雰囲気を描くには、16mmはちょうど良いキャンバスだったと思います。井筒監督がおっしゃるには、日本が敗戦し、一度全て破壊されてから復興していくには、まずイデオロギーをどう確立するかというところから始まって、社会主義と資本主義の闘争があり、学生運動や安保闘争などを経て最終的には高度成長期に入っていき、昭和の熱い時代が終焉していった。その熱気に満ちた昭和という時代を、粒子感のある16mmのトーンで描くというのはとてもマッチしていたと思います。

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

撮影は2018年でした。

千足C: 2年前の2018年2月に網走ロケでテストを含めた実景撮りがあり、本編はその年の9月から12月末の4ヶ月間で海外ロケも少しありました。一人の男の人生を追っていくので、ロードムービーのように各地で撮影しています。海外ロケは、デジタルで撮影していますが、それ以外は全て16mmフィルム撮影です。井筒監督の撮影の仕方にはある特徴があって、1日で撮影するシーンが非常に限られています。それこそ1日で1シーンしか撮影しないという日が多いです。さらにロケハンには監督が基本的に不参加で、助監督やラインプロデューサーが、ロケ場所を監督に写真でプレゼンして決定します。監督がロケハンに参加しない理由は、ファーストインプレッションを非常に大事にしているためで、事前にその場所に行ってしまうとイメージが出来てしまうので、撮影当日にその場所に行って、どう撮影するかを現場で即興的に組み立てていくという手法です。実際の現場と台本にある芝居とが上手くマッチしない場合、撮影は中止になります。スケジュールも予算も限りがあるので、監督の演出を想定してロケ地を選定していくための色々な準備は非常に大変だったと思います。
 

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

追及するのは、リアリティのある自然な演技

実際の現場では、井筒監督はどのような演出をされるのですか?

千足C: 実際に撮影がスタートすると、現場では細かいカット割りの指示などはなくて、メインの役者の演技のバックに、色々な役者を配置していくという構図で撮影していきます。今回の作品は、特にキャストの数も多かったので、フレームの中の至る所で、多くの役者が様々な演技をしていると思います。メインの役者よりも、そういった背景にいる役者たちへの演技指導の方が、非常に細かく指導されていたと思います。井筒監督の演技指導の基本は、リアリティを追求した演技にあるので、よく俳優におっしゃっていたのは、日常そんなしゃべり方はしないだろう?という感じで、あくまでも自然な演技を大事にしているということです。役者の方々は、それこそ色々な演技の経験があって今のキャリアにいるのですが、井筒組では、そういったこれまで培ってきた演技の枠を一度壊して、自然な演技を再構築していくという感じでした。
 

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

撮影は2キャメ体制で臨まれたそうですね。

千足C: 今回の映画は集大成だとおっしゃっていますし、私の個人的な意見としては、監督は原点回帰したかったのかなと感じます。観ていただけるとわかると思うのですが、井筒監督の初期の作品の作り方に凄く似ていると思いました。撮影手法に関しても、A、B2キャメ体制ですが、以前の作品はカメラワークでの移動も多かったのですが、今回はマスターポジションを決定したら、その位置からカメラはあまり動かず、単純なカット割りで撮影していくという初期の井筒作品のテイストだと思います。その方が、役者のお芝居をじっくりと撮影できますし、フィックスした画の中での役者の演技を演出していきたいという思いがあったのだと思います。撮影が始まる前に、監督から『ゴッドファーザー』(1972年、フランシス・フォード・コッポラ監督)を観ておいてくれとお願いされました。『ゴッドファーザー』も主役の演技の奥で、誰かが何かをしているという描写が多用されています。物語に絡む何かを、奥の方の俳優が演技をしていて、客観的な描写で撮影されているシーンも多くあり、今回の井筒組でもそれを意識していると思います。さらに、『仁義なき戦い』(1973年、深作欣二監督)のオマージュも作中にあります。
 

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

撮影部、照明部などスタッフについて教えてください。

千足C: 照明は渡部嘉氏に依頼しました。三池崇史監督作品など多くの経験を積まれていて、フィルム撮影を熟知している方で、私も助手時代からご一緒させていただいています。基本的に、渡部さんのライティングが好きなのと、Aキャメ、Bキャメとマルチでの撮影に臨機応変に対応していただけて、現場で非常に信頼できる照明技師です。撮影部は、井筒組の伝統なのですが、チーフの川野由加里がBキャメを担当しています。それにセカンド、サードがそれぞれ付くという6人体制でした。特機部がいない小人数体制で、他の部もスタッフの人数は少なかったと思います。監督の意向として、小人数でアグレッシブなフィルム撮影がしたいというのが、今回のスタッフ編成だったと思います。

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

観客の集中を邪魔しない粒子感

使用されたネガや、現像、仕上げなどについてはいかがですか?

千足C: ネガはVISION37219 500T のワンタイプのみを使用しています。井筒組の現場のフローを考えると、フィルムタイプを混在させるのは、あまり得策ではないと感じたのが理由です。カメラはARRIFLEX 16 SR3を使用しています。ARRIFLEX416の選択肢もあったのですが、これも現場でのトラブルシューティングを考えた時に、SR3の方が私も、チーフの川野も使用した経験値が高かったのでそちらを選択しました。現像はIMAGICA Lab.で、ほぼノーマルで上げています。16mmのスキャンはレスパスビジョンでARRISCANを使用し2Kの解像度で行っています。4Kスキャンも検討したのですが、合成カットの兼ね合いなどもあり2Kでスキャンしています。仕上げも、そのままレスパスビジョンのグレーダーの高橋直孝氏に依頼しています。是枝組などで実績のある方ですし、フィルムの知識も豊富な方なので、スーパー16のポテンシャルを十分に引き出していただいたと思います。仕上げの時に私が悩んだのは、デジタルの画に慣れている観客にどこまで16mmの粒子感を残すかという点で、あまりに粒子感の無い画にしてしまうと、16mmで撮影した意味が薄れてしまうかなとも感じたので、その点は高橋さんと相談しながら慎重に調整しました。粒子感が無いと16mmっぽい雰囲気が無くなってしまうかというと、実際はそんなことはなくて、たとえ全ての粒子を無くしたとしても、16mmフィルムの独特な質感は失われないということがわかったので、単純に映画として観客が物語に集中して入り込めるよう、粒子が邪魔にならいない程度に仕上げました。
 

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

仕上げで他にこだわった点はありますか?

千足C: 作品全般を通しての手法として、監督のあるアイデアを画に採用しました。物語は終戦からの昭和、平成に至るまで時代がどんどん変わっていくのですが、一番初めの主人公の少年期は、モノクロ調で始まっています。モノクロ調なのですが、1ヶ所、色があるという画です。差し色として色が画にあるという感じです。カラーネガからグレーディングでその色調にしているのですが、時代が経っていくにつれて色が出てくるという演出になっています。

無頼を生きろという若い人たちへのメッセージ

最後に、作品をご覧になる方へのメッセージがございましたらお願いします。

千足C: 今回の映画はヤクザ者の話ですが、昭和に起こった昔の事件も多く登場する近代史的な作品でもあり、若い方には受け入れ難いかも知れません。ですが、井筒監督は今の若い人たちに是非とも観てもらいたいと思っています。ある男の60年の人生を2時間半に落とし込んだ作品ですが、今の若い人たちへのある意味での生きるヒントとして観てもらいたいと思っています。戦後から昭和という無茶苦茶な時代を謳歌した世代から見ると、現在の若い人たちはどこか小さくまとまっていて、それは今の大人たちにも言えるのかも知れませんが、ある意味、生きづらい世の中になってしまったと思います。井筒作品には、アウトローやマイノリティーの人たちが多く登場します。単純にそういう人たちが生きていくことの難しさを描いていますが、今回の映画では、激動の昭和という時代を生きて牽引してきたのは表舞台の人たちだけじゃなく、その裏でアウトロ―な生き方をした人たちも色々なことをしてきたということを表現したかったのだと思います。そのメッセージは、今を生きている人たちの何かのヒントになればと思います。

(インタビュー:2020年 11月)

 PROFILE  

千足 陽一

ちあし よういち

1973年生まれ、兵庫県出身。KYOTO映画塾を卒業後、森田富士郎氏、山本英夫氏、柳島克己氏、佐々木原保志氏に師事し、『御法度』(1999年)、『RED SHADOW 赤影』(2001年)、『ゲロッパ!』(2003年)、『着信アリ』(2004年)、『TAKESHIS’』(2005年)、『タイヨウのうた』(2006年)、『新宿インシデント』(2009年)などで撮影助手として参加。井筒和幸監督作品『ヒーローショー』(2010年)ではBキャメラを担当。

その後、撮影技師として劇映画『Lost Harmony ロストハーモニー』(2011年)、『名無しの十字架』(2012年)、『江ノ島プリズム』(2013年)、『クジラのいた夏』(2014年)などを撮影。近作には2020年の徳島国際映画祭でグランプリを受賞した『はらいそクラブ』(2020年)がある。

 撮影情報  (敬称略)

『無頼』

 

監 督  : 井筒 和幸 
撮 影  : 千足 陽一(J.S.C)

Bキャメ&チーフ: 川野 由加里

セカンド : 畠山 航
Bセカンド: 佃 友和
サード  : 殿村 亮
Bサード : 三代 郁也
照 明  : 渡部 嘉
キャメラ : ARRIFLEX 16 SR3
レンズ  : Carl Zeiss ULTRA16 Prime Lenses
フィルム : コダックVISION3 500T 7219
現 像  : IMAGICA Lab.
仕上げ  : レスパスビジョン
機 材  : ナックイメージテクノロジー

制作プロダクション: サムアス24
製作・配給: チッチオフィルム
(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム
公式サイト:
https://www.buraimovie.jp/