2021年 7月 26日 VOL.179
エリザ・ヒットマン監督が絶賛を受けた『17歳の瞳に映る世界』ー 撮影監督 エレーヌ・ルバール(AFC)がコダックの16mmを使用して親密さとつながりを作り出す
『17歳の瞳に映る世界』でオータム役を務める主演のシドニー・フラニガン Photo courtesy of Focus Features.
フランスの撮影監督エレーヌ・ルバール(AFC)がコダックの16mmフィルムを使用して撮影した、パワフルで親密なドラマ『17歳の瞳に映る世界』は、予定外の妊娠をきっかけにペンシルバニアからニューヨークへ旅立つ10代の少女とそのいとこの苦難とハラスメントを描いています。
10代の少女の現実と、2人が直面する異性からの絶え間ない威圧感を揺るぎなく描いたことで批評家から高く評価されたヒットマンは、本作で2020年サンダンス映画祭の米国ドラマティック特別審査員賞(ネオリアリズム部門)と第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞しました。
物語は、ペンシルバニア州の田舎のスーパーマーケットでレジ係をしている、静かでストイックなティーンエイジャー、オータムを描いています。意図しない妊娠をしてしまったオータムは、いとこのスカイラーと一緒に現金をかき集め、スーツケースに荷物を詰めて、グレイハウンドバスでニューヨークに向かいます。手元にあるのはクリニックの住所だけで、泊まるところもなく、2人は勇気を持って見知らぬ街に飛び出していきます。
ルバールは、新人のシドニー・フラニガンとタリア・ライダーという2人の若い主役の自然でありながら最小限の演技の複雑さを際立たせるために、コダックの16mmフィルムを使用して、作品に荒々しい映画的な美学を表現しながら、州境を越えて未知の領域に旅する彼女たちの親密なクローズアップ、身ぶり手ぶり、細部に焦点を当てています。
『17歳の瞳に映る世界』の撮影現場にて、エリザ・ヒットマン監督(左)と撮影監督 エレーヌ・ルバール(AFC) Photo credit: Angal Field/Focus Features.
「エリザはこの映画で、オータムとスカイラーの旅を、観客が本当に共感できる映像でリアルに描いて欲しいと考えていました」と語るルバールはこれまで、アリーチェ・ロルバケル監督のマルチアワード受賞作『幸福なラザロ』(2019年)や、ヒットマン監督の2017年サンダンス賞受賞作『ブルックリンの片隅で』などがあり、これらもコダックの16mmで撮影されています。
「フィルム、特に16mmフィルムは、色や肌の色の再現の仕方や、そしてランダムな粒子の全体的な質感を通して、自動的にそのような視覚的なつながりをもたらします。『ブルックリンの片隅で』では、豊かでありながら落ち着いた色調と夢のような映像を表現していましたが、『17歳の瞳に映る世界』では、困難な旅と、オータムが身体と精神を取り戻す様子を描くために、本物の透明感が必要でした」と述べています。
本作の主要な撮影は、2019年2月中旬にペンシルバニア州ノーサンバーランド郡の石炭の町シャモキン周辺で開始され、その後、ニューヨーク市のブルックリン地区とマンハッタン地区に移動し、様々な病院やクリニック、ニューヨーク市の地下鉄、さらに港湾局の建物などがロケ地となりました。作品のペンシルバニア州のシーンを着想するための、アメリカの現状を捉えることに専念している写真家マット・アイクが撮影した数枚のスチール写真を除いては、制作のための視覚的な参考資料は最小限にとどめました。
クリニックや病院のシーンでは少し雰囲気を醸し出すルックにしましたが、地下鉄や屋外のような場所では光を変えることができません。ですから、そのまま地下鉄や日中の屋外にあったものを使い、オータムとスカイラー、そして彼女たちに起こることを常に信じられるように、リアルさを保ちました」とルバールは説明します。
『17歳の瞳に映る世界』でスカイラー役を務める主演のタリア・ライダー Photo courtesy of Focus Features.
ルバールは、28日間の撮影のために、ツァイスのウルトラプライムレンズを装着したARRI 416カメラを選択しました。この小型軽量のパッケージは、手持ち撮影と迅速なセットアップを可能にし、特にこの映画の地下鉄と港湾局のシーンでは、ワイドとクローズアップでレンズ自体のシャープネスと精密さを発揮しました。カメラとレンズは、ニューヨークのARRI Rental社から提供されました。
ルバールは、日中と夜間、屋内と屋外のすべてのシーンを、コダック VISION3 500T カラーネガフィルム7219の1タイプのみで撮影することを選択しました。
「500Tは、クリニックや地下鉄の屋内、明るい昼間や夜の屋外など、あらゆる場面で柔軟に対応できる素晴らしいフィルムストックなので採用しました。顔の色が自然で美しく、地下鉄の奇妙な緑の光やシャモキンの暗い街でもよく映え、エリザが望んでいた通りの色を出すことができました。また、2Kで最終的なグレーディングを行った際には、画像の暗い部分のディテールがしっかりと再現され、ハイライト部分の処理も快適で、驚きの連続でした。
『17歳の瞳に映る世界』の撮影現場にて、撮影監督 エレーヌ・ルバール(AFC) Photo credit: Angal Field/Focus Features.
バスの中や地下鉄から出てくるシーンなど、ごく一部の昼間のシーンでは、ハイライトが非常に強く、けれどもコントラストが高くなるのを避けたかったのです。そこで、そういったシーンには、ラボで1ストップ減感処理を行うことが多く、それが望ましい効果をもたらしてくれました」
現代のリアルな映像を捉えるために、ルバールは照明を最小限に抑えて自然な感じにしましたが、クローズアップ、特にクリニックでの極めて重要なシーンでは、少し強調したルック(映像の見た目)にしました。
「もちろん、この種の屋内空間にある通常の照明は、映画製作にとって特に手助けとなるものではありません。そこで、使われている照明をLitegear社のLiteMatsやLiteTilesなどのLED照明に置き換えました。これらの照明はすべてiPadに接続されており、調光器を使って光のレベルや質をコントロールし、必要に応じて光を投射して、形や奥行きの感覚をわずかに高めることができました」
フィルムの現像処理はコダック・フィルム・ラボ・ニューヨークで行われ、4Kスキャンと最終カラーグレーディングはニューヨークのメトロポリス・ポスト社で行われました。DI(デジタル インターメディエイト)自体は、P3カラースペースで行われました。P3カラースペースは、ルバールが従来のフィルム撮影のプロジェクトで慣れ親しんできたRec.709よりもはるかに広い色域を特徴としています。「P3は、スキャンされた16mmフィルムに異なる印象を与え、私にとっても全く異なる経験となりました。16mmとP3の組み合わせについては多くのことを学びました。それは私にとって新しいルックであり、色的にも素晴らしいものでした。より多くの色のニュアンスを2Kのフィルムスキャンから得ることができました」
『17歳の瞳に映る世界』の撮影現場にて、エリザ・ヒットマン監督(左) Photo credit: Angal Field/Focus Features.
16mmフィルムの美しさに加えて、撮影現場に16mmカメラが物理的に存在することが、スタッフや俳優のチームワークの良さを大きなスクリーンに映し出すのに有効だったとルバールは述べています。
「フィルムの撮影では、全員の動きが非常に的確で、撮影中はとても集中します」と彼女は言います。「とてもシンプルなことです。撮影監督としてアイピースを覗いていると、アクションや登場人物とのつながりが生まれます。観客は登場人物を見て感じ取りますが、役者は自分たちのパフォーマンスが撮影されていることを感じ取るのです。このようにして、何か基本的で誠実なものに立ち返ることができるのです。このように意識の焦点を共有することで、イメージにある種の真実とリアリズムがもたらされます。
主人公たちは若手ですが、撮影とフィルムチェンジのリズムとペースにはある種の心地よさを感じていました。このように、フィルムは誰にでも優しいものです。撮影現場に独特の集中した雰囲気が生まれ、忠実で有機的なルックが記録されます。これは私たちが意図したことであり、観客の皆さんにもこの映画を見て感じていただけたらと思います」
2021年7月16日より全国順次公開
製作年: 2020年
製作国: アメリカ
原 題: Never Rarely Sometimes Always
配 給: ビターズ・エンド、パルコ
公式サイト: https://17hitomi-movie.jp/