2021年 8月 27日 VOL.180

コダックの16mmフィルムが時間を巻き戻す手助けをしたフランソワ・オゾン監督のほろ苦いロマンス『Summer of 85』

『Summer of 85』の1シーン (C) 2020 Mandarin Production, Foz, France 2 Cinema, Playtime Production, Scope Pictures.

高い評価を受けているフランスの映画監督、フランソワ・オゾンが脚本・監督を手がけた『Summer of 85』では、ティーンエイジャーの少年たちが互いに惹かれ合い、海辺で情熱的な夏の恋を始めますが、やがて恐ろしい悲劇が2人を襲います。

オゾン監督と撮影監督 イシャーム・アラウィエ(SBC)は、観客を視覚的に1980年代半ばにタイムスリップさせるため、本作をコダック16mmフィルムで撮影することにしましたが、それによって「時代とティーンエイジャーの高揚感の両方を甘美かつ濃厚に喚起させている」と評論家たちが絶賛した要素が映像に吹き込まれました。

当時のノリのいいポップスの名曲がサウンドトラックに多数盛り込まれた本作は、本来であれば2020年5月のカンヌ国際映画祭で世界初上映となる予定でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって同映画祭が中止になったため、2020年7月14日にフランスで封切りとなり、その後、2020年のトロント国際映画祭で上映され、ヨーロッパおよびアメリカで広く公開されました。

多数の受賞経験を持つオゾン監督は、特に「肉体を描く映画」に関連するフランス映画の“ヌーヴェル・ヴァーグ”(新しい波)において最も重要な映画監督の1人だと考えられています。オゾン監督作品の代表的な特徴は、鋭い風刺の効いたウィットと、人間のセクシュアリティーについての問いかけです。ダークコメディーのミュージカル作品『8人の女たち』(2002年、撮影監督:ジャンヌ・ラポワリー)やエロティックスリラー『スイミング・プール』(2003年、撮影監督:ヨリック・ル・ソー(AFC))といった初期の作品で国際的に高い評価を得ました。

オゾン監督の最新作である『Summer of 85』は、1982年のイギリスのヤングアダルト小説、エイダン・チェンバーズ作『おれの墓で踊れ』を原作としています。オゾン監督の翻案では、舞台を北フランスに移し、長い夏休み中に一緒に過ごす仲間を求める、死に魅入られた16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)を中心にストーリーが展開します。ヨットで沖に出たアレックスは、ふとしたことからヨットを転覆させてしまい、自信家で少し年上のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)に助けられます。2人は友人となり、バイクやヨットで冒険をしているうちに、その友情はたちまちにして情熱的なものへと発展していきます。

『Summer of 85』の1シーン (C) 2020 Mandarin Production, Foz, France 2 Cinema, Playtime Production, Scope Pictures.

『Summer of 85』の撮影は、2019年5月と6月に33日をかけてル・トレポール周辺と、パリ近郊の複数のロケーションで行われました。ル・トレポールは海沿いの小さなリゾート地で、フランスのノルマンディー北部のセーヌ=マリティム県にある軽工業地帯の漁港です。

撮影監督のアラウィエは、最初にオゾン監督と本作の映像の見せ方について交わした会話を振り返り、「この作品は海辺での夏の恋を描く映画でした。でも、悲劇が起きる前と後で2つのルック(映像の見た目)がまったく異なることが明確な特徴で、悲劇が起きる前は陽光に満ちてカラフルですが、その後、大きな不幸が徐々に明らかになるにつれ、冷たく、簡素な感じになっていきます」と語っています。

『Summer of 85』の1シーン (C) 2020 Mandarin Production, Foz, France 2 Cinema, Playtime Production, Scope Pictures.

「全体として、フランソワはこの作品に1980年代の独特のルックと雰囲気を持たせたいという思いを持っており、そのための最適な方法はセルロイド(フィルムの意)に撮影することだと考えていたのですが、35mmと16mmのどちらがいいのかは決めかねていました」

アラウィエは、『L'hiver Dernier/Last Winter』(2011年)、『Les Chevaux De Dieu/Gods Horses』(2012年)、『Duelles/Mother’s Instinct』(2018年)でベルギーの権威あるマグリット賞の最優秀撮影賞を3回受賞しています。『Summer of 85』に取りかかる前に、エリエ・システルヌ監督の『De Nos Frères Blessés』を35mmフィルムで撮影していましたが、この2つの新作映画で9年ぶりにフィルムに戻ってきたそうです。

「フィルム撮影に戻ってこられてウキウキしましたね。魔法みたいな感じです」とアラウィエは言います。「現場ですぐに仕上がりを見ることができず、ビデオアシストだけなので、全員が自分の動きについてデジタル撮影よりもじっくりと考えなければなりません。それにより、みんなに集中力と規律がもたらされるという点で、現場の雰囲気がとてもいい方向に変化するのです」

『Summer of 85』の撮影現場にて、16mmカメラを構えるフランソワ・オゾン監督

「これに加えて、私にとって興味深かった要望が、フランソワは自分の作品では自分でカメラを操作することを好むということでした。そのため私の仕事は、彼が俳優たちの周りにカメラを移動させやすくし、適度な自由さと照明を保ちつつ、楽にアクションを撮影できるようにするということにとても集中しました」

本作の映像の全体的な美しさを考えるうえで、オゾン監督とアラウィエは、1980年代の写真やその他の画像を幅広く参考にし、さらに、ロイ・アンダーソン監督の『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(1970年、撮影監督:ヨルゲン・ペルソン)やガス・ヴァン・サント監督の『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年、撮影監督:ジョン・キャンベル/エリック・アラン・エドワーズ)といったフィルムで撮影された作品の、日光がさんさんと降り注ぐ雰囲気と官能的なカメラワークに興味を持ちました。

「初期の段階で私がフランソワに提案したのは35mmでの撮影だったのですが、16mmの可能性も排除しないということで意見が一致していました。本作のロケーションで両方のフィルムをテストし、ラボではいろいろな方法で1段もしくは2段増感してみました。35mmのルックも素晴らしかったのですが、1980年代を蘇らせるというこの作品の使命の一環としては、ノーマル現像した16mmの粒子感が私たちの好みでした」

コダックのデーライトとタングステンの16mmをテストし、その結果、アラウィエが選んだのはコダック VISION3 200T カラーネガティブフィルム 7213と500T 7219でした。

「どちらのタイプもカラフルで肌のトーンを実にきれいに表現してくれるのですが、タングステンの感光乳剤を使うとより濁った特徴的なルックになります。全体として、16mm 200Tと500Tは衣装やロケーション、セットの装飾、照明と組み合わせると、一番当時にタイムスリップした感じになり、観客がストーリーに入り込む手助けをしてくれると思いました」

『Summer of 85』を撮影するフランソワ・オゾン監督(中央) (C) 2020 Mandarin Production, Foz, France 2 Cinema, Playtime Production, Scope Pictures.

カメラを自分で操作したいというオゾン監督の意向を受け、アラウィエは小さくて持ち運びしやすいアリフレックス 16SR3をメインカメラに選び、アトーン XTR Proをサブとして用意して、必要に応じてアラウィエが操作しました。

使用したレンズには、19-90mmのスフェリカルレンズや24-275mmのパナビジョン・プリモ・ズームレンズに加え、ステディカムやワイドショット用のプリモプライムレンズもたくさんありました。カメラ機材はパリのTSF社が提供し、ブリュッセルのスタジオ・レキップがフィルム現像と2Kスキャンを行いました。

アラウィエはこう説明します。「フランソワは自分の感覚に沿ってアクションを撮影できるのが好きなので、いつもなるべく自分で操作し、頻繁にズームを使います。彼はここだという瞬間に撮影を行い、ワイドだったりクローズアップだったり、手持ちで撮影したりドリーで撮影したり、カメラを使った即興もよくやるんです」

『Summer of 85』の撮影現場にて、16mmカメラを操作するフランソワ・オゾン監督

『Summer of 85』の屋外シーンは主に自然光もしくはその場の光で撮影されており、リフレクターを使って俳優や顔の上に環境光を当てて形を整え、特にマジックアワーを頻繁に活用しています。屋内のシーンは、俳優たちの姿を見せるためのLED照明を若干使いつつ、HMI光源から窓越しに照明を当てることが多く、それにより、オゾン監督がカメラに求めるクリエイティブな自由度がもたらされました。

アラウィエは、ストーリー上の2つの時間軸を区別するために、大体が500Tで撮影された日光の降り注ぐラブシーンに85Cフィルターを使いました。ですが、悲劇が起こった後のシーンには、照明や衣装、装飾を変えると共に、200Tに81EFフィルターを組み合わせて、より冷たく、低いコントラストと厳粛な美しさを表現しました。

アラウィエはこう締めくくります。「もちろん、デジタルを使ってこの作品を制作することもできたのですが、当時の雰囲気を忠実に見せることはできなかったでしょう。フィルムは無意識に素晴らしいルックになります。肌のトーンがとても自然ですし、全体的な色の表現が秀逸で、カメラの前にあるものを忠実に記録してくれます。この作品で、フィルムがどれほど優れたタイムトラベル装置になり得るかが証明されました」

(2020年10月16日発信 Kodakウェブサイトより)

Summer of 85

   2021年8月20日より全国順次公開

 製作年: 2020年

 製作国: ​フランス

 原 題: Ete 85

​ 配 給: フラッグ、クロックワークス

​ 公式サイト: http://summer85.jp/