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2021年 10月 20日 VOL.181

撮影監督リンダ・バッスベリ(DFF)がムーミンの生みの親トーベ・ヤンソンの私生活を16mmフィルムで描いた映画『Tove/トーベ』

ザイダ・バリルート監督作品『Tove/トーベ』より

Photo by Sami Kuokkanen

撮影監督のリンダ・バッスベリ(DFF)は、高い評価を得ているザイダ・バリルート監督による伝記映画『Tove/トーベ』で、フィンランドの芸術家でありイラストレーターでもあるトーベ・ヤンソンの情熱的で魅力的なポートレートを描くために、コダックの16mmフィルムを使用し、そのほとんどを手持ちカメラで撮影しました。

物語は、自由主義社会下のヘルシンキを舞台に、第二次世界大戦が終わる直前から1950年代半ばまでのヤンソンの型破りな生活を中心に、芸術、アイデンティティ、欲望、自由といったテーマを描いています。この社会では、自由奔放な芸術家たちが政治家たちと違法なカクテルパーティーを催し、最新のジャズレコードで踊り、開放的なパートナーの交換を行っていました。

製作費340万ユーロ(約4億4千万円)のこの作品は、エーヴァ・プトロが脚本を担当し、人生を積極的に受け入れる想像力豊かな若いアーティストであるヤンソンが、思いがけないムーミンの世界の創造によって世界的な成功を収めたことを明らかにしています。また、彼女の男女のロマンティックな関係も描かれています。特に、恋人であり夫であるアトス・ヴィルタネン、左翼系の知識人、ジャーナリスト、文化評論家、そしてフィンランドとスウェーデンの演劇監督であるヴィヴィカ・バンドラーとの関係がよく知られています。

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映画『Tove/トーベ』の撮影現場にてカメラを構える撮影監督のリンダ・バッスベリ Photo by Zaida Bergroth

演劇女優のアルマ・ポウスティが長編映画デビューを果たし、「魅惑的」と評価された本作は、第93回アカデミー賞の国際長編映画賞にフィンランド代表作品として選ばれ、世界50以上の地域で公開されました。また、演出、衣装、撮影でも注目された本作は、パンデミック下にもかかわらず、2020年にフィンランドでの興行記録を更新し、過去40年間でスウェーデン語のフィンランド映画としては最高の興行収入を記録しています。

本作の制作に携わることは、バッスベリにとっては単なる仕事の一つではなく、むしろ、絶対にやらなければならない情熱的なプロジェクトでした。

スウェーデン出身で、デンマーク国立映画学校で映画製作を学び、現在はコペンハーゲンに住んでいるバッスベリはこう述べています。「トーベ・ヤンソンは私にとってのヒーローです。多くのスカンジナビア人と同じように、ムーミンは私の子供時代の一部でしたが、トーベの人生やその他の芸術作品には生涯にわたって興味を持ち続けていました。彼女を題材にした映画が制作されることを知ったとき、積極的に参加したいと思い、プロデューサーを探し出して自己紹介しました」

ザイダ・バリルート監督作品『Tove/トーベ』より

Photo by Sami Kuokkanen

バッスベリはこう振り返っています。「プロデューサーがこのプロジェクトに対する私の個人的な情熱を理解してくれたとき、私はヘルシンキに招かれ、ザイダと2時間のミーティングを行いました。彼女と私は、トーベに対する共通の愛情と賞賛、そして彼女の象徴的な物語をどのようにしてスクリーンに描き出すかについて話しました。ムーミンはかわいいけれど、この作品においてはかわいらしさは私たちの敵だということで意見が一致しました。トーベの時代と生き方を反映した野性味とエネルギーを撮影に取り入れたいと考えたのです」

バッスベリにとってビジュアル面での出発点となったのは、ラース・フォン・トリアー監督が数々の賞を受賞した『奇跡の海』(1996年)で、撮影監督のロビー・ミューラーがスーパー35のカメラで全編手持ち撮影した作品をバリルート監督が参考にしたことでした。「ザイダは同じような視覚的パワーを自分の作品に求めていました。それで私は積極的にテストを行い、そこから発展させていきました」

バッスベリはこのプロジェクトに情熱を傾け、制作開始までの半年間没頭しました。その間、彼女はバリルート監督と脚本について検討し、監督や美術のカタリーナ・ニークビスト・エールンルートと映画全体のルックについて徹底的に話し合いました。

ザイダ・バリルート監督作品『Tove/トーベ』より

Photo by Sami Kuokkanen

「もちろんムーミンだけでなく、映画に登場するトーベの絵もたくさん見ましたし、第二次世界大戦中と戦後のヘルシンキやトーベ自身の16mmフィルムのアーカイブ映像も見ました」とバッスベリは言います。「『Aho & Soldan - Helsinki in 1950's Colours』という美しい写真集がとてもインスピレーションを与えてくれました。また、『レイジング・ブル』(1980年、監督:マーティン・スコセッシ、撮影:マイケル・チャップマン(ASC))や『ザ・ファイター』(2010年、監督:デヴィッド・O・ラッセル、撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ(FSF、NSC、ASC))などの伝記映画を見て、手持ちカメラの動きを参考にしました」

「このようなリサーチの結果、セットや衣装のデザイン、本作の撮影に求められる自然で豊かな色や質感について、ザイダとカタリーナと私はたくさん話し合いました」

また、デジタルで撮るかフィルムで撮るかという議論も始まりました。しかし、並べたテスト映像を見てバッスベリはこう断言しています。「16mmフィルムが私たちの求める画質を提供してくれることは明らかでした。デジタルの映像はいかにも似せて作ったようなもので、フィルムで撮影された映像はリアルで真実味があり、生き生きとしていました」

ザイダ・バリルート監督作品『Tove/トーベ』より

Photo by Sami Kuokkanen

さらに彼女はこう付け加えています。「北欧でトーベの姿は、16mmフィルムで撮影されたテレビのインタビューを通じてよく知られていましたので、このような親しみやすいメディアで彼女を描くことは観客にとって最もふさわしいことでした」

『Tove/トーベ』の撮影は、2020年1月から2月にかけて、骨身にしみるような寒さのヘルシンキ周辺で27日間行われました。市内のエンジェル・フィルム・スタジオのステージ上にヤンソンのアトリエのレプリカが建てられました。コロナ感染拡大の影響で渡航が制限されていたため、ヤンソンがパリで生活しながら絵を描くシーンは、フィンランドのトゥルク市を代わりに見立てて撮影されました。

バッスベリは、バリルートといつも組んでいるカメラ・照明スタッフと仕事をしました。彼らは全員フィンランド人で、ガッファーのアキ・カルピネンとグリップのユハ・ニスカモスト以外は女性で、フォーカスプラー/ファーストACをエリナ・エラネン、セカンドACをジャニナ・ウィトコウスキーが務めました。バッスベリの10代の娘、イメルダも制作見習いとして参加しました。

「スタッフの誰とも一緒に仕事をしたことがなく、フィンランド語も話せないのでどうなることかと心配でした」とバッスベリは述べています。「でもみんな、映画の仕事の経験があり、たどたどしい英語やスウェーデン語、デンマーク語を駆使してくれて、、、さらにザイダが現場でポジティブなムードを醸し出して私を和ませてくれたので上手く行きました。彼らはとても気さくで、冬の厳しい寒さの中でも、いつも笑顔を絶やしませんでした」

ザイダ・バリルート監督作品『Tove/トーベ』より

Photo by Sami Kuokkanen

「女性を中心とした少人数のスタッフで撮影したことは、映画の親密なシーンを撮影する際にとても役に立ったと思います。この作品は主演のアルマにとって初めての大役でしたが、彼女が安心して快適に過ごせるように、尊敬の念を持って接することが重要でした」

バッスベリは、スウェーデンのストックホルムにあるデイライト・フィルムエキップメント社から提供されたウルトラプライムレンズを装着した16mmのARRI 416 カメラで撮影しました。フィルムは、暗い夜のシーンにはコダック VISION3 500Tカラーネガティブフィルム 7219を、日中の屋内外のシーンには250D 7207を使用しました。ストックホルムのフォーカス・フィルム・ラボ社が現像と2Kのスキャニング、そしてデイリーの配信を担当しました。

映画の中でトーベはフレーム内を軽やかに動き回り、数々のパーティーのシーンでは、はしゃぎ回る人物たちの中をカメラがしばしば出たり入ったりするアクションが織り交ぜられました。

撮影監督の推定では、カメラ操作の95%はハンドヘルド(手持ち)、ショルダー、またはイージーリグで行われ、残りはドリーやスティックで行われました。

「最近、特に北欧の作品では手持ち撮影が流行っていますが、私はこのスタイルではあまり仕事をしたことがありませんでした。でも俳優との相互作用がとても楽しかったです」とバッスベリは語っています。「16mmフィルムの質感、コントラスト、自然な色再現と組み合わせることで、手持ち撮影のアプローチは非常に興味深く、魅力的な視覚表現となりました。現代的な言語スタイルと時代を感じさせるイメージが出会い、生き生きとした雰囲気を伝えることができました。ザイダは特に、500Tが捉えた淡い金色の暖かさと、500T、250Dそれぞれが持つ無理のないリアルなルック(映像の見た目)を気に入っています」

映画『Tove/トーベ』の楽器演奏シーンでカメラを構える撮影監督のリンダ・バッスベリ Photo by Andrea Reuter

照明に関してバッスベリはこんなプランだったと打ち明けています。「映画っぽくなく、屋外に月明かりや逆光のない自然な視点で撮影する、、、でもガファーであるアキは口数が少なくて、最小限の照明で作業しなければならなかったのに、すべてのシーンで私たちの要求にとても敏感に対応してくれました。彼はシルクを使って光をバウンスさせたり、その場の灯具やその他の小さな光源を使ったりして一つの部屋に照明を統合するのがとても上手で、すべてをiPadでコントロールしていました。それは本当にスピーディーで見事でした!」

本作の撮影を振り返ってバッスベリは次のように語っています。「素晴らしい経験でした。映画の撮影に戻って来られて、スタッフと俳優の間にたくさんの愛と尊敬がある中で毎日仕事をしたことで、『TOVE/トーベ』は私がこれまで仕事をしてきた中で最高の撮影の一つとなりました。この雰囲気はザイダが作り始めて、やがて私たち全員に浸透していきました。私が本当に惹かれたプロジェクトで、彼女と最初に素晴らしいつながりを持つことができ、すべてのフレームを通して一緒に特別な旅をしたような感覚です。彼女は私のソウルメイトだと感じました」

(2021年8月2日発信 Kodakウェブサイトより)

TOVE/トーベ

   2021年10月1日より全国順次公開中

 製作年: 2020年

 製作国: ​フィンランド・スウェーデン合作

 原 題: Tove

​ 配 給: クロックワークス

​ 公式サイト: https://klockworx-v.com/tove/

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