2021年 12月 22日 VOL.184

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影に35mm、65mm、65mm IMAXフォーマットを用いた撮影監督リヌス・サンドグレンの仕事の裏側に迫る

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』より、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ) Credit: Nicola Dove. © 2020 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドとして出演するのが最後になることについては007ファンの間でも様々な意見がありますが、彼が象徴的なスーパースパイを演じた期間が大成功を収めたことは間違いありません。

2021年10月に公開され、「壮大な巡業」として歓迎された『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、全世界での興行収入が7億ドルを突破し、今年最大のハリウッド作品になることが期待されています。

スウェーデンの撮影監督リヌス・サンドグレン(FSF、ASC)によってコダック35mm、65mm、そして65mm IMAXのフィルムフォーマットに撮影された本作は、ジェームズ・ボンドシリーズの25作目であり、現役を退いたボンドがジャマイカで日光を浴びながら穏やかな生活を送る姿が見られます。しかし、そんな平穏な日々もつかの間で、CIAの旧友フィリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が助けを求めて彼のもとに現れます。誘拐された科学者の救出というその任務は、予想をはるかに超えた危険なものであることが分かり、ボンドはすぐさま謎めいた脅威の黒幕、リュートシファー・サフィン(ラミ・マレック)から追われることになります。彼は危険なウイルス型生物兵器を備えていました。

悲しみ、恐怖、ユーモア、さらにはハイテクのガラスの目を持つ分身までもが登場するストーリーの中で、華やかで派手な場所でも変わらず不可避かつ印象的な肉弾戦や銃撃戦、爆発といったアクションが繰り広げられるだけでなく、ボンドはマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)との複雑なロマンスや、2人の共通の敵であるエルンスト・スタヴロ・ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)との対決にも直面します。

製作費推定2億5000万ドル、上映時間163分という大作となった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、フィービー・ウォーラー=ブリッジと共に脚本を執筆したキャリー・ジョージ・フクナガが監督を務めました。007の過去作からはベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、レイフ・ファインズがそれぞれQ、マネーペニー、M役として再び登場しており、007の後継者として戦いに加わるラシャーナ・リンチ、CIAエージェントのパロマとしてボンドを助けるアナ・デ・アルマスも出演しています。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』より、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)とパロマ(アナ・デ・アルマス) Credit: Nicola Dove. © 2020 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

「私はスウェーデンで007映画と一緒に育ち、時代の流れと共にすべてのボンド映画を見てきました。スーパー8で自主映画を撮り始めたティーンエージャーだった頃から007映画に影響を受けてきたんです」とサンドグレンは語ります。サンドグレンが手がけた代表的な作品に、『アメリカン・ハッスル』(13)、『ジョイ』(15)、『ラ・ラ・ランド』(16)、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(17)、『ファースト・マン』(18)、『くるみ割り人形と秘密の王国』(18)などがありますが、すべてフィルムを使って撮影されています。

サンドグレンは『ラ・ラ・ランド』の撮影でアカデミー賞撮影賞を受賞し、『ファースト・マン』のストーリーに散りばめられたさまざまな出来事や感情のダイナミズムをコダックのスーパー16、スーパー35、IMAX 65mm(15パーフォレーション)のフィルムフォーマットを用いて表現しました。サンドグレンにとってはこれがラージフォーマットで撮影した初めての経験でした。

「私が『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影のことで偉大な監督であるキャリーや、経験豊富なプロデューサーであるバーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン、クリス・ブリガムに会った時は、女王に謁見するためにバッキンガム宮殿に招かれたような、光栄でやや現実離れした感じでした」

「でも、最初の瞬間から私たちは本作についてとても楽しい話し合いができました。ボンド映画の良作の中心には魅惑的でロマンチックなものがあり、昔ながらの鮮やかなアクションや激しい浮き沈み、笑いや感動といった体験に魅了されるのが良いという自分の思いを伝えました。キャリーも同じ考えで、ラージフォーマットで撮影する、つまりフィルムで、ワイドスクリーンのシネスコープで65mm、できれば65mm IMAXのフォーマットで撮影するというアイデアに夢中になっていました」

「そういった初期の段階でも、私はファンの多い007シリーズ、特に今回の作品に携わることには特別な責任が伴うと感じていました。本作の経験全体を通して、プロデューサーたちは非常に親切で信頼を寄せてくれ、私たちの選択を全面的に支持してくれたと言わざるを得ません」

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影、IMAX 65mmフィルムカメラを構える撮影監督リヌス・サンドグレン(FSF ASC) Credit: Jack Mealing. © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の視覚的な表現に取りかかるにあたり、サンドグレンとフクナガ監督は、IMAXのLA本部でさまざまなラージフォーマットの映画を見たり、自分たちで35mm、65mm、IMAXのテストを行ったり、『ダンケルク』(17、撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ(NSC、FSF、ASC))などの映画のシーンを考察したりしました。『ダンケルク』はIMAXフォーマット(15パーフォレーション)と65mm(5パーフォレーション)ラージフォーマットでコダックの65mmフィルムに撮影された作品です。

「私たちは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を35mm(アナログ)で、ワイドスクリーン2.40:1のアナモフィックの映画にするという結論に達しました。これによって初めから自動的に壮大なスケールとロマンチックな雰囲気がもたらされるからです」とサンドグレンは説明します。「ですが、一部のシーンはIMAXで撮影し、スクリーンの上下を開きたいと考えていました。そうすれば観客が物語に完全に入りこむことができます。IMAXはそれを実現します。映像の内部に座っているような感覚にさせてくれるのです」

「IMAXのフィルムフォーマットは過去に『ファースト・マン』で使ったことがありますが、その時はウルトラリアリズムから超現実性へとストーリーを変化させたいという希望がありました。しかし本作では、メインタイトルが出る前のノルウェー、イタリア、ジャマイカのオープニングシーンといった没入感のあるアクションを体験するためにIMAXを活用しようと考えたのです。最終的に本作にはIMAXのコダック 65mmフィルムで撮影した素材が40~50分ほど含まれています」

サンドグレンはこう付け加えます。「もちろん、マガジン付きで34kgもある大きな65mm IMAXカメラでの作業は、カメラを車やバイクに載せて狭い路地を走り抜けたり、ステディカムや手持ちで撮影したりしながらだと大変です。でも、本作のグリップやカメラクルーはカメラの扱いやフィルムの入れ替えをどんどん上達させたので、問題なく進みました」

「また、最終的に2.40:1のフォーマットで公開されることを念頭においてIMAXのシーンを構成しなければなりませんでしたが、私たちは複数の場所でアスペクト比を混在させたいと考えていたため、カメラ、グリップ、照明の機材が映像の他の部分に映りこまないように常に気を付けていなければなりませんでした」

パインウッド・スタジオのバックロットに作られた大がかりなキューバ・ハバナのセット Credit: Jack Mealing. © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

サンドグレンは2018年11月に制作に加わり、4ヶ月の準備期間ののち、2019年3月に主要な撮影を開始しました。制作は122日間の撮影を経て2019年10月末に終了しました。

第1ユニットと第2ユニットが頻繁に訪れる撮影場所には、南イタリアのマテーラの丘の上の町、ジャマイカのキングストン・コンテナ・ターミナル、ノルウェーのニッテダル周辺の雪の多い田園地帯や凍った湖、そして大西洋道路、さらにフェロー諸島、スコットランドのケアンゴームズ国立公園、ロンドン中心部周辺のランドマークのロケーションなどがありました。

また、とてつもなく広い007ステージ内のサフィンのコンクリートの隠れ家など、いくつかの大がかりなセットがパインウッド・スタジオに建てられ、一方でキューバのハバナでの大規模なチェイスシーンのセットはバックロットに作られました。

「世界中のいろんな場所で撮影が行われ、これほど多くの巨大なセットを使う映画に携わるのは初めてでした」とサンドグレンは言います。「ある時には、10のセットで設営、照明準備、制作のあらゆる段階の作業を同時に行い、さらにバックロットでも設営を2つ行っていました。信じられないことでしたね」

「ですから、プロダクションデザインのマーク・ティルデスリー、特殊効果スーパーバイザーのクリス・コーボールド、そしてガファーのデヴィッド・シンフィールドとは、カメラと照明がうまくいくようにセットの組み立て方の準備や計画について何度も話し合いました。たとえば、ハバナのセットはロサンゼルスにある多くのバックロットと同じくらいの大きさで、頭上からの夜間の照明のためだけにクレーンを10台用意しました」

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』より、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)とフィリックス・ライター(ジェフリー・ライト) Credit: Nicola Dove. © 2020 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

この作品の美的な“ルック”(映像の見た目)について、サンドグレンはこう語ります。「多くの斬新的でインスピレーションを与えるやり方で本作のカラーパレットと照明プランに行き着きました。キャリーと私は脚本の1シーン1シーンを見ながら、対象をどう映したいかを話し合ったり、各シーンがどう見えるかを想像したりしました。トッド・ハイドやグレゴリー・クルードソンといった写真家の趣あるスチル写真など、自宅の大きなライブラリーから画像や写真、絵画を集めてイメージブックを作りました」

「映画の舞台からもヒントを得ました。ボンドのカリブ海の隠れ家の平和と静けさ、ノルウェーの凍てつくような風景、キューバの暗くてエキゾチックな蒸し暑さ、警備の厳重なベルマーシュ刑務所の冷たい石の内装など、どこであれ1つのシーンが次のシーンと似ることのないように、キャリーは異なるロケーションの表情を取り入れて際立たせることを望んでいました」

「サフィンのアジトなどのシーンのサスペンスに満ちた照明やブロッキング(俳優の配置や動き)については、マーク・ティルデスリーのコンセプトアートやデヴィッド・シンフィールドとの話し合い、ダニエル・クレイグ自身のアイデアからも案をもらいました。そうして、いろんな要素が集まった素晴らしい方法がたくさん生まれたのです」

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影監督リヌス・サンドグレン(FSF ASC、パナビジョン 65mmフィルムカメラの向こう側) Credit: Jack Mealing. © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

本作の撮影用にアナモフィックレンズを選んだことについて、サンドグレンはこう断言します。「そのレンズを一番簡単に、一番多く見つけることができた場所はウッドランド・ヒルズのパナビジョンで、ダン・ササキに力を借りました」

「この映画はシャープに見える必要がありました。『ラ・ラ・ランド』で使用したCシリーズのアナモフィックレンズは美しいですが、エッジの欠け具合、特徴的なフレアがやや主張が強すぎる気がしました。ダンがより現代的なTシリーズのアナモフィックレンズを私のためにいろいろと再コーティングしてくれたのですが、私の好みでは綺麗すぎました」

「その後、フォーカスプラーのホルヘ・サンチェスがGシリーズのアナモフィックレンズを提案してくれました。このレンズは抜けが良いルックで、コントラストも見事であり、収差のバランスもよく、フレアも印象的で、映像に詩的な表現が出せることが分かりました。また、レンジを通してT2.6で一貫しており、他のレンズと比べてもそれほど重くありません。そこで本作ではGシリーズを選び、大体は焦点距離40mmと75mmのレンズを使いました」

「IMAXカメラに関してはIMAX用のハッセルブラッドレンズを使用しましたが、ここでもダンはより近距離のフォーカスができる特別なパナビジョンIMAXレンズ一式を追加で用意してくれました。パナビジョンだけでなく、本作では他にもたくさんの業者の方々が新しく機材を調整したり作ったりするのに快く時間をかけてくれ、私たちの力になってくれました。素晴らしい映画を作ることに私たちと同じくらい関心を持ち、そのプロセスに本質的に関わってくれたのがうれしかったですね」

サンドグレンの主力カメラには、パナビジョンのミレニアムXL2 35mm、パナフレックス・システム 65 SPFX、パナフレックス 65mm HR スピニング・ミラー・レフレックス、そして15パーフォレーションのIMAX MKIV、IMAX MSM 9802のハイスピードカメラがありました。しかし、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影は、IMAXカメラを使用した『TENET テネット』(20、撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ(FSF、NSC、ASC))とパナフレックス 65mmを使用した『ナイル殺人事件』(22、撮影監督:ハリス・ザンバーラウコス)の両方の制作と重なっており、中にはこれらの作品で事前に予約されていたカメラもありました。そのため、サンドグレンはいくつかのラージフォーマットカメラを他作品と共有したり断念したりしなければならない一方で、ARRI 765 65mmカメラを自分の機材に加える必要もあり、このカメラはその後、本作の親密な会話のシーンに利用されました。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影監督リヌス・サンドグレン(FSF ASC) Credit: Jack Mealing. © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

35mmおよびラージフォーマットの65mmフィルムについて、サンドグレンは日中の屋外用にコダック VISION3 50D カラーネガティブ フィルム 5203と250D 5207を、夜間のシーンには500T 5219を選びました。

「50Dは非常に抜けがよく、色彩豊かなんです。35mmでシーンを撮影していた時は、MI6上空の景色やノルウェーに見立てたスコットランドの森の風景など、屋外や開けた空のショットに50Dを使いました。森の中のシーンや日中の屋内のいくつかのシーンなどで光に悩まされることがあれば、250Dを使いました」

「しかし50Dは粒子が細かいため、65mm IMAXで屋外を撮影する時には映像がシャープになりすぎることが分かっていました。そこで、そういった場面では250D の65mmを使用しました」

「500Tは本作の35mm、65mm、65mm IMAXフォーマットでの暗い照明や夜間のシーンには最適なフィルムで、今回の撮影でたくさん使いました。ネオンや車のヘッドライト、現場の光の強さを何も変えなくても、大抵は狙いのT2.8の絞りで撮影することができました。500Tは、同じ映像内の極端なハイライトと真っ暗な部分というダイナミックレンジの両端のディテールを見事に捉えてくれるのです」

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』より、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)とフィリックス・ライター(ジェフリー・ライト) Credit: Nicola Dove. © 2020 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

「これらのフィルムはどれも、本作の異なるロケーションにおいて私たちが吹きこみたかった色の雰囲気にうまく作用してくれました。私はラボで減感現像したり増感現像したりして色やコントラストを調整するのが好きなのですが、感光乳剤が照明の豊かな色彩を吸い上げてくれたので、この作品ではノーマル現像にしました」

撮影した35mm、65mm、65mm IMAXのフィルムの現像はロンドンのシネラボで行われました。35mmの素材はCompany 3でスキャンされ、65mmとIMAXのフィルムはファイナル・フレーム・ポストでスキャンされました。

「私には重要なメインユニットと第2ユニット、8台ものカメラが回るスタントシーン、セットの照明準備、デイリーの確認など、見なければならないことがたくさんあったので、柔軟に応じられるようにしなければならないことは分かっていました。そこで、自分はカメラを操作しないことに決めたんです」とサンドグレンは言います。

「でも心配する必要はありませんでした。オペレーターのジェイソン・エワート、オシー・マクリーン、オリー・ロンクレインと彼らのアシスタントたちには最大の敬意を払います。彼らは常に前向きで、ステディカムや手持ちで撮影しながら重たいカメラを持って動きまわっていました。全員がこの映画で素晴らしい努力をしたのです」

「さらに第2ユニットの監督のアレクサンダー・ウィットとそのオペレーターであるピーター・フィールド、クライブ・ジャクソン、ゲイリー・スプラトリング、加えて、ノルウェーの別ユニットの撮影監督と第1カメラアシスタントを務めたジョー・イーケン・トルプとエンドレ・イーケン・トルプ、みんながそれぞれの映像のフレーミングと照明において最高の技術と才能を発揮し、メインユニットの撮影に合うようにしてくれました。キーグリップのデヴィッド・アップルビーは懐の深い素晴らしい人で、実に根気強く仕事をしてくれました」

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』より、ノーミ(ラシャーナ・リンチ)とジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ) Credit: Nicola Dove. © 2020 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

もちろん、ガファーはどんな撮影においても常に撮影監督の最高の仲間ですが、それは今回も例外ではありませんでした。「たくさんのカメラと複数のセットを使って世界の6ヶ国で撮影したので、照明については情報連携を効率化できるワークフローが必要だということに早い段階で気づきました。デヴィッド・シンフィードは大規模な映画の準備と、セットの美しい光源を用意することにおいては並外れた才能の持ち主です」とサンドグレンは言います。この映画のためにMBSEがかなり大きなスタジオとロケーション用の照明機材を揃えました。

「デヴィッドと私はプリプロダクションでたくさんテストを行い、本作の多様なロケーションやセットで違うカラーパレットを当てることができるかを確認しました。LED照明の色のプリセットを調光卓にプログラムし、ロケーションや時間帯を細かくメモしたのです。私たちは照明のことを考えて準備をしておいたので、LEDを最短の時間で調整したり変更したりすることができました」

一例として、サンドグレンはMI6の極秘研究所でのシーンのセットを挙げています。そのシーンはもともと黄色と白のアステラのチューブで光を当てていました。撮影当日にフクナガ監督がこのシーンに他の色の選択肢があるかと尋ねました。すべての機材が調光卓に接続されていたため、他の選択肢を模索し、最終的に作中で見られるレーザーグリーンの色調に決めるのに時間はかかりませんでした。

パインウッド・スタジオのステージに組まれたMI6の極秘研究所 Credit: Jack Mealing. © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

しかし、パインウッド・スタジオにある本作最大のステージで、フクナガ監督はサフィンの巨大なコンクリートの地下アジトの視覚的なインパクトを劇的に高めたいと希望しました。このアジトの中央には水が貯められており、セットの天井には空に向かって開かれた扉がありました。

「セットはすでに76メートルほどあったのですが、キャリーはさらに長くしたいと言いました。そこでVFXチームがセットを広げられるように、最後にブルースクリーンを吊るしたのです。セットに雰囲気を出し、どこか未来的な感じを出すため、デヴィッドと私はマーク・ティルデスリーと協力し、最終的に特注のスティック状の照明約30本を水中から垂直に立てることになりました。その環境全体での光源はそれだけで、ごくシンプルでありながら面白い図式的な効果が出せました」

「頭上の扉から入りこむまばゆい太陽光の効果を生み出すために、日中の光に加えて100KのSoftSunを4台使い、光を降り注がせました。パインウッドでの撮影期間のある時には、100Kの照明9台と200KのSoftSunの機材1台を別々のステージで使ったこともあります」

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』より、マドレーヌ・スワン(レア・セドゥー) Credit: Nicola Dove. © 2020 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

サンドグレンは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の最終的なDI(デジタル インターミディエイト)グレーディングを、彼のなじみのカラリスト、ロサンゼルスのEFilmのマット・ウォラックと共に行いました。マット・ウォラックは本作のデイリーのグレーディングも行いました。

「ラボでカラータイマーという1人の人間がフィルムの色を調整し、監督するという、昔ながらセルロイド(フィルムの意)のやり方に戻りたかったのです」とサンドグレンは言います。「私はマットがやってくれた的確なデイリーに非常に満足していました。まさに今回の作品のルックだったんです。そこで彼に、デイリーからDIまでのプロセス全体を通して本作のカラリストを務めてくれるよう依頼しました」

サンドグレンはこう締めくくります。「『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は大きな船を操縦するようなものでしたが、小規模で親密なインディペンデントの制作現場に似た雰囲気がありました。これはプロデューサーたちの素晴らしい導きと、彼らが呼び起こした、物事を推進していく勢いのおかげに他なりません。最高の経験でした。同時に、セルロイドが持つ愛情ある優しさと、それがハリウッドの大作に魂と魅力をもたらす力を見事に証明しています」

(2021年11月12日発信 Kodakウェブサイトより)

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

   2021年10月1日公開

 製作年: 2021年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: No Time to Die

​ 配 給: 東宝東和

​ 公式サイト: https://www.007.com/no-time-to-die-jp/